デンジとレゼは砕けない   作:Nキング

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刺客編 ②

 

 デンジ達が三兄弟の襲撃を受ける少し前

 

 トーリカとその師匠は、杜王駅前のベンチに座ってこれから地獄と化すであろう街並みを眺めていた。もっとも、トーリカの方は知る由もないが。

 

「師匠、さっき土産物屋で買ったお菓子を食べてみましょう。ほぼ100年前に創業した店のお菓子らしいですよ」

 

「初めて食べるお菓子ですね。楽しみです」

 

「名前は……『ごま蜜団子』と読むのでしょうか。

 説明書きがありますよ。中身のソースが飛び出してしまわないように、口の奥で噛まないといけないようです」

 

 トーリカがそう言うも、師匠の方は初めての味への好奇心から聞いているのかいないのか、パッケージを開けるのに四苦八苦していた。そうしてようやく開封した菓子を一つ口にいれると……

 

ブヂュウウウウウウウーッ!!

 

「わーっ! ほらあっ! 奥歯で噛むんですよっ、奥歯で!」

 

「おいしいっ! ここに人が居なかったら踊り出したいおいしさです!」

 

 よろこぶ師匠の口にドロドロと付いたごま餡をトーリカがハンカチで拭ってやる。

 

「もう一個食べます?

 絶対に奥歯ですよ、奥歯。前歯で噛んじゃあダメですからね」

 

「ええ、ええ。わかっています」

 

 そうして、師匠がごま蜜団子をもう一つ口に放り込むと……

 

ブッヂュウウンンー──ッ!!

 

「きゃああああアハハハハーッ!!」

 

「ほらあ師匠! 口の周りベタベタですよ」

 

 杜王町はまだ平和であった。

 

 

───

 

 

現在

 

 デンジ、レゼ、仗助、ホル・ホースの四人は海岸沿いの公園から市街地に移動していた。

 

『こちらはS市役所です。現在、杜王町にて悪魔災害警報が発令されました。住民の皆さんは、警察の誘導に従い所定の避難場所にただちに避難して下さい。こちらはS市役所です……』

 

 普段は夕方のチャイム等を鳴らしている街灯のスピーカーから、けたたましいサイレンと共に非常事態を知らせる放送が繰り返し流れている。

 

「クッソッ! もう動き出しやがったかッ!

 相棒とも合流できてねえってのによォ!」

 

 ホル・ホースがそう悪態を付くと、仗助も焦りを見せる。

 

「兄貴ッ、被害を食い止めに行かねえとッ!」

 

「あァ、騒ぎの大きい方向へ向かうぞ。

 デンジ、レゼ。説明する暇が無くなっちまったが、こういう騒ぎを起こすのは財団が情報を掴んでいるメンツの中じゃあ恐らく『サンタクロース』って奴の仕業だろう。チェンソーの心臓を狙いに来た刺客の一人だ」

 

「サンタクロースって、あのドイツの!?」

 

 ホル・ホースが出した名前にレゼが反応を見せる。スパイ教育時代に座学で習ったビッグネームの登場に、危機感をつのらせた。

 

「お嬢ちゃんは知ってるみてえだな。

 コイツに関しては俺達が逃げ回ってても被害が拡大するだけだ。出ていって直接叩くしかねえだろうよ。行くぞッ!」

 

 ホル・ホースがそう言うと一行は、逃げ惑う人々の中をかき分け、人々が来るのと反対方向に向かって走り出した。

 

「なんでみんなポチタを狙って……そもそもポチタは何者なんだ……?

 痛っってッ!」

 

 皆と一緒に走りながらデンジが逡巡していると、すれ違う人から引っかかれたのだろうか。腕に小さい切り傷ができており少し出血していた。

 

 だが今は先を急ぐため、デンジは特に気にせず混乱の中心へと足を急がせた。

 

 

───

 

 

 杜王駅前のロータリーは、所轄警官と公安職員が変化した人形と、それを対処する者達で混迷を極めていた。

 

「くっ、コイツら……元の人間の能力を引き継いでいるのか……!」

 

 アキが一体の人形を斬り捨てながら言葉をこぼした。

 

 悪魔の能力で人形に変化させられた被害者たちの対処をしていた公安メンバーは苦戦を強いられていた。敵の数の多さもさることながら、彼らは元々警察官や公安職員であり、訓練を受けた身体能力に加えて武装もしている。さすがに公安職員の契約した悪魔の能力は人形には扱えないようだが、十分に脅威であった。

 

