レゼの内心など、お楽しみ頂けたら幸いです。
MORI♪ MORI♪ MORI♪ MORI♪
杜・王・町 レ~ディオ~♪
『GOOD MORNING! おはようございます!
杜王町RADIO、今日もお相手はわたくし、あなたの隣人、カイ原田がお届け致します!
まだまだ暑さも残る中、清々しい朝ですねぇ。そんな一日の始まりに相応しい曲です!
今朝の一曲は、こちらから!
駄目 駄目 駄目 脳味噌の中から…………』
始業式から三日後の朝
財団が用意した2DKのマンションにて、昨晩一緒に寝たベッドから先に起きていたレゼがデンジを起こそうとする。レゼは既に制服姿だ。
「デンジ君起きて~! 今日日直でしょ! 遅刻しちゃうよ!」
「うぅ~ん、レゼェ~後5分寝かせてくれェ~」
シャッとレゼがカーテンを開けるも、デンジはダンゴムシが突然自分の上の岩を持ち上げられたかのようにベッドの中でモゾモゾと動き往生際が悪い。
「じゃあこれならどうかな~?」
チュッ
頬にバードキスされたデンジがガバッと起き上がり、目を見開いてレゼを見る。
「ちゃんと起きられたら、お口にしてあげられるんだけどな~」
「起きたくなってきた……」
「朝ごはん作っておくから、顔洗っておいで」
「はァ~い」
洗面台に向かったデンジを見送ると、レゼはラジオから流れる曲に合わせて鼻歌混じりにキッチンへ向かう。今日の朝食はベーコンエッグとトースト、それにコーヒーだ。
デンジとレゼは現在同じマンションの一室に住んでいる。当初、財団はそれぞれにワンルームマンションを与えようとしたのだが、レゼの強い希望により一緒の部屋となったのだ。
あの夏の日、デンジが叫んだ「レゼがどんなに悪ィヤツでも、レゼとさえ一緒に居られればハッピー」という言葉がレゼの心にこだまし続けていた。あの日以来思い出す度にニヤけそうになり、それをスパイとして培った表情操作の技術で抑え込んでいた。
レゼは殺人者である。ソ連による選択権の無い命令であったとはいえ、東京でのデンジとの大立ち回りにより沢山の死傷者を出した。これはもう変えようの無い事実であった。
ソ連にスパイとして教育されて来たとはいえ、罪悪感が無い訳ではない。台風の悪魔の被害や、その遺族に関する報道を目にする度、ズキリと心が痛み、時には過呼吸さえ起こしそうになる。
どんな償いをしようともあの日の罪は許されない。あんな事をした自分が生き残り、最愛の人と幸せな日常を送って良いはずが無い。
だが、その度にあのデンジの言葉を思い出す。もちろんこれ以上無為に悪事を働くつもりは毛頭無い。だが自分がどんなに堕ちようとも、デンジは自分と共に歩んでくれる。だから、今日も明日も、来週も来年も、自分は生きていて良いのだ。
デンジには、レゼに対して無限の『黄金の精神』がある。
他者から認められることが、最愛のデンジから赦されることがこんなにも心地よい事だったとは、弾薬庫育ちのレゼには知る由も無かった事である。あの学校に忍び込んだ夜、プールで全部教えてあげると言っておきながら、教えられているのはレゼの方だった。
そして今のレゼには、デンジとの生活を守る為にはどんな手段も選ばない『漆黒の意思』がある。
そんな事を考えながら朝食を調理していたら、トースターのベルが鳴らしたチンッという音に思考を引き戻された。
朝食のプレートから漂うベーコンの油の香ばしい香り、トーストされた食パンの小麦の香り、そしてかつて二道のマスターから教わった淹れたてのコーヒーの香り。
デンジの分のマグカップには、コーヒーの倍以上の量の牛乳を入れてカフェオレにする。ブラックを飲んだ時のデンジの顔が再び頭に浮かび、フフッという声が口から漏れた。
かぐわしい朝食を二人分テーブルに並べた所で、顔を洗い歯を磨いたデンジがダイニングに入ってきた。
「おはようデンジ君、朝ごはん出来てるよ」
チュッ
先程の約束通り、その演技ではなく赤らめた頬で微笑みながら、今度はデンジの唇にキスをする。
「あ、ありがと、レゼ……」
(カワイイイイイイイイ!!!)
