魔改造バルキリーで銀河を駆け抜けたい   作:萩月輝夜

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惑星-ブルーウインド-

大気圏を突入すると眼下に広がり視界を締めるのはエメラルドブルーの海…陸地には古めかしい住宅が立ち並び水上コテージのような建物も多く存在していた。そしてその陸地に接するのはその海上に二枚貝のような巨大なドームが付いている建造物…の中に近代的な建物が密集しておりあれがこの惑星の首都なのだろう察することが出来た。近代的な町並みを有するドームと古き良き民家が立ち並ぶ陸地には橋が掛けられていた。その事に目を奪われていると視界の端に”人影”を確認しそちらをチラ見するエミリアは驚いた。

 

山を越え聳え立ち雲を突き抜けるその勇姿は見るものを圧倒する存在感を放っていたそれは二本足の巨大建造物…人型の要塞だった。

 

「モビルスーツ…?」

 

ぼそり、と呟く。

 

「お前さんの話に出てた機体の総称か?違う違う。あれはマクロス・エリシオン…俺たち”ケイオス”の母艦だ」

 

「あれが…母艦…マクロス…ああ。SDF-1、とかいう奴か?」

 

「あれはその流れを組むマクロス級戦闘艦だ。ま、俺たち戦闘機乗りの”象徴”とも言えるかもな。さ、そろそろ着くぞ。着いてきてくれ。」

 

「わかった…」

 

「艦長は大きい人だけど…驚かないでね?」

 

「?ああ、わかった」

 

控え室でカナメと別れアラドに着いていく。

戦艦で言う右舷に自分達が乗ってきた強襲揚陸艦”アイテール”が接続したのか各員が作業を始める。格納庫を通った際に色それぞれの戦闘機を尻目に”マクロス・エリシオン”の最上階…頭部に当たる司令室へ足を進めた。

 

「そう言えばなんだが」

 

「ん?」

 

「ここは民間軍事会社なのだろう?何故だかそこいらの軍隊よりも装備が充実している気がするんだが…」

 

「…うちは装備の試験もやってるんだ。ま、資本主義ってことだ」

 

答えになっていない返答に「そうか」とだけ呟き終わる。

所々でそんな会話を続けながら順路を進み”マクロス”内部へ到達。エレベーターに乗り込み司令室への扉が開いた。

 

「アーネスト、先程話したのを連れてきたぞ」

 

「うむ、ご苦労」

 

低く腹の底から響く声の主を見て驚いた。

 

(でかいな…ビックフット(UMA)と、といえば良いか?)

 

緑の肌に2メートル、下手をすれば3メートル以上かと思えるほどに背丈。そして盛り上がる筋肉が軍服からも分かる程に鍛え上げられており彼が現場からの叩き上げだと。そして彼が地球人でないことを知らせるには十分過ぎた。

 

「君が例の来訪者だな?俺は”マクロス・エリシオン”艦長のアーネスト・ジョンソンだ。宜しく」

 

反射的にエアリスは背筋を伸ばし敬礼する。

 

「はっ、地球連合軍特務部隊【ネクロシス】所属エミリア・A・レインズブーケ特務少佐であります」

 

幼いながらも堂に入ったその敬礼を見たジョンソンも敬礼をしてエアリスを見つめた。少しして笑みを溢す。

 

「話には聞いていたが君は別次元から来た、と言うことだが…話してくれないか?」

 

「はい。了解しました」

 

アーネストへ自分がいた世界の話をする。

大体の事を説明の後”ケイオス”の所属を願い出ると少しも考える素振りを見せずに真っ白い歯をみせながら快諾した。

 

「…良いだろう!元より此方から”中尉”には”ケイオス”に所属して欲しいと思っていたところだ。君程の実力を手放すのは惜しすぎるからな」

 

「実力を買っていただくのは有り難い、ですが…それ以上に”フォールドレセプター”が関係している?」

 

「其もある、が其よりも大切なことがある」

 

