次回から空中騎士団との本格戦闘です。
ウィンダミア王国、空中騎士団、ヴァールシンドローム。
三つの要素が繋がりブリージンガル球状星団は混迷の真っ只中にあった。
”ランドール”での新統合政府への宣戦布告…文字通りウィンダミア王国は空中騎士団、ヴァールを用いて球状星団内部の惑星を続々と制圧していた。
これを受けたラグナ星系経済連合は民間軍事会社”ケイオス”へ防衛任務を委託した…即ち”戦争”の幕が上がる。
そして惑星ラグナに本拠点を置くケイオス・ラグナ支社内飛行特殊小隊”デルタ小隊”及び”ワルキューレ”はその矢面に立つことは確定していたのだった…。
◆ ◆ ◆
”ウィンダミア”…空中騎士団達が本格的な惑星攻略を開始する時間よりも遡る。
惑星ウィンダミア。
リンゴが主な財源となっている雪に覆われた惑星。雲は日の光を覆い隠し、どこまでも冷たくそして鋭く地表を照らし出していた。
空中騎士団の基地である城塞の外側に向けられたテラスの傍らで彼らは先のランドールで新統合政府へ与する移民惑星、及び新統合政府への宣戦布告は成功した、かに思われたがその戦いに赴いた空中騎士団達の表情は晴れず、年若い少年…ボーグ・コンファールトは悔しさと憎しみの表情を浮かべていた。
「くそっ…!許さん、絶対に許さんぞ地球人どもにワルキューレ…!そして、あの”紅蓮の悪魔”め…!」
白日の下、怒りに任せテラスの手すりを殴り付けた。しびれる痛みが先の戦闘での事を思いだし苛立ちを加速させた。今ごろ整備ドックでは被弾した自らの機体である"Sv-262Baドラケン”が破壊された左腕パーツを換装し修理していることだろうそれは自らの右手の痺れとリンクしていた。
ボーグはあの時…確実にパープルレッドの機体を背後に捉えていた。味方を撃つことに怯え、ロックオンに時間を掛けている生温い覚悟を持っていた地球人を正に撃ち落とそうとした瞬間だった。
ルンに割り込んできた兵士…女の声。
直後に放たれた大口径狙撃弾は夕暮れの大空を切り裂き、自らの機体を僅に外し、右翼のゴーストと主翼を木っ端微塵に吹き飛ばした。
即座に体勢を整えて左翼ゴーストを分離し、ミサイルで反撃して見せたが、深紅の可変戦闘機は機体を翻してあっさりと回避して見せたのだ。それどころか、此方の反応が遅れる死角を正確に予測して見せ、高初速の電磁弾丸でゴーストを破壊して見せたのだ。
(あの機体越しに伝わってきた…まるで此方へ『操縦に驕りがある』とでも言いたげなあの気配!夕暮れの光を浴びてギラギラと輝く奴の…深紅の装甲とエンブレムが今でも頭を離れない…!)
夕日に照らされた深紅に輝く装甲と緑色に輝くゴーグルフェイス、そして『割れた棺桶と聖女の横顔』が頭を離れなかった。
ボーグが苛立ちを見せルンが赤く輝く、其を見ていた空中騎士団での古参である老騎士であるヘルマン・クロースは見かねて声を掛けた。
「落ち着け、ボーグ。怒りは風を乱すぞ」
「マスター・ヘルマン!しかし…」
「分かっている。だが落ち着け」
「…はい」
腕を組んで、眩しそうに目を細めて自分より若い空中騎士団のメンバーを見たヘルマンは重々しく口を開いた。
彼の脳内にも、ランドールでの空の異様な光景が焼き付いている。
「…しかし、あの深紅の機体、VF-19のカスタム機だろうあれを操るパイロットの戦術思想は新統合軍の其とは根本的に異なる。ロイド宰相が全銀河へ大義を告げる、そのタイミングで地上から躊躇いなくアンチマテリアル・ライフルを構え、白騎士様の機体を狙う、とはな。動揺している素振りすら見せない思い切りの良さ…一体何者だ?」
ヘルマンは、大空に王国の紋章が神々しく投影され、大義の演説が始まった瞬間を思い出していた。
誰もが言葉を失うその最中に、奴は物音一つ立てずに、冷徹に引き金を引いたのだ。
まるで『戦場で悠長に演説をしている場合か?』とそんな呟きすら聞こえてきそうな一撃がやってきた。しかしそれは咄嗟に動いたボーグの機体が請け負い左腕が吹き飛んだが、もしあの場でボーグが気がついていなければあの白騎士と呼ばれるキースも直撃を避けられなかった。下手をすればあの場で自分達の空中騎士団の頭目である者を失っていたことだろう。
名誉も、礼儀も、大義の言葉を無視して『戦場に置ける最適解(排除)』を選択できる合理主義。あれは、ただのパイロットではない。数多の地獄を潜り抜けてきた、本物の”戦鬼”だ、とーー。
「確かに、俺たちのゴーストが追撃を仕掛けたときも、あの深紅の機体の挙動は異常でした」
ヘルマンの隣に立つ大柄な体躯を持つカシムが会話に参加した。
「ミサイルとレーザーが飛び交う網の中に、確かに奴を捉えたと思った。だが、深紅の機体は、まるで此方の射線が最初から見えているかのようにロールして対応して見せた。一切被弾しない奴からは逆にゴーストを全部撃墜されて被弾してしまった。反撃の手筈を整える暇を与えない…圧倒的な強者『エース』と呼ぶにふさわしいプレッシャーを俺はルンに感じました」
カシムは自らの短い寿命(ウィンダミア人の宿命)を自覚しているからこそ、その焦りや憎しみすら『隙』として利用してくるあの深紅の機体…その戦闘機動に、底知れぬ恐怖を感じていた。
