「何処へ行くつもりだ?インメルマン候補生」
”マクロス・エリシオン”にある会議室…そこからそろっと抜け出そうとしているハヤテを見つけたエミリアは後ろから声を掛けるとその声の主を確認し心底イヤそうな声を上げた。
「うげっ…ドS女…」
そのあんまりな呼び名にエミリアのこめかみがピクリを動いた。
「ほう?上官をそのような渾名で呼ぶとは…扱きが足りないようだな」
「いや、その…俺には飛行実技だけで足りている、というか」
「満足に飛行できない奴が実技だけだと?ハッ」
言葉だけは一丁前のハヤテに対して鼻で笑って見せる。確かに飛行機を飛ばす事は出来ているが傭兵としての必要最低限すらなっていない。
「基礎の知識が無い奴が満足に飛ばせるわけがなかろう。システムの恩恵があって飛ばせていることを忘れているのか?それにこの間私が貴様のために補助機能をわざわざ切ってやったというのに失速して危うく岸壁に機体を叩きつけようとしていたのは誰だったか?」
図星、とハヤテは苦し紛れの返答を行う。
「…俺は戦い方を学びたい訳じゃねぇ!空を飛びたいから”ケイオス”に入った…」
「甘い」
ハヤテの”妄言”を甘いの一言で潰した。
「お前が戦おうが戦わまいがお前は既に”可変戦闘機”という翼を手にしている時点で他者を害する”力”を手にしているんだ。」
「………ッ」
その身から漏れ出る殺気がハヤテの言葉を阻止した。
「無知は罪であり、弱さだ。守るための”可変戦闘機”も使い方を知らねば相手を害する”悪意”となる。そんな奴がただ飛びたい?笑わせるな。貴様が死のうが死ぬまいが私にはどうでも良い。だが彼女達を守れなかった、となった場合貴様は本当の”腰抜け”になる。それが理解できているから黙ったのだろう?」
「……ッ!」
「理解した、と言った表情だな…まだハイスクールの子供の方が聞き分けがあるな。さっさと戻ってミラージュ少尉の座学を受けろ。今度脱走した場合は実力行使するからそのつもりでいろ」
「…分かったよ」
「分かっているならいい。ではさっさと会議室へ戻れ。インメルマン候補生」
そう告げ踵を返す。飛べるだけでは意味がないのだから
◆ ◆ ◆
「紹介するわエミリアちゃん。今度から”ワルキューレ”で活動することになったフレイア・ヴィオンよ」
「ふ、フレイア・ヴィオンですよろしくお願いしますッ」
「エミリア・レインズブーケだ。宜しく、と言っても専ら後ろでギターを弾いてるかバルキリーに乗っているからあまり気にしなくて良い」
「ほぇ~エミリアさんまるで熱気バサラみたいやねぇ~!」
レッスンスタジオに顔を出すとカナメが気が付き此方へ手招きされると新しくメンバーとなったフレイアと顔合わせすることとなった。先日顔合わせする機会があったのだがその日は研究室に入り浸っていた為今日が初めてだった。
「…歌は歌わないから安心しろ」
「えっ?!歌わんの?」
「楽器を弾きなから歌を歌うほど器用じゃないんでな(まぁ…出来るんだが言わないでおこう)」
「六人ユニットでのパフォーマンスも良いと思うけど…エミリアちゃんを無理強いは出来ないですからね。さ、お互いに自己紹介が終わった所で…早速練習よ!」
そう告げ”ワルキューレ”メンバーがレッスンの準備を始める。
私は向こうでギターの調整を、と思っていたら美雲が近づき進路を塞いだ。
「貴女はギターを弾いてちょうだい。貴女の音楽は私たちをより高めてくれる…さっ」
今日は調整だけ、と思ったが駄目らしい。美雲に頼まれるとナゼか”駄目”と言えなくなってしまうのだ。
結局練習だ、と言っているのに本域でギターを弾かされ美雲はノリノリで歌っていた。無論フォールドレセプターはアクティブになりご満悦、だったのだが…
「ワンツーワンツー…ほらフレイア!」