そう言ってアーネストはアラドと顔を向き合わせる。

 

「「船乗りは遭難者を見捨てない、だ!」」

 

息ぴったりの宣言に思わず面食らうエアリスだったが構わずアーネストは続ける。

 

「俺たち船乗りは決して遭難者を見捨てない。例え其が異次元からの訪問者、悪人であったとしてもな!逆に君が良い人物で困っているなら手を貸さない理由にはならんからな?」

 

手放し、と言う意味ではないが求められていると言うことはエミリアにとっては初めての体験であり少し戸惑っていたが敬礼し返答する。

 

「…宜しくお願いします。アーネスト艦長、アラド少佐」

 

フッと笑みを浮かべ再び手を差し出した。巨漢の快男児はにかッと笑みを浮かべ差し出された手を優しく力強く握りしめた。

 

「…あとすまないが所属するに辺り尉官待遇での所属になるが良いかね?」

 

「はい。大丈夫です。お金さえしっかり貰えれば……ってああ。ダメだな。やっぱり喋りやすい方で喋らせてもらうぞ」

 

直ぐ砕けた男性口調になるエミリアを見てアーネストは豪快に笑った。

 

「はははっ。実力があれば言葉遣いには目も瞑るし大丈夫だ。それに金払いはしっかりしているぞ?うちの会社はホワイトだ」

 

絶対嘘だ、とエミリアはおくびにも出さず微笑を浮かべた。

 

「では、本日付でエミリア・A・レインズブーケ、貴官を特務中尉として任命する」

 

「了解した。腕を振るわせてもらおう」

 

◆ ◆ ◆

 

「と、言うわけで一先ず明日皆と顔合わせだ。今日は休んでくれ。明日○九○○に格納庫に集合だ」

 

「ああ。了解した」

 

「あとこっちの世界の歴史を見たいときはデータログの閲覧を許可している船内ネットワークを解放しておくからな」

 

「感謝するよ。少佐」

 

「今日はもうゆっくり休んでくれ。それじゃあな。”嬢ちゃん”」

 

「…」

 

そう言ってアラドは部屋を出ていく。一人になった部屋で備え付けられたベッドに腰かける息を吐いた。

漸くだが一息付くことが出来た。

 

「まさか異世界に飛ばされるとはな…人生何があるか分からないものだ」

 

ワクワク半分不安半分と言った所だが少なくともここで生きていくには働くしかないし元の世界に戻る確証もない。それに一度は死んだ身であり向こうでやるべきことはやった。ただ心残りではあるのが…

 

「お姉ちゃんは…無事に脱出できただろうか…?」

 

姉が無事に”ジェネシス”から脱出できたかどうかが気になっていた。

少しその事を考えた後切り替える。それはもう過去の事でありそれを知ったエアリスなら「自分の人生精一杯生きなさい」と言うだろうと。そんな幻聴が聞こえた。

エミリア・A・レインズブーケとして二度目の人生を楽しむことにした。

 

「さて…」

 

ベッドから腰を上げデスクの上にある船内ネットワークにアクセスしこの世界の歴史を勉強し始めた。

そして”バルキリー”…の種類を見てパイロットとしての側面がかいま見えていた。

そしてこの世界での”歌”を聞き始めた…。

 

◆ ◆ ◆

 

「すぅ…すぅ…すぅ」

 

翌日の早朝七時。

窓から日差しが入る。その部屋に備え付けられたベッドには人がおらずもぬけの殻…だったがその部屋の主は机に突っ伏して寝息を立てていた。

 

扉のロックを外していたので室内に一人入ってくる者がいた。

 

「エミリアちゃん…起きて、る…って椅子で寝ちゃってもう…ほら、起きて」

 

迎えに来たカナメが昨日のステージ衣装ではなく”ワルキューレ”の女性制服を着用しエミリアを迎えに来たのだ。

机に突っ伏すように寝ている姿を見て苦笑しながら近づき起こすために近づいた。

 