デンジは叫び出しそうになった。
財団の施設で寝泊まりしていた時期も含め、もう一ヶ月弱も一緒に暮らしていれば慣れたもの……ではなく、デンジはレゼとキスをする度にその幸せを噛み締めていた。
デンジはつい照れて俯くも、すぐに顔を上げて最愛のレゼに顔を戻す。意図せず上目遣いになった。
(カワイイイイイイイイ!!!)
今度はレゼが叫び出しそうになった。
「さ、早く食べよっ? 朝ごはん冷めちゃうよ」
そんな自分の心の叫びを悟られまいと、レゼはデンジと一緒にテーブルに着いた。
二人は朝のラジオを聞きながら談笑し、時折食べさせあったりしながら朝食を済ませた。
その後、レゼはデンジを制服に着替えさせて二人で学校へ出かけた。
────
ぶどうヶ丘高校までの道のりを、デンジとレゼは手を繋ぎながら登校していた。
二人が杜王駅へ向かう道の商店街手前に差し掛かった時、曲がり角から見知った顔が現れた。
「よォ!康一!」
「おはようデンジ君、レゼさん」
デンジは康一と朝の挨拶を交わすと、康一と一緒にもう一人の女子生徒が居ることに気が付いた。
「あれ、そっちの女の子は?」
(かわいい……)
「デンジ君?」
デンジの心の声を敏感に感じ取ったレゼは、握っていたデンジの手に強く握力をかけた。
「ギャア!!」
二人の様子に苦笑いしながら、康一は少し照れつつも女子生徒を紹介する。
「彼女は億泰君と同じクラスの由花子さん
それでその、僕の、ガールフレンドなんだ」
「山岸由花子といいます。あなた達が康一くんのクラスに転校してきたっていう二人ね」
これに対し、ブッたまげたのはデンジだ。
「えええ!! 康一オメェ彼女居たんかよォ~!
始業式の日の放課後、約束があるって言ってたのはこの人だったんかァ~」
「うん、そうなんだ」
だが、驚いたのはデンジの方だけではない。康一がデンジとレゼの仲睦まじい様子を見ながら言う。
「それより二人とも、そのガッシリ繋いだ手は……まさか……」
「うん。私たち、付き合ってるんだ。
私はレゼ。こっちは私のカレシ、デンジ君。
杜王町に引っ越して来る前に色々あって、恋人同士になったの」
康一の問いにレゼが幸せを噛み締めるように自己紹介した。
これに対し由花子は興味深そうに二人を見る。
「ふゥん。レゼさん、あなた自分の恋人の事を語る時、とても良い顔をしているわよ。
あなたも『運命の愛』を見つけたってクチね。あなたとは仲良くなれそうだわ。
改めて、私は山岸由花子。よろしくね」
「レゼです。よろしく」
お互いが自分の恋敵たり得ないと知った二人は、しっかりと握手を交わした。
それを見たデンジと康一は、自分の恋人に新たな友人が出来た喜び半分、疎外感半分でこう言った。
「うおっ! なんかもう『マブダチ』って感じ?」
「なんだか僕たち置いてけぼりだなァ~。
あっいけない! 三人とも、早く行かないと遅刻するよ!」
四人は談笑しながら学校に向かって歩き出した。
────
実はこの時、仗助と億泰も登校途中であり、デンジに声をかけようとした所でレゼと繋いだ手を見て物陰に引っ込んだのであった。
そして、康一や由花子との会話を聞いた億泰は涙を流してこう言った。
「デンジィ~ウソだろォー! ウソだろォー!
オメェだけは不良仲間だと思ってたのによォ~!
でも襲われてた女ァ助けて恋人になるなんて、何だかロマンチックじゃあねーかァ~!」
「オイまたかよォー。何も泣くこたねーだろォ。
でも確かにデンジの事はマジに見直したぜ。あのプッツン由花子に認められたレゼの方もな」
レゼがデンジと一緒の時の満足そうな表情を見て、仗助は二人の間柄に美しさすら感じていた。
「チクショー仗助ェ~! もうお前だけが本当のトモダチだよォ~ッ!」
「うるせーよ億泰ッ! 俺らも行かねえと遅刻しちまうぞッ!」
この後仗助と億泰も四人を追いかけて合流し、仲良く学校へ向かった。
TO BE CONTINUED