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「クァンシ様!」
「クァンシ!」
「ハロウィン!」
「……」
クァンシの4人の魔人達が、公安との戦闘を切り上げてクァンシに駆け寄る。その言葉は少なかったが、その本気で心配する態度から彼女達とクァンシとの関係性がうかがえた。
「ロン! お願い!!」
「分かった!」
クァンシに駆け寄ったポニーテールの魔人ピンツイが、二本角の魔人ロンに叫ぶ。短い言葉だったがロンは即座にその意図を察すると、口から大量の火炎を吹き出した。その火炎の壁がクァンシを守るヴェールとなり、承太郎のクァンシへの追撃を阻んでいた。
カラガラと崩れる瓦礫の中から異形の頭が立ち上がる。クァンシのボディにはスタープラチナの強烈な拳が入っていた筈だが、そのダメージは既に回復したようだった。側に佇むピンツイの手には、そこら辺から拾ってきたであろう人形の死体の腕が握られていた。
「空条、承太郎……」
先程までと同じ声色で、自分を殴りつけた男の名前をただ確認するかのようにつぶやく。
「クァンシ様! アイツ、変です!
悪魔を使役しているのに、覗いてみてもなんの悪魔とも契約していません!」
「アイツはね、『スタンド使い』だよ、ピンツイ。
悪魔とはまた違う、人間本来の魂に由来する力の持ち主だ。アイツの相手は私がするから、引き続き公安の相手を頼む。
出来るね? お嬢さん」
側に寄り添うピンツイを優しく振り払うと、クァンシは承太郎の前に出る。
「どうした?
世界最古のデビルハンターはそんなもんじゃあ無いだろう?」
「私の可愛いお嬢さん達に手を出さなかったのは、褒めてやる」
最強の二人が睨み合う。二人の間に割って入れる者は、この場には存在しなかった。
「かかってきな。
西部劇のガンマン風に言うと、『抜きな、どっちが素早いか試してみようぜ』というやつだぜ」
「……」
返答は無いまま、数秒の時が流れた。
まず、クァンシの姿が消えた。弓矢の武器人間としてのパワーと彼女自身が持つ最高の技量を持ってして、全くの予備動作無しに高速戦闘へと移行したのだ。固唾を飲んで見守っていた周囲の面々にも、消えたと形容するしかなかった。音速を超えた衝撃波と、彼女の立っていた場所に残されたクレーターが、そのパワーを物語っていた。
僅かな風切り音と、弦が弾かれるような発射音。
「スタープラチナ・ザ・ワールド」
そして次に、承太郎の姿が消えた。比喩や形容では無く、フッ、とその場から消失したのだ。一瞬遅れてクァンシによる攻撃が着弾したのか、承太郎が立っていたアスファルトにいくつもの大穴がボコボコと空いた。
「オラオラァ!!」
5メートル離れた位置に出現した承太郎が、何も無い空間をスタープラチナで殴りつけた。発射された弾丸すら掴み取るスタープラチナの動体視力を持ってすれば、不可視のスピードで飛び回るクァンシすら捉える事ができる。
「そう」
黙って殴られるクァンシではない。片腕を犠牲にしてスタープラチナの剛腕を防御する。バキバキと骨がブチ折れる感触の中、もう一方の手で矢を至近距離から数発叩き込んだ。
しかし、もうすでに承太郎の姿はそこには無く、矢の発生させた風切り音だけが虚しく響く。
────
後にレゼは、スピードワゴン財団による事件の聞き取りにてこう語る。
「私だって、自分の実力には少しくらい自信があります。ソ連のエージェントとして訓練されてきて、それに加えての悪魔の力。『普通』になりたいと、平和に生きたいと思って忌み嫌っていましたけれど、デンジ君との生活を守る為ならこの力を行使する事も厭わない。そう思ってきました。ましてやあの時はボムに変身していて、神経や感覚も普段より研ぎ澄まされていた状態でしたし、一瞬たりとも目を離さなかったので見逃しも有り得ません。