「はい~ッ!す、すみません」
「もう一度最初から!余計なことは考えない!」
”ワルキューレ”でのレッスンに参加することになりギターを片手に”恋ハレイションWar”を弾いていると一方でダンスレッスンでカナメの声が飛んでいるのを聞いて振り替えるとフレイアが一人フォーメーションが遅れているのを発見したからだろう。
(まぁ…私には関係ないことだが)
今日の練習を終えて更衣室のシャワーを浴び一息吐こうすると此方に近づく気配がして顔を上げると美雲がすぐ近くまで来ており断りもなくすぐ隣に腰を降ろした。
「どう?彼女」
「どう?とは」
そのままの意味で「どう?」と問われてもどういう意図なのかさっぱりなので鸚鵡返しになってしまったが美雲は不快な素振り、寧ろ楽しげにして快く答えてくれた。
「貴女から見て彼女はどう?という意味よ」
「…はっきり言うならあの状態でワクチンライブに出すのは危険だな。他のメンバーを巻き込む恐れがある。私も彼女を守りきれない」
「あら、結構はっきりいうのね。駄目よ?新人には優しくしないと」
意外、という素振りを見せるがその表情、口角が上がっているのを見て「心にもないことを…」と思いながら言葉を続ける。
「私も新人なんだが?…そもそも彼女の歌には”力”が宿っていない…気がする」
「”力”?」
「…ああ。美雲、お前の歌には”熱意”が宿っているような気がする。フレイアには歌を歌うための確固たる”意思”がまだ不安定だ。だからお前のようにフォールドレセプターがアクティブになっていない」
「へぇ…」
そう告げると美雲は面白いものを見ているように笑みを浮かべる。楽曲や歌に関しては素人同然の私だが他人の”機微”に関しては一日の長がある、と自負している。
「この間のアル・シャハルで計測した時はアクティブだったんだろう?それを同じ状況を作ってやれば良い」
「戦闘に放り込む、と?随分スパルタね。それなら直ぐにでもワクチンライブ…戦場に送り込めば良いじゃない」
「違う。それでは無駄死にさせるだけだ。継続して性能を発揮させる為に”前例”を作り”自覚”させることが大切だ」
「”前例”と”自覚”…一体どんな策を思い浮かべたの?」
美雲が疑問符を浮かべた…振りをしているな、と目の前のミステリアスな美女が演技派だったことに少し驚きつつデータから得た情報をぶつける。
「…私は経験がないから分からないが。誰かのために歌う、とかだろう。自分の歌が誰かの力になる…この歌が大切な人を元気付けるとか…あとは危機的な状況でその歌が活路を切り開く、とかか」
「愛、ね…良いじゃない。歌う理由としては十分すぎるほどよ?」
「…しかし、アイドルで売っている以上一人の人物に”愛”を向けるのは如何なものか。と言うかそんなのがあのフレイアにいるのか…?」
そう告げると美雲は「うふふ」と笑って見せる。目の前の美女が笑うのは中々御目にかかることは出来ない貴重な場面だろう。
「いるでしょうね。きっとあの新隊員の彼ね」
「………ああ。あの問題児か…………あ」
逃げ出そうとしていた
「どうしたの?」
「…あった。甘ったれと不覚悟娘を覚醒させる方法が。あ、いや…なんともロジカルな方法ではないが…いやこの世界ならでは、なのか……だが、しかし…」
「ふふふっ…貴女はやっぱり面白いわ」
ブツブツ、呟いていると美雲がニコニコと見ているのを端でマキナとレイナが顔を見合わせ
「魔性の女…」
「エミエミすごーい…」
「むぅ…」
と呟いているが聞こえずへとへとになっているフレイアを他所にカナメが少しだけむくれていたような視線を向けていたがエミリアは自分の思考に嵌まっていた。
◆ ◆ ◆
「ご馳走さまでした…」
「すごーい!エミリアお姉ちゃんいっぱい食べるねっ」
