お姉さんのお家で、今日も明日もほのぼの生活   作:TTKTW

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第十一話 魔法のローブ

 

 コツ……コツ……ッと、お姉さんが王都バイトコルの大通りのレンガ道を踏み締める音が聞こえる。お姉さんが一歩歩く度に、私にもその振動が軽く伝わってくる。

 

「リーシャンちゃん、ホントに軽いわね!……これならいつでも抱っこしてあげられるけれど……心配にもなっちゃうわ!帰ったらたっぷりフォルスに料理を作ってもらいましょうね〜?」

 

 今向かっているのは、王都バイトコルでかなり有名な、魔法の服の仕立て屋さんである。

 

「……お姉さん……私、服なら要らないよ?……このローブがあるし……絶対脱がないもん!」

「えぇ!その服は、リーシャンちゃんの大事な宝物だもの!脱がせるなんて酷いことはしないわよ!……リーシャンちゃんが大好きなそのローブを、ずっと着ていられるようにしてもらうのよ!」

 

 お姉さんはそう言うと、抱きかかえている私の頭を、毛並みを乱さないように、上から下に優しく撫でてくれた。

 

 目的のお店に到着し、お姉さんが、高級感を醸し出す木の扉を開けると、チリ〜ン……。と、静かな鈴の音が鳴る。

 

「……おや…。……ようこそ……。パストグロリ……。魔法装飾品店へ。……いつぶりでしょうか。」

 

 お店の中は、少し控えめな、森の香りがする。……パストグロリ魔法装飾品店は、ここバイトコルではかなり有名な個人店だ。……路地裏で生活していた頃には、私が足を踏み入れる事なんて……生涯を通しても無いと、そう思っていた。

 

「……相変わらず、変な喋り方ね……そろそろ喉の調子はどうかしら?パストグロリ」

「……声帯を……。痛めているのですから。……これは……。240年前から……変わらないのです。……貴方も。……私から見れば……。240年前の。……少女から……。あまり。……変わらないと……。言っておきます。……しかし……。まぁ。……紛争の地の……。あの頃の貴方の面影は……。ありませんね。……今は……子連れなのですから」

 

 パストグロリさんは、片耳が欠損している、エルフの男の人。お姉さんには負けるけど、これまた背が大っきい……。パストグロリさんがそう言うと、お姉さんの顔が少しだけ、ぽっ……と赤みを帯びた。

 

「……アタシが母親だって言いたいわけ?……一生黙ってなさい。……その喉の傷が、もっと深ければ良かったのだけれど」

 

 私を抱きかかえるお姉さんの腕の力が、少しだけ強くなった。

 

「……恥ずかしがることは……。ありません。……その子は……。幸せそうです。……救われる側だった貴方は。……一人の子を救う側になったのですから。……戦士でもないのに……。その命の灯を……。吹き消されそうに……。なっていた……10歳の貴方は……。240年が経ち……。今や……。一人の少女の……。守護者になっている。……これほど……。美しい事が……。ありますか?」

 

 パストグロリさんの、力強さと繊細さをもった手が、そっとお姉さんの頭を撫でた。身長はお姉さんの方が高いのに、その時だけは、あのお姉さんがただの女の子に見えた。

 

「……はいはい……。うっさいわよ。……でも……感謝だけはしてるわ。……もしあの時、貴方がアタシの近くを通りかからなかったら……アタシはあの人間族の兵士に殺され……リーシャンちゃんに会えなかったのだもの……」

 

 私がお姉さんの方を向くと、お姉さんは私に微笑み返してくれた。

本当に、太陽みたいな人だ。私が不安なことも、お姉さんなら全部溶かしてくれる。

  

「お姉さん……昔は……どこに住んでたの?」

「……ん?……あぁ、アタシはもともと、魔条の生まれだったのだけれど……あ、リーシャンちゃん。このまえのお勉強会で話したけれど……魔条っていうのは覚えてるかしら?」

 

 お姉さんが、はっ……と思い出したように私に聞いてきた。私が話を理解しやすいように配慮してくれているらしいけど、心配はいらないのに。当然、お姉さんの教えてくれた事は全部覚えているつもりだ。

 

