デンジとレゼは砕けない   作:Nキング

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今回は少し時間が戻って、デンジとレゼがあの後どうやってマキマから逃げられたのかを書きました。

ちなみにレゼ篇の階段前の翠ビル(葵ビル)から上野駅までは徒歩で36分です。


支配の悪魔と星の白金

 あの暑い真夏の日

 

 レゼとデンジが路地裏にてマキマから逃亡した30分後

 

 デンジはあの後しばらくレゼをお姫様抱っこしながら全力疾走していたが、5分もしない内にバテてしまった為、二人とも自分の足で歩いていた。

 

 デンジがレゼを地面に降ろした時、レゼが少し名残惜しそうにしていたのがデンジに伝わらなかったのは、果たしてレゼにとって幸いだったのだろうか。

 

 目的地は上野駅。レゼが当初一人でそうしようとしていたように、東北新幹線に乗って北に逃げるつもりでいたのだ。

 

 二人はなるべく人目を避けつつも、時にはあえて人混みに紛れる事でなんとか上野駅を眼前に見る上野公園までたどり着いた。

 

「デンジ! 何やってんだテメェ!!」

 

 だが上野公園を通過しようとしたその時、ズドンッという大きな衝撃と共に上空から二人の足元へ槍が突き刺さる。

 

 舞い上がった砂埃が晴れた時、そこにはデンジのかつての同僚であった早川アキとそのバディの天使の悪魔が道を阻んでいた。

 

「そいつはお前を殺そうとしたんだぞ! それどころか二課を、野茂さん達を殺した悪魔なんだぞ!!」

 

「それッ…はァ!

 しょうがなくねえけど、しょうがねえんだよ!!」

 

 アキが上げる怒声はデンジとアキが初邂逅した日以上の物だった。デンジはそれに気圧されつつも、理屈になっていない反論を返した。

 

「最後の警告だデンジ。

 このままお前が戻らないなら、お前を抹殺するようマキマさんから命令されている」

 

 アキがその背中に背負った刀に手を添えデンジに言った。

 

 その声色と苦渋の表情には、まだデンジが戻って来てくれるんじゃあないかという微かな期待とも願いとも取れるものがあった。

 

 一方、デンジとアキが会話している間、レゼは右手をピンに掛けつつ、その罪悪感から俯いていた。デンジには未だ戻る所があるのだと、自分は大量殺人者で、更に彼の人生を台無しにしようとしているのだと、そう考えていた。

 

「ワリーな早パイ、オレは人生で初めて自分で行くって決めて行く事にしたんだ。

 レゼがどんなに悪ィヤツでも、レゼとさえ一緒に居られればハッピーなんだよォ!!」

 

 だが、デンジのその言葉にレゼの胸中のモヤは雲散霧消した。

 

「デンジ君……キミってやつは……」

 

 レゼは生涯この言葉を忘れないだろう。

 

 そしてデンジも公安との決別の覚悟を決め、胸のスターターを限界まで引く。

 

「オレたちの邪魔ァすんなら……死ねよ!!」

 

 心臓のエンジンがヴォオオオンと雄叫びを上げ、そのタンポポのような頭と両手を真っ二つにするように三本のチェンソーが生えてくる。

 

 先程から何事かと野次馬をしていた一般市民たちが、チェンソーマンへと変身したデンジを見て悲鳴を上げ、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑った。

 

「一般市民の皆さん! こちらは公安のデビルハンターです!!

 悪魔が出現しました! 直ちにこの場を離れ、避難して下さい!!」

 

 アキは業務としてのアナウンスをしながら、もうデンジは完全に悪魔で敵になってしまったんだと、もう戻らない日々をさみしく思った。

 

 それと同時に抜刀し、周囲20mの無人を確認すると、即座にデンジに斬り掛かった。

 

 一太刀目は中段構えからの袈裟斬り。

 

 これをデンジが左手のチェンソーで止めると、刀とぶつかりギャリギャリギャリと火花が飛び散る。

 

 二太刀目は本胴。両手のチェンソーを厄介と見たアキは、それを切断するべくデンジの胸元やや下の高さで横一文字に刀を振る。

 

