お姉さんのお家で、今日も明日もほのぼの生活   作:TTKTW

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第七話 甘い治療術者さん

 

 お姉さんのお家での生活も、そろそろ慣れてきた頃、お姉さんに『……もし万が一、リーシャンちゃんに何かあった時のために、このお家には専属の治療術者がいるのよ。もし時間があったら……会って仲良くなっちゃいなさいな。場所は一階の…食堂に入る廊下をそのまま進んで、曲がり角で…………左に曲がったところよ』と言われたため、治療術者さんを探して廊下を歩いていたら、一人の背丈の大きな執事さんに会った。キツネのフォルスさんではない。お姉さんよりも少しだけ背丈が高いように見えるし……頭頂部の辺りに黒色の角が2本生えている。…男の魔族の執事さんだ。

 

 「……おや、これはこれは……お嬢様からお話は聞いております。貴方がリーシャン様ですね。……僕は、執事のトゥルと申します。……見ての通り、魔族です」

 

 魔族がどれだけ生きるのか知らないけれど、お姉さんと同じくらいには若く見えて、魔族特有の銀髪を短く纏めて、紅色の瞳で世界を映している。黒色の執事服に身を包み、スラッとしていながらも、決して貧弱さを感じさせないような身体つき。さらに言えば、礼儀正しくて信頼できるような、低さと高さが両立した声だった。フォルスさんと最初に会った時は少しだけ怖かったけれど、トゥルさんのことは何故か信じる事ができてしまうような、そんな雰囲気がある。……いや、会う時の状況の違いなのかな?……あの時……鶏肉を持ってきてくれたのがトゥルさんだったら、その時はトゥルさんの事を怖がってたかも……。

 

「……このような所で、いったいどうなされたのですか?…この先には…倉庫しかありませんが」

「……あ……そ、そうなんだ……えっと……お姉さんに、このお家の治療術者さんとも仲良くなってきてねって言われて……探してるんだけど……」

 

 私がそう言うと、トゥルさんはどこか納得したような顔になった。

 

 

「……なるほど……彼女を探しておられるのならば……歩むべき道を誤っていますね……彼女の所まで案内しましょう」

「……でも……私、ちゃんとお姉さんの説明聞いたのに……」

「……お嬢様は……言葉を選ばずに言ってしまうと……どこか抜けている節がありますからね。……お嬢様も人ですから、当然……間違える事もあります。……ここに来た過去の貴方は…左に曲がるのではなく…右に曲がるべきだったのです。ですがご安心を…。やり直しの効く失敗ならば…それは失敗とは言いません」

 

 お姉さんも、たまには間違えることだってある……たしかに、最初の想像と違って…意外とポンコツさんかも……と思ってしまった。もしこの事をお姉さんに言ったら、ほっぺをぐにーっ……と伸ばされてしまいそうだから、絶対に言わないでおこう。

 

「……ここです。……この時間ならば恐らく……彼女は薬草の調合をしている頃でしょうか?」

「ありがとう……!トゥルさん!」

 

 トゥルさんが倉庫の方に歩いていくのを見送り、治療術者さんを驚かせたりしないよう、ゆっくりと扉を開ける。

 

「…………君が、雇い主の話していたリーシャンだな。私の推察によれば、君の胃粘膜は、前日の雇い主の短絡的な暴走の被害による吐き気で胃液が逆流し、微細な傷がついている可能性がある。……丁度いい。治療を開始する」

 

 部屋の中は、椅子に座っている治療術者さん自身の、冷たい薬液のような匂いと、部屋に充満するハーブの甘い香りが両立していた。

 

「えっと……名前はなんていうの?」

「……そうか、治療の前に、まずは自己の具体的な紹介を求めるか。とても合理的で、生存戦略上有効的な行動だと言えよう。相手の情報がない場合、無条件に信用することは控えるべきだからな。……私はシーアル。……年齢は58歳。人間族とエルフ族のハーフだ。」

「あ、シーアルさんも……ハーフなんだ……!」

 

 黄緑色のふわふわの髪の毛。エルフ族はつり目っぽい傾向にあるとお姉さんはこの前言ってた……けど、ハーフだからか、シーアルさんはどこか気怠そうな、金色の目をしている。耳は人間族より一回りだけ長く、時折ピコッ……と、音に反応して動いている。ハーフのエルフ族は、しっかりと老いるけれど、エルフの血が流れているだけあって、やっぱり寿命は長い。私が58歳だったら、こんな若々しい見た目にはならない筈だ。それでも、同じハーフというだけで、なんだか親近感が湧いてくる。

 

 シーアルさんが私の頭に手を乗せると、白色の光が私の身体をベールのように包み、その後に、ゆらゆらと炎が揺れる焚き火に当たっているような、優しい温かさが少し遅れてやってくる。

 

「……治療は完了した。……君の胃の不調は取り除かれ、寿命が0.2秒は延長されたと考えるべきだ。他にはなにか用事があるか?……もし君が望むのならば、私は君の知識量を考慮した上で、部屋にある物の詳細な説明を行う事も厭わない。……君の年齢から様々な知識を増加させていけば、今後の生活においていずれかの知識が役に立つ時が来るだろう。備えあれば憂いなしと言ったところか?」

「……えっと……ふーん……0.2秒だけなの?」

 

 難しく話されて、あんまり理解出来なかったけれど、怪我が治って寿命が伸びた事は分かった。シーアルさんは溜め息をついたあと、ピコピコと耳を上下に動かし、また話し始めた。

 

「……塵も積もれば山となるというものだ。0.2秒の延長を5回繰り返してみろ。……そうすれば1秒。……それを5回行えば5秒も伸びる。一見すると微々たるモノだとしても、山も崩せば塵になるように、それらは必ず……成し遂げるべき大きな目的への小さな一歩となる」