「エミリア姉ちゃんよく食べるなぁ~」
トレーニングとレッスンを終え一日のエネルギーを消耗し裸喰娘娘でランチを取り終えお行儀の良い食べ方でテーブルの上には大喰らいの男でも嗚咽を漏らす程の特盛クラゲラーメンや大盛りチャーハン、そして餃子が乗せられていたであろう皿が積まれている光景を給仕しているチャックの兄妹達が見てそんな感想を告げていた。
「うん、ここの料理が美味しいからな。幾らでも食べられるよ。まぁ自分の給金だから少し加減しているが…」
「お姉ちゃんいっぱい食べてるの凄い面白いッ」
「そうか…じゃあもっと美味しく食べないとな」
「うんッ」
末の妹に優しくそう告げると厨房にいるチャックがびくり、と反応したような気がしたが気にしないことにした。
しかし、実際にこの世界に来てから食事がこれほどまでに充実しているものなのかと驚いた…兵糧は旨ければ旨いほど兵士の能力が上がっていく、と誰かから聞いたか忘れたが事実だったらしい。
しかし、連日連夜と外食と生活習慣病にお世話になるような食事しかしていないが身体に一切の不調はない、寧ろ好調になっており数値も健康そのもの、QOLが爆上がりしバルキリーの操縦にもキレがある、と自負すらある。
そしてナゼかパイロットスーツを着用すると胸がキツい感覚すら覚えていた。
(体重と腹周りは増えていないんだが…なぜだろう?)
それをレイナに言ったら戦争になるだろうから言わないでね…とマキナ他から言明されたのを聞いて頭に疑問符を浮かべたが真剣な表情で言われたのでモノローグで済ませることにした。
会計を終え今日はこの後どうしようか?と考えていると別テーブル、外の座席が騒がしくなっているのに気が付いた。
「…む?」
「うわっ、なんだ!」
「なんだこいつ!」
外の日当たりの良いテーブルを利用していた観光客だろうそれらは”何者”かが乱入してきたことで驚いているようであったがそれを掻き消すように聞き覚えのある声が響いた。
「あー!アタシのランチー!」
「にゃんこ…」
ランチ?と疑問を浮かべながら外のテーブルを見るとその上にいるのはラグナ原産の水上哺乳類?だろう”海猫”と呼ばれる顔と胴体は猫だが下半身は人魚…いやアザラシのような哺乳類のような尾びれを持つ生物がその口に調理された白身魚が咥えられていた。
「あっ!またあんたは…」
それを見た裸喰娘娘の看板娘、チャックの妹であるマリアンヌが反応し捕まえようと動き出した。
(あれは恐らく…マキナのお昼だったものか…ふむ…昼飯の腹ごなしには十分、か)
テーブルにいる野良?海猫はふてぶてしい表情…所謂”どら猫”であり額に傷があるのは長い間野生で生きてきたのだろう他人から獲物を横取りするのを生業としているのだろうが…人間のご飯を奪う、ということがどれ程愚かで恐怖を味わうかを教え込まなくてはならないようだ。
人が自分を確保しようとしたのを察知した海猫が飛び上がり海へ逃げ出そうとーー。
「何処にいくつもりだ?」
「ヴニャッ!?」
地面を蹴って一息吐く前に魚を咥えた海猫に近づき首根っこを片手で掴み逃げられないようにし持ち上げた。
暴れる海猫をものともせず細腕1本で御して見せていた。
逃げ出そうとする海猫が暴れるが逃げられない、と悟ったのか力なく項垂れるのを確認していると捕まえたことに店にいるメンバーが反応をして見せた。
「い、一体その細腕でどんな力が…」
「つか、いつ動いてた…?」
「動いてたの見えたか?」
「エミエミすごい!フォールドしたの?」
「エミリア、やっぱり規格外」
「いや、普通に踏み込んで意識外から掴んだだけだ」
「いや、それは普通には出来ないんだよ…しかしすごいね!この子にはアタシ達も悩まされていて…ったくこの海猫どうしてくれようか…!」