 これに対しデンジは意外にもスウェーバックで身を躱し、左の二の腕の皮一枚を斬られるに留まる。

 

 空振りしたアキの隙を見逃さず、デンジはアキへ右手のチェンソーを突き出した。

 

 だが、この直前にアキは未来視の目によってデンジの攻撃を読み、デンジの左側へ身を躱す。

 

 そのまま空振りによろけているデンジのサイドを取ると、上段に振りかぶり繰り出す三太刀目は面割り面頬。身体のチェンソーの無い部分を狙って、真横から身体を前後に縦真っ二つにする太刀筋だ。

 

 仕留めたかと思った攻撃だったが、これはレゼの強烈な回し蹴りにより妨害された。

 

 レゼは先程からピンに手を掛けてはいたものの、昨晩のデンジとの大立ち回りにより血が足りず、未だボムに変身できずにいた。

 

 このまま戦いが続き、消耗していけば不利になるのはデンジとレゼの方だった。

 

「ごめんね、チェンソー君」

 

 アキへの回し蹴りの後隙に、天使の悪魔が寿命を使用して生成した槍をレゼに向かって投げ込んだ。

 

 あの路地裏の再現にはなるまいと、直前の蹴りで使った軸足一本で横に飛び、これを紙一重のタイミングで回避するレゼ。

 

 だが回避中のレゼの目に入ったのは、いつの間にかアキと天使の悪魔の背後に立っていたマキマの姿だった。

 

「魔女っ……」

 

 レゼの回避する先を人差し指で狙いを付け、支配の鎖を飛ばす。

 

 低空とはいえ未だレゼは空中に居る。

 

 方向転換は出来ない。

 

 

 詰みである。

 

 

 

 

 

 

『スタープラチナ・ザ・ワールド』

 

 

 

 

 

 その刹那、レゼは予定着地点より0.5mズレた位置に立っており、マキマの支配の鎖は空を切った。

 

 アキとデンジの間合いもいつの間にか3mの距離が開いている。

 

 そしてレゼの隣には、0.1秒前には姿も形も無かった大男が立っていた。

 

 その男は、身長2m弱はあろうかという巨体に、鍔付きの帽子、夏の猛暑日にも関わらず真っ白いロングコートを着ていた。

 

「なんとか間に合ったようだな。

 やれやれだぜ……」

 

 マキマは必中の筈の攻撃の空振りと突然の乱入者に驚き、ほんの少しだけその同心円状の目を見開くが、すぐにいつもの微笑みの表情に戻った。

 

 この場の全員の視線がその大男に集中する。

 

「何者かな。

 我々は公安対魔特異四課です。

 現在悪魔の討伐任務中であり、邪魔をするならば公務執行妨害で逮捕または排除が認められています」

 

 マキマの有無を言わせぬ絶対零度の言葉にも、大男は両手をポケットに入れたまま全く動じない。数々の修羅場をくぐってきた百戦錬磨の風格がある。

 

「私の名は空条承太郎。スピードワゴン財団より派遣された者だ。

 この二人の保護を目的としてここに来た」

 

 承太郎はそう言うとポケットから右手を出し、指先からピッと名刺をマキマに投げて寄越した。空条承太郎の名前の上にSPW財団と名義され、目黒にある日本支部の連絡先が書かれている。

 

「スピードワゴン財団……これは意外なビッグネームが出て来たね。

 医療分野の事業を主軸にしているアメリカの企業だった筈だけれど」

 

「最近は悪魔の研究にも力を入れていてな。

 貴重な症例であるこの二人の亡命を受け入れようって訳だ」

 

「なるほど、確かにスピードワゴン財団に囲われちゃうと日本の政治家じゃあ手出し出来なくなる。

 じゃあ私たちも日本の公務員として、亡命を阻止しなきゃいけないね。

 早川アキ及び天使の悪魔へ命令です。目標確保の障害、空条承太郎を排除しなさい」

 

 マキマがそう命令した途端、アキと天使の悪魔の表情が消え、承太郎へ攻撃せんと殺到する。

 

「二百年使用」

 

