魔改造バルキリーで銀河を駆け抜けたい   作:萩月輝夜

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新星-ニューフェイス-

ラグナの青空に駆け抜ける二機の可変戦闘機が飛び交う。

黄色く塗装された”ジークフリード”が赤を基調として黒のラインが走る塗装された”エクスカリバー”の背後を取り射撃する。

 

<うぉおおおおおっ!今日こそは昼飯奢らせねぇええ!>

 

もう何度目かの昼御飯を掛けたドッグファイト中のエミリアとチャック。

すさまじい気迫で背後を取り機体にペイント弾を当てようとするが当たらない。機体を軽く傾け回避したそれは弾道を予測しているのかと思う程だ。

 

<う、そだろ…っ?!き、消えた!?>

 

回避と同時に雲の中に消え索敵するがレーダーへ視線を映したその瞬間、背後から赤い影が飛び出しバトロイドへ変形し勢いそのままに近づく。

接近に気がついたチャックが展開したガンポッドを放つがヒラリ、ヒラリと回避して当たらない。

 

「いい射撃だ…だが…その瞬間に当てられなくては意味がないぞチャック少尉!」

 

<嘘だろ…今のを避けるのかよ!?>

 

「いただきだ…!」

 

エミリアの”エクスカリバー”は直前に変形して逆さになりながらガウォークとなって”ジークフリード”の背面を取りトリガーを引くとペイント弾が降り注ぎエンジンナセル、コックピット、主翼を撃ち抜かれ撃墜判定を貰う。撃たれた勢いでよろつく”ジークフリード”を尻目に”エクスカリバー”を左で機体を傾ける。

 

<くっそぉおおおっ!>

 

「!…むっ。来たか」

 

<オメガ1今日こそはッ!>

 

「勇ましいな、だが…バレバレだぞ?」

 

「なッ…!?」

 

<うおおおおおおっ!?ミラージュお前っ>

 

「くっ…すみませんっ、デルタ3!」

 

後方より現れたミラージュの”ジークフリード”がチャックに集中している隙を突き後方より攻撃を仕掛けるがエミリアは操縦桿を倒しペイント弾の一射を回避しチャックの”ジークフリード”に直撃してしまった。

機体を直ぐ様ファイター形態へ変形し旋回、スラスターを吹かして距離を取る”エクスカリバー”を追跡するワインレッドの”ジークフリード”はミラージュの機体だ。

 

「味方に誤射、マイナス1点だな。コントでもやっているのか?」

 

回避しスラスターを吹かし急加速し再び雲の中へ飛び込む。

 

「エミリアの奴…環境を上手く使ってミラージュ達を圧倒してやがる。こりゃまた落とされるな…」

 

「”ジークフリード”と比べ”エクスカリバー”の方が大気圏内機動は上ですが…マシンスペックでは前者の方が上です」

 

「前進翼機体はじゃじゃ馬が多いが…エミリアの奴いったい向こうでどんな機体に乗ってやがったんだ?」

 

「身体の負荷を想定しない危険な飛び方です。俺でもあんなリスキーな乗り方…出来ませんよ」

 

「俺だって無理さ。聞いたか?ISC最大稼働を越えての加速をやってのけてるんだと。ブランシェット女史が驚いていた」

 

「…アイツ、本当に人間ですか?」

 

その光景を艦橋で見ていたアラドとメッサーがそれぞれに感想を述べていた。

一方で外で繰り広げられる模擬戦は決着がつこうとしていた。

 

<とらえ、きれないっ…!な、なにっ?!>

 

次の瞬間雲の中から飛び出す”エクスカリバー”それがいつの間にか後ろに陣取っていたことに気がついたミラージュは操縦桿を握りスロットルレバーを倒し急速旋回しようとするが身体に掛かるGによって身体の身動きが取れずにいるミラージュは視線を外してしまう。

 

「視線を外すような無茶な機動しか出来ないか…慣性制御はそちらの方が上の筈だが…まだまだ使い込みが甘いな」

 

<くぅ…っ!>

 

次の瞬間にミラージュの”ジークフリード”がペイント弾まみれとなり撃墜判定を受けた。

 

◆ ◆ ◆

 

「実際に戦い彼女の実力を貴官らも体験して貰ったと思うが…特務中尉との訓練後に被弾状況の分布図、そして傾向と対策を各自レポートにして提出しろ」

 

「ウーラサー…」

 

「了解しました…」

 