「ん~……?~~?…ふぁあ…ふみゅ…」

 

寝惚けているのか昨日の初対面とは大きく違う寝言と幼い様子が漸く年相応の反応にカナメは肩へ伸ばした手がピタリ、と止まりそれが頭頂部へ進路を変えて伸ばされた。

 

(か、可愛い……)

 

カナメの掌に伝わる感触はサラサラの艶やかな髪質とほんのり暖かい肌の感触が彼女が女児だろうと錯覚させると同時にその年齢で戦わなくてはならなかったその戦争に対して苦々しいものが込み上がってきた。

 

(この子が…大人と同じく戦場に身を置いていたなんて…私と同じね)

 

生まれ育った惑星も内乱が相次いでおり自分も巻き込まれた経験がある。彼女もきっと…そんなことを考えていると手元がモゾり、と動いた。

 

「………ん?何故、カナメがここにいる…?」

 

「あ、エミリアちゃん…起きていたの?」

 

「人の気配が直ぐ側にいて頭に手を乗せられて撫でられていたら起きるだろう…」

 

指摘されるまで気が付かなかったが言われるまで頭を無意識に撫でていたことに少し恥ずかしくなった。

呆れたような表情を浮かべるエミリアに苦笑するカナメは誤魔化すように挨拶した。

 

「改めて…おはようエミリアちゃん」

 

「ああ。おはようカナメ」

 

嫌がられる、と思ったがその一言にカナメはホッと胸を撫で下ろしていたようだ。

エミリアは起き上がりキリッとした表情に切り替わったのは軍属だったからかもしれない。

 

「そうそう。呼びに来たのは食堂に朝御飯食べに案内しようかと思って」

 

そう告げると可愛らしい「くぅ~」と音が鳴るのを聞いたカナメはクスりと笑いエミリアは少しだけ顔を逸らした。

 

「…確かに、昨日から何も食べていなかったからな…頼んでいいか?」

 

「ええ。そのつもりだったから大丈夫よ。でもその前に顔を洗って着替えてきて頂戴ね?」

 

「ああ。」

 

立ち上がり室内に備え付けられた洗面台へ向かい顔を洗って支給された”ケイオス”の制服を着用した。

ジャケットにホットパンツ、そしてニーソックスとブーツという出で立ちだ。

二人並んで食堂までの順路を歩き始める。

 

「昨日」

 

「うん?」

 

「アラドから船内ネットワークの閲覧を許可して貰ったのでこっちの世界の事を勉強していた」

 

「あら、そうなの?どうだった?」

 

「こっちの世界も大変なんだな。其に兵器形態も大分様が違うようだ。…まぁ広大な銀河を渡るんだから可変戦闘機の方が都合がいいのだろう」

 

「ええ。そうね」

 

「それにしても人類が滅び掛けるほどの戦争…とんでもないな」

 

「お互いがお互いの種族を害する…そんな泥沼の人類同士の戦いだったな…」

 

「…ごめんなさい。軽々しく聞いて良い話じゃなかったわ」

 

「いや。此方が振った話だからな気にしないでくれ。この時代の曲…リン・ミンメイにFireBOMBER…銀河の妖精(シェリル・ノーム)超時空シンデレラ(ランカ・リー)、ミーナ・フォルテ…どれも好きだが”ワルキューレ”が一番…良いな」

 

一瞬だけ年相応の感想…世辞ではなく心からの感想だった。

朝から誉め言葉を貰ったカナメは心が温かくなっていくのを感じ笑みを浮かべる。というよりも寝ずに聞いていたのだろうか?