ですが、全く動きが見えませんでした。瞬間移動と言うしかありません。本当に承太郎さんの姿が『消失』して、同時に別の場所に『出現』したんです。催眠術だとか超スピードだどか、そんなチャチなもんじゃあ断じてありません。
後から承太郎さんの本当の能力を聞いた時は、もうズルすぎて笑っちゃいましたよ」
────
クァンシはそこら中に落ちている人形の死体から血液を摂取して、破壊された腕を回復した。摂取した血を口元からボタボタと滴らせると、またクァンシは姿を消す。
跳び、射撃し、躱される。
攻撃され、躱し、しかし命中する。
戦闘と回復を繰り返しながらクァンシは考えを巡らせる。相手のスタンドは強大なパワーを持っているが、動き回れる範囲は広くない。しかし問題は能力の方だ。あまりにも『速すぎる』。恐らく瞬間移動の類いだと考えられるが、それにしては矛盾点が残る。死角からの必中の一射にも、いつの間にか矢が掴み取られている。ならばと全方位取り囲むように矢を撃ち込んでも、その場から姿が消えている。そして自分の動きの先に出現したかと思うと、拳を振るわれている。相手が振るった拳は、ほぼ全て回避している。しかし何故か時折、叩き込まれた衝撃とダメージのみが身体に伝わる。
一方の承太郎の方も、機動力で勝るクァンシ相手に苦戦を強いられていた。『スタープラチナ・ザ・ワールド』が停止できる時間は、承太郎の体感時間にして僅かに2秒。そして通常の時間の中でのクァンシの動きは、スタープラチナの動体視力をもってしても追跡するのがやっとだ。しかし杜王駅前の建物や電信柱を利用して縦横無尽に飛び回り、さらには遠距離から射撃攻撃を仕掛けてくるクァンシに致命打を与えるには、スタープラチナの射程と停止時間では不足していた。
戦況は膠着状態にあった。
クァンシはこのまま戦っても承太郎を始末するのは無理だと悟った。ここは一度、初心に戻って本来の目標の達成に注力するべきか。今回のクァンシのミッションはあくまでチェンソーの心臓の確保であり、承太郎はその障害に過ぎない。ミッション目標さえ達成してしまえば、後は魔人たちを連れてこの場から離脱するだけだ。クァンシには幸いにして、機動力において勝っている。
承太郎から離れたクァンシがデンジの方を見ると、先程と同じようにその隣にはボムに変身したレゼが守っていた。クァンシのポリシーから、レゼに誤射しないよう正確に狙いを付ける。その為に一瞬だけ速度を緩める必要があった。
「おっとお、俺を忘れてもらっちゃあ困るぜェ」
クァンシが見せた一瞬の隙に銃弾が雨となり降り注ぐ。相棒を得て、先程とは打って変わって自信に満ちた表情のホル・ホースがそこには立っていた。公安相手の戦闘からデンジの確保に乗り出した魔人達にも、数発威嚇射撃を撃っておく。
「自分で言うのもなんだが、俺のエンペラーは防御に難があってな。
だが、最強の相棒を得た今! 俺達ァ無敵のコンビだぜェ!
承太郎の旦那ァ!」
「オラァ!」
再び拳を食らったクァンシが派手に吹っ飛んだ。しかし着地地点すぐ近くに死体を持ったツギハギが控えており、血液を補給して傷を回復する。先程と同じ構図だ。そしてもしデンジへの攻撃が成功したとしても、やはりクレイジー・ダイヤモンドという回復役が控えており、心臓の奪取は困難を極めていた。
「これじゃあ勝負が付かねえ。
テメェはなぜチェンソーの心臓を狙う? 提示された報酬は何だ? 何が望みだ?」
「……」
クァンシは答えない。交渉のテーブルに着く気は無かった。
だがこの二人だけの死地に、二人のどちらとも違う、妙齢の男性の低い声が響く。
「クァンシ……。
久しぶりだな」
声の持ち主は、公安の制服にロングコートに承太郎もかくやという長身。そして一番の特徴として、口元から頬を切り裂くような傷跡。
吉田やアキと戦っていたピンツイとロンが、その男の腕の中で気を失っていた。
「少しでも暴れたら、この女どもを殺す」
「岸辺か……」
旧知の間柄の人物の登場に、そしてその男に大事な愛人たちを人質に取られ、クァンシは自身の変身を解除した。