”アイテール”甲板にてエミリアは訓練規定でチャックとミラージュの訓練をメッサーとアラドの提案で行っていた。

何故自分が?と疑問を浮かべていたエミリアだったがアラドより「戦闘機乗りなりの歓迎だ」と分かるようで分からない理由で愛機となった”VF-19advance(エクスカリバー)”を引っ張り出しデルタ小隊の”ジークフリード”との模擬戦を行ったのである。ミラージュ達が彼女の実力を測りたい、という名目だった。

結果は既に出ているが乗って幾つかの模擬戦にて数日中にミラージュ達に多くの黒星をつける勢いで圧倒していたのだ。

 

「…特務中尉から二名へアドバイスを頼めるか?」

 

「私からか?」

 

「ああ」

 

副隊長であるメッサーが”エクスカリバー”から降りてきたエミリアへ声を掛ける。

模擬戦をしてそれぞれにアドバイスを始めた。

 

「ん、そうだな…チャック少尉」

 

「は、はいっ」

 

「インファイトに持ち込まれたときのバトロイドの使い方が甘い。無駄弾も多い。何のための人形なのかを考えた方が良いだろう。だが射撃は見事だった」

 

「お、おう…じゃなかった、ウーラサー!」

 

称賛を貰うとは思わず戸惑うチャックだったが心なしか嬉しそうにしていた。

くるり、と視線をミラージュへ向けると当の本人は姿勢を正した。

 

「さて…ミラージュ少尉は…一言でいうなら真面目、だな」

 

「ま、真面目…?」

 

その言葉に愕然とするミラージュを無視して言葉を続けた。

 

「教本そのままそっくりに読んで勉強したのか?と言うくらいには飛び方が真っ直ぐだな。悪い、とは言わないがそれでは不意の行動に対応できずに撃墜されるのは目に見えているぞ。エースはそれを容易く予測してくるものだ。実際にどれ程ペイント弾を喰らい撃墜判定を貰ったのか噛み締めろ。…だが腕前はピカイチ。もっとバカになれ…とはいわんが柔軟性を持てばメッサーや隊長に一撃食らわせることが出来るだろう。努力することだ」

 

「バカになれ……はっ!」

 

ミラージュはアドバイスを貰い敬礼する。

エミリアの言葉はキツいものが多いがそれでも実になるアドバイスは多い。

年齢こそは年下だが階級は上…しかしその威容と雰囲気がそうさせているのかは分からないが…しかし異世界のエースの実力と言うものは値一千の価値があり敬意を払うには十分すぎるほどの実力を見せつけていたからだ。

 

◆ ◆ ◆

 

「そう言えばミラージュ少尉なんだが…ファミリーネームの”ジーナス”はあの星間大戦の英雄と同じものか?」

 

”ケイオス”の制服…エミリアの見た目はミラージュと同じようなジャケットにショートカーゴパンツ、それにハイソックスとブーツを着用し腰まである絹髪を頭頂部に乗せるようにしているベレー帽の中に仕舞い込んでいた。

それに着替えエミリアは艦橋へ向かう。

 

「ああ。アイツは天才マックスの孫でな。名字で呼ばれるのが嫌いだから出来るなら呼ばないでやってくれ。結構プレッシャーらしい」

 

「勝手な期待の押し付け、という奴か…下らん。自分は自分だろう…と言いたい所だが私と同じだな」

 

身内と比べられる、というのは嘗てのエミリアと重なり思うところがあった。

 

「お前さんの姉、だったか?たしか連合のエースパイロットだったって話だが…」

 

「ああ。一時期私も姉の影を追いかけて殺し合いに発展していたからな…思うところがある。だがその人はその人…他人は…決してそのものにはなれんよ。その影を追い続ければ何れ大切なものを失うだろうさ」

 

その美貌に影を落とすとアラドそれを見て頭を掻いてお手上げ、といった状態になった。

 

「うちの鬼軍曹は手厳しいねぇ…」

 

「みすみす殺されてやるよりましだろう…気にかけていなければこんなことは言わん。…と言うかその”軍曹”とはなんだ?私の階級は特務中尉だ。」

 

訓練規定を終えてエミリアとアラドが”マクロス・エリシオン”の通路を歩く。

アラドの言葉に真顔で反応するエミリアを見て笑い声を上げた。

 

