お姉さんのお家で、今日も明日もほのぼの生活   作:TTKTW

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第五話 お勉強会

 

 食事の後は、お姉さんが私にお勉強を教えてくれるらしい。ベッドの上で、私がお姉さんの前に抱きかかえられるような位置関係だ。お姉さんは私に見えるようにバッ!と絵本を広げ、読み聞かせをしてくれている。古い本なんだろう。埃のような独特な香りがベッドの上に広がり、ランプの火がゆらゆらと、この部屋を明るく照らす。

 

「このお兄さんは人間族……リーシャンちゃんのお母さん?……いや……きっとお父さんの種族ね!……一人一人はあまり強くはないけれど……とにかく数が多くて…頑張ってる種族よ!……人間族の国は、都市『ミリオン』で……この大陸では2番目に大きいはずよ」

 

 私は字があまり読めないから、読み聞かせは簡単な絵本から始まった。どうやら、人間族の男の人が、とても強くて悪いエルフの男性を止めるために世界中から仲間を集めるお話のようだ。

 

「……お、と、に、は……けゆ?……けむ?……を、とつ?」

 

 お姉さんが私の指を手で動かし、字をなぞらせて読ませようとしてくる。けど……やっぱり少ししか読めない。

 

「あははっ!本当に可愛すぎるわよ!リーシャンちゃん!……これは……『男は剣をとって、スライムを成敗した!』……って読むのよ!……ほら、もう一回!1文字ずつゆっくり読みましょうね〜?」

「お、と、こ、は、け………ん……を、と……っ、て、す、ら、い……む……を、せ、い、ば、い、……し、た……どう?……読めてる?」

 

 私がそう言うと、お姉さんは私の猫耳をさらに強くわしゃわしゃと撫で始めた。

 

「もっちろん!大正解よリーシャンちゃん!天才さんね〜!」

「そう……?……へへっ……そうかなぁ?」

 

 お姉さんは、私をたくさん褒めてくれる。嬉しさで私のしっぽが勝手に動き、お姉さんのお腹をぽんぽんと小刻みに叩き始める。

 

「ねぇリーシャンちゃん!次のページもちゃんと読めるかしら〜?」

 

 お姉さんは、絵本をペラっと慣れた手つきでめくり、今度は金髪の、黒色のローブを着た魔法使いの人が出てきた。

絵を見れば、大体のお話の流れは理解できるけど、やっぱり細かい内容は分からない。早く勉強して、たくさんの文字を読めるようになれれば良いけど……。

 

「今度は魔法使いさんが現れたわね?……さぁ、この人の種族がなんなのか、文字を読めば分かるわよ〜?」

 

 目の前に広がる羊皮紙には、光沢が特徴的な黒色のインクで文字が書かれているが、相変わらず私には、よくわからないカタチをした記号にしか見えない。

 

 上手く字が読めなくて固まる私の頭を、お姉さんは片手でポンポンと軽快に撫で始める。

 

「ふふふっ……。ほら、私の言葉を繰り返して?……『魔法使いの獣族は、男に協力する事にしたようだ』……って読むのよ!」

 

 一度読み方を教えてもらえば分からなくもない……けど、文字の区別が難しくて、一人で読むのは…やっぱり難しそうだ。

 

 私はゆっくりと、お姉さんが読みあげた部分を復唱した。……読めてはいない。言われたことを繰り返しているだけだ。

 

「獣族の女性が出てきたわ!これはきっとリーシャンちゃんのお母さんの種族ね!」

「……うん……あってる。……お父さんが……人間族で……お母さんが獣族だよ」

 

 お父さんとお母さんについて話すと、どうしても昔の楽しい記憶が蘇ってきてしまう。今よりもっと幼かった頃だから、今はもう……鮮明には思い出せないけど。

 

「……ほら、悲しい顔しないの。……お姉さんも悲しくなってしまうでしょう?……今はアタシが……リーシャンちゃんのお母さんとお父さんの代わりよ!……じゃあ……一旦この絵本はおしまい!……今度は、この大陸の本当のお話をしてあげるわ!」

