キッチンの中で、たぶんお母さんを見つけた私。
きっと、もっと大はしゃぎするようなことなのかな?分かんないけど、一緒にいた時間のほうが短いから、大泣きするほどのことじゃなかった。
けど、嬉しくないわけじゃない。このローブだって、私はお母さんとお父さんが大好きだからずっと着てたわけだし!
「……良いんですか?」
お母さんが不安そうに聞くと、お姉さんは両手を軽く自分の腰に当ててから、まるで私に話しかけるときみたいな優しい声で話し始めた。
……やっぱり、獣族好きなのかな。お姉さん。初めて会った時も、獣族検定合格とか何とか言ってたし……
「だって、リーシャンちゃんのお母様なのでしょう?……むしろ、私に謝らせてちょうだい。こんなにも可愛い子を世界に誕生させた人に、私はとんだ無礼を……」
お姉さんがすっごい大袈裟に言ってる……い、いや、実際凄いのかな……?お母さん……。でも確かに、お母さんいないと、私は生まれてこなかったわけだし……。
(んー……。あ、あとそれに……私を無条件に好きでいてくれる人なんて、いっぱいいた方が良いよね。たぶん。)
お母さんもいるし、お姉さんも。あとアルコさんとか、ヴァロストロさん。お家に戻れば、シーアルさんだってトゥルさんだっている。…………あ、あとフォルスさんも。
お母さんもお父さんもいなくなって、バイトコルの路地裏で毎日お腹を空かせて生活してた頃が、まるで幻だったみたい。
……なんて言いたいけど、流石に幻には出来ないかも。あの頃は大変だった。そして、今はすっごく幸せ。そういうふうに覚えておこうっと。
あとは……そう、お父さん。お父さんはどこにいるのかな?お母さんと一緒に、変な緑の服着た人に連れてかれちゃったけど……流石に、お母さんと一緒の場所に売られてたなんて、そんな都合のいい話、この大陸じゃそうそうないよね……。
あんまり期待したら、違ってた時にショックを受けちゃうから、あんまり期待せずに、お母さんに聞いてみることにした。
「お母さん……お父さんは?……いや……さすがに、いないよね……」
(私は奴隷商人じゃないから、詳しくわかんないけど……仲の良い奴隷二人を、同じ場所に売ることってあるのかな……?あってほしいけど、私が悪い人だったらぜったいしないと思う。だって、協力して脱走とか、できちゃう気がするし。)
……悪い人が、おバカさんだと、嬉しいな。
お母さんが口を開くのが、とてもゆっくりに感じた。
……分かってる。どうせ「ここには……」って言葉に詰まったり、私を傷つけないために話を濁したりするんだよね。
「あはは!そうだね、リーちゃん。それ、もちろん気になるよね!」
——なんかテンション高くない?
たぶん、なにかがおかしい。私の想定だと、暗い感じで話が始まると思ってたのに、なんというか……明るい。
お母さんは今にも話したそうに耳をピクピク動かし、尻尾は……無いんだった。あとでそれも聞かなきゃ。
「大丈夫、ちゃんといるよ、お父さんも。リーちゃん。……お父さん、リーちゃんがいなくてちょっと無気力になってるから……会ってあげてほしいな?」
……いるの!?
……ここに!?
「どこに!?」
私の声が、デッカイキッチンの中に反響した。『無気力』……とか、なんかよく分かんないけど、両親がちゃんといるなんて、私、すっごい運良くない?
「……ふーん……。アタシのお父上、たまにはやるじゃない。あとで味無しアルコール無しのビールでも持っていってあげようかしら」
お母さんは、ちょっとだけ重たそうに私をひょいと持ち上げて、「あそこの、さっきからトントン食材を切ってる人だよ」と、柔らかい声で言ってくれた。
グツグツと煮られている鍋、騒がしい中、気を取り直して作業に取り掛かり始めている人達。
……そして……さっきも一回見たけど、ずっと集中して包丁を下ろしているのが一人。……それが本当に、お父さんなの?