 天使の悪魔の頭上に浮くエンジェル・ハイロゥより、禍々しい大剣が姿を表す。大剣という武器種も相まって、さながら不可視の鞘から剣を引き抜いているようにも見える。

 

 アキの方は、天使の悪魔に先んじてタイムラグ無く承太郎へと袈裟懸けに斬り掛かる。

 

 一方の承太郎は、相変わらず両手をポケットに突っ込んで立ったまま微動だにしない。

 

 そのまま承太郎に刃が届くその直前、突如として承太郎の左の肩口から新たに青紫色の筋肉質な腕が生えたかと思うと、その拳の甲でアキの刀を弾き飛ばした。

 

 刀を弾かれ手を広げるようなよろけ方をしてしまったアキのどてっ腹に、その現れた剛腕が叩き込まれる。

 

「オラァ!」

 

 一撃で再起不能となり吹っ飛んだアキに目もくれず、天使の悪魔は生成したその禍々しい大剣を振りかぶる。

 

 承太郎はその剣を一目見て感じた破壊の力に防御は困難と判断し、バックステップで距離を取る。

 

「スタープラチナッ!!」

 

 そして、とうとう自身のスタンド『スタープラチナ』の全貌を露わにする。

 

 大理石で作られたギリシャ彫刻を思わせるような肉体美に、エーゲ海の波のように優雅に流れる髪、そしてその美しい造形の顔に刻まれた憤怒の表情が、承太郎自身の魂のヴィジョンとして現れたのだ。

 

 突然の脅威の出現に、天使の悪魔は咄嗟に大剣の腹側を縦に構え防御の姿勢を取る。対して承太郎は一歩退いた地点にて、スタープラチナの右手の二本の指に力を込め始めた。

 

「スタァー…フィンガァーッ!!」

 

 スタープラチナから文字通り伸びた指が刃となり、天使の悪魔の強力無比な大剣を叩き折る。

 

「オラオラァッ!!」

 

 バキンと割れてガラ空きになったガードの上から、スタープラチナが強烈な左右のワンツーを叩き込み、天使の悪魔も再起不能となった。

 

「残るはテメーだけだぜ、内閣官房長官直属デビルハンター、極東の魔女マキマ」

 

 承太郎が帽子の鍔に手をかけ、マキマを鋭く指差して言った。

 

「また『スタンド使い』、という訳か。

 まだ増援にも時間が掛かりそうだし、ここは退いておくしか無い、か。

 だけどデンジ君、スピードワゴン財団に行ったって、首輪に繋がった鎖の先が変わるだけの事だよ」

 

 独り言のようにそう言うと上野公園の鳩達が一斉にざわめき出し、マキマ達三人の元へ集まり始めた。そして鳩が三人の姿を包み込み、飛び立った後には誰の姿も無かった。

 

「やれやれだぜ……」

 

 承太郎はスタープラチナを消し、半分ほど体の緊張を解くと、デンジとレゼの方に向き直った。

 

「それで、君たちはこれからどうする?

 スピードワゴン財団としては無理に連れて行くような事はしたくないが、このまま何の助けも無く逃げ続けるのは無理があるんじゃあないか?」

 

 先程の戦闘を間近で見ていたデンジとレゼには、その身体の消耗もあって選択肢などなかった。

 

「そのナントカ財団ってヤツに行けばよ、ウマい飯食わしてくれんのかよ? オッサン」

 

 精一杯のデンジなりの強がりにも、承太郎は誠実に返答する。

 

「待遇の良さは保証しよう。衣住食の保証、当然実験台のような真似も絶対にさせない。

 まぁ、簡単な健康診断程度はするだろうがな」

 

 承太郎がそう告げると、デンジはレゼの方に向き直る。

 

「レゼもそれでいいか?」

 

 レゼは今度こそ、演技ではない正直な気持ちを吐露した。

 

「私はデンジ君と一緒なら、どこでも……

 でも出来れば、一緒に学校に行きたいかも……」

 

 その言葉を聞いた承太郎は満足気なそぶりを見せ、フッと表情を和らげると

 

「ああ、約束しよう」

 

 とだけ言い、二人をスピードワゴン財団のリムジンへ案内するのだった。

 

 

 

TO BE CONTINUED

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