 

「…ありがとう。エミリアちゃんはどれか気に入った曲はあった?」

 

「そう、だな…”いけないボーダーライン”や”Walkure Attack!”が良かったが…でもカナメの曲が一番良かった。AXIAだったか…」

 

「そ、そうなの……その、ありがとう」

 

カナメは自分のメイン曲を誉められるとは思わず顔を赤くした。

 

「給料入ったらプレイヤーと現物の音声ディスクを買うか。…四人の曲も良いがソロも良い。…そう言えば向こうの世界で歌姫、って呼ばれてた奴がいたな」

 

カナメはエアリスの言う”歌姫”と呼ばれた人物の事が気になった。

 

「歌姫…どんな子なの?」

 

そう問いかけるがエミリアは首を横に振る。

 

「いや、よく知らない。敵対していた組織の少女だからな。それに当時は私も娯楽?とやらには無縁だったからな。シミュレーターに叩き込まれるか、敵を殺していたかの二択だったし」

 

「……今度、一緒にお買い物に行きましょう。ええ。絶対に」

 

「?あ、ああ…分かった」

 

向かう道中の足を止めカナメから手を取られた。泣きそうになっていたのは何故なのかエミリアに理解できなかったが”趣味”を見つけるのはいい機会だ、と会話を楽しみながら朝食を取る為の食堂に到着した。

 

「カナメ。どうすればいい?」

 

「そこでトレーを取って食べたいものを食べれるだけ取るのよ。」

 

「カナメこの白いのはなんだ?」

 

「それはご飯よ。パンもあるけど…もしかして食べたことないの?」

 

「ああ。こんないい匂いの食事は見たことない。色がある。もっぱら無味乾燥のサプリメントかフリーズバーだけだ」

 

「…!そうここの食堂は美味しいから一杯食べてね。あ、これも美味しいわよ」

 

「本当か?ではそれも頂こう、ん、この箱はなんだ?」

 

「あっ、それは…!」

 

目の前の少女が人間らしい生活を遅れていない、いや送ることを許されなかったことに哀しくなるが当の本人が年相応の喜びを見せているのを見て複雑な気持ちになった。

 

カナメが驚いたのは外国人の見た目で嘗ての日本…和食を器用に箸を使いながら白米に掛けた納豆を美味しそうに頬張る姿を見て彼女が異世界から来たのは間違いないかもしれない、と思い始めた。

 

「納豆…食べられるの?」

 

「匂いが凄まじいが…旨味が凄いな。旨い」

 

「あ、エアリスちゃん。頬っぺたにご飯粒が着いてるわ。取ってあげる」

 

「んぐ…んぐ…ありがとう」

 

頬っぺたに着いた米粒に気が付いて微笑みながらカナメが気が付き取って上げる光景は髪色も相まって利用者から見て姉妹のように見えていたと言う。

 

◆ ◆ ◆

 

「さて、今日から”ケイオス”ラグナ支部デルタ小隊に配属されたレインズ特務中尉だ」

 

朝食後、バルキリー格納庫に時間通りに集合した同バルキリー小隊の面々は驚いた表情を浮かべている。

 

「あれは…」

 

「昨日の”VF-171”に搭乗していたという?子供じゃないですか…」

 

「私語を慎め」

 

色黒な男性とこの世界では珍しくない耳の尖った女性の同隊員が口を開くと目付きの鋭い男性がピシャリと言い放って黙らせていた。その光景を見てアラドは苦笑しながら自己紹介のバトンを渡した。

 

「では特務中尉。自己紹介を」

 

「自己紹介を承った。本日付で配属となったエミリア・A・レインズブーケ。階級は特務中尉だ」

 

「おいおい、それだけか?」

 

「これ以上言うのが思い付かん」

 

そのやり取りを見ていた女性と色黒の巨漢が顔を見合わせる。

 

「隊長。質問があります」

 

自己紹介を終えるとショートヘアの男性が此方に鋭い視線…と言うよりも其がデフォなんだろう、とエミリアは思っていた。

 

「なんだ?メッサー」

 

「身元不明のパイロットを引き込むのは…正直反対です。其にまだ子供だ」

 

「中尉の操縦技術は見ただろう?まぁその事には同意だが艦長も俺も承認してここにいるんだ。…其とも不服か?」

 

アラドの昼行灯の鳴りは潜め鋭い視線をメッサーへ向ける。

 

