部屋の中に、カリカリッ……カリカリッ……と、お姉さんが羽根ペンを走らせる音が鳴り響く。
私は、お姉さんのお膝の上に座って大人しくしている。お部屋の中はすごく静かで、なんだか私も静かにしないといけないような気がしたから。
お姉さんが何をしているのか気になり、机に手をついて身体を持ち上げ、チラッと覗き見ると、難しい文字がびっしりと綴られている手紙があった。私からすれば、お姉さん達が簡単に扱う文字ですら、遠い文明の魔法のように見えてくる。
「……お姉さん、これってなにしてるの?」
お姉さんは羽根ペンを持っていた腕を止め、私の頭をひと撫でしてから話し始めた。
「これはね〜?……遠い国のお友達と、丁寧なお話をするためのものよ〜」
「丁寧なおはなし……。ふぅん…………なるほどねぇ?」
理解したフリをしていると、お姉さんの腕が私の頭頂部から頬の辺りに移動して、むにっ……と頬をつついてきた。
「……ふふっ……。リーシャンちゃんはとっても賢いわね〜!……じゃあ、そんな賢者さんに一つ問題よ!」
「問題?……まぁ、私ならよゆうで答えられるよ!」
お姉さんは私の頬から手を離し、机の上の何かを掴み取った。私の頬に指で突かれていた時の感触の余韻だけが残り、どこかものたりなくなった感じがした。
「じゃじゃ〜ん!……これ、魔法具か魔道具か、当ててみて?」
私の目の前に、黒色の結晶の粉末が入った、拳ひとつ分くらいの大きさの瓶が、フリフリと左右に揺らされながら掲げられた。
お姉さんの反対側の手が、私が首からさげている青い宝石のついたネックレスを優しく上から押さえつけた。宝石越しのお姉さんの手に、私の心臓の鼓動がトクットクッ……と伝わっているのが分かる。
「えっと……う〜ん……。」
「あらあら?賢者さんなら、きっと分かるはずよ?」
お姉さんにより、私の手に小瓶が握らされた。ふわっとした優しい熱が、私の手の奥にまで伝わる。ほんとうに、かなり温かくて、寒い冬場は重宝しそうな道具かもしれないと思った。
(そもそも……魔道具と魔法具の違いがよく分かんないかも……)
「ふふっ……リーシャンちゃん……?大ヒントよ、アタシはもう、この瓶に一切触れていないわ」
お姉さんが触れていないのに、瓶はまだ温かい。つまり、魔力を流さずともずっと魔法の力を保ってくれる方だと思うんだけど……。
考えに考えて、気づけば私のしっぽは、ゆらゆらと左右に規則的に揺れはじめていた。
(魔道具か……魔法具か……。どっちかなぁ……?この瓶は……道具?……法具って……うーん……?)
「賢者さ〜ん?いったいどうしたのかしら……?さぁ、アタシが5回数える前に答えるのよ!答えられなかったら……ちょっとだけ罰を与えないといけないわねぇ……?」
お姉さんが、5……4……3……とカウントダウンし始めた。もう、どっちがどっちかなんて考えても仕方がない……!
「……っ……ま、魔法具……!魔法具だよっ!」
私は、無意識に上目遣いでお姉さんの方を見上げた。お姉さんの顔が、パァッ……と明るくなった気がする。
「大っ正解よ!さすがねリーシャンちゃん!ご褒美に……!はいっ!ぎゅ〜っ!!」
お姉さんが、優しく私の全身を包み込むように抱きついてくる。
この前みたいに、息ができなくなるくらいではぜんぜんない。とっても温かくて……安心できて……。この魔法具の温度なんて、ほんとうに微々たるもののように思えてくる。魔法なんかよりも、お姉さんのぎゅ〜のほうがずっと温かい。
「あははっ!正解したから、罰はなし。……最上級のご褒美でしょう?拒否する権利なんてあげないわよ!」
お姉さんが私の耳を撫でるたびに、私のしっぽが不規則にピクッと動き、それをお姉さんが愛おしそうに見ているのを、私の目は見逃さなかった。
「……ちなみにだけれど……魔法具が、魔力を流さずとも永遠に効力を保つもの。魔道具が、魔力を流さないと魔法が発動しないものだから、しっかり……。しぃ~っかりと、覚えておくのよ?……分かった?賢者さん?」
「……いや……分かってるしっ……」
お姉さんには、私の運頼みが全部お見通しだったみたいだ。