お姉さんの屋敷……間違えた。お姉さんの実家を探索しはじめてから、たぶん5分くらい。
重すぎる扉と、高すぎるランタンに悩まされながら歩いていると、猫族の食欲を唆る良い匂いが、私の鼻を刺激した。耳がピンと立ったのが、自分でも分かる。
匂いが強くなる方向に歩いていくと、白色の両開きのドアがあった。他の部屋は高級そうな黒っぽい木のドアだから、ここのは雰囲気が違う。
(……入って……いいのかな?)
扉に耳を押し当ててみると、籠もってはいるけど、グツグツなにかを煮込んでる音とか、水がぶわぁってなる時みたいな……ジューッ!て音がしてる。……これはきっと……料理だ!
慎重に扉を開けて、こっそり中を見てみようと思った。……もし、料理に集中してだれも私に気づいてなかったら……つまみ食いなんかも……!
ギギッ……て、ちょっと音が鳴っちゃったけど、たぶん料理の音でバレてないみたい!
ぬきあし、さしあし……しのびあし……。
少し広い机の上に、綺麗に切り揃えられた真っ赤な野菜のイシャナカセと、みずみずしいキミドリ草。サラダだ!
……たしか、イシャナカセは、『治療術者が青くなる』みたいな言葉があった気がする。
見た感じは、フォルスさんの料理と同じ……いや、どっちが上かとかは、私は分からないけど……そのくらい美味しそうに見える!
イシャナカセは中までたっぷりと中身が詰まってて、今すぐに齧り付きたいくらい……!
「……いやいや、別の食べ物を……っ」
でも、切り揃えられた野菜は、食べたらすぐにバレちゃうから、別の料理を探しに行くことにした。
……したんだけど……。
「……あれ?」
……いきなり、私の目線がすっごく高くなった。そう、まるで誰かに持ち上げられてるみたいに……。
「……別の食べ物、ねぇ?……リーシャンちゃん?アタシが可愛い可愛いリーシャンちゃんを、特別にお料理してお膝に乗せてあげても良いのだけれど?」
「ひぇっ……!……ん……?料理をお膝に……?」
料理をお膝に乗せたら、それはもう、グチョグチョでお掃除が面倒なんじゃ……?……い、いやその前に……私を料理って……そんな光景、悲惨過ぎて私も見たくないよぉっ……!
「……コーディネートして乗せるのよ。……ふふっ……まったく、リーシャンちゃん、今はメイド服なんだから、メイドさんらしく礼儀正しくしなさいよね?」
「わかったから、下ろして……。服が伸びちゃうよぉ……?」
「……服を言い訳にしても、自分が逃げたいだけなの、アタシには分かってるわよ?今日という今日は、しっかりお仕置きするからね!」
……なんでばれた。
前までお姉さんは、私を全力肯定していたのに……あのお姉さんが、私をお仕置き……?
……いや、いつものお姉さんか。それっぽいこと言って、私をいつも通り占有するあのお姉さんだ。あぶないあぶない。今回は私が悪かったから、危うくだまされるところだった……!
「じゃあ……リーシャンちゃんは、今日一日、礼儀作法のお勉強をみっちりね!」
「……え?……ほ、ほんとにお仕置きするの……?コーディネートは!?」
「アタシは会議のとき、リーシャンちゃんを連れていきたい。そしてリーシャンちゃんはマナーを学べる……。どう?」
たしかに、どっちにも得があって良いかも……?あれ、でも私、別にマナーはそんなに学びたくはないし……。
「……マナーって、生きてくうえでは必要ないでしょ?……ちょっと面倒くさい……」
「じゃぁ、リーシャンちゃんはお屋敷にひとりぼっちになるけど、良いのかしら?」
「っ…………いやでも……お姉さんのお父さんとお母さんがいるから……」
私がそう言うと、お姉さんはペースを乱されたみたいに慌てて話し始めた。
「えっ……!?……アタシのお父上は、昔より優しくなってたから……一応会っても良いとしても……!で、でも……アタシの方が大切でしょう!?ねぇリーシャンちゃん……!あ、アタシのそばにいつも居たいのよね〜?」
「…………うん。」
お姉さんを困らせてみたいと思ったけど……結局、私はお姉さんの近くにいたいみたい。
首根っこを持ち上げられながら、感情に任せてしっぽをゆらゆらと揺らした私であった。