 パワーと天使の悪魔は戦闘中に触れられてしまったが、どうやら悪魔や魔人は人形には変化しないらしい。

 

「黒瀬さんと、天童さん……」

 

 迫りくる人形たちを他の公安職員達と共に次々と相手をする中、アキは人形の中に見知った人間の面影を見出す。

 

 体格や髪型、そしてその特徴的な顔の傷跡は見覚えのあるそれであったが、顔のパーツだけはおもちゃの人形のようになっていた。ギョロリとしたガラス玉のような目と機械仕掛けのような口。それはもう二人が手遅れである事を示していた。だが変わり果ててしまっていても、世話になった先輩だ。デビルハンターとして理解はしていても、アキはかつての仲間を斬ることを一瞬躊躇ってしまった。だがそれは、この激しい乱戦の中では致命的な隙となった。

 

「しまっ……!」

 

 アキが天童の人形を切り捨てた後の隙に、黒瀬の人形が掴みかかろうとする。

 

 

『エコーズ 3 FREEZE !!

 射程距離5メートルに到達しました。S・H・I・T!』

 

ズンッ!!

 

 

 突如、黒瀬の人形が地面に倒れ込み、更にはアスファルトにミシミシとめり込みはじめた。

 

「すまみません、黒瀬さんっ!」

 

 九死に一生を得たアキは突然の事態に困惑しつつも、自身の刀で倒れた黒瀬の人形に止めを刺した。

 

「デビルハンターの方ですよね? 大丈夫ですか?」

 

 現れたたのは、小柄と言ってもいいくらいの身長の少年だった。

 

「民間人!? まだ避難していなかったのか!?

 それと、今の現象は……? 民間デビルハンターには見えないが、キミがやったのか?」

 

「あっと、僕は広瀬康一っていいます。さっきのは、ええと……」

 

 矢継ぎ早に問い詰めるアキに対し、康一が答えに窮する。なんと答えたものかと考えていると、蛸の悪魔を使役しながら戦闘していた吉田が近寄ってきた。どうやら周囲の人形の相手は一段落したようだ。

 

「キミ、『スタンド使い』だろ?」

 

「えっ、スタンドを知っているって事は……」

 

「オレ吉田な。スタンド使いじゃあないけど、仕事柄教えられてスタンドは知ってるんだ。

 仲間を助けてくれてありがとな」

 

 吉田が感情の読めない表情で康一に感謝を伝えた。

 

「これがブリーフィングでマキマさんが言っていた、スタンド能力か……」

 

 あの夏の逃亡劇の時、アキと天使の悪魔は意識までもマキマに支配されていた。支配されていた事も含め、スタープラチナと戦った時の出来事はアキ記憶には無かった。

 

 アキが逡巡していると、そこに怒りを孕んだ声が響く。

 

「チョンマゲ~!!

 ウヌら何をサボっとるんじゃ! メチャクチャ来ておるぞ人形軍団!!」

 

 触られても人形化されない為、無理やり最前線で戦わされていたパワーが文句を言いに来た。大量の人形の集団を引き連れて。

 

「言うのが遅れたけど、服にでも触れられたら人形のお仲間にされちゃうよ。気をつけて」

 

「ええッ!

 僕、もうさっきスタンドで触っちゃったんだけど……」

 

「人形にされていないって事は、スタンドなら触れても大丈夫みたいだね。

 戦闘は俺達がやるから、キミは下がってなよ」

 

 吉田がそう言い、パワーが引き連れてきた人形達に応戦するために構えた。

 

ドドドドンッ! ダダンッ!

 

 だがその時、人形集団の先頭6体の脳天に風穴が空く。銃声の方向を見ると、先ほど杜王海岸の公園で現れたスピードワゴン財団のエージェントが立っていた。だが吉田とアキには不可解な事に、その両手は徒手であった。

 

「康一! 大丈夫か!?」

 

「仗助君! それにデンジ君とレゼさん!

 この人形みたいな顔をした奴らに触れちゃあダメだ! 人形にされちゃうよ!

