俺の話を他人は聞いてくれない。
偶然、邪魔が入ったり、
話題が逸れたり、
終電で時間切れになったり…。
まあ、そもそも相手がその話題に興味がない場合もあったけど。
とにかく、話を最後まで聞いてくれる事がほとんどない。
理由はもちろん俺自身にある。
工夫もしてみたが改善はしなかった。
半ば諦めていた俺に、どうしても伝えたい理由が出来た。

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この世界の住人は俺の話を聞かない。だから俺は小説を書く

子供の頃から違和感は感じていた。

俺が話していても、誰も最後まで話を聞いてくれないのだ。

まず、いつも間が悪い。

話していると、必ず突然の来訪者や出来事が起こり中断する。

先生が話しかけて来たり、

別の友人が割って入って来たり、

近くで大きな音が突然したり、

聞いてるやつが屁をこいたり、

一度、地震が起きたこともあった。

一度中断したら最後、再度話しを続けようとしても、別の話題に変わってしまう。

結局、空気を読んで俺の話はそれで終わり。

俺が感動したドラマのストーリーを伝えようとしても、まだ導入部分で終了。

旅行先で見た観光名所の話しは、県名しか伝わらないうちに終了。

昨日の帰り道で見た出来事を話そうとすると、

「そういや昨日なんで急いで帰ったの?」

という質問への回答をしているうちに俺のターン終了。

いつも不完全燃焼で、残るのはモヤモヤばかり。

 

話を聞いてもらえない理由?

理由なんて沢山ある。

自分で分かってるだけでも20個は言える。

話し方が下手。

ちょいちょい噛む。

そもそも物事や人物などの名称をちゃんと覚えていない。

偉そうな物言い。

ウケたセリフを2度繰り返す。

等々。

あまりいうと気が滅入るからこの辺で勘弁しておいてやる。

そして、きっと俺が理解していない理由もきっとこの10倍はあるんだと思う。

だから、話を聞かない人たちを断罪しようとは思わない。

原因は俺なのだから。

 

一応、工夫は試みた。

結論を先に言ったり、

より簡潔に伝えたり。

しかし、工夫したらしたで、

相手が眉を顰めたり、

反論して来たり、

全て伝われば伝わることが曲解されて伝わってしまう。

そうなったらもういくら挽回しようと説明しても、もう伝わらない。

伝えるべき事を伝えたにも関わらず、聞く耳を持たなくなるのだ。

みんなが話題にしているアニメなどを観て、話題を汎用性の高いものにすると、

今度は知ったかぶりと非難される。

名前を覚えていないのが致命的だった。

 

一時期、ネットの掲示板にハマった時期もあった。

自分の言いたい事が全て書いてから投稿できるから。

しかし、これとてスピードの速さについていけなかったり、

ネットスラング的用法に慣れなかったりで徐々に足は遠ざかった。

 

ある時、誰も「聞いて」くれないなら文章にして「読ませ」れば良いと気がつく。

ネットの経験も良かったのだろう。

はじめはただ言いたい事を羅列しただけだったが、

次第にそれは小説の様なものになっていた。

自分でも小説という未知の領域に少し興奮したが、

試しに10数枚書いた文章を読んでみて愕然とした。

気持ち悪いのだ。

登場人物は複数いるのに、発言は全て俺自身。

そんな俺ばかりの世界で、俺が自分本位な妄言を垂れ流している。

 

そこから20年以上、俺は小説を封印した。

 

その間に俺の生活も色々と変化していった。

その中でも一番大きな変化は結婚だ。

世の中には物好きもいるもので、こんな俺でも良いという女性に巡り逢えた。

控えめに言って奇跡だと思う。

彼女いない歴=年齢の40歳直前の男。

しかも、相当な変わり者だ。

そんな男付き合ってくれる女性が素晴らしくないはずが無い。

俺は人生で初めて女性に猛プッシュした。

そして、子供が産まれた。

行き止まりだった人生が、一気に彩りに満ちた。

 

ただ変わらないこともあった。

相変わらず、この世界の住人は俺の話を聞かないのだ。

妻でさえあまり聞かない。

子供達はそりゃもう全く聞かない。

妻の場合は、むしろ俺が聞き役になっている為、

俺のターンが回ってこないと言うのが大きいが、

子供達については、完全に俺をナメているからだろう。

まあ、心当たりはありまくりだ。

誠に不徳の致す所でございます。

 

しかし、だ。

子供が産まれたのは俺が40歳を過ぎた頃。

あと何年子供達のそばにいられるか…、

正直、妻に会うまで、長生きをしても仕方がねぇと、

自堕落に暴飲暴食してたのが祟って長生きは出来そうにない。

 

そこで再度思いつく。

父親と子供は一生にどれだけの言葉を交わすのだろう?

世の中には「風呂、飯、寝る」しか喋らない父親もいるという。

まあ、こんなのは都市伝説レベルとしても、

日本の男達はフルタイム労働が基本だからそんなに多く無いだろう。

1日400字詰めの原稿用紙1枚分だろうか?

テキストにして100文字以内だろうか?

原稿用紙10枚ってことは無いだろう。

それが1年365日、10年なら3650日分か…。

そうだ、俺が好きなショートショートを沢山書いて、

俺が死んだ後、1日1編ずつ残すなんて面白そうじゃないか?

7編書けたら初七日まで、

49編書けたら49日法要、

365編書けりゃ一周忌まで待つ。

4回忌分書けたら、尊敬する星新一先生の残したショートショートの

作品数すら超えられる。数だけだけど。

その頃には父親がいない事なんてなんとも思わなくなるだろう。

少し、ロマンティックな感すらある。

死んだ後も、小説として残った俺の言葉が、

僅かでも子供達の今後に何か役立つなんて最高じゃないか!

最悪、役に立たなくても、親父なんていても役に立たなかったから、

いてもいなくても支障は無かったと子供達には伝わるはずだ。

 

そうして書き始めた小説達は、

20年前よりかは少しはマシになってはいたが、

やっぱり、変な小説ばかりだった。

思想が捻くれた恋愛ものに、

単なる願望ダダ漏れのSF、

バッドエンドばかりの青春劇。

でも、まあそれで良い。

変な奴が書く小説が変なのは当たり前なんだから。

 

それでも、楽しんで貰えたら嬉しいな。

少なくとも、誰も聞かない俺の話は、

きっと誰も聞いたことのない話に違いない。

それだけは自信がある。


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