この世界のことをより深く知った上で読み進めたい方は、ぜひ目次から「歴史書:第一章『原初の種族』」を読んでみてください!
多種多様な種族が暮らす、巨大な一つの大陸「ガーデン」の中心。
王都バイトコルの路地裏では、一人の孤児が必死に一日を生き延びようとしていた。王都バイトコルの主要な道から少し外れるだけで、そこには汚い路地裏が広がる。
くんくんと鼻を鳴らして、少女は獣族の遺伝子の五感の鋭さを活用する。
「……このパン……まだ食べれるやつだ」
路地裏で暮らす少女が見つけたのは、路地裏では贅沢品とされる普通のパン。食べかけで、腐ってはいないが捨てられていたため、物理的に汚い。
これが、王都バイトコルの、路地裏の実情だ。
ぎゅ~とお腹が鳴り、自分の身を包む、猫耳にフィットする黒のフードを直しつつ、いつでも逃げ出せるよう体勢を低く整えながら、空腹に任せて「あむっ」と口に含んだ。パサパサとしたパンが口の水分を盗みながら、ゆっくりと胃に収納されていく。
猫族と人間族のハーフである私は、人間族に猫耳としっぽをそのままつけたような外見をしている。銀髪で、水色の瞳。白色の簡素な服と、その上に黒色の猫耳型のフードが付いたローブを着ている。常に周囲に気を配らねば、奴隷や玩具として捕まって酷使されてしまうだろう。
だから……私の背後に、巨大な魔力の奔流を感じた時、自分の終わりを覚悟したのだ。いつもなら、気配を感じた時点で逃げ出していた。だが今日は、パンというご馳走の前に、感覚が鈍ってしまっていた。
「ねぇ……子猫ちゃん。……こっちを向きなさい」
その人の柔らかい手が私の肩にそっと置かれて、自分のしっぽが、恐怖で凍らされたように固まるのが分かる。支配的で、でも高く愉しげな、私達、獣族のハーフを、玩具として見てくる人達と同じ声だった。
振り向くと、そこには背丈が私より二回りは高い魔族の女性がいた。私と同じ、銀色の髪から、紅色の宝石の様な瞳が私を見据える。頭の両脇には大きな黒色の角があり、一目で魔族だと分かる。魔族の人は、外見は人間族と同じように見えるが、角があったり、黒い翼が生えていることもあったり、そういうところで区別がつく。背丈も高いし、魔法の適性が高い。ただ小柄で、身体能力が高いだけの私なんかが勝てる相手ではない。
しかし、その怖いお姉さんからは……生ゴミや血の匂いが絶えない路地裏では絶対に感じないような、高級なアロマや、食欲をそそる焼き菓子の匂いがしてきた。私の鋭敏な鼻が、その匂いにつられて勝手にピクピクと動いてしまう。
「……っ……!そのシルバーのヘアーに……どこか困惑を隠せていないその顔!……獣族検定合格!ほら、早く行くわよ!」
お姉さんは、私を鑑定するような目で見た後、突然そう言い放ち、小さな私の身体を軽々と持ち上げ、どこかに連れて行くつもりであるようだった。お姉さんの言う通り、困惑と恐怖の中にあった私は猫耳をペタンと伏せて、されるがままに誘拐されていった。
「わっ……わわっ!私は全然おいしくないよぉぉぉっ!」
必死に叫んで抵抗するが、お姉さんの華奢な外見からは想像できない力で押さえつけられた。
「あははっ!元気があってなにより!大丈夫よ子猫ちゃん!家に帰ったら、いっぱい!甘い物を食べさせてあげるからね〜!」
甘い物……言葉通りの意味なら、そのままお菓子や甘いスイーツを食べさせてくれるのだろう。だが、路地裏でいきなり攫ってくるような人だ。きっと裏に何か悪い意味が含まれているに違いない。
「ひぃっ……甘いモノいらない!助けてぇぇっ!!」
「可愛い〜!」
成す術なく拉致されている途中、助けを求めていたところ、一人の男が現れた。外見からして人間族だ。
「おい嬢ちゃん、ずいぶん華奢な見た目してるが、その顔が傷付くか……そのハーフを渡すか。……選べ」
「はぁ?……うっさいわよ、邪魔しないでちょうだい」
「あ?……お前、誰に口聞いてるか分かって―――」
お姉さんが指を動かすと、切断魔法が発動し、男が真っ二つに切断された。男は悪い人だったのかもしれないが、お姉さんの容赦の無さに少し恐怖した。生々しい血の匂いが、私の鼻を刺激する。
「さ、行きましょ、子猫ちゃん。」
「は、はいっ……」
「あら!良い子ね〜!」
圧倒的な力を見せられ、もはや抵抗する気もなくし、そのまま連れて行かれた。相変わらず、猫耳はぺたんと伏せられたままだった。
キャラクタープチステータス:
①リーシャン
年齢:13歳
身長:152センチ
種族:猫族と人間族のハーフ(寿命は人間族の寿命(平均100年)とほぼ同じ。つまり、推定寿命は100歳前後)
好み:甘党
好きな人:お母さんとお父さん