「模擬戦、させていただけませんか。彼女の実力を見せて貰いたい」

 

「マジかよ…容赦ねぇなぁ…」

 

その言葉にアラドは面白そうなものを見つけた、と笑みを浮かべ色黒の男性が呟く。

一方で紫髪の女性は興味深そうにエアリスを見ていたが当の本人は至って冷静に務め返答した。

 

「お前が私の実力を疑うのは仕方の無いことだ。その模擬戦…受けよう。それにこの世界のパイロットがどの程度の実力なのかを確認したかったからな」

 

そう告げ不敵で狂暴な笑みを向ける。メッサーは顔色を変えずにアラドに向き直る。

 

「よし!模擬線をすることを許可する。だが今日はあくまでレクリエーション。彼女も機体にならすために二日貰うぞ…良いな?メッサー」

 

「構いません。…では訓練規定に戻ります」

 

敬礼した後踵を返し靴を鳴らしながら愛機へ向かうメッサーを見届けアラドはため息を吐いた。

 

「はぁ…ッたくあいつは全く…すまんな中尉。戦場では背中を預け合う間柄になるからアイツなりに歓迎と確認をしたいんだろうさ」

 

「いや、あいつの言うことも尤もだ。私もアイツの立場なら同じことを言うだろうしな」

 

「ちょっと隊長!大丈夫っすか!?あの中尉といきなり模擬線なんて…!」

 

「チャック…お前中尉の戦闘見てないのか?俺でもあんな戦い方は無理だよ」

 

「そりゃまぁ…見てましたけどね?…つーか自己紹介してないですからさせてくださいよ!俺はチャック・マスタング少尉だ。事情はそれとなく聞いてるよ。異世界から放り出されたんだってな」

 

「ミラージュ・F・ジーナス少尉です。どうぞミラージュとお呼びください。しかし、本当に…こんな子供が…」

 

「…見た目で判断するとは失礼な奴だな。メッサーとの模擬戦が終わった次はお前か?受けて立つが」

 

ニヤリと笑みを浮かべ少し意地悪して強い言葉を使う。

こちらの方が階級が上なのだから問題ないだろう。

威圧感があったのかミラージュは敬礼する。しかし、ジーナス…そのファミリーネームを昨日の世界史で聞いたことがあるような…?

 

「し、失礼しました中尉。これから宜しくお願いします」

 

気になっていたがそう敬礼され真面目なんだな、とエミリアは笑みを浮かべる。

 

「さて、互いに紹介が終わったからそろそろ訓練時間だ!あまり遅いとメッサーにどやされるぞ?さて中尉。俺たちは訓練に向かうが第二格納庫へ向かってくれ。お前さんが乗るバルキリーがそろそろ運ばれてくるからな」

 

「ああ。確認させてもらう。」

 

そう告げアラド達はミラージュ達を引き連れバルキリーに搭乗し訓練規定へ出掛けていった。

広々とした格納庫を後にして第二格納庫へ向かうと様々な可変戦闘機が並んでいた。

 

「しかし、本当に前時代的な見た目なんだなVFは…ほぼ戦闘機と変わらん」

 

格納庫に並ぶのは近代化改修されたVF-1EX(バルキリー)にこの間乗ったVF-171(ナイトメアプラス)そしてVF-31(カイロス)と様々な形の戦闘機が置かれている。

まるで戦争博物館だ。

 

「きゃ、」

 

「ん?」

 

「きゃわわ~ッ!」

 

「ほにゃっ!?」

 

珍しい悲鳴が出た。まるで猫が突如として抱きか抱えられたかのように。

置かれていた可変戦闘機に見とれていると背後から人が近づいているのに気が付いておらず後ろから突如として抱き着かれて逃げ出そうと暴れるが強い力に締め付けられる。思わずレッグホルスターのサイドアームを取り出そうとする。

 

「(珍しい声が…かわいい…!)あ、ちょっとマキナ!エミリアちゃんが困っているじゃないの…」

 

