お姉さんのお膝の上で捕まっていたあの日から数日、今日はお姉さんが、なんだか冷たい目で手元の手紙を読んでいた。いつもと違う雰囲気を醸し出していて、少し……いや、けっこう怖く感じる。多分、私の耳はいつも通りペタンとなっているだろう。
「ふん…………」
お姉さんが、ふいに溜息をついた。まるで恨みを胸に留めているかのような、そんな重さと、どうでもいいという気持ちに近い、呆れのようなものを感じた。
「お姉さん、どうしたの?なにか、悪いことあった……?」
私がそう聞くと、お姉さんが冷たい表情の顔を持ち上げ、私に微笑みかけてくれた。良かった、分かってはいたけれど、私に怒っているわけではなかった。
「これはね……アタシのお父上からのお手紙よ、アタシを仕事で呼び出そうとしてるみたい」
「お姉さんの、お父さん?……どんな人?良い人?」
思わず気になって、聞いてしまった。私のお父さんはいつも優しくて、すっごく褒めてくれて。お姉さんがこんなに優しいんだから、お姉さんのお父さんはきっと、もっともっと優しいんだろうなと思った。
「えぇ、そうね。アタシの人格の構成に大きな影響を与えたのは、ある意味では立派なお人だと言えるわね」
「やっぱりそうなんだ……!ねぇ、いつか会ってみてもいい?」
「…………どうしても会いたいなら……朝か昼ね。夜は絶対にダメよ、アタシのお父上は"吸血鬼"でねぇ……?と〜っても怖いんだから!」
「きゅ、吸血鬼……っ!?本当にいるの!?……でも、お姉さんって純血の魔族って言ってなかった……?」
「……それは気にしなくていいのよ!……本当にいるのよ?"吸血鬼"さんは。夜は酒を嗜み、その調子で他人の心を蝕んで……朝と昼は人が変わったように仲良くしてくれる。そんな……ちょっぴり困った人なの」
(……それ、ただ酔っ払いなだけじゃ……?違うのかな……?)
お姉さんが私の顎を指でつまみ、優しい手つきでくいっと上に向けた。
お姉さんの目はまるで、見惚れているかのような、どこか嬉しそうな目だった。
「でも……リーシャンちゃんには極力、お父上の関係者にも会わせたくはないわ。こわーい吸血鬼さんに、血を吸われたくはないでしょう?」
お姉さんが唇をニヤつかせると、綺麗で鋭い犬歯がチラッと姿を現した。お姉さんになら、吸われても良いかもしれないと思ってしまったのは、きっと気のせいだ。
「……でも……お呼ばれしたからには、ちゃんと行く必要があるのよ。……でも、アタシはリーシャンちゃんをここに残していきたくはない。だから…………リーシャンちゃんも連れて行くことにしたわ!」
お姉さんの口から、衝撃的な内容が飛び出してきた。私みたいな子供が、本当に国の大事な仕事について行ってもいいのか不安だけど、たしかに……私もお姉さんから離れたくないかも……。
「い、良いの?……私、なにも分かんないよ……?」
「分かる、分からないじゃないのよ!リーシャンちゃんは、居るだけでアタシの仕事の効率を高めてくれる存在なんだから大丈夫!」
あまり言っている意味は理解できなかったけど、なんとなく、お姉さんがそう言うなら大丈夫なんだろうと信じた。
「じゃあ早速、ふさわしい服装にコーディネートしてあげるわ!倉庫まで行くわよ!」
椅子から立ち上がったお姉さんに手を引かれ、私はてくてくとその後をついて行った。