クァンシは突如として岸辺と承太郎から踵を返し、駅前のカフェのテラス席に腰を降ろす。
「早川、パワー。この二人を拘束。暴れたら殺せ。
それと吉田、周囲の『警戒』を徹底しろ」
「分かりましたよ」
人質の魔人を部下二人に引き渡し、吉田には蛸の悪魔を使わせて周囲の虫や動物を排除させる。
少し後、岸辺もクァンシと向かい合って席に付いた。
「アンタもそんなところに突っ立ってないで座ったらどうだ」
いまだに距離を取り警戒する承太郎に対しても岸部は声をかけた。承太郎は先程クァンシへの交渉を持ちかけていたということもあり、ゆっくりとテーブルに向かって歩を進めた。
ここに、即席の三者会談の場が成立した。
「残りの魔人二人はどうした?」
「逃げられた。
だが、ここら一帯はもうすぐ公安と警察で囲む。すぐに捕まるぞ」
「かつての狂犬岸部も随分と老いぼれたもんだな」
「こっちは50過ぎてんだぞ。老いぼれもするさ」
「……」
旧知らしい二人の会話を承太郎は黙って聞いている。この極限まで緊張した場に、先程岸辺からの命令を受けていた吉田が近付いて来た。
「岸辺さん、蛸に確認してもらいました。周りにネズミや鳥とかは居ません。
話をしても大丈夫ですよ」
「そうか、ご苦労様だったな。
引き続き周囲の警戒に当たってくれ」
「了解です」
吉田はテーブルから離れてゆき再び三人だけの場に戻る。すると岸辺は、やおら懐からスキットルを取り出し、一口飲んでからぶっきらぼうに語り始めた。
「マキマは下等生物の目や耳を借りる。この周囲にマキマの『目』と『耳』が居ないのは確認した。
ここからが本題だ。マキマを殺したい。協力しろ。
協力すればお前の女たちは無事に解放して脱出させる」
クァンシは少しだけ考え、そしてゆっくりと口を開き始めた。
「この前テレビのドキュメンタリー番組で見たんだが……」
「なんだ?」
「崖に激突して死ぬツバメがいるそうだ……。
そのツバメは得てして他のツバメよりも、とても上手にエサを捕獲したりするんだが……。
宙返りの角度の危険の限界を親ツバメから教わっていないため、つい無謀な角度で飛行してしまう。
だがその親は教えないのではなく、そのまた親から教わっていないので教えられないらしい。
そのツバメの一族は短命な者が多く、なぜ事故に遭いやすいのか気づいてさえもいない。
でも私は、そのツバメが可哀想だとは思わない。
死ぬ直前まで上手に楽しく餌を捕獲していたんだろう。
この世でハッピーに生きるコツは、無知で馬鹿のまま生きる事。
岸辺、テメエは大人しく首輪付けときな。元バディからのアドバイスだ」
クァンシが語り終えると、クァンシから猛烈な殺気が放たれる。交渉決裂も間近だった。そんな殺気もどこ吹く風か、人質を取って優位に立っている岸辺は現実をクァンシに告げる。
「じゃあお前の女たちは殺すしかないな」
「そうしたら即座にお前を殺す。
どの道ここから脱出できようが、デンノコの心臓を持って帰らなければ私の欲しいものは得られない」
そこで、今まで黙って二人のやり取りを見ていた男が口を開いた。承太郎である。
「俺が聞きてえのはそこだ。アンタの雇い主が中国政府だって事までは分かっている。だがクァンシ、アンタは何を報酬に中国政府に雇われた?」
「……私の愛するお嬢さん達に、人権と教育を」
クァンシが渋々そう答えると、全くの外野から明るい声が響いた。
「なァんだ。
アンタも俺やレゼと同じクチか」
「ちょっとデンジ君!」
今回の事件の全ての中心人物、チェンソーの心臓を持つ少年、デンジだった。なおデンジとレゼは三人がテーブルに着いた辺りでチェンソーマンから人に戻っている。変身の継続は意外と血と体力を消耗するのだ。
「俺やレゼもよォ、学校行ったことなくてさ。承太郎サンとこのスピードワゴン財団で世話になってんだよ。
オネーサンも俺等と同じで悪魔に変身出来るみたいだし、財団でデータ取らせれば勉強の面倒も見てくれんじゃね?