「あ、あぁ……たし……かに……?」

 

 よく話を聞いていないことは、きっとバレバレだと思うけど、シーアルさんはそんな私にもしっかり接してくれる。しっかりしすぎていて、何を言ってるのか分かりづらいけど…。せっかくだから、部屋にある薬液について聞いてみることにした。

 

「じゃ、じゃあ……そこの薬は……?」

 

 私が指差したのは、机の上の醸造台に、一切の角度のズレなくセットされた多くの薬液だ。

 

「……では、説明を開始するぞ……ここからは君が私に解説を求めた内容だ。先程のように、適当に聞き流すことは許容されない」

「……わ、分かった……」

「……まずは……『精神安定薬』だな……雇い主に、思慮の浅い暴走行為の前兆が確認できた時によく使うものだ。コレがなければ、屋敷は今頃……灰燼に帰している」

「……かい……じ……?」

「…………燃えて無くなるということだ。新しい知識を蓄えたな。……それも一歩の前進だ」

 

 シーアルさんは、この調子で薬の解説を続けていった。

 

 

「……コレは、フォルスの毛並みを整えるための薬だ。コレがなければ、フォルスの獣毛は雇い主の度重なる愛情表現に耐える事が出来ない」

「……フォルスさん……大変なんだね……」

「……そしてコレは……現在調整中のモノだが、雇い主に頼まれて調合した『成長促進薬』だ。……君の背丈の拡張を微力ながら補助する効果を持つ。……今……ここで飲んでみるか?……味は保証する。……君がハチミツと薬草の味が嫌いでなければ……だが。」

「背丈の……かく……ちょう……!?飲ませて!」

 

 シーアルさんから『成長促進薬』を貰い、慎重に栓を外し、まず鼻を近づける。……シーアルさんが言った通り、街の大通りからたまに漂ってくるような、甘いハチミツの香りと、路地裏に生えるような、汚れつつも強かな草の匂いがする。

 

 毒ではなさそうだと、知識は無いなりに匂いで判断し、ゴクッ……と、少しずつ口に含む。……舌に苦味がジワジワと広がってくる感じだ。全部は飲めそうにないかも……と、思っていたけれど、なんと、苦味のあとに、すっごく甘い味が遅れてやってくるのだ。

 

「……君でも確実に飲めるように、内容物の分量を適切に調整した。……どうだ、飲めそうか」

「うん……!苦い……けど……甘い!ありがとう!」

 

 シーアルさんがどこか保護欲の籠もった瞳で私を見ている。互いに目があって少しだけ照れた私は、急いで薬の方に視線を戻した。

薬の甘い後味に頼り、ゴクゴクと薬を喉に通らせる。すべて飲みきった時は、さらに甘くて…柔らかい味が口に広がり、舌にずっと停滞する苦味がすべて上書きされた。

 

「これで……これで……私も大っきくなる!?」

「……断言することは出来ない。そうでなかった時、私に責任を取るつもりはないからな。……だが……よく眠り、よく食べろ。……理屈で考えれば、それで背丈は伸びるはずだ」

 

 シーアルさんにお礼を言ったあと、部屋から出て自分の部屋に戻ろうと扉のドアノブに手をかけると、外からコツコツと足音が聞こえてくる。

 

「ん……?」

「……下がれ…リーシャン。……扉の前は危険だ」

 

 シーアルさんの言う通り、扉から離れて椅子に座るシーアルさんの脚と脚の間の空間にスッポリと身体を収める。いったいどんな人がくるのか…。お姉さんだったら良いけど……もし怖い人だったら……?

 

 コンコンコンッ……と、扉をノックする音が部屋の中に響き渡る。……シーアルさんが「……入れ」と端的に言うと、ガチャッ……と、静かに扉が開かれた。

 

「……シーアルさん。今日のくす…………リーシャン様……!?……なぜここにおられて……っ!?」

「……ここは屋敷内の医療用の部屋だぞ……君専用の毛並み調整部屋ではない」

 

 中に入ってきたのは、執事のフォルスさんだった。

 

「それに……今はまだ君の毛並みを確認する時間ではない。3時間は早いぞ……執事だというのに、時刻を正確に把握する能力が欠落したとでもいうのか?」

「……す、すみません……。失礼しました……。また後ほど……」

「あぁ、そうしろ……まだ薬の調合は完了していないからな。」

 

 再び、ガチャッ……と扉が開き、閉められる。可哀想というか……やっぱりフォルスさんもどこか抜けてると言うか……。

 

 気を取り直して、今度こそ扉を開き、自室に戻って、夜にぐっすり眠れるよう準備を始めたのであった。

 

 

「……あ……そうだ……明日、お姉さんに、食堂の所で右に曲がるか左に曲がるか……もっかい……聞いてみようかな……」




UA300突破、ありがとうございます!
いつのまにか、多くの方に読んでいただけて光栄です。
ここまで毎日投稿を続けてきましたが、ストックが無くなったため、明日からは「書け次第、随時投稿」という形に切り替えさせていただきます。
毎日15時38分に覗きに来てくださっていた方には心苦しいのですが、その分、一話一話に「毒」と「甘み」をたっぷり込めてお届けします!
投稿する時間は、これまで通り必ず15時38分にします!
このままたくさんの人に読んでもらえたら………執筆スピードが0.2秒くらい上がる……かもしれません。

【6月7日追記】

キャラクタープチステータス:

  ④トゥル
  年齢:81歳(魔族は1000年前後生きるため、まだまだ若造)  
  身長:197センチ
  種族:魔族
  好み:苦い食べ物
  好きな人:お姉さん
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