飛行艇も、けっこう高さが下がってきた。一面雲景色だった時とは変わって、出発の時と同じように地面がよく見える。
バイトコルの鮮やかな緑色の地面とは違って、こっちの地面は少し青い……いや、灰色……?たぶん、灰青みたいな名前の色だと思う!……違うかな?
「リーシャンちゃん、コレがアタシの元いた国……。『魔条』よ!」
お姉さんが、指で窓をつんつん触りながら私に嬉しそうに話しかけている。行く前のお手紙を読んでる時は面倒そうにしてたのに、やっぱり、お家に帰れるとなると、嬉しくなるものなのかな?
お姉さんのお父さんとか、お母さんとか、そろそろ見れるってことかな?……あ、でも、会議が先なら、もうちょっと後かな?
ワクワクすることだったり、嬉しいことがあると、こうして私はしっぽをぶんぶん振りはじめちゃう。ちょっと前に、お風呂場でお姉さんに身体を洗われてた時も、気づいたらお姉さんの脚にしっぽを絡ませてたりして……勝手に動かれるとちょっぴり困ることもあるから、考えものだね。
ふと窓の外を見ると、崖が抉れた、すっごい地形の山があった。
木なんて一本も生えてなくて、まるで、デッカイ爆発があったみたいな……。
「……ねぇお姉さん、あの削れてる山は、なんなの?」
私がそう聞くとお姉さんは、真剣な顔で何故か少し上を見上げたあと、普段の表情に戻って話し始めた。
「あれは……覚えてるかしら?パストグロリのところで、貴方の手に抱えてるそのローブを強くしてもらった時に話した、『戦争』のお話」
(……あ、たしか……お姉さんとお母さんで、元のお家を出て……それで、2人で暮らしてた街が、おっきな喧嘩でぜんぶ壊れちゃったんだっけ……?)
「……お姉さんとお母さんのお家がドカーンしちゃったやつ?」
「ど、ドカーン……っ!可愛い……い、いけない、いけない……。そう、それよ!その時の爆心地があの大きく抉れた山よ!」
この話を、本当に聞いてよかったのかと思ったけど、お姉さんはあんまり気にしてなさそう。……だけど、なにより気になったのは……。
「……お姉さん、なんで生きてるの?」
「え」
「……あ、あれ?」
お姉さんが、床に崩れ落ちちゃった……!
「……っは!……そう……そうよ!リーシャンちゃんが、普通の意味で言うわけがないじゃない……!」
……そう思っていたら、なんとか立ち上がってくれた。……良かったぁ……。また、私の言い方がなにかおかしいのかと思ったぁ……。
「アタシは、運よくパストグロリに助けられたから、爆発する前に逃げることが出来ていただけよ!……お母様は、直接は見てないけれど、パストグロリ曰く、ピンピンしてるらしいから安心ね!」
お姉さんも生きてて、お母さんも生きてるらしい。パストグロリさん、やっぱりすっごい人だったんだ。
私は改めてパストグロリさんの凄さに気づいて、無意識に、耳をピコピコと頷かせるように動かしていた。
「ふふん……そういうリーシャンちゃんは〜いっつもサイカワ〜!……アタシの〜リーシャンちゃん〜!」
……急に歌を歌い始めたお姉さん、たぶん、即興なんだと思うけど……お歌のセンスは灰燼に帰してるかも……しれない。
お姉さんのお歌を聴いていると、次第に飛行艇が着陸の準備をし始めたらしい。風を切る音が窓越しに大きく響いてきて、お空を飛ぶ楽しい時間も、そろそろ終わりみたい。
「……さ、そろそろ着くわよ!リーシャンちゃん!」
「うん!お姉さんのお父さんお母さん、早く見たいな〜!」
「……うーん……会うのはお母さんだけにしましょうね〜?」
ドンッと、少しだけ強い衝撃が私たちを襲った。どうやら、飛行艇が着陸したみたい。お仕事の人に、飛行艇の扉が開けられて、みんなゾロゾロとお外に出る準備をし始めた。
私は、いつも通りお姉さんに抱きかかえられ……ることはなく、自分の脚で飛行艇の出入り口までトコトコ歩いていった。
「ふふっ……転んじゃだめよ?ちゃんと気を付けて歩きなさいね!」
お姉さんに言われた通り、私は鉄の階段にふたたび脚を乗せて、地面に一歩ずつ慎重に近づいていく。
「……んしょっ……と!」
最後はジャンプして、華麗に着地を決めた。
これが、魔条の近くの地面。バイトコル……の草原は、直接歩いたことはないから分かんないや。飛行場は草がぜんぶ無くなってて、裸の土だけだったし……。
とにかく、魔条の地面は硬さと柔らかさが一緒に仲良くなってる、そんな地面だった。
「……へへっ!お姉さん、見て見て!!地面がカッチカチでフワッフワ!カチフワだよっ!」
「あ~もう!いちいち可愛すぎるっ……!」
お姉さんが、毎度のように仰け反った。……いや、それだけなら良かった。
「……っあ!?」
お姉さんは、階段の最後の段で盛大に脚を滑らせて、ゴンッと、背中から階段に身体を強くぶつけて、頭まで打った。……うわぁ……すっごい痛そう……。
「お、お姉さん!?だいじょうぶ!?」
慌てて近づいたけど、お姉さんはどちらかと言うと、周りの人の目線を気にしてるみたいだった。
「う……ぁ……は、恥ずかしっ……」
お姉さんのお顔が真っ赤。お姉さんも無事そうだし、珍しいものが見れて私はまんぞく!
「…………やはり、阿呆は阿呆だな」
後ろから、グラジアさんが呆れた表情でお姉さんを見下ろしていた。……今のお姉さんに、そんなこと言っちゃったら……!
「っ……!?貴方……っ貴方ねぇっ……!!!」
うん……やっぱり、こうなるみたい。