「え~?でもカワカワだよッ?其にレイナより大きいけど…内面?が幼い感じにみえちゃうし~髪もサラサラ~!」

 

こいつ、エスパーか!?とエミリアは驚愕するがおくびにも出さず拘束から抜け出そうとする。

後ろから聞こえる声にカナメがいることに気が付き一先ず安堵したもののこのままではチョークスリーパーを決められるので体を捻ってスルリ、と抜け出した。

 

「”ワルキューレ”の…マキナ・中島?」

 

「うん、マキナ・中島だよ。宜しくね。エミエミ!」

 

「え、エミエミ…」

 

ピンク色の髪を纏めた作業着を着崩す其から見えるセクシーでありながら爛漫な笑みをみせる美少女であるマキナ・中島が挨拶する。

と言うよりエミエミ、って私の事だろうか。と困惑する。

 

「ああ、宜しく…それと突然抱きつくな。思わず銃を引き抜いてしまったぞ」

 

ホルスターから支給された銃を引き抜きかけた。これっきりにして欲しいものだ。

 

「マキナの拘束から抜け出すとは…中々の強者。うん、私はレイナ。宜しくエミリア」

 

マキナの隣にいる緑髪のショートカットのクールな印象を与えるのは同じく”ワルキューレ”のメンバーであるレイナ・プラウナーだ。

 

「此方こそ。よろしくレイナ。で、そちらにいる人物は?”ワルキューレ”の新メンバーか?」

 

セミロングの暖色の髪を持つまた違った美人がそこにいた。

”ワルキューレの新メンバーか?”と問いかけるとその人物は苦笑して否定した。

 

「違うわ。…貴女が話しに聞いていたパイロットね。初めまして。私はアイシャ・ブランシェットよ。主に可変戦闘機の開発協力をしているわ。宜しくねエアリス特務中尉」

 

差し出された手を握ろうとしたが襟元に示された階級が”少佐”を示す。軍属であるエアリスは敬礼する。

 

「此方こそ宜しく頼む。ブランシェット特務少佐」

 

「バカ真面目」

 

レイナがぼそり、と呟くが悪い意味で呟いたのではないことを理解していた。

アイシャも敬礼し互いにその後敬礼を解いて手を差し出し握った。

 

「…他にもメンバーはいるけど美雲は気まぐれだから」

 

「クモクモは気まぐれだからねぇ~」

 

確かに、とメインボーカル?である美雲・ギンヌメールがいないが彼女が可変戦闘機の格納庫に来るのは想像できなかったのだが。

 

「ああ。いえ、大丈夫だ。…其よりも私に貸与される機体ってどれになる?」

 

格納庫に納められている可変戦闘機を見てどれになるのだろう、と考えているとマキナが手を上げた。

 

「はいはーい!エミエミが乗る機体は此方だよー!」

 

手を引かれ機体が置かれている場所へ導かれると其は姿を表した。

 

「…これが、私の機体?」

 

「うん!アル・シャハルでの戦いを見てきっとエミエミなら扱いこなせるとヴィヴィッと来ちゃった!誰も乗りこなせる人がいなくて倉庫でホコリを被ってたこの子を端整込めて整備したからね!メサメサに目にもの見せちゃえ!」

 

「貴女なら…この機体乗りこなせるかもね」

 

「うん。あの鉄面皮に驚愕の表情を浮かばせてやって?」

 

「あはは…」

 

メッサーに対する扱いに苦笑いするカナメ

 

「もう、二人ったら…でもエミリアちゃんならマキナのこの機体扱うことが出来るかも知れないわ。メッサー君は強いわよ?」

 

「…負けるつもりは毛頭ないが」

 

「お~言うねぇエミエミ!其じゃ早速フォーマットとフィッティングを済ませて飛行させよう!」

 

「分かった。其では早速…」

 

「…ってええぇ!?何してるの!?」

 

