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デンジ君 ホントはね 私も学校いった事なかったの
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影の差す路地裏でデンジの背中を見ながら、レゼの意識が薄れゆく。
ふと、倒れたレゼの顔に影がかかる。通行人だろうか。最期の瞬間くらいデンジ君を見ながら果てさせて欲しいと、レゼは思った。
「オイ見ろよォー、こんな所に喫茶店があるぜ。こういうこぢんまりした店が通好みって感じで良いじゃあねーか! 入ってみようぜェ!」
「オメーさっき昼飯食ったろォ。まぁ良いけどよォ……
おい待てッ、そこの路地ッ! 人が倒れてんじゃあねーかッ!!」
路地裏とは対照的に光差す二道の前の通りを通りかかったのは、学ランを着たガラの悪い二人の高校生だった。
談笑しながら歩いていた二人がふと暗い路地裏に目を向ける。そこで槍で貫かれ血溜まりの中に倒れるレゼを見て、二人は突然の非日常に顔を強張らせた。
「人払いは済ませていたつもりだったけど、一般人に見られちゃったか」
マキマがそう一人ごち、招かれざる客を処理するため天使の悪魔に作らせた槍を再び掴もうとしたその時。
『ザ・ハンドッ!』
ガオンッ
血溜まりに倒れたレゼの身体が、『暗い影の路地裏』から『光差す道』へ、何らかの『引力』で急速に二人の高校生の足元に引き寄せられる。
「せっかく修学旅行で東京観光楽しんでたってえのによォ~……
何してやがんだッ! このアマッ!!」
特徴的なリーゼントヘアをカッチリと決めた高校生、東方仗助がマキマにそう叫びつつレゼの体に触れる。右腕を切断され、胸を槍で貫かれていたレゼの身体が、まるで時間を巻き戻すかのように修復されてゆく。
レゼの体は完全に回復し、咄嗟に身構える。しかし、死にかけていた意識から急速に起こされた為、脳が覚醒しきれず事態がまだ完全には把握できずにいる。
「悪魔の匂いはしないけど、不思議な能力を持っているようだね。
私は公安対魔特異四課の者です。その娘をこちらに渡しなさい。さもなければ公務執行妨害であなた達を逮捕します」
突然の二人の乱入にも態度を崩さず、マキマは二人に警告する。それと同時に天使の悪魔も屋上から飛び降り、ふわりとマキマの後ろに着地する。
「逮捕だぁ~? 公安なら人殺ししても良いってのかよ!?
てめーの都合だけしゃべくってんじゃあねぇーぞ! このタコがッ!」
もう一人の高校生、虹村億泰がそう啖呵を切ると、二人は自身の魂のヴィジョンである『スタンド』を出現させ構える。
「レゼッ!」
その時、騒ぎを聞きつけたデンジが花束を片手に二道のドアから乱暴に飛び出した。緊張した場にそぐわない音をドアベルがカランコロンと鳴らす。
「デンジ君ッ!」
デンジがレゼに飛びつき、片手でレゼの身を庇うように前に乗り出しその胸のスターターに手をかけた。
デンジの持っていた花束が崩れて花びらの舞う中、六人の間に流れる一触即発の雰囲気は、文字通り今にも『爆発』しそうだった。
「デンジ君、ボムをこちらに渡しなさい。これは命令です。
ボムはデンジ君を誘惑してチェンソーの心臓を狙いに来たスパイだよ?」
マキマの同心円状のオレンジ色の瞳がデンジとレゼの方に向き、冷たく言い放つ。
「それに、デンジ君は私に背けば即座に抹殺対象となります」
マキマがそこまで言った所で、仗助が一歩前に足を踏み出した。
「ちょっと待てよ。スパイだの抹殺だのゴチャゴチャまくし立てやがってよォ
さっきは公安だとか名乗ってたが、アンタがあのレゼって女の子を殺そうとしてたのには変わりねーんスよ」
警察官だった祖父や中学生の友人を殺人鬼に殺された経験のある仗助はアンジェロや吉良を想起し、殺人をしようとしたマキマを許せずにいた。
それに対し、マキマはデンジとレゼに逃げられないよう、未だ二人を氷のような目で射抜きながら言葉だけを仗助に返す。
「私たちは悪魔への対策を公務として行動しています。その変な髪型が崩れないよう、離れていた方が身の為だよ。」
プッツゥ~ン
「あっ」
その音の発生源をこの場で唯一知る億泰が小さく声を上げた。
仗助にはもう助けたレゼや突然現れたデンジなど眼中に無く、先程までの警戒が嘘のようにマキマに向かってズンズンと歩き出す。
「テメー今俺の髪型の事なんつった?