 スタンドでの攻撃なら大丈夫みたいだけれど、こんなにいっぱい居るのにこっちは少しでも触れられたらアウトだなんて、戦えやしないよ!」

 

 康一は見知った顔の登場に安堵しつつも冷静に、敵の状況を伝える。康一がスタンドを得てからの日々、仲間との数々の戦いで培った精神性であった。

 

 一方、一緒に到着したデンジの方は、かつての上司と妹のようなバディをを前にして冷静ではいられなかった。

 

「アキと、パワー……」

 

「デンジと、ボムか……」

 

 かつての上司であり、面倒を見てくれた兄貴分であり、そしてあの夏の日に袂を分かった、デンジにとってはなるべく会いたくない相手であった。

 

 アキとパワーに出会ってしまった気まずさと、以前と変わらない二人への安堵とで、デンジはどんな顔をすれば良いのか分からなかった。

 

 かつての早川家での日常を思い出し、そして今送っているレゼとの生活を心の中に描く。その二つの大切な情景を天秤に乗せ、しかし未だ答えは出ないまま、デンジは胸のスターターロープに指をかけてアキと相対した。

 

「俺を狩りに来たってんなら、相手になるぜ」

 

「お前をぶん殴って連れ戻したいのは山々だが、今はそんな場合じゃないんでな」

 

 アキの穏やかではない心中にも、デンジに対して言いたい事が山のように積もってはいたが、とりあえず今は目の前の人形達を対処する事が先決だった。

 

「デンジィ~!

 ウヌはアバズレ女に騙されておるんじゃ! デンジのバディはワシじゃぞ!?

 ワシの乳まで揉みおったクセにィ~!!」

 

「は?」

 

ボォンッ!!

 

 パワーの言葉の直後、突如としてレゼの頭が文字通り爆発した。ボムへと変身したのだ。勿論周囲を確認した上で。しかし怒りによる作用か、心なしか爆発の規模が以前より大きかった。

 

「アバズレ……?」

 

 爆発の衝撃でパワーが尻もちを付いた所に、レゼがその指先を向ける。

 

「ワッ……ワシは言ってない……ひ、ひいいいィィ!!」

 

 ボム形態のレゼの目線を窺い知る事はできないが、もし見えていたなら養豚場のブタでも見るかのように残酷で冷たい目をしていた事だろう。「かわいそうだけど明日の朝にはお肉屋さんの店先に並ぶ運命なのね」って感じである。

 

 だがその指先から閃光が放たれる前に、パワーにとってまさしく救いと言える言葉が掛けられた。

 

「なんスか今の爆発はッ!?

 そこのアンタ、まさかレゼちゃんッスか……?」

 

 クレイジー・ダイヤモンドで人形達を殴ってはそこら辺の石やアスファルトに融合させていた仗助が、変身時の爆発の音に驚き近付いてきたのだ。先程までは存在していなかった異形の頭の人物と、そして先程までは居たはずのクラスメイトの不在。

 

 だが、しかしてその異形の存在から発せられたのは仗助にとって確かに聞き覚えのある声だった。

 

「仗助君、説明するのが遅れてごめんね……?

 ……私とデンジ君はただの人間じゃない。

 私達の身体は悪魔と融合していて、身体のスイッチを入れれば悪魔の姿になれるの。デンジ君が撃たれた時に蘇生したのも、それが理由」

 

ヴヴゥゥンンン!!

 

 レゼがそこまで説明した所で、隣に立っていたデンジが胸のスターターロープを引っ張った。頭と両手を真っ二つにするように三本のチェンソーが生えてくる。

 

「レゼ~! 変身する時言ってくれよォ~! レゼが変身する時コエーんだよ!」

 

 レゼとしては、本当は仗助と康一にこの姿は明かしたくなかった。せっかく手に入れた『普通』の『平和』な学生生活を、そしてその象徴たるクラスメイトに、ようやくできた学友に、この悪魔の姿は見せたくなかった。

 

 だが、仗助と康一から聞こえてきたのは、レゼが予想していたような言葉ではなかった。

 

「二人ともグレートだぜッ! イケてるじゃあねーッスかッ!」

 

「そうだよォ! なんだかアメコミのヒーローみたいでカッコ良いよ!」

 

 まるで変身ヒーローを見るかのようなキラキラと輝く目で見られ、逆に気圧されてしまうレゼ。

 

 スタンド使いの二人にとっては、多少の異形や物理法則に反する物事など慣れたものだった。なんなら、生物や無機物問わず変身できる自称宇宙人の友人までいるのだ。転校生が実は悪魔に変身できましたという程度では、どうという事は無い。

 

「二人とも、ありがとう……」

 

「ギャハハハ!!

 さーてじゃあひと暴れすっかァ!」

 

 武器人間の二人が迫りくる人形軍団に立ち向かおうとしたその時、アキの未来視の眼にヴィジョンが映し出された。

 

「天使! 吉田さん! みんな構えろ! 死ぬぞ!」

 

 

 次の刹那、一陣の風が吹いた。

 

 

ガキィィンッッッ!!

