翌日、私はお姉さんの部屋に行き、昨日計画を立てた通り、お姉さんを問い詰めてみた。
「……お姉さん。……シーアルさんの部屋、食堂の前を通って…右か左か……どっちだっけ?」
「あはは!前にも言ったじゃない!……左に曲がれば良いのよ!……もしかして、シーアルと仲良くなってきたのかしら〜?……ふふっ……シーアルもリーシャンちゃんに懐かれて嬉しいでしょうね〜?」
「……左に曲がると倉庫しかないって、トゥルさんが言ってた」
私がそう指摘すると、お姉さんは目を左右に泳がせ、額に冷や汗が出てきた。
「……あら……?……左じゃ……?……でもたしかに、右だった……かも……?」
次はどんな言い訳をするのかな……。なんて、気楽に思っていると、私の視界がいきなり真っ暗になり、優しい温かさと、甘い香りが肺を満たした。
「……左でも右でも、リーシャンちゃんがアタシのお家にいるのは変わらないでしょう?……些細なことだわ!」
むぎゅーっ……と、お姉さんに強く抱きしめられて、嬉しいけど……やっぱり息がしづらい。自分の誤りに気づいてしまった私を密かに殺すつもりなのかも……。
「……ぐる……じ……っ」
「……あら……アタシの愛にあてられたのかしら……?可愛い〜!……ほら!……ぎゅ~!」
お姉さんは、私の事を更に強く、まるで檻で囲うように執念的に抱きしめ始めた。お姉さんは魔族だけあって力が強く、既に無くなりかけていた、肺の中に残っていた、なけなしの空気がさらに搾り取られ、とうとう息が吸えなくなってきた。
(……しぬ……!しんじゃうよぉ……!)
ついに視界が暗転しはじめた、私は……このまま……お姉さんの腕の中で……?
その時、コンコンコンッと、規則正しいノック音が部屋の中に響いた。
「雇い主、先日の"患者"の容態について……だ……が…………。失礼した……。また後ほど伺う」
バタンッ……と、扉が閉められる音がした。部屋の中に、私とお姉さん、2人きりの静寂が訪れる。
(……え?……シーアルさん!助けてくれるんじゃっ……!?)
とうとう意識が落ちる寸前、音も光も感じられなくなってきたが……。突然、お姉さんの愛の檻の拘束が弱まり、私の肺が必死に空気を取り込み始める。
「……はぁ……雇い主……面倒だったが、今の状況は、治療術者として見過ごせなかった。……安静にしていろ。いつもの精神安定薬をやむを得ず投薬した」
戻ってきた視界に映ったのは、お姉さんの口に、片手で無理やり薬液の瓶を飲ませているシーアルさんだった。
「ぷはっ……!シーアル!貴方、いきなりアタシに投薬するなんて……どういうつもりかしら?」
「……どういうつもり……か……そのまま雇い主に返すぞ……その言葉はな。一般的には、この状況で『どういうつもりなのか』を問われるべきは雇い主だ」
(す、すごい……!シーアルさんすごい!あのお姉さんが……ふにゃふにゃになってる……!)
今のお姉さんは声に覇気がなく、このまま床に溶け出し始めてしまいそうなくらいふにゃふにゃである。お姉さんが暴れはじめちゃう時も、シーアルさんがいればお家も壊れないんだ……。と、私は実感した。
「……リーシャンちゃんが……2人……あら……3人……?……4人……ふふっ……天国かしら……?」
お姉さんは魂が抜けたかのように、私の幻覚を抱きしめ始めた。いったいどれだけ強い薬なのかと、少しお姉さんの体が心配になってくる。
「……シーアルさん……お姉さん……大丈夫なの……?」
「……あぁ、人間族や獣族に使用すれば長期間の無気力状態に陥る可能性もあるが、魔族ならば別だ。……そして、その中でもさらに強靭な個体の雇い主ならば尚更、問題は無い」
「リーシャン……ちゃん……」
お姉さんは床に伏してぐったりと動かなくなり、私の耳が、お姉さんの寝息の音を察知する。……お姉さんの寝顔は……とても幸せそうだった。シーアルさんが、長身のお姉さんをなんとかベッドに運び、私がふかふかの毛布を被せ、ぽんぽんっ……と、お姉さんのお腹を優しく叩いたあと、私達は2人で部屋をあとにした。
キャラクタープチステータス:
⑤シーアル
年齢:58歳
身長:161センチ
種族:エルフと人間族のハーフ(寿命は人間族の2倍程度。つまり、推定寿命は200歳前後)
好み:ニュウトンの実
好きな人:不明