「はははっ!そう言う意味じゃない。昔の映画で訓練兵をしごく教官が軍曹でそっから厳しい教官を”鬼軍曹”って呼ぶ文化があるんだよ。お前さん、変なところでモノを知らんな」

 

「む、そうなのか」

 

勝手に階級が下げられたのか、と一瞬ムッとしまいそうになったが杞憂だったらしい。そうか鬼軍曹か…。

 

「それほど厳しいものか?これでも随分甘くしているが…」

 

「お前さん…一体向こうでどんな訓練をしていたんだよ…」

 

それは、と口を開こうとしたが躊躇ったのは流石のエミリアも不味い、と思ったからだ。

 

(…アレはこっちでも非人道的な訓練だな。敵陣営の中心に投下されそれから撃退しつつ脱出すると言う訓練だったり機体エネルギーがほぼ無い状態で多数を撃退…まぁアレは精神性を育てるアレだったんだろうがうちの部隊は狂人しかいなかったからな。…アレで生き残っていたのは【ネクロシス】の連中だけ。殆どがコーディネイターが殺されたり拷問…死ぬよりも辛い目にあったりして生き残るものはいなかったな…)

 

「いや、気にするな…うん、スパルタ?だったかもしれない」

 

急に考え直したエミリアに疑問符を浮かべたが気を取り直す。

 

「?まぁあのくらいなら連中も食らいついてくるさ。あの程度で折れる程柔じゃない」

 

「ならば良いが…」

 

通路を抜け司令室へ入室するとアーネストが顔を向けた。

 

「どうだ?育成具合は」

 

「どうだ?と言われてもな…本音を言うならまだ及第点以下だな」

 

事実エミリアから一本も取れていない状態なのだから、と事実を述べるとアーネストが豪快に笑う。

 

「はははっ!手厳しいな。だが君にアグレッサー(教官)を頼んで”ケイオス”の航空隊の戦力が向上しているのは事実だ。デルタ小隊を始めにアルファ、ベータ、ガンマ各隊…最近”ヴァールシンドローム”の発生が頻発している…強くなって貰わねばな」

 

”ヴァールシンドローム”の生体フォールド波形の検出が他惑星で検知されこの間も”ワクチンライブ”を行ってきたばかりだった。その際に駐留軍が暴走し鎮圧するという事態が発生した。

”ケイオス”に所属することになりその後何故か教官の任も任せられデルタ小隊だけでなくアルファ等の指導を行う事となった。ワルキューレ”の隠れメンバーとして参加し初めての給料を貰い”ワルキューレ”のベストアルバムとそれを再生できる最新型の携帯端末を購入した位だ。連合にいた時に給料は殆ど発生していなかった気がする。給料を貰ったときに内心で「これがやりがいか…」と思わず呟いた。

 

「事実、エミリア教官のお陰で小隊各部の戦力増強はなされているからな。こないだの出撃も損耗ほぼ無しだ…良い仕事してるぜ。お前さん」

 

「でもパイロットだけをしているわけには行かないですよ。アラド隊長。彼女はもう”ワルキューレ”のメンバーなんですから」

 

会話しているとカナメがレッスンを終えて艦橋に入ってくる。

カナメはエミリアの出撃形態が殆どパイロットとしてであり彼女的にはステージにアイドルとして立って欲しいのだがアラドは逆だった。

 

「そうは言っても嬢ちゃんが優秀すぎてな…演奏しながらバルキリー操作出来るか?」

 

「…いくら私が器用だと言ってもあの熱気バサラのようには無理だ」

 

ライブラリを確認したことがあるがギターを操縦桿にしているという頭の可笑しい…バカと天才は紙一重ということかも知れない。

 

「だよなぁ…カナメさん、半々ででどうです?」

 

「仕方ないですね…でも確りとエミリアちゃんに休暇を与えてくださいね?銀河労働法に引っ掛かっちゃいます」

 

「そりゃ勿論ですよ。ですけどねぇ…」

 

「???」

 

アラドがこちらに困ったような表情を向ける。一体なんだというのか?と思っているとカナメが近づいてきた。

 

「だってエミリアちゃんお休みの日も殆ど資料室に籠って開発資料を読み漁っているか開発局に入り浸っているじゃない。この間だってブランシェット博士に新装備の開発頼まれていたのは知ってるんですからね?」

 

新装備…ああ。アレか。

此方の世界では航空機の技術ツリーが伸びているのでミサイルやガンボッドの性能は著しいが近接武装の発展は前いた世界に比べれば弱い。そのため私が知りうる限りの情報を提示し博士に開発を依頼してテストしていた。