マリアンヌがこの海猫を”懲らしめ”ようとしているのを見てエミリアは思案する。
「(この状態だと掴んでいる海猫は”処分”されるか…チャンス、与えてやるか)マリアンヌ。ちょっと待ってくれ」
「え?」
エミリアが持っている海猫を預かろうとしていたマリアンヌが待ったを掛けられ困惑していたが当の本人は掴んでいた海猫を地面へ降ろす。降ろした海猫は逃げ出す素振り…というか対面するエミリアを前にして少し怯えており威圧感にやられているのか。
「…良いか。人の世の中にはルールがある。それを破ったらお前は害獣として”処分”される。分かるな?」
「…うにゃ…」
言葉は分かっていない筈だが何故だかエミリアの言葉に頷いているように見えた。
「だから今度やったら私がお前を”駆除”する。良いな?その魚はくれてやる。だが人から奪う、というのは二度とやるな」
「……ッ!」
言葉は通じていない筈だがエミリアの発する気迫がそうさせたのか海猫はこくこく、と頷いて咥えていた魚を飲み込みテラスの手摺から海へダイブしていった。
「…ん?」
「ブニャ…」
潜っていった…と思えば先ほどの海猫が顔を出し器用に尻尾を使い何かを投げてきたのを咄嗟にキャッチすると手に固い感触が伝わった。
「これは…?」
握った掌を開くとその中には日の光に反射しピンク色に淡く輝く貝殻だった。
近くに寄ってきたレイナとマキナが声を上げる。
「綺麗な貝殻。お代?代わりかな…」
「私のお魚…」
「私が代わりに出してやるから我慢しろ…ったくマリアンヌ。マキナに同じものを。そしてあのドラ助が飯を集りに来たら貝殻の破片を貰って私にくれ。代わりに払おう」
「え?ええ…分かったわ…でもアンタ凄いわね…あの海猫にはほとほと…ってドラ助って?」
「あの海猫の名前だ。ギャング・ザ・ドラ太郎と迷ったが…良い名前だろう?」
「あははは…まぁ迷惑を掛けないようにしてくれたのは有り難いけど」
少しだけ得意気ドヤる表情を見せるのを見てマリアンヌが苦笑いしていた。
一方で二人はヒソヒソと顔を見合わせて呟いた。
(エミエミって…)
(ネーミングセンス壊滅的?)
エミリアがこの裸裸娘娘で食事しに来ると海からドラ助が上がって近づき一緒に食事を取る光景が広がっていた、という。ドラ助もエミリアが気まぐれに撫でたり猫じゃらしで遊ぶと反応してみせ放し飼い状態になっているのはまた別の話だ。
◆ ◆ ◆
「エミリアちゃん。今日はオフだからバレッタシティにお買い物に行きましょう」
「唐突……ああ、前から言っていたな。それでは仕度するから少し待ってくれ…」
ラグナにある沿岸高級住宅地の”ワルキューレ”の女子寮。警備が整っているここではミラージュ、フレイア、カナメ、そしてエミリアが住んでいる。
一時期はカナメとエミリアと共に同室だったがエミリアの方から「同室はどうなんだ?」という言葉で元々部屋が余っていたため別々に住むことになったのが一方カナメは少し不満そうにしていた。
今日が出歩く日だった、ということを忘れ朝イチでアイシャの研究室へ行こうとしていたのを悟られなかったのは幸いか、バレていたら少々面倒、いや少し面倒くさい”お話”になるので心に秘めておいた。
割り当てられた自室に向かいクローゼットから衣服を取り出し着替え前髪だけ整え外へ出る。
「待たせた」
「ううん。それじゃあ行きましょうか」
”ラグナ”のバレッタシティへは歩きで十数分程なので二人歩いて向かう。
今日目的の内容をエミリアは聞いておいた。
「買い物、と行っていたが何を買うんだ?荷物持ちに付き合うのは問題ないないが…」
「違うわよ。今日はエミリアちゃんの私服を買いに行くの。だって私服ってそれしかないでしょう?」
