――――――――視点:高町 なのは
夢を見てた。
小学校二年生の時に出会った、アリサちゃんの。
そうえいば、あの時からだった。
『悲しい記憶は、それが大切なことだったからこそ悲しい』って思ったのは。
だから、クロノ君が悲しい記憶は人生において一番不要なモノだと言った時、私ははっきりと言った。
違うって。
人生でとか人間においてとか、そういうモノは良く分からないけど、これだけは、はっきりと言えた。
そう言った後の、クロノ君の焦りと揺らぎから、私はなんとなくだけど感じた。
分かってるんだ。本当は自分が逃げているだけだって。
自分が弱いって。
それでもなお、クロノ君は記憶を力とする『イデアシード』を集めようとしている。
どうして?
思えば、クロノ君の事を何も知らない。
感じただけで、何もお話を聞けてないんだ。
『ひと…………はっせい…………ねがい…………。」
……これは……声?
そういえば、私、クロノ君に落とされて……。
ガバッ!
目を覚ますなり、私は起き上がった。
「痛っ……。」
体中が痛い。
「起きたか! なのは!」
この声は……レンちゃん?
「全く! 心配かけやがって!」
晶ちゃん?! 抱きついてって、
「痛いいたい! は、離して~!」
ようやく開放されたあと、私は改めてこの部屋と中の人を確認する。
ここは……病院の一室みたいなの。
それで、周りに居るのは、ボーイッシュなショートへアの城島 晶ちゃんと、ロングストレートヘアのレンちゃん。
それになんだか、公務員っさんぽい女の人と……別々のベッドで眠っているお兄ちゃんとクロノ君。
え? お兄ちゃんとクロノ君?
「ふぇ?! なんで?!」
お兄ちゃんは怪我とかが絶えないからともかく、なんでクロノ君が?!
私を落とした後に、お兄ちゃんがクロノ君を……?
背筋をひやりとしたものが伝う。
「事情は私が説明します。」
公務員っぽい女の人が、説明してくれるみたい。
あれ?
「あぁ、自己紹介をしてませんでしたね。」
そう言って、女の人は自己紹介をはじめ、そこから私が気を失ってからの事を話しはじめた。
「私は、非日常災害対策組織《
―――――――――――視点:相崎 美羽
私は事の顛末をなのはという少女に話しはじめた。
最初に、一番重要な《義務》についてだ。
「私が今からお話しすることは、家族以外には口外厳禁でお願いします。」
「こうがい、げんきん?」
「要するに、バラしたらしばくって、事やな~。」
「ふぇぇぇぇ?! 誰に?!」
「余計な事吹き込むな、カメ! ……あまり人に話すなって事だ。」
……仲がよさそうで。
私は咳払いをして、注目をこちらに戻す。
「今から話すことは、紛れも無く真実です。でも、限りなく非現実的です。」
そうして、私は語り始めた。
魔法少女と呼ばれる存在が居ること。
駆けつけたときに、魔法少女という存在になのはとクロノという少年、そしてなのはの兄、高町 恭也の三人が倒されていたこと。
死ぬ気の炎と、魔法少女のシステムについては教えなかった。
死ぬ気の炎はもとより裏世界のものだし、魔法少女についても、『願いを一つだけかなえてくれる代わりに魔女と呼ばれる存在と戦うことを宿命付けられた少女たち』という説明をしてしまえば、なぜ三人を襲ったのかという説明が難しくなる。
この説明で伝えるべきは二つ。
魔法少女という非日常的な存在が居るということと、それから日常を守るための組織こそが《AAN》だということ、それだけだ。
我々の目的は一人でも多くの被害者を救うこと。
危険を伝え、秘匿義務を伝え、それだけで終わるはずだった。
普通なら。
「……これで話は終わりです。では。」
「あ?! もうこんな時間! 悪いなのちゃん! 先、帰る!」
「ウチもや! またな、なのちゃん!」
……レンさんと晶さんが病室から出る。
普通なら他のことは気にせずに、なのはさんと共に話を聞こうとするだろうが、私は彼女らには『生活のリズムを乱さない程度』にお見舞いに来てほしいと最初に言っていた。
それは、彼女の家族も同じ。だから、怪我だというのに、ちょくちょく見舞いには来れないのだ。
それにしても、本当に元気のいい人たちだった。
任務外でも話してみたい。
さて、これで病室内には関係者以外いない。
本題はこれからだ。
「あなたが持っていた白い結晶と、既に彼女らに持ち去られてしまったクロノ君の青い結晶。そして、機械的な杖。その正体について、話を聞かせてもらえますか?」
――-――――――――視点:リンディ・ハラオウン
なんとも胡散臭い話。
それが私の感想だった。
現在、私の体は一部の例外を除いて、魔力を持つ者しか見えない、妖精サイズの半物質状態になっている。
魔法少女というのだから、魔法を使うはず。
なら、魔力が必要だし、法術に必要なデバイスも、強力な力を使う上では、かかせないはず。
でも、私が見た魔法少女と呼ばれる存在は、私を視認出来ていなかった上に、デバイスの力も借りている様子は無かった。
そして、何よりも、普通の炎とは違う、『燃えない炎』。
ジャージ姿の少女――たしかカオルと呼ばれていた――は、なのはさんのお兄さん、恭也さんに貫かれた肩に、翼を模した指輪を中心に放たれた黄色い炎をかざし、治療していた。
クロノ君の攻撃を防ぐため、展開していた針だらけの防御壁。あれからも、同じ紫に近い色の『燃えない炎』が漏れていた。
魔力とは違う力。そう考えるのが妥当だった。