 

「…まぁ自分なりに楽しんでいるつもりではあるんだが。逆にそうしていた方が休まる、というか…」

 

肩をすくめるエミリアに小さく笑い掛けるカナメはすぐ隣を陣取った。

 

「ダメです。確りと休まないとライブ中に倒れちゃう。今度のお休みはゆっくりして一緒に買い物に行きましょう?」

 

「あ、ああ…」

 

玉に、というかカナメは強引なときがある。

エミリアから艦長達へ向き直り持っていたタブレットを操作して会話を始める。

 

「それで…艦長例の件ですが」

 

「ああ、もうそんな時期だったか…」

 

「何の話だ?」

 

「エミリアちゃんには伝えて無かったわね。”ワルキューレ”の新メンバーの件よ」

 

「…ああ、そう言えばオーディションとやらを行う、とは言っていたがそれか」

 

確かにそんなことも言っていたな、と思いだし艦橋のモニターに映し出されていたのは”ワルキューレ”新メンバーのオーディション最終選考!新メンバー求む!とデカデカと表示されている

 

「今回の最終選考で五人目のメンバーを決定か…それで?目ぼしい奴は書類選考の時点で見つかっているのか?」

 

「ええ。数名が候補者として上がっているけれど…数値で見たら及第点、それ以下ね」

 

表示されている最終選考まで残った”ワルキューレ”の卵達…そこに映し出されているのは”フォールドレセプター”の因子を保有しているかを示している。カナメの言葉は厳しいものだが当然だろう。

 

「でも、この間の”アル・シャハル”で逸材を見つけたの。恐らくその子は”ラグナ”に来ているわ。どうもこの子”ワルキューレ”に入りたいらしいから…」

 

そう言って端末を操作しスクリーンに表示する。そこには民族的な衣装を身に纏う少女が軍のVF-171に掴まりながら歌っている場面が切り取られている。そして歌った際に関知されたレセプター数値。

 

「”フォールドレセプター”の保有量は今まで試験に受けに来た子達よりも多いわ」

 

「?頭のアレは…?」

 

エミリアの視界に前髪部分に”ハート”の飾り…それが動いたりしているのを見て怪訝な声を上げた。

 

「”ルン”と呼ばれる特殊な感覚器官を持つウィンダミア人よ。短命な代わりに圧倒的な身体能力を誇るの」

 

「だからか…ノーマルスーツもつけずに空中でその身を晒した状態で何ともないのか…」

 

エミリアは『まるでコーディネイターだな』と口をつきそうになったが黙った。

 

「それで?この娘はオーディションに合格しているのか?」

 

「予選、というか一時予選も通ってないけどね…」

 

「なに?本来なら受けることすら出来ないじゃないか。なるほど…裏口入学、と言うわけか」

 

そう告げると全員が苦笑いを浮かべる。このオーディション自体が”振い出し”なのだから仕方ない。

 

「しかし、カナメのように戦場で戦う決意はあるのか?ただ憧れて…と言うのなら戦場は甘いものではない。全員落とした方が良いだろう。戦いの邪魔だ」

 

戦場において余計なお守りが必要なのは邪魔だ、とエミリアは単純に言っているそれは厳しいものだがその言葉には「余計な傷を負わなくてすむ」という彼女なりの優しさなのだろうと、カナメは笑みを浮かべる。

アーネストが言い聞かせるようにエミリアに語る。

 

「”ワルキューレ”能力向上のために新メンバー加入を進めろ、とレディ・Mからのオーダーだ。無視は出来ない」

 

レディ・M…この”ケイオス”へ指示をだし運営しているという謎の人物からの指示だ。

顔を見せない、というのは正直疑問が残るが給金が出ている以上従うしかない。

 

「上役からの指示ならば従うしかない、か…」

 

「ええ。それに…隊長に頼まれていました”例の件”…調査しておきました」

 

「それは?」

 

カナメがアラドにタブレットを渡す。そこには一人の青年が映し出されていた。

 

「そこのウィンダミア人を連れたまま戦闘をしていた民間人だ。お前さんと同じくな」

 

「そう言えば一人戦闘していた奴がいたような…そいつか。……………踊っているな」

 

その画面に映し出された戦闘データで”グラージ”や”クアドラン”を足を引っ掻け倒したり放たれた至近弾をバトロイドで回避している姿を見て踊っていると表すると乗っていたパイロットの青年を見てアラドが呟く。