そう言うな否やエアリスはケイオス制服のまま乗り込もうとするとマキナから引き留められる。

その事に疑問を浮かばせて振り返り頭を傾げる。

 

「なに、って…搭乗しようと…」

 

「イヤイヤイヤ…パイロットスーツは!?」

 

「別に要らんだろう?」

 

マキナに対して「なんでそんなことを質問するの?」と真顔で問いかける。

 

「邪魔だろう。動きづらいし。其に可変戦闘機の瞬時加速ぐらいだったらそのままでも…」

 

慌てたマキナがエアリスに詰め寄る。

 

「いやいや!瞬時加速でも30Gかかるんだよ!?幾らEXギアとISCがあるとしてもコックピット内部でミンチになっちゃう?!」

 

そう言われて少し考える。

 

「(…流石にそのGは朝御前に出るか)…分かった。着用する…まぁ、少し位なら最大加速でも大丈夫だが…」

 

その最後の呟きに四名が顔を見合わせる。

 

「エミリアちゃん…」

 

「本当に人間?」

 

「ゼントラーディ、じゃなくて?」

 

「…サイバーグランドかもしれない」

 

失礼な。これでも歴としたナチュラルだ。と心外そうに視線を向けた後パイロットルームへ向かい自らに宛がわれた機体へ搭乗した。

 

(まぁだがクローン、強化人間だから純粋な人間、とは言えないか?)

 

そんなことを一人内心でごちりながらパイロットスーツに着替え宛がわれる機体へ搭乗した。

 

◆ ◆ ◆

 

夜。人工光が惑星ラグナのエメラルドブルーの海に反射しクラゲが揺蕩い幻想的な光景を作り出す。

ここ惑星ラグナの観光ポイントの一つでもある夜景だった。

しかし、其よりも光景よりも食い気が勝っていた。

 

「腹が…空いた」

 

初乗りの訓練を終える頃には既に夜になっていた。

前を歩くエミリアの後ろを着いてきている四名の女性陣は驚天動地の百面相になっていた。

 

「マジヤバヤバ。一体どんな身体の構造してるの?エミエミ~」

 

「人外、プロトカルチャーが作った生体兵器かもしれない」

 

「もしかしてプロトデビルン、だったりして…あんな無茶苦茶な機動する機体を動かせるなんて…」

 

「もうっ、エミリアちゃんに失礼でしょ?…流石にちょっとだけ同意しそうになるけど…」

 

後ろでとてつもなく失礼なことを言われている気がするが気にしないことにした。其よりも前方からのいい匂いに誘導されるように足を進めるとそれは目的の場所へ到着した。

 

裸喰娘娘、デルタ小隊の索敵担当であるチャック・マスタング少尉が経営するラグナのお食事処。

元々は地球にある名店のパク、もといオマージュ、リスペクトした店名だそうだ。

ここは”ケイオス”ラグナ支部デルタ小隊の男子寮なのだそうだ。女子寮はまた別に用意されているとのこと。

暖簾をくぐり出迎えてくれたのはチャック少尉だ。

 

「よく来たな。エミリア!ようこそ裸喰娘娘へ!」

 

「今日は少尉のおごりか?」

 

「ああ。初配属だからな!お代は俺もちだ。」

 

そう告げるのを見てニヤリ、と笑う。

 

「言ったな…でも私結構食べるぞ。後悔するな?少尉」

 

「ははは!うちの料理は量が多いからな一品で満足するんじゃないか~?」

 

余裕綽々なチャック、しかしそれは直ぐ様瓦解する。

 

「ハム…ハムハム…んぐ…!」

 

暫くしてテーブルに置かれた皿、皿、皿…積み重ねられた綺麗に平らげられそれは強者どのも夢の後でありその総大将であるチャックは戦々恐々としていた。

 

「あ、いやエミリア…?いや中尉殿?そろそろもういいんじゃないかなって…」

 

「男に二言はないはず。みっともない」

 

「わーエミエミ、モリモリ!フードファイターみたい~」

 