でも、今現在、警戒するべきなのは、それと同色同質の炎を警棒に宿していた、目の前に居る美羽さん。
『なのはさん。美羽さんの話には、まだ裏があります』
念話で、なのはさんに思考の結果を伝える。
『ふぇ? なんでそう思うんですか?』
『具体性が無さすぎます。そもそも、魔法少女とはなんなのでしょうか?』
『そういえば……。』
ですが、さすがになのはさんが聞くというのは、不自然が過ぎます。
どうしましょう……。
「あなたが持っていた白い結晶と、既に彼女らに持ち去られてしまったクロノ君の青い結晶。そして、機械的な杖。その正体について、話を聞かせてもらえますか?」
……既に証拠は握られているのですか。
……せめて、私の姿が見えれば、まだ説得力があるのに……。
『どうしよう……?』
ふと、思った。
彼女たち《AAN》が、本当に日常の維持を目的とした組織なら……。
いいえ、まだ判断するのは早すぎます。
『とりあえず、私の存在だけ話してください。そして、詳しい内容は、信頼に値しないと話すことが出来ませんと。』
『最後はよく分からないの……。』
『私が言うことを復唱してくれる?』
『それなら分かったの!』
少しだけ不安になる私だった。
―――――――――――――視点:相崎 美羽
私たちには見えない存在……。リンディ・ハラオウン。
「信用に値しないと、事情については話すことができません、と言う事なの。」
やはり警戒されている。
なのはさんにそういう表情が見えないという事は、恐らく誰かが、それこそ見えない存在、リンディという人物がなのはさんに助言しているのだろう。
もっとも、小学三年生に、このレベルの会話は無理だというのが、一番の判断要因だが。
しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。
「どうしたら、信用に値すると判断してもらえるのですか?」
そう言うと、なのはさんが少し目を閉じる。
何かに集中しているように見えた。
時々、なのはさんの表情が変わっているため、テレパシー、と考えるのが妥当か。
「燃えない炎と魔法少女の具体的な説明が条件なの。」
なのはさんが首をかしげているところから見るに、言葉の意味が分かっていないのだろう。
しかし、これは厄介だ。
なのはさんは見たところ、まだ小学校3年生。例外があるとはいえ、まだ契約できる年齢じゃない。
襲われたと聞いている以上、魔法少女の具体的な説明は、混乱を招きかねないし、『燃えない炎』、すなわち死ぬ気の炎に至っては論外だ。
見えない存在がどういう人物か分かれば、一対一で言葉が通じれば、なんとかなるかもしれないが……。
なのはさんを介さないと会話が成り立たないというのが、一番のネック。
さて……どうしよう。
――――――――――――こち……ザァァァァァ……魔ザァァァァァ応……
無線が何かを受信するが、電波妨害かかかったように途切れた。
電波妨害?
まずい!
「ちいっ! 魔女か!」
「ふぇぇぇぇぇ?! 何なの?!」
だんだんと病室が奇妙な空間に塗り変わっていく。
独特の気持ち悪さ。
思考しすぎて、気が付かなかった!
魔女か使い魔の結界だ!
ここには、SAO被害者も居る。
二時間以内にケリをつけなければ!
「美羽さん!」
ふと、私はなのはさんの方を見る。
彼女の不安そうな表情で、思考が冷静に戻った。
彼女には戦闘能力は皆無。さらに魔女の存在、使い魔の存在や危険を知らない。
さらには、まだ気絶している二人が居る。
だが、このままだと、二時間は普通に経ってしまう上、被害が大きくなる!
どうすれば……。
ん? 二人?
ベッドを見ると、なのはさんのお兄さん方はまだ眠っているが、もう一人、クロノという人物は既にいなかった。
逃げられた?! この状況で?!
「事情はあとで説明します! とにかく、動く奇妙なものには、近づかないでください!」
私は、高町兄妹を守りながら、救援を待つ事を決めた。
無線で伝えてきたのだ。恐らく、《コスモス》のメンバーが派遣されるはず。
それまでに、犠牲者が出ないことを祈りつつ、私は警棒に炎を宿した。
魔法少女ではない私が、人外の魔女相手に出来ることは皆無だ。
この雲の炎で、使い魔くらいなら倒すことが出来るが、それでも一度に5体が限度。
使い魔は無限に出てくる。
多勢に無勢、さらに防衛対象ありだと?!
守りきれるか!?
案の定、丸っこい奇妙な使い魔が、五体、いきなり出現し、一斉に襲い掛かってくる。
――――――――
警棒を雲の炎の特性、増殖で伸ばし、五体をなぎ払う。
?! 後ろっ!
背後の一体に気が付いたが、既に遅い。
肩をがぶりつかれる。
「-――――――-――――っつ?! このぉ!」
なんとか振り払うが、相当深く噛み付かれたらしい、肩から大量の血が流れる。
「いやぁぁぁ?!」
なのはさん!
なのはさんが三体の使い魔につめよられている。
「伸びろ! っ?!」
視界が歪む、血が出すぎたか!?
意識が……。
まだだ!
なんとか、警棒を制御し、三体なぎ払う。
「美羽さん、レイジングハートはどこなの?!」
「レイジングハート? 赤い宝石か?!」
なのはさんがこくりとうなずく。
なんということだ!
「あれは、勝手だが回収して、解析中だ!」
まさか、それが彼女の武器だったと?!
万事休すか。
意識が遠のいていく。
最後に見たのは……。
「大丈夫ですか?!」
金髪の魔法少女らしき人物だった。