 

 そういい、お姉さんはさっきの絵本とは醸し出す雰囲気がまるで違う、重厚そうな分厚い本を広げ始めた。……全く読めない……読めるようになった単語も多少ならあるけれど、全体を見て文章として読む事ができない。

 

「……人間族は説明したから……次は獣族……は、リーシャンちゃん自身の種族だから、もう分かってるわね?」

 

 もちろん分かっている。獣族は、ハーフでないなら人間族とは全く違う、猫族や犬族そのものの外見になり、身体能力もハーフよりもずっと高い。ハーフは、獣族でなくもう片方の種族の影響を強く受けるから、人間族とのハーフならば、人間族のような見た目に、獣族の耳と獣族の尻尾がつく。魔族となら、角と種族の耳と獣族の尻尾が両立して存在するような見た目になったりするのだ。……そして……やっぱり、ハーフはペットとして扱われることが多い。

 

「……じゃあ、魔族の説明ね!……これはお姉さんの種族だから、よく聞いておくのよ〜?……まず!一番の特徴は魔法の適性がとても高いこと、そして、背丈が高い傾向にあることね!……ほかの種族と違って、みんな髪色が銀髪で……数はちょっとだけ少ないけど…。一人一人が強くて大きいのよ〜!……リーシャンちゃんが…ざっとアタシのお腹のあたりまでの背丈だから、その違いがよぉ〜く、分かるでしょう?……絶対にずっと守ってあげるからね!ふふふっ……」

 

 お姉さんの言う通り、私が何千年生きても越えられないような大きな背丈の差がある。ハグされるときは、私が背伸びするか、お姉さんが腰を下ろしてするしかない。魔族の人は…本当に大きい人ばっかりだ。

 

「……いいし。……私、まだ13歳だから…まだ伸びるし……」

「あっははは!…分かってるわよリーシャンちゃん!…安心しなさい!お姉さんがリーシャンちゃんに栄養たっぷりのご飯を食べさせて…大きくてふかふかのベッドで寝かせてあげるから…。小柄な猫族でも、とっても大きくなれるわよ!」

「……ふふ……そ、そうだよね?……えへへぇ……」

 

 お姉さんは、私の銀色の髪の毛を、一束、愛おしそうに指を絡めた。

 

「……ねぇリーシャンちゃん……貴方のその髪色は……普通はありえない色なのよ?……分かるかしら」

「ありえない……?そうなの?」

「えぇ。きっと、ずっと昔のご先祖様にアタシたち魔族が混ざっていたのね。それが長い長〜い時を超えて、リーシャンちゃんに現れた……いわゆる先祖返りってやつよ。ふふっ、アタシと同じ髪色……やっぱり、リーシャンちゃんはアタシに拾われる運命だったのね〜!」

 

 お姉さんの瞳がより一層、宝石の様な紅い輝きを放った気がする。

 

「……私には……魔族の血も流れてるの?」

「きっとそうよ!……だからこんなに可愛いし天才さんなの!さ、次もしっかりアタシのお話を聞きましょうね〜?」

 

 

 

 お姉さんがページをめくり、紙が擦れる音を私の耳がよく捉える。次はエルフ族についての説明が始まった。エルフ族は、耳が長いのが特徴で、森のなかで暮らしているらしい。寿命がなくて、誰かに傷つけられるか、病気でしか死なないみたい。……ちょっとずるい。……私がエルフ族だったら、路地裏であんな思いしなかったかもしれないのに。

 

「……これは魚族。お魚さんね……海のなかに暮らしてて……優しくて、魔族と同じで体格が良い人たちよ!……まぁ……なかなか会えないけれど……」

 

 

 お勉強は……まだ終わらなそうであったが……『ガーデン』の難しい歴史の話に入った途端、お姉さんの声が、次第に子守唄のように感じてしまって……気づいたら、瞼が重くなって私の意識は深い眠りの中に沈んでいった。最後に感じたのは…お姉さんが放つ、甘いお菓子の香りだった。

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