「一体その細い身体の何処に入っているの…?」

 

「すごい食べッぷり…でも凄く綺麗に食べてるわ…あ、頬っぺたにご飯粒着いてるわよ」

 

「モシャモシャ…んぐんぐ…ん、ありがとうカナメ」

 

食べカスが頬に付いているのを見つけたカナメがハンカチで拭う。反射的に出た感謝の言葉にカナメが笑みを浮かべた。

 

「ふふふっ」

 

「お疲れさまです。カナメさん」

 

「お疲れさまです。アラド隊長」

 

勤務が終了し裸喰娘娘にやって来たデルタ小隊の面々を見て食事を中断し立ち上がるエアリスを見て手で制止するアラドを見て直ぐに席に座る。後ろからやって来たメッサーへ会釈をすると一瞥だけして奥の席へ消えていった。

 

「無愛想…」

 

「?そうか?そんなものだろう」

 

そう告げると四名が驚いた表情を浮かべる。

 

「まぁ…明後日から模擬戦だ。変に馴れ合いするよりはいいだろう」

 

その幼い見た目からは想像もつかないドライな感想にアイシャとカナメは苦笑いを浮かべていた。

 

「ブランシェット博士。中尉はどうです?」

 

「…想像以上です。埃を被っていた機体を扱ってくれる、というのなら倉庫の肥やしにもならないし戦力増強になりますからね」

 

「そうですか…博士のお墨付きとなれば尚更、ですな」

 

「ええ。」

 

それはそうと手は料理に伸ばされており店内にチャックの悲鳴が響き渡ったのを店の面々が笑みと苦笑を浮かべながら見ていたのは別のお話。

 

◆ ◆ ◆

 

「ここが女子寮か…」

 

「ええ。ここで一緒に暮らすことになるの。エアリスちゃんは私と一緒の部屋よ?」

 

「同室、だと?」

 

疑問を口にするとカナメはイタズラっぽい笑みを浮かべる。

 

「ええ。そうだけど…イヤだった?」

 

「いや、そう言うわけじゃない。だがいいのか?」

 

同性とは言え”ワルキューレ”のメンバー…そのアイドル的な立ち位置の彼女の部屋に異邦人が入っていいものかと考えるがカナメは有無を言わさずにエミリアの腕を取って歩き出した。

 

「同性なんですもの。構わないわよ」

 

「結構強引だな…」

 

自分よりも年上の女性に姉の姿を重ね「まあ、いっか」となっている自分がいたことをエミリアは気が付いていない。

 

その日の夜。

 

「……すぅ…すぅ…」

 

「こんなに…なんて…」

 

同じベッドに寝息を立てているエミリアの溢れる前髪を指先でかきあげる。

その穏やかな寝姿はとても日中の立ち振舞いとは似ても似つかわないものだ

外界を知らないある意味で無垢な体躯で機動兵器を駆って敵を討ち滅ぼしてきた、なんてのを彼女の口から聞かされたが信じられない。

 

「きっと…本来なら戦いなんて知らない優しい子供だったんでしょうね…」

 

置かれた極限状態。楽しい、という感覚を奪われ娯楽すらも知らない。戦うだけを要求されその存在意義を見いだすために実姉と死闘を演じる…。

エンターテイナーの一翼を担うカナメは考えてしまう所があったが自分が彼女を責めるのはお門違いだろうし悪いのは戦争だ、と思っている。

 

「………お、ねぇ…ちゃん…」

 

「ッ……」

 

ぼそり、と呟く声が聞こえたが寝言だろう。

その声色が酷く悲しいモノで”愛”に飢えたものだったと思うと前髪を下ろしていた指にエミリアの手が握られる。

それを見たカナメは明かりを消して布団に潜り込んでエミリアの側へ近づく。

 

「おやすみ。エミリアちゃん…」

 

カナメはエミリアをそっと寄り添い夜の帳が落ちるのだった。

青い惑星に優しい風が吹いていた。

 

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