お姉さんは余裕そうに、ゆっくりと、しかし脇に抱える私の重さを感じるように慈しみながら歩いているように見えた。
「……ふふっ…………良い毛並みね……本当に可愛いわ……」
「……あぅ……」
自分が暮らしていた布の家とは比較の対象にもならないほど、大きくて壮麗な邸宅に連れてこられ、次にどんな凄惨な事が行われてしまうのかビクビクしていた。しっぽは相変わらず固まったままで、瞳には涙が浮かび始めている。
「……あら?……目にゴミでも入っちゃったのかしら……?……まぁ!洗えば済むわね!」
今度は、私には見合わないような大きさの大浴場に運ばれ、熱い湯気に髪と尻尾の毛が湿る。ここにもやはり、濃厚な甘い香りが充満している。
するといきなり、水魔法が刻印された魔道具で、長年の路地裏生活で汚れた身体を洗われはじめた。
「ん……ぅ……?熱く……ない……?」
熱々の水で焼かれると思っていたのに、実際に感じるのは、生暖かくて……少し心地のよい水のせせらぎだった。
心地よい刺激に身を委ねていた時、お姉さんは謎の白色の塊で私の身体をゴシゴシと擦り始めた。白色の泡がぶくぶくと出てきて、溶かされるかのような感覚が私を襲った。
「ひっ……な……なに!?」
「あはは!嘘でしょ?そんなに怖い?石鹸よ石鹸!……あぁ……その縮こまる反応も可愛い〜!」
どうやら……身体を洗う時には必須の道具らしい……。知らないよ、そんなの……。でも、このお姉さん、実は優しい人なのかも……。
「ふふっ……これで貴方の銀髪も綺麗になったかしら?……それに……もう随分と、アタシは懐かれてしまったみたいね〜?」
サッパリとした爽快感に包まれつつも、その言葉を聞き、いったい何のことだと周囲を見回すと、そこには、お姉さんの足に無意識に絡んでいる私の尻尾があった。
「これはっ……違う!……ちょうど良い棒があっただけでっ……!」
「えぇ……えぇ……違うのね?……そうかもね〜?……ぶんぶんしっぽ振ってるけど……これは違うのね……?」
「ぐっ……」
下に俯くと、私の泥を吸収した黒く汚れた水が、排水溝にズズズっと吸われていくのが見える。私の長年の路地裏での薄汚れた生活が、今、全て洗い流されたような気がした。
「さっ!身体も綺麗になったわけだから、次は綺麗な服を着せてあげるわ!」
「ふ、服?」
「そうよ!あの汚い服なんて卒業!ちょうど良いサイズの服があったはずだから……まぁ……その前に……」
いきなり自分の服を馬鹿にされて、少しムスッとしたが、私の鋭い感覚がお姉さんに悪気は無いと感じたため、その綺麗な服とやらを見に行こうとした時、またいきなり持ち上げられた。
「な……なに?服は?」
「まぁまぁ……!目を瞑ってなさいな!」
お姉さんが私の頭に手を置いたと思えば、ゴォォォっという風の音が鳴り響き、私の髪が急速に乾かされていった。冷たくも無く、熱くもない、絶妙に調整された温度だった。私の猫耳の中まであったかい風が入ってきて、とても気持ちいい……。
「はいっ!これで本当に綺麗サッパリよ!……ふふふっ……!乾かしたらもっとふわっふわじゃない!」
「あぅあぅあぅあぅ……」
わしゃわしゃと、せっかくお姉さんによって綺麗に整えられた髪が、お姉さんの手で再度乱れていく。……だけど……その手はやっぱり、私にとって気持ちが良かった。……もしかしたら本当に……私は幸せに暮らせるのかもしれない。
キャラクタープチステータス
②お姉さん
名前:不明
年齢:秘密
身長:193センチ
種族:魔族(寿命は人間族の寿命の10倍程。つまり、推定寿命は1000歳前後)
好み:酸っぱいもの好き
好きな人:リーシャン、屋敷の従者の3人、命の恩人のエルフ