最高速度でぶち抜いたれッ!!! 作:とうしゃじゅほう
「それで?貴方からの提案、聞かせてもらえるかしら?」
「この前君が言うとったやろ、新しいメニューを考えてきたんや」
俺は彼女に必要なトレーニングが記されているノートを渡した。
「ちょいと時間掛けたんや、悪い返事は聞きたくないなぁ」
ま、こう言っとけば見るやろ。
ジェンティルドンナは強さを求めている。
ならばその機会を与え、利用する。拒む理由が無いからだ、資料も用意した、過去の走りも研究しといてなぁ。
「...これだけ?」
「は?」
「貴方、前に言ったメニューよりも質が落ちているのでは無いかしら?それに、内から攻めるのは私の得意分野」
「得意を磨く事を否定はしないけれど、それは先述を狭める選択肢。デビュー前だからこそ苦手を克服するべきでは無いかしら?それこそ貴方の言った強さの制御...とかかしら」
「ちょい待てや、別の内容くらい準備しとる」
ちょいと面倒くさいからな、対策は練っとるわ。
そうしてこの日から、別にまだスカウトもしてないのに"強くなる"トレーニングをする日々が始まった。
「200を8本...その程度?」
1600をその程度で片付けれんのは君と一部のイカれた娘だけや...
「そん程度じゃ温いやろ、1本終えるごとにタイム縮めるんや」
「まぁ...それはそれは。では最初の一本はゆっくり泳いだ方が宜しくて?」
随分と御冗談を言うてるなぁ?
「まさか、君がそんな事するんかいな?」
「...ふっ」
その後化物じみたスピードを出すジェンティルドンナが少々怖かった。
「へぇ、この重りを使ってのトレーニング...そう」
ジェンティルドンナは重量のある鉄球を軽々持ち上げ
「こんな軽くて柔い物で?」
潰してビー玉近いサイズにしてしまった。
「(いや化物かいな...ホンマにウマ娘?)」
「クールダウン前に15-15ね...最後に全力疾走すらさせないと?」
「冷静な判断力、それを持ってりゃ達成できるはずやけどなぁ?」
「あら...手厳しいこと」
ジェンティルドンナがコースへ降りる。
これは俺と彼女の力比べや、俺の指導力か、ジェンティルドンナの成長力か。
「15秒...正確やな、やっぱり他とは違うわ」
ジェンティルドンナは指定通り15-15を走っている。
「(ホンマ、あっさりやってくれるわ)」
こんなんなら三冠...どころの話ではない。それより上...頂すら目指し、超えれるだろう。
「これで終わりましたけれど」
「そうかい...俺はちょいと仕事あんねん、ここで解散や」
流石に担当でもない娘を見てて書類がどんどん溜まってんだわ。
ジェンティルドンナの吸収力は並じゃない。成長力は尋常ではない。
トレーニングする度にこちらの閃きや思考力を試されている感覚や。
「...こっちもトレーニングしとんのかって感じや、そんくらいじゃ音は上げんが」
俺は決めとる。圧倒的な力を示す、ジェンティルドンナの強さを引き出す圧倒的な力を。
彼女の隣に立ち、アッチ側に立つ、いや...超える。
「ジェンティルドンナが強くなるなら、俺もまた強くなれば良いだけの事」
そう呟き、目の前の資料に手を出そうとした瞬間。
「あら、こちらにいたの」
ジェンティルドンナが来ていた。
「君、今日は」
トレーニングも無い、そう言いかけた時
「貴方は、私をどのような路線に向かわせたいの?」
「...はい?」
急にどうしたんや...
「あるでしょう?日本一の栄光を競う『日本ダービー』を獲りたい。世界一...『凱旋門賞』の栄誉をウマ娘に捧げたい、それくらいは」
「...まず俺の希望の前に、君や」
俺はあくまで指導をして力を限界まで引き伸ばす、ウマ娘を利用するとか言ってなんだが、ウマ娘の方もトレーナーを利用するんや。
未来を決めるのはそいつ自身、どこに行きたいかは俺が決めることちゃう。
「まずはトリプルティアラ。だって
私には、華やかなティアラがよく似合うでしょう?
「...あぁ、君には良く似合うわ」
トリプルティアラ、それはクラシック期におけるクラシック三冠と対をなすとも言える路線の一つ。
『桜花賞』『オークス』『秋華賞』の3つで構成されたレースの総称。
確か、副賞がその名の通りティアラだったはず。
それはきっと彼女に似合うことだろう。
「...他の方は、私ならダービーをも取れる、と。クラシック三冠を進めてきた方も居るけど?」
「...確かにその道もあるわ、だが」
以前はクラシック三冠を走った方が強いウマ娘になるとされていた。
「ジェンティルドンナ、君ならどんな道でも最強に成る」
どこ走ってもお前は最強や。
「...ふふふっ」
「は?」
「そう、大切なのはどのように強くあるかであり、何を成し遂げたからではありませんわ」
「貴方とは、長い付き合いになりそうね。さあ、契約しましょう?トレーナー」
...驚いたわ、まさかそちらから提案してくるとは。
「気が変わる前に契約書を用意して下さる?」
「ああ、直ぐに用意したる」
そう言って俺は机の引き出しから念の為入れといた契約書を取り出す。
「ああ、契約するのだからこれくらいはしないとね。どうぞ、トレーナー」
ジェンティルドンナが手を出してきた。
「急にどうしたんや?」
「ふふ...レディに対するマナーをご存知無くて?その唇はお飾り?」
...チッ、理解したわ。
「さぁ、期待しているわ、トレーナー」
貴婦人は微笑み、俺を見つめる。
「残念ながら俺はマナーなんか知らん、気が変わる前に契約書書いてくれ」
「...つまらないお方ね」
貶されたが、無事にサインは貰えた。
「はいどうも、これで君と俺は契約した」
「そう...ようこそいらっしゃいませ」
勝者の道へ。そして、強者の頂へ。