 

 

 ギリギリで防御の構えを取ったアキと天使の悪魔の武器にとてつもない衝撃が加わる。

 

 そして、あれだけ大量に居た人形軍団の首が一人残らず全て跳ね飛ばされていた。胴体と泣き別れした首がポンポンと宙に浮かび上がっているその光景は、さながら夏の花火のようであった。

 

 その光景を作り出した張本人は、いつの間にか一行の背後に立っている。

 

 それは女性であった。黒いタンクトップから見える引き締まった身体、両手にはボロボロの二刀、そして美しい顔には眼帯をしていた。

 

「お前が、デンノコか」

 

 美しい女性は声まで美しいと言うが、発せられたのはまさしく美声。だがその温度は凍える寒さであった。

 

 その美女は、人形軍団を両断してボロボロになった二刀を投げ捨て、腰から予備の刀を取り出す。

 

「エンペラーッ!!」

 

ダダダダダンッ!!

 

 突然の美女の登場に、財団からの事前情報によりその正体を知るホル・ホースが即座にエンペラーをブチ込む。

 

 だがそのスタンドの銃弾を、美女は事もなげに全て刀でカキンカキンと弾いてみせた。

 

「最古のデビルハンター、クァンシ……ッ!

 ハジキは剣よりも強しってのが俺のスタンスだが、コイツァ規格外だな……」

 

 ホル・ホースが苦虫を噛み潰したような表情で、絞り出すように美女の名前を明かした。

 

「クァンシ様ァ~! 待って下さいよ~!」

「クァンシ!」

「ハロウィン!」

「……」

 

 余裕そうに立つクァンシの下に、四人の女性の魔人が合流した。ピンツイ、ロン、コスモ、ツギハギだ。

 

 新たな敵勢力の登場に、公安チームも体制を立て直し迎撃の構えを取る。アキ、吉田、パワー、天使の悪魔がそれぞれ魔人達と戦闘態勢に入った。

 

 そしてクァンシは、まるで午後のコーヒーを買いに行くかのような平然とした足取りでこちらに歩き始めた。その表情からはなんの感情も読み取れない。

 

「デンジ君下がってッ! ターゲットはデンジ君だよ!」

 

 レゼがデンジを庇うように前に出ようとする。しかしレゼが行動に移ろうとした時、もうクァンシの姿は消失していた。

 

「クレイジー・ダイヤモンドッ!!」

 

 間一髪に迫るクァンシの刀を、クレイジー・ダイヤモンドがなんとかデンジの首元の直前でガードした。だが、近距離パワー型であるクレイジー・ダイヤモンドのスペックでもガードするのがやっとであった。

 

『3 FREEZE !!

 LET'S KILL DA HO! BEEETCH!!』

 

 ガードで一瞬止まった隙を突き、康一が3 FREEZEを発動した。クァンシの全身に凄まじい重量がかかり、ズンッと両足がアスファルトに沈み込む。

 

「ドララララララァ!!」

 

 康一がクァンシの動きを止めたと見た仗助は、すかさずクレイジー・ダイヤモンドの拳をクァンシに叩き込んだ。3 FREEZEを喰らった状態でこれを回避するのは不可能だ。

 

「これは『スタンド』だな」

 

「なにィッ!?」

 

 だが、クァンシは仗助から放たれた不可視の拳を弾いて見せる。

 

「そんな! 3 FREEZEは確かに命中したのにッ!?」

 

「コイツ、クレイジー・ダイヤモンドの拳が見えてやがるッ!」

 

「そうか、お前達は『スタンド使い』か」

 

 その卓越した戦闘スキルと経験によって自身の身体の異常な重さの原因が康一だと見抜いたクァンシは、その発生源を叩くべくターゲットを康一に変更した。

 

 確かに3 FREEZEは発動している。能力を打ち消されたりもしていない。その証拠に、クァンシが歩く度にアスファルトがズンッズンッと網目状にヒビが入っている。だがクァンシは、単純にその類まれなる身体能力のみによって行動を可たらしめているのだ。

 

「康一ィッ! 離れろォーッ!!」

 

 自身ではなく仲間の方向へ敵が向かったのを見た仗助は、近くに停まっていた黄色いフィアット500にクレイジー・ダイヤモンドの腕を突っ込ませた。

 

「ドォォラァァァッ!!」

 

 そしてパワー任せに持ち上げ、クァンシに投げ飛ばす。

 

