今回はちょっと説明多めの回です。
スタンド周りにかなりオリジナル設定を入れていますが、二人にスタンドが見えた方がストーリーが絶対に面白くなると思ったのでそうしました。
財団の運転手が運転するリムジンカーは、目黒にあるスピードワゴン財団日本支部まで向かっていた。
車内の対面式後部座席には、デンジとレゼが寄り添うように座っており、その向かいに足を組んだ承太郎が座っている。
「君たちには自己紹介がまだだったな。
私は空条承太郎。本業は別にあるが、スピードワゴン財団で研究と調査を手伝っている」
そう言うと、承太郎はマキマに投げた物と同じ名刺をデンジとレゼに一枚ずつ渡した。
「あ、ども。
デンジッス……」
「私はレゼ。
空条さん、率直にうかがいます。私たちを連れて行ってどうするつもりなんですか?」
レゼが、その美しいエメラルドグリーンの瞳に警戒心を滲ませながら承太郎に尋ねた。
「承太郎でいい。
スピードワゴン財団では、色々な事業を手掛けていてな。その中に悪魔の研究も含まれている。
実は、財団では以前よりデンジ君の活躍は見させて貰っていた。悪魔との契約とも違う、魔人とも違う、人間の状態を保ったまま悪魔に変身できる存在として」
そこまで聞くと、デンジは露骨に嫌そうに顔を歪めた。
「アンタもチェンソーの心臓が欲しいクチかよォ~!
オレからポチタを奪おうってんなら……」
胸のスターターに手を掛けた所で、承太郎がそれを制止する。
「いや、さっき言っただろう。人体実験のような真似はさせないと
目的地に着いてから詳しく説明を受けると思うが、君たちには財団の研究へ協力してもらう代わりに衣住食の保証をしよう。そして教育、学校への入学もな。
悪いようにはしない。『君たち』は、それだけ珍しい存在なんだ」
強調された言葉にレゼの顔が強張った。
「私の事もお見通し、って訳ですか……」
「ああ。財団の調査網である程度調べさせて貰った」
デンジが一緒に居る手前、承太郎もレゼの出自や正体を詳しくは口にしない。
「まぁとにかく私たちスピードワゴン財団は君たちを害するつもりはない。そこは安心してくれ。
暑かっただろう。冷たい飲み物でもどうだ?」
承太郎がリムジンカーの内装に備え付けられたドリンク用の冷蔵庫を開けて見せた。
「うお! スッゲェ~!
車ン中に冷蔵庫まであんのかよォ~!
オレコーラもらいまーす!」
「全くデンジ君はよ~ キミは美味しけりゃ良いのか?
毒とか入れられてるかもしれないんだよ?」
承太郎の話に未だ半信半疑のレゼがデンジをゆるく制した。
「そんな回りくどいコトしなくても、この人ならさっき出してた悪魔でオレたちやられてるハズだろ?
そういやあの悪魔は何の悪魔なんだ?」
餌付けされたデンジが無邪気にコーラを開けながら承太郎に尋ねた。
「ン。そういえば君たちはスタンドを知らないんだったな。
あれは人間の生命エネルギーが作り出す像(ヴィジョン)。そばに現れ立つという所から、私たちはそれを『スタンド』と呼んでいる」
「スタンド……私たちを助けてくれた学生服の人たちも言っていた……
そして見えるとか見えないとかも……」
レゼの脳裏に路地裏での出来事が想起される。
「そう、『スタンド』は同じくそれを使える者、『スタンド使い』にしか見えない。
だが最近の研究では、悪魔や魔人にも見えているのが分かった。
これは、悪魔が種族として人間を喰らう存在である為、人間の魂のヴィジョンであるスタンドも見えるのだろうという事だ。
そして、悪魔と融合している君たちにもな」
「じゃあ、承太郎さんも『スタンド使い』ってワケッスか?」
「ああ。私のスタンド『スタープラチナ』は、高いパワーとスピード、精密な動作が特徴だ」
コーラの缶を飲み干したデンジが尋ねると、承太郎は自身のスタンド『スタープラチナ』を出現させ答えた。突然虚空から出現した筋肉質なヴィジョンがデンジとレゼを驚かせる。広い車内にはスタンドを出現させても十分なスペースがあった。
「うおォ~! なんかマッチョでカッケェ~!」