「……うん、魔族の国……それが魔条でしょ?」

「ふふっ……大正解!……リーシャンちゃんは最高ね!じゃあ、続きを話すわ!……お母様が旅に出るって言うから……アタシはついていったの……大きな街ではないけど、小さくもないくらいの、山の上にあった街に住むことにしたのよ。……お母様は、そこの景色を気に入ったみたいだったわ……朝起きると、いつもお日様が部屋の中を……街全体を……。温かく照らしてくれるの。……今では………おっきな、喧嘩で。……山ごと無くなってしまったけれどね?……あぁ、リーシャンちゃんにも見せてあげたかったわ〜!……あの景色は見せられないけれど……代わりに、リーシャンちゃんにはとびっきり温かいお家を用意してあげるからね〜!」

 

 お姉さんが、また私の事をぎゅ~っ……と抱きしめる。私の耳がペタンっ……と伏せがちなことみたいに、お姉さんも、私を抱きしめるのが癖らしい。

 

 お姉さんが、ふっ……と息をつき、少しだけ暗いお話の雰囲気を吹き飛ばすためなのか、ハキハキと喋りはじめた。

 

「……さて!リーシャンちゃん、目的を忘れてないでしょうね?……ここに来たのは、貴方のその、お母さんからの贈り物を、より長く使えるようにするためよ!……パストグロリ!……ちゃちゃっと済ませてちょうだい!……こういう感じでお願いするわ!」

 

 お姉さんが、小さな紙をパストグロリさんに見せた。たぶん、私のローブをもっと良くするためのレシピみたいなものなんだろう。魔法装飾品店でなにをするのか、私はよく分からないから、全部お姉さんに任せてみることにした。

 

「……。……。これはこれは……。………。……もちろん。……貴方の……。要望に……。応えましょう……。もちろん……。この子が……。許容する範囲で……。ですが……。リーシャン……。私に……。そのローブを……。預けて……。ください。」

 

 パストグロリさんは、私と目線を合わせるようしゃがみ込み、手を差し出してきた。私はローブを脱ぎ、慎重にパストグロリさんに手渡した。

 

「……。ふむ…。……。お世辞にも……。良い布では……。ありません。……ですが……。糸の解れが……。長年……。使用していたにしては……。少ない……。これは……。このローブの贈り主から貴方への……。愛情の証でしょう」

 

 パストグロリさんは、丁寧に私のローブを扱い、高級そうなテーブルの上に広げはじめ、作業を開始した。

 

(すごい……。何がすごいかは……説明はできないけど……だって……何やってるか……分かんないもん……)

 

 目の前では、パストグロリさんが、布に透明な液体を数滴垂らしたあとに、筆でなにか書き始めたり。糸が解れている部分を、丁寧に縫い直したりしている。

 

 10分くらい経ったかという時、パストグロリさんが手を止め、私のもとに歩いてきた。その手には、私のローブが握られている。いつの間にか少しだけ光沢を放つようになっているそのローブを、パストグロリさんは私の手元に丁寧に乗せた。

 

「……これ、なにか変わったの?……ちょっとテカテカしてるけど……」

「ふふんっ……リーシャンちゃん、裏地を見てみなさい。……これは……貴方のお母さんと、アタシの合作よ!」

 

 言われた通り、ローブの内側を見てみると、もともと真っ黒で簡素だった内側が、今は銀色の刺繍が綺麗に縫われていた。

 

「……!」

 

 お母さんの手作りであり、お姉さんが手を加えてくれたものでもある私のローブは、今までよりもっと、大切な宝物になった。

 

 なんだか緊張しながら、袖に腕を通すと、ぽわっ……と温かくなり、ローブの中が、寒くもなく、暑すぎることもない。ほんとうに丁度良いくらいの温度になった。

 

「……リーシャン……貴方の……保護者の……。要望で……。様々な……。魔法を……。付与しました……。耐寒。耐熱。……温度管理。……耐刃……。耐魔法。……清潔維持。……などです……。」

「……えっと……たいじん……?……もっかい言って……?」

「……ふふっ……!リーシャンちゃん、簡単に言えば……貴方のローブはとってもすごくなったのよ!」

 

 「……ふぅん……」と納得した私は、お姉さんにひょいっと抱き上げられる。お店を出る前に、パストグロリさんに手を振ると、少しだけ微笑み、残った右耳をピクッ……と動かし、手を振り返してくれた。お店に入るときに鳴ったチリ〜ン……という鈴の音が、お店を出る時にも当然鳴り響く。……なんでか分からないけど……その音が、最初よりもずっと落ち着く音に聞こえた。




キャラクタープチステータス:

  ⑥パストグロリ  
  年齢:不明 
  身長:187センチ
  種族:エルフ(?)
  好み:不明
  好きな人:不明
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