なァ、承太郎さん!」
馬鹿で道理を知らないデンジが、これが完璧な解決策だとばかりに、自分とレゼに今の生活を与えてくれた恩人へニカッと笑いかけた。
「あ、ああ……。
それは可能だが……」
クァンシとの交渉の為に様々な受け答えを思案していた承太郎は、デンジの真っ直ぐで駆け引きを知らない物言いに若干たじろいでしまう。
「フッ」
そんな承太郎の虚を突かれたような雰囲気を感じ取ったのか、デンジの馬鹿正直さに毒気を抜かれたのか、クァンシも釣られて口から空気が漏れ出す。
「この世でハッピーに生きるコツは、無知で馬鹿のまま生きる事、か。
空条承太郎……スピードワゴン財団で私の女たちを保護し、人権と教育を用意できるなら、お前に協力しよう。
約束できるか?」
「ああ、約束する。
俺の魂を賭けよう」
「良いだろう、協力する」
クァンシがそう答えた瞬間、承太郎の仕業だろうか、アキとパワーが拘束していた二人の魔人の姿が『消失』し、直後にクァンシの座る背後にドサリと『出現』した。そして、地面に降ろされた衝撃で二人とも目を覚ましたようだ。クァンシが席から立ち、二人に優しく語りかける。
「お嬢さん達……。
この男はもう敵じゃあない。コスモとツギハギを探してきておくれ」
「わ、分かりました」
「ん、了解」
ここに承太郎とクァンシの協力関係が成立した。だが、そこに口を挟む男が居た。同じテーブルに着いている岸辺である。
「おいおい、やってくれたな。これじゃ公安の面目丸潰れだ、空条承太郎」
「マキマを殺すとか言っていたな。
公安も一枚岩では無いという事だろうが、一体どういう風の吹き回しだ?
詳しく説明してもらおうか」
承太郎の問いに岸辺が答えようとした時、一行の下に制服を着た所轄警官が一人駆け寄ってきた。
「ハァ、ハァ……
公安職員の皆さんですね! ご報告があります!
この周囲の包囲が間もなく完了し……」
走って来た為か警察官は息を切らしながらも報告を始め、にわかにこちらに歩み寄ってくる。
ブスッ
そして、デンジのふとももを釘で貫いた。
「痛ッてえッ!」
「デンジ君!」
「テメェッ!」
その直後、警察官の頸動脈はレゼのナイフにより切り裂かれ、更にはエンペラーにより脳天に複数の風穴を開けられた。
『0』
「わっ! あっ!?
なんか、掴まれてるゥ!
体がハリツケになってくよォ~!?」
「デンジ君!?
どうやって浮いてるの!?」
突如としてデンジの体が宙に浮かび上がり始め、両手両足が十字に固定される。まるで磔刑に処されたキリストのようだった。
この場でアキだけは、この現象を引き起こしている悪魔の名前を知っていた。
「これは……呪いの悪魔のッ……!」
「あっ! いでえ! ギャアアアアッ!!」
呪いの悪魔にによって空中で磔にされたデンジは、血をそこら中に撒き散らしながら絶命した。
「デンジッ! 大丈夫かッ!?
今治してやっから……」
「私ノ心臓と……愛する子供達ヲ捧げまズ……」
仗助がデンジに近付こうとした時、果たしていつからそこに居たのだろうか、小柄な老人が誰にも気付かれずに駅前広場の入口に立っていた。
「その代わりに……地獄の悪魔よ、この広場に居る全ての生物を地獄へ招いてください」
その老人もやはり人形だったのだろう。右手を刃の形に変形させると、自分の胸へと深く突き刺した。
刹那、この場にいる全員の足元に『扉』が出現する。
「何ィィィ───ッ!!
どこからの攻撃だッ!?」
仗助がそう叫んだ時、それぞれの扉が開いた。地面にぽっかりと口を開けた扉の先は、何も見通せない真っ暗な闇、まさしく『深淵』であった。そして、開かれた深淵は種族を問わず全ての生命を地獄へ引きずり込み始める。その力は明らかに重力以上の、何らかの引力を発生させており、まるで扉そのものが意思を持っているかのようだった。
この突然の事象に反応できた者は僅かだった。クァンシと岸辺は長年の経験から来る勘により、扉が開く前にその場から退避。承太郎も即座に時間停止を発動する。しかし一番の防衛対象であるデンジの死体は、2秒の停止時間ではあまりにも遠すぎた。次善の策として近くに居た仗助と康一をスタープラチナで投げ飛ばし、自身もスタープラチナのパワーにより扉の引力を振り切り退避する。
そして一瞬の出来事の後、扉は最初からそこに存在していなかったかのように消失した。
「クァンシ様! ツギハギとコスモ、見つけて来ましたよ!
あれ? 随分人数が減りましたね?
他の人間どもは一体どこへ行ったんですか……?」
「ハロウィン! ハロウィン!」
その場に残っていたのは、承太郎、仗助、康一、クァンシ、岸辺の5人のみ。先程まで嵐のような戦闘が起こっていた杜王駅前広場に、今はコスモの無邪気な声のみがこだまする。
TO BE CONTINUED