はしゃぐデンジを横目にレゼは、承太郎が最初に現れた時の、今の言葉だけでは説明できない現象に納得が行っていなかった。
だがそれからすぐに、三人を乗せたリムジンカーが大きな建物の地下駐車場に入った。
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この後スピードワゴン財団東京支部にて、デンジとレゼは身体検査とシャワーを浴びた後に契約書が差し出された。
この時、契約書の内容が読めず適当にサインしようとするデンジを、レゼが大慌てで止め熟読する。モルモットとしての経験のあるレゼは大変に警戒していたが、正直肩透かしのような内容であった。
その内容は、週に一回程度財団の施設に通いチェンソーマンとボムに変身した上でデータを取らせるという物。対価は口座振込による毎月の報酬と、戸籍の取得、住居の保証に学校の学費。
財団としても、武器人間である二人はそれだけの好条件を提示してでも確保したい人材だったのだ。
もし財団の研究員が暴走してデンジやレゼに人体実験を課そうとしようものならば、空条博士の正確無比にして強力極まりない鉄拳が飛んで来るだろう。
住居の場所の選定には本来日本公安の手の届かない海外にするべきだったが、デンジの言語や学力、レゼの出自の問題で国内となった。
高校転入まで特に大変だったのはデンジで、今まで義務教育すらロクに受けられて来なかったデンジは始業式までに猛勉強を課せられた。
「悪いようにはしないって言ってたじゃねえか~! 騙されたァ~!」
「あっはっはっは!
私も教えてあげるから、一緒に勉強しようね~? デンジ君」
頭を抱えるデンジを見てレゼが楽しそうに笑った。
これが、杜王町ぶどうヶ丘高校の二学期始業式の三週間前の出来事である。
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9月初週
二学期始業式の日
放課後
「という訳で、私たちは杜王町に引っ越して学校に転入してきたんだよ」
杜王駅前にあるCAFE DEUX MAGOTS(カフェ ドゥ マゴ)のテラス席にて、街の案内を一通り受けたデンジとレゼは、あの日仗助と億泰に助けられた以降の流れを簡単に語った。もちろん、デンジとレゼの悪魔の心臓の事など、重要な部分を差し引いてだが。
吉良吉影の事件以降しばらく会っていない承太郎の活躍を聞き、億泰が感嘆の声を上げる。
「おおォ~! さっすが承太郎さんだぜェ~!
俺達には出来ない事をやってのける! そこに痺れる! 憧れるゥ!」
「しっかしよォーあのプッツン女がマジに公安だったとは……
俺殴りかかっちまったよ。ここまで追いかけられて逮捕とかされねェよな?」
あの日の威勢が嘘のように心配そうに言う仗助に、レゼが答える。
「それに関しては、財団が私たちを守る為に公安に政治的圧力をかけてあの日の出来事をもみ消してくれたって承太郎さんが言ってたよ」
「ふィ~それを聞いて安心したぜ。
とにかく、杜王町に来たからには誰にもアンタ等を危ない目には会わせねぇ」
この街に住む者として、『黄金の精神』を持って仗助が二人にそう言った。
「コーヒー四つ、お待たせしましたァ~」
そのタイミングでウェイトレスが四人の座るテーブルまで来て、コーヒーを並べた。
「デンジ君コーヒー飲めるようになったの~?」
「飲む」
レゼがからかうように言うと、デンジがコーヒーを口に運ぶ。
その直後デンジは、まるでどてっ腹ボディーブローを喰らったボクサーのように大きく顔を歪め、口から舌を出した。コーヒーを吐き出さなかったのは幸いだったが。
億泰はその顔を見て涙まで浮かべて大笑いした。
「ダハハハハハ!!
デンジィ~なんだその顔! オメェコーヒー飲めねえとかガキじゃあねえかァ!」
「うるせェ! だってこれドブ味だぜドブ!」
ワハハハハハハ!!
四人の談笑は続いてゆく。
この時、四人の位置からは見えづらい席にて、スケッチブックを持ちコーヒーを飲んでいた漫画家がデンジとレゼの話を聞いていたことに、この四人は気が付かなかった。
TO BE CONTINUED