「これと”ケイオス”の制服があれば十分だと思うが…」
そう告げるとカナメがズイッと顔を近づける。柔らかな香りが鼻腔をつく。
「駄目よ!女の子なんだからもうちょっと衣服に頓着しないと。それに素材が良いんだからもっと着飾らないといけないわよ」
「あ、ああ…取り敢えず頼む…」
気迫に少しだけ引きながら頷くとカナメから手を引かれ歩く
「それじゃあ行きましょう」
そう言われ連れてこられたのはバレッタシティ内部にある衣服店だ。そこからはある意味でエミリアにとって未知の領域…というかここまで苦戦するものだとは思わなかった。
「良いわね!エミリアちゃん…似合ってるわね!これを買いましょう?」
「あ、いや…もう既に四着目だぞ…」
「うーん、こっちも良いわぁ…さ、エミリアちゃんこれを試着してみて!」
「勘弁してくれ…」
カナメの着せ替え人形と化してしまったエミリアは冷や汗を掻き言われるがままに着替えをしている。既に買い物籠と店舗のスタッフが苦笑いしながら買い物する衣装をレジに運んでいるのを見て少しだけ同情する。
都度思うのだがカナメはエミリアが関わると少しだけ弾けるのは何故なのだろうか?と少し疑問に思っていると声を掛けられる。
「エミリアちゃん!水着を買いましょう!」
「は?普通に着る服だけじゃなかったのか?」
「買い物って言うのはこういうことも醍醐味なの。それにラグナは温帯気候だから何時でも海に入れるの。さお着替えしましょう。エミリアちゃんきっと水着を着ても映えるわ!」
「あ、ちょっカナメやめっ…力強っ」
さっきまで着ていた衣服(購入)を籠に入れて私服に戻った後に水着コーナーに連れて(連行)される。
そしてカナメプレゼンツの水着ファッションショーが開催された。
数着ほど試着した。…中にはほぼ紐だけの”危ない水着”を着せられたがエミリア自体「こういうものか…」とほぼ動じることなく着こなしていた。(水着、という知識がほぼ無く鋳造されてから一年程度のため羞恥が薄い。ほぼ子供と同じ)逆にカナメはその肉体美を目の当たりにして店員共々顔を赤くする、という謎の事態が発生しており「これを着て泳げば良いのか?」と問いかけると凄い勢いで「駄目!」と拒否されエミリアは頭の上に疑問符を浮かべていた。そして何着目化の試着で漸く満足するものが見つかった。(カナメが)
「…これで良いか?」
訓練以外で変な疲れかたをしたのか声に少しだけ覇気がないのは無理もないだろう。
「良いわね…これを買いましょう!」
「やっと終わった…」
決まったのは赤と黒のパレオが着いたビキニ、そしてラグナ産のドライハイビスカスが刺さった麦わら帽子でありエミリアの肢体を魅力的且つ健康的に見せ、少女らしさを演出させるのがこれが一番良かったのだ。
「さて、次はアクセサリーを見に行きましょう?」
「ま、まだ行くのか…」
これで帰れる、と思ったがそう簡単に帰してくれないらしくエミリアは「買い物怖い…」と少しだけ思った。
だが、カナメがニコニコと笑っているのを見て「たまに付き合うのは良いか」と内心で思いながら寮に戻りその日は少しだけ早めに就寝した。
◆ ◆ ◆
「で?どうだ、候補生の仕上がりは?」
「及第点、以下だな…だが悠長に成長するのを待っている暇はないのでな…1ヶ月がそろそろ経過しようとしている。そろそろ最終試験をやっても良いだろう。最近は真面目にミラージュ少尉の講義を受けているようだし…」
”マクロス・エリシオン”の艦橋にて。
いつものメンバーが終結しハヤテ・インメルマンの研修結果を見てエミリアが告げるとアラドが書類から顔を
上げる。
「了解だ。では明日早朝09:00よりハヤテ・インメルマンの”ケイオス”への入隊最終試験を行う。それで?試験相手は誰が?」
