キッチンに向かおうとして、お姉さんの後ろをトテトテと歩いている時だった。アルコさんとお姉さんが言い合いをしている時、ヴァロストロさんが何故か窓から部屋に入ってきたのだ。
さっきまでとは違って、あまりにも唐突な登場にみんなビックリして、部屋の中は一人一人の呼吸の音が聞こえるくらい静まり返ってた。
「ハッハハッハ!どうした?オレの覇気を前に言葉も出んか!」
ヴァロストロさんは相変わらず、何故か金色の髪を左手でかきあげながら身振り手振りをして話している。すっごいオーラだ……!なんというか、ぜんぶ良い話に聞こえる……かも!
「……ゔぁ、ヴァロストロ……?」
私がウキウキで師匠の言葉に耳をピクピクさせていると、お姉さんが怪訝そうな声を出した。周りが静かだから、声がよく通ってる。お姉さんは銀髪を靡かせて、ヴァロストロさんのことを驚いた目で見た。
……そういえば、本人に聞いてないから、合ってるか分からないけど、たぶんヴァロストロさんって、お姉さんの前だと猫被ってたんだよね?たぶん……。
ヴァロストロさんにマナーを教えてもらったときに、お姉さんの言ってた言葉と、実際のヴァロストロさんの雰囲気がすごい違ったから、そんな感じがしたけど……。
「ハッハハッハ!どうした姉上?弟の成長に目を奪われてしまったか?ハッハハッハハッハ!!」
ヴァロストロさんの声が、絨毯に吸収されてもなお部屋中に響き渡る。声を遠くまで出す練習とか、してるのかな……?
ヴァロストロさんが窓枠に腰を掛けて、金髪をヒュウヒュウと風に靡かせていると、お姉さんが足音も立てずに、ビュンとヴァロストロさんに詰め寄った。
「ヴァロストロ、貴方いつからそんなグレちゃったの……!?小さい頃の、あの敬語を使っていたヴァー坊は!?」
お姉さんがヴァロストロさんの両肩を掴みながら言うと、ヴァロストロさんはいつも通りハッハハッハと笑っている。遠くでザーザーと風で揺れる木の音を掻き消す勢いだ。
「ハッハハッハ!アレか?……アレはオレなりに姉に配慮してやったまでよ!大人しかった過去のオレが、いきなり王の風格を見せつけてしまっては驚いてしまうだろう?初回サービスというものよ!ハッハハッハハッハ!!」
……あ、そういう配慮してたんだ……。
ヴァロストロさんがいつも通り髪をかきあげると同時に、お姉さんは自分のこめかみを軽く押さえて溜息をついた。
「はぁ……リーシャンちゃん、こんなのになっちゃダメよ……?」
お姉さんの声が、ちょっとだけ低くなった。なんでか分かんないけど、なんとなく耳がペタンとなった。
あぁ……やっぱりお姉さん、ヴァロストロさんが変わっちゃって悲しんでるのかな……?
でも別に、私が会った時にはもうこのヴァロストロさんだったから、違和感はないけど……。なんなら、路地裏で暮らしてた頃の私の憧れの暮らし方というか……。
「……うーん、でもカッコいいよ?」
「……リーシャンちゃん、遠慮しなくていいのよ。この変わり果てた子は放おっておいて、キッチンに向かいましょう?」
……遠慮?何のことか分かんないけど……まぁ、キッチンに行けるならオッケー!
アルコさんも最初はキッチンに向かう私達を止めてたけど、ポカンとしている内に私達は横を通って行ったのであった。
扉をバタンと閉めたあとも、ヴァロストロさんの笑い声は廊下にまで響いていた。