 

「”ハヤテ・インメルマン”、か…」

 

「知り合いか?」

 

「少しばかり関わりがな…」

 

「???」

 

頭に疑問符を浮かべるエミリアだったが次のアラドの発言に「正気か?」と思わず問いかけたくなった。

 

「こいつをデルタ小隊に加入させたいと思う。お前さんはこいつを…どう思う?」

 

「どう、と言われてもな…実際に見てみないとなんとも言えない。まぁバトロイドの使い方は上手いが…”戦士の自覚”があるかどうか、だな」

 

◆ ◆ ◆

 

『待ちに待った”ワルキューレ”のオーディション!ここ”マクロス・エリシオン”麓に集う少女達!新たなスターは誕生するのでしょうか!』

 

銀河ネットワークにてアナウンサーがオーディション会場を解説する。

ラグナ”バレットシティ”は活気付いていた。

我こそ”ワルキューレ”の新メンバーに!と息巻いていて”ケイオス”の麓のロビーにいる少女達をエミリアは一瞥し直ぐ様興味が無くなったのか手にした紙コップを煽る。

 

「全員見た目は良いが…戦場に立つ気概がある奴がいるとは思えないな。せめてミラージュ少尉ぐらい強い奴で尚且つ美人でなければ」

 

「っ…中尉は唐突にそう言うことを言いますよね…」

 

「?事実だが」

 

事実を言ったまでであり実際にミラージュほど強くて尚且つテレビ映えするような人物でなければ”ワルキューレ”のメンバーは務まらないだろう、と思っただけであり他意はない。そう他意がないから厄介なのだ。

しかし、ミラージュからしてみれば突如として褒められたので驚いていた。

 

「それに関してはカナメさんがオーディション前にそれは釘を差してくれる、と思います…」

 

「だといいが…む、すまない。アラドからだ」

 

支給されている端末が震えるのを確認しそれがアラドからの着信だった。

 

「何だ?」

 

<例の男があのウィンダミア娘と一緒に来たらしい。案の定、というか予選通過の事をすっぽり抜けていたらしくてな…特例的に受けられるようにしておけ、と伝えた。俺とお前さんの名前を出してハヤテ・インメルマンは此方に寄越す、とのことだ>

 

「そうか…(また役職が増えたな…)済まないがこちらを離れる。新隊員の顔合わせをしにいく」

 

「あ、了解しました」

 

寄越す、と言われて数十分が経過したがその人物は一向に現れない。痺れを切らしたアラドが受付のオペレーターへ連絡しようとするが通信が入る。

 

「いなくなっただぁ!?」

 

<ひぃっ!?すみません…後ろを見たら急にいなくなって…>

 

「分かった…此方でも探してみる。ご苦労だったな…」

 

会話を聞いていたエミリアは「逃げ出したか…」と思い少し呆れる。艦橋から見えるアイテールの甲板を見ているとタブレットに映っていた青年の髪色と同じものが見えたので入り口へ踵を返す。

 

「あ、おいどこに行くんだ?」

 

「逃げ出した青年を迎えに行く。恐らくは甲板に向かったんだろう」

 

「どうして分かる?」

 

「今チラッと同じ髪型と色が見えたんだよ。先に行くぞ」

 

「あ、おいっ…ったくお前さんも大概だな…待てよ、エミリア!」

 

返答を受ける前に艦橋から立ち去ったエミリアを見て困ったように呟いた。

 

◆ ◆ ◆

 

「この間は見事な操縦だったな」

 

甲板に置かれた”ジークフリード”の側で太陽に手を向け海鳥の動きをトレースしていた少年へ声を掛けると直ぐ様振り返る。青髪の若い青年だ。

 

「”ケイオス”ラグナ支部デルタ小隊隊長のアラド・メルダースだ。んで此方が…」

 

「同じく”ケイオス”所属エミリア・レインズブーケだ。それで私の隣にいるのはデルタ小隊副隊長のメッサー・イーレフェルト中尉だ」

 

当然、というかメッサーが一言も発していないのでこちらが自己紹介することになる。

アラドの言葉に喧嘩腰になるのは見事、と言われたからか。

 

「すぐに撃ち落とされましたけどね…」

 

「そうか?素人にしては綺麗に飛ばしていた。それよりもバトロイドの使い方は見事だったな」

 

アラドがそう告げるとハヤテは反応し答えてくれる。

 