この俺の髪型がハンバーグみてぇだとォ!?」
「そこまでは言ってなかったでしょ……」
マキマの後ろで控えていた天使の悪魔がボソリと呟くも、仗助は止まらずマキマに歩み寄る。
『クレイジー・ダイヤモンドッ!!』
マキマをクレイジー・ダイヤモンドの射程距離に捉えた瞬間、近距離パワー型の名に恥じぬ強烈な拳が繰り出される。
「ドラァ!!」
マキマに向かったその不可視のパンチは、しかし紙一重で回避された。
「テメー、俺のクレイジー・ダイヤモンドが見えていやがるな……。
後ろの奴の天使みてーな羽と輪っかといい、やっぱり新手のスタンド使いか」
マキマや天使の悪魔はスタンド使いではない。
仗助と億泰もその事実を知る由もない。
だがマキマも初めて見る能力『スタンド』を警戒し、レゼを助けた時に見た能力を考慮に入れ、攻めあぐねていた。
「出しな、テメーの『スタンド』をよ……」
依然マキマと仗助が睨み合う膠着状態の中、しかし次に声を上げたのはデンジだった。
「マキマさん! マキマさんにはすげー世話になりました。
でもスイマセン! オレはレゼと一緒に行くって決めたんです!」
「ちょ、ちょっとデンジ君!?」
デンジはそれだけ言うと、レゼを両手でお姫様を抱えるようにして走り出した。
「逃げられちゃったか。
この二人よりも当初の目標であるボムを優先とし、天使の悪魔は早川君と合流してデンジ君とボムを追跡。私は一度庁舎に帰って対策を立て直します」
「えぇ~面倒臭いなぁ~。了解」
天使の悪魔は気だるそうに返事をすると、その羽根でふわりと飛びその場を離れた。
「あなた達も、今日見た事は他言無用だよ。そうしたら逮捕せずに帰してあげる」
マキマが意外にもそう言ったのは、未知の能力を相手しながらデンジとレゼの追跡をするのが困難だと判断した為だ。
言い終わるや否や、マキマは会話は終わりだとばかりに返答を待たず仗助と億泰に背を向け路地の奥に歩き出した。
「ちょっと待てよ。
こっちの話はまだ終わってねーんスよ!」
「うおっ、仗助!
ネズミだ! ネズミが群がってきてやがる!
離れろッ!」
仗助がマキマに掴みかかろうとしたその時、足元を無数のドブネズミが駆け抜ける。
スタンド攻撃かと億泰が警告した直後、ネズミの大群がマキマを覆ったかと思うと、そのネズミの山が崩れた時マキマの姿は既にそこには無かった。
「ツラは抜群に良かったが、一体何者だったんだ、あの女……」
マキマが去った路地裏で、仗助はそう一人ごちるしか無かった。
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これは、浜辺で別れた後再び出会える筈のなかったデンジとレゼが、数奇な『運命』によって通りかかった『黄金の精神』を持つ二人によって助けられたことで紡がれる『人間讃歌』の物語。
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その後、新手のスタンド使いを見たと誤認して仗助と億泰が承太郎に連絡し、デンジとレゼはSPW財団の庇護下で公安から逃れることができた。
財団への協力を条件に用意された移住先は、奇しくもレゼがあの時乗らなかった新幹線の行き先と同じS市の杜王町。
その地で念願の学校生活を送れる事となるのはまた別のお話。
そしてデンジとレゼの同級生として、ガラの悪い不良生徒達の姿があったという。
TO BE CONTINUED
初投稿です。
ジョジョ四部終了後の設定です。
レゼ篇は1997年夏で、ジョジョ四部は1999年夏という設定ですが、多目に見てくれると幸いです。