「…私がやろう。丁度此方も実戦形式で性能を引き出したいのが一人いるんでな」
「性能…?あああのリンゴ娘の事か。お前さんの言い方があんまりにもあれだからな…」
それじゃ兵器だろ、と思うところが無いわけではない少し苦い顔を浮かべるアラドに対しエミリアは飄々と良い放つ。
「…まぁ言い方はあれかも知れないが戦闘単位で見れば兵士一人の能力を”性能”といっても問題あるまい。少々荒い試験となるが気にするな」
「お前さんが”少々”って言うのは…まぁ救護班と消化班を甲板待機させておくよ」
「頼む」
そう告げヒールの音を鳴らしながら艦橋を出てアイシャのいる研究室へ向かう。
明日の最終試験に向け試験用の調整には余念がない。どれ程あの青年が仕上がっているのかを確認するためだった。
◆ ◆ ◆
最終入隊試験当日。
”アイテール”から出撃する二機の可変戦闘機。片一方はエミリアが搭乗していたが何時もの
VF-1EX。
起源は西暦1999年…
それを候補生であるハヤテは機体上部を青いカラーリングが施されエミリアはクリムゾンレッドで塗装されていた。
該当空域へ機体を飛ばすと艦橋にいるアラドより通信が入った。
<よし、それではハヤテ・インメルマン候補生の最終入隊試験の概要を説明する。両者互いに旋回し両機体が交差した瞬間に試験開始だ。当然ながら今回は模擬ペイント弾を使用する。ハヤテお前の勝利条件はエミリア特務中尉に一発でも当てられたら合格だ。お前は機体に何発貰っても撃墜判定がないものとする。逆にエミリア側はハヤテ側を何発撃っても撃墜判定にならない事とする。制限時間は5分!ハヤテ、それまでに特務中尉に当てられなかったら失格とする。良いな!>
<…ああ、分かってるよ。そこのドSに一発でも当てられたら良いんだろ?>
その言葉遣いにミラージュやメッサーが眉をひそめるが当の本人は苦笑する。
随分と嫌われたものだ、と。
「了解した。ま、無理だろうが」
<んだとっ…!>
通信を終えそれぞれの機体が左右へ展開する。
五○○○…四○○○…三○○○…と距離が縮まっていき対面する機影が視界に入った。
直ぐ様機体が交差した。
<試験開始!>
直ぐ様エミリアは機体を急制動を掛け通り抜けたハヤテの機体の後ろに着いた。
「くそっ!」
トリガーを引き放たれたペイント弾がハヤテ機に着弾しエンジン部分と右翼に直撃する。戦場なら即死だがこれは模擬戦だ。心配はない。
「さて、さっさと終わらせる…不合格となるか…貴様次第だ!」
<ぜってぇ当ててやる!>
勇ましく叫びを上げるハヤテだったが模擬弾を食らった影響か機体のバランスを崩してしまっている、がしっかりと基礎は出来ているのか直ぐ様機体の体勢を整える。
「(さて…此方もだが…向こうはどうかな?)カナメ頼む!少々大人げ無いが…全力で潰させて貰うぞ!」
背後を取られ撃たれるしかないハヤテの機体のFCSを解除した。
「良いカモだな。貴様は敵の撃墜数のカウントを上げる引き立て役だな!適正の無いものを合格させるわけには行かん」
<くそっ…機体のコントロールが……ならっ!>
機体のコントロールを切られたことに気がついたハヤテはならば、と自機のサポートを解除する。機体がガクン、と下がり機動が不安定になる。
「自分で機体のサポートを切る…とんだ自殺志願者だな!候補生!」
<うるせぇ!負けたら飛べ無くなる…!>
機体を制御しようとするが定まらない。アラドよりフライトコントロールを奪うように指示されるが遠隔操縦での脱出をシステム事リンクアウトしているため受け付けない。艦橋からは悲鳴が上がるがエミリアの中では予定内であった。
(ここで死ぬならそこまで…あのリンゴ娘もな…見せてみろ、土壇場の火事場という力をな!)
