馬車が走り出して、ガタガタゴトゴトと、私とお姉さんの身体を揺らしてる。……あんまり乗り心地は良くないけど、たぶんちょっとの我慢だよね……。
「……アタシの小さい頃、この奥に少しだけ大きい石があって……それでよく遊んでいたのだけれど、今は草のせいで見えないわね……」
お姉さんが馬車の外を指さして、暗い森の中、さらに奥を見ている。たしかに、私と同じくらいの灰青の草がボーボー生えてて、遠くはかなり見づらい。
「ふぅん……?」
「ふふっ……興味なさそうね〜?」
ばれた。
「……ばれた!て顔してるわよ?分かりやすくて、そんなとこも可愛いっ……!」
「……ばれたっ……!?」
「リーシャンちゃんのことは、全部お見通しなんだから!」
ぜったい……ぜったいに、お姉さんは魔眼みたいなのを持ってる。実際に魔眼なんてものがあるのかは……知らないけど、ぜったいに心を読めてる。それしか考えられない……!
お姉さんに、いつものように耳を撫でられてると、ふとした時に、私の鼻腔に、動物の匂い……というか、他の猫族の匂いがした。
馬車の中を見回しても、当然、他に人なんていない。
「うぅん……?」
「……どうかしたの?」
お姉さんが、首を傾げて私の方を見てきたから、なんとなく、私も首を傾げてみた。
「あぁぁぁ……!!可愛い!食べたい……!」
「食べたいっ!?」
思わず、お姉さんの膝から飛び退いた。猫族だけあって、身体能力は高いからへっちゃら!
華麗に着地して、反対側の背もたれに寄りかかると、風で背もたれから落ちてきたのか、何かの毛が私の膝に乗った。メイド服の白色の部分に落ちたから、茶色の毛はかなり分かりやすかった。
「……えいっ」
とてっ……と手で押さえつけて、そこから慎重に毛を摘み上げた。お姉さんの毛ではない。茶色だし、私のものでもない。フォルスさんの毛にも見えるけど、狐族の毛というよりは、猫族の毛といった雰囲気を感じる。さっきの匂いの正体はこれかな?
近くで嗅ぐと、なんだか懐かしい匂いがする。守ってくれそうな感じというか、なんというか……わっかんない。
「……あら?リーシャンちゃん、それはなにかしら?」
「……毛」
「見れば分かるわよ!」
お姉さんが、ちょっと笑いながら言ってきた。『毛』以上の説明……えっとぉ……。
「……猫の毛。茶色いから、私のじゃないよ!」
「……この馬車、たしかアタシのお家で使い回している古いものだから、過去に誰かが乗ってた時のものかしら?」
「あ、やっぱり古いんだ……」
「……まぁ、この乗り心地だからリーシャンちゃんでも分かるわよね……」
お姉さんは苦笑いして、私の向かいに座ったまま微笑んだ。