「わ…私の車がっ、浮かび上がってっ……飛んでっ……」

 

 戦闘に参加していた公安職員だろうか、気弱そうな女性の声が虚しく響く。

 

 いかにクァンシの強靭な肉体といえども、生身の状態で巨大な質量に押し潰されればひとたまりもない。

 

「ん……」

 

 だが、宙を舞う車がクァンシに到達したかと思うと、鋭い金属音と共に縦に真っ二つに裂ける。クァンシが一刀のもとに斬り裂いたのだ。

 

「クレイジー・ダイヤモンドッ! 車を『治す』ッ!!」

 

 正面から左右に両断された車の大小の破片が再び浮かび上がり、クァンシに纏わりつくように集まり始める。そして、時間を巻き戻すかのように修復されてゆく。

 

「あっ…なっ…治ったっ! 車が治ったっ! でも、何か形が……」

 

 再びそこに現れたのは、数秒前の姿のフィアット500……ではなく、クァンシを閉じ込める檻のような形になっている。窓さえもボディやエンジンから位置を移した鋼材で塞がれており、車内に居るクァンシの姿は窺い知る事はできなかった。

 

 しかし、その鋼鉄の檻でさえもクァンシを閉じ込めておくことはできない。

 

 それは、まるで缶切りが缶詰を内側から開けるかのような奇妙な光景だった。

 

 車の檻の内部から刀が突き出たかと思うと、その刀がギリギリと音を立てながら車を斬り裂いてゆく。だが、さすがに刀の方が持たなかったのだろう。バキンという音と共に檻が斬り裂かれるのが止まった。

 

 2秒後、鋼鉄の檻が蜂の巣になった。

 

「わた、わた…わ…私の車が…メチャクチャに……車っ」

 

 内側から何かが飛び出して大量に穴が空き、ガラガラと崩れる車の中から出てきたのは美女クァンシ……ではなかった。

 

 全てを拒絶するかのように全身から生えた刺々しい矢、両手にはクロスボウのような突起、そしてデンジとレゼのような異形の頭にギザギザの歯。

 

 そう、変身した彼女こそが弓矢の武器人間である。

 

「私達と同じタイプの、悪魔……」

 

 デンジを庇うように立っていたレゼがつぶやく。

 

 戦慄する一行をよそに、クァンシの姿がその場からフッと消失した。

 

「消えちまった!? ギャアッ!!」

 

 次の瞬間、デンジのどてっ腹に風穴が空いた。

 

「デンジ君!? どこからの攻撃!?」

 

「グレートですよコイツァ……。ちょっと規格外すぎるぜ……

 エンペラーで何とか撃てないスか、兄貴!」

 

 デンジの傷はクレイジー・ダイヤモンドが治療するも、クァンシの姿は見えずヒュンヒュンと風を切る音だけが聞こえる。エンペラーでも全く狙いが付けられない。3 FREEZEは射程距離外により解除されてしまったようだ。

 

 仗助は自身やデンジとホル・ホースに飛んでくる矢を弾き落とすも、クレイジー・ダイヤモンドの精密動作性を持ってしてもギリギリだ。ちなみに何故かレゼには矢が飛んでこない。

 

「こ…こいつはかなわんぜッ! 俺は誰かとコンビを組んで初めて実力を発揮するタイプだからな……。

 『一番よりNo.2!』 これがホル・ホースの人生哲学!」

 

「ま…まさかデンジ置いて逃げるとか言わないで下さいよ兄貴ッ!」

 

 情けない顔をしていたホル・ホースの顔が不敵に笑った。

 

「だがなァ……仗助、今回の俺の相棒は最強中の最強だぜ?

 

 なあ! 承太郎の旦那ァ!」

 

 

「オォラァァッ」

 

 

 その時、不可視のスピードで韋駄天の如く飛び回っていたクァンシが突如吹っ飛び、先程の車の残骸へと叩きつけられた。

 

 そして、確かに一瞬前まではそこに居なかった男が立っていた。その姿をローマの闘士にも例えられる、最強のスタンドを側にたずさえて。

 

「あ、アンタは……」 「アナタは……」 「お前は……」

 

 

「空条承太郎!!」

 

 

「YES, I AM !」

 

 

 

TO BE CONTINUED




大変遅くなりました。刺客編の二話目です。

構成に手間取っておりましたが、なんとか投稿することができました。

楽しんで頂けたら幸いです。

コベニカーに腕を突っ込んで投げ飛ばすシーンの元ネタはOVA版第三部アニメでDIOがやったやつです。
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