同時刻、”ワルキューレ”のレッスンスタジオでフレイアがレッスンを受けていたが未だに安定してフォールドレセプターがアクティブになっていない状況を憂えたエミリアの”荒治療”が決行されていた。
突如としてレッスンスタジオにハヤテの最終試験の映像が投影される。
「ハヤテ!?」
「何処へ行くつもり?あなたはまだレッスン中よ?」
「でも、ハヤテが…!」
駆け出そうとするフレイアへ声を掛ける美雲
「彼は今、自分の戦場で戦っている…フレイア・ヴィオン…貴方の戦場は何処?」
「私の…戦場…そうか今、ハヤテも戦って…」
投影された床面には制御を失って墜落するハヤテの可変戦闘機。それに手を伸ばして何のために…歌うという行為を理解しフレイアは言葉と旋律を紡ぎ出す。
それの声色は燃料となって人を動かす”光”と化した。
「歌…?」
ハヤテの耳にフレイアの声が届く。
「フレイア…!?くっ…!」
ハヤテはメットを脱いで感じられるようにする。
一方で待ち望んだ結果がエミリアたち”ワルキューレ”の元に届いた。
「フォールドレセプターアクティブ!」
「わぁ!」
「ふふ…成功ね?」
「エミリアちゃんも無理するわ…」
<早く脱出した方が身のためだぞ…ハヤテ!>
墜落するVF-1EXは間もなく岸壁のアーチに激突してしまう。ハヤテは気合いをいれて叫び操縦桿を持ち上げる。
「ふざけんな…!うぉおおおおおおおおおっ!!」
激突の寸前に機体は持ち上がりアーチを潜り抜け海面に激突すること無く水面をガウォークで持ち上げ上昇するのを確認し艦橋の一同とフレイアはひと安心した。だがここからが本題であり残りカウントは少ない。
「あの状況から建て直したのは称賛するが…さぁ…残り時間は少ないぞ!」
「こっからは大逆転なんだよぉ!うぉおおおおっ!」
背後を取り射撃するがエミリアの可変戦闘機に掠りもしない。再び背後を取られもう何度目かの直撃を貰う、かと思われたがそれはハヤテの作戦だった。
「予想通りだっ!」
機体をコブラさせ急制動を掛け機体を上昇させ太陽直上へ上っていく。
その行き先を目で追っていたエミリアは思わず目を細めてしまう、が”予想できた”範囲だった。
「ほう?環境を上手く使った、なっ…!だが、しかし…!私の真似ではおとせんぞ!」
逆光による人の条件反射を利用し軌道を切らせたハヤテは”バルキリー”を変形させペイント弾を浴びせかけようとした。しかし、それはエミリアに通用しなかった。
「ハヤテ…!?」
「なっ…!?くっ……!?ありか、よっ…!?」
機体を変形させスロットルを目一杯に全開、機体のスラスターを吹かし”ガウォーク”そして機体を即時旋回させたのだ。体にかかる負担などお構いもしない下手をすれば死にかねないマニューバを決めて見せた。
そして落下し接近してくるハヤテの”バルキリー”に対してお返しと言わんばかりにペイント弾の雨を浴びせた。
最後の攻撃チャンスだったそれは無情にも通らずカウントが”0”となる。
両者が機体を建て直しハヤテはあまりの結果に言葉を失うがエミリアが通信を繋げる。
「残念だったな…と言いたい所だが。合格だハヤテ・インメルマン”准尉”!」
「は…?」
「試験の内容は”射撃”を当てること。だしっかり当たっていたぞ?」
「…!それは…」
コックピットには被弾箇所…エミリアの機体の左翼部分ビーコン発射部分にかすった程度の塗料が付着していた。
「言っただろう?一発でも当たっていれば合格、だと。かすっていても一発は一発だからな」
そう告げるとハヤテは”バルキリー”で気持ちを現す用に腕部分を振り上げる。
「釈然としねぇ…!今度はあんたから1本取ってやる!覚悟しとけよ”中尉”殿!!」
「しごいてやる…”ひよっこ”」
ふっ、と笑みを浮かべ言葉を返しここにはいないもう一人の成長を聞いたことで無事にデビューする準備が整ったことに一息吐くのだった。