「ワークロイドは仕事で使ってたから…慣れだよ」

 

「なるほどな…」

 

「随分と転々としているな…行った先の惑星でも就職先を変えている…”惑星リスタニア””エーヴェル””グレゴル”。多彩だな」

 

「だから?なんだって俺を呼び出したんだよ」

 

「貴様…!」

 

怒るのは無理もないだろう。勝手に調べられたことに苛立ちを隠さないハヤテ。

それにメッサーが反応するがアラドが制止するのを見てエミリアは溜め息を溢すと視線が此方に集中する。

 

「子供かお前は…勝手に個人情報をペラペラと話されれば苛立つだろう」

 

カツカツ、と甲板を音を立て歩みハヤテへ近づくエミリア。身長はハヤテより小さいがその存在感を感じ飲まれそうになるが踏み留まる。

深い碧眼が覗き込むようにハヤテの瞳を見つめた。

 

「な、なんだよ…」

 

「ふむ…戦士の顔、と言うには程遠い…鉄火場を潜り抜けていない甘ちゃんの顔だ。だが、熱意はある、いや燃えずに燻っている、と言った方が正しいか?」

 

突如として言い当てられ驚き一歩後ずさるハヤテのそれを見ながら言葉を続ける。

 

「お前…どうして…」

 

「恐らくだが…まだ自分がいるべき”場所”を探せていないだけだろう。だからここに来て私たちの話を聞きに来た…違うか?」

 

「………俺は」

 

「どうだエミリア?そいつは」

 

甲板上に風が吹き抜けベレー帽を少し押さえながら振り返る。その所作が妙に様になっていた。

吹かれた風に目蓋を閉じていたが風が治まり深い碧色が長い睫を目蓋が押し上げ露になる。

 

「青臭いし戦士には向いてない…だが、私的には合格だ。だが最終決定は彼が決めることだろう?」

 

そう言ってハヤテを一瞥する。

「見せてみろ」と言われているようでハヤテは少しムッとしていたがエミリアに言われた事が的を得ていたのか甲板の縁に立った。

”アイテール”の甲板から地表まで1000メートル近い…落下すれば地上の染みになってしまうが彼は構うこと無くその縁に立ったのは単なる自殺志願者か傾き者か…しかしハヤテはどちらでもなかった。

突如として上昇気流が舞い上がりハヤテはその瞬間縁から体を投げ出した。その光景に三者がそれぞれの反応を見せる。

 

「なっ…?」

 

「ほう…」

 

「こいつ…風を読んだ…?」

 

落ちていく筈の体は落下せずに”アイテール”の甲板縁に戻される。ハヤテは風を読んでいたのだ。

 

「良い感じだ…」

 

「どうだ?命がけでやりたい、と思えたか?」

 

「ああ。…良いね。散々色々な所を回ってきたが…大空をこいつで飛ぶ…」

 

そう言って駐機されているミラージュの”ジークフリード”の機体へ手を伸ばす。

 

「俺はこいつで飛ぶ。だけど俺は軍隊が好きじゃない。だから俺の流儀で飛ばさせて貰う」

 

「…お前のその流儀が貫けるか見物だな。ハヤテ・インメルマン”候補生”。大空は自由だ。だがそれの自由が害された時…お前はどう言った行動を取るか…まぁ今は良い。アラド。どうする?」

 

「ああ。採用だ。」

 

「アラド隊長…しかし…」

 

そう告げるとメッサーが驚いていた。採用決定権はアラドにあり異を唱えるが制止されてしまう。

 

「問題ない。鬼教官どのもいることだしな?」

 

「……分かりました」

 

「良いな?エミリア」

 

「ああ。1ヶ月で使い物にするさ」

 

こうしてハヤテはデルタ小隊に加入することとなった。

その後ミラージュの機体に触れているのを目撃し当の本人がハヤテを”ジークフリード”に乗せ本物の可変戦闘機のマニューバを見せつけ後で惨事になったのは別のお話…。

 

そして”ワルキューレ”にも新メンバーが加入するとカナメからの報告を受ける。

件のウィンダミア人であるフレイア・ヴィオンが最終選考を突破したとのことでその最終試験の内容を聞いて「いやそっちもスパルタだな」となったのは実際にヴァール発生…を再現した場所に彼女を置いてレセプターがアクティブになるかをテストした、というのを聞いてエミリアは少しだけ引いた。

 

 

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