「まるで、俺たちの焦りを見透かしているようだった。声からして若い少女だろうな。若いくせに、あまりに息をするように戦い慣れが過ぎているでしょう…」
「「………」」
ボーグとヘルマンがカシムの言葉に認めたくはないがそう感じていた。あれは”強敵”だと。
ボーグは手すりに掛けていた手を拳にして握りしめる。
「覚えていろ…”紅蓮の悪魔”め…!その機体、俺が地に叩き伏せてやる…!」
ボーグが名付けた二つ名。それはいつのまにかそれが空中騎士団の中で定着していた。
「”紅蓮の悪魔”か…フッ、深紅の機体を持つ奴にはおあつらえ向きの二つ名だな」
「………」
三人が集うテラスにはウィンダミアの冷たい風が流れ込んでいたがその体に纏わりつく熱は一向に冷めることはなかった。
◆ ◆ ◆
ロイドとの会話を終え、飛行訓練を終えたキースは自らの愛機である”Sv-262Hs ドラケンⅢ”から降り立ちドッグのゲートから僅に差し込む太陽の光を浴びた黒いエネルギー転換装甲に照り返す横顔は、冷徹でありながらも、奇妙な高揚感を孕んでいた。
「あの深紅の機体…」
キースの脳裏には、背後から放ったビーム砲の射線を、強力なGを無視した変形(ガウォーク)で紙一重で回避しレールマシンガンで自らの装甲を撃ち抜いて見せたあの機体の姿を焼き付いていた。
「手応えの無い新統合軍の中で、唯一、我が風の翼と対等に渡り合える技量…此方の攻撃を回避し、墜落を恐れずにスラスターを吹かして距離を取るあの大胆な身のこなし」
キースはドックの外へ向かいながら歩き始める。腰に差している剣の柄に手を当て、外へ出ると曇り空が広がるウィンダミアの空を見上げた。その時宰相室でロイドと会話していた事の内容を思い浮かべる。
(ロイドは、ケイオスのデルタ小隊と”ワルキューレ”が我が国の計画の前に立ちふさがる『最悪の不協和音』だと警戒している。だが、俺にとっては違う。戦場で名誉も大義も無視して最適解を叩き込んでくるあの合理的な塊、邪道とも言える手段を迷うことなく取る奴は…)
キースの瞳が、太陽の光よりも鋭く輝く。彼の脳内には深紅の機体のエンブレムが脳内に留まる。
「だが、奴の風は我がルンに熱き風を感じさせた。次に空にまみえる時が、我が命が尽きる時か、それとも奴の傲慢の翼を叩き折る時か。何れにせよ、
◆ ◆ ◆
ところ変わって、惑星ラグナに停泊するマクロス・エリシオンのブリーフィングルームにて。
集められたデルタ小隊と”ワルキューレ”のメンバーは思い思いに作戦会議までの時間を過ごしていた。
あるものは先の戦闘に関して考えを巡らせ、あるものはグラゲチップスの七味マヨ味を堪能し…あるいはバニラクラゲゼリーシェイクのビックをチビチビと吸い込みながら持ち込んだパソコンを高速で叩き流れる文字を視線で追いながらプログラミングするエミリアの姿があった。
カタカタカタ…とキーを叩いていたエミリアが顔を上げると同時にエンタキーがカチリ、と押された。
ラップトップの中ではエミリアの元いた世界で使用されていた技術を此方の世界で再現できないか、と考えが纏められていた。
『特殊な重力下で錬成された装甲材に電圧を流し実弾を無力化する』、と。
(エネルギー転換装甲とはまた違ったアプローチ…これが実在するのならレールマシンガンやミサイル系統は無力化出来る…上限はあるだろうな。一部の機体にこれが搭載されていた、が殆どがバッテリー駆動で実弾を八十七発受けると機能停止…所謂フェイズシフトダウンしてしまう為実用的か?と言われればソコまでなんだが…この世界にある可変戦闘機の動力は核熱タービンエンジン…
しかし、エミリアは装甲ではなく別の部分へ目を付けていた。
(それよりも…このPS装甲を可変戦闘機の内部フレーム…所謂機体の剛性を強化することに使えないだろうか)
それが可能であれば可変戦闘機の可変と言う金属疲労の軽減、剛性の強化、熱核タービンエンジンが生きている限りその剛性は継続し従来のバルキリーとは一線を画した加速力、可変システムの新しい道を獲得することが可能、と言うことだ。
(しかし、昔その機体に乗っていただけでマスターデータは持っていないからな。どう作れば良いのか
ラップトップを閉じてバニラクラゲゼリーシェイクを啜るとブリーフィングルームの扉が開いたのを確認し、室内にいた全員がそちらへ視線や体を向けるとアーネスト、アラド、カナメが入ってきた。
「始めるぞ」
デルタ小隊とワルキューレが勢揃いしブリーフィングルームの落とされ室内のホログラムが展開した。
アーネストが重々しく口を開いたがその声色は愉快、冗談交じりの色が乗せられていた。
「ーーされ、特務中尉の大胆極まりない『演説ぶち壊し狙撃』のお陰で少々しまらない幕引きとなったが、敵は全銀河へ向けて明確な宣戦布告を行った」
その言葉にこの場に集う全員が反応を見せる。愉快だったり、苦笑だったりと…其々だ。
言葉を引き継いだのアラドであり室内のホログラムを操作する。
「惑星ウィンダミア。ラグナから八百光年離れた次元断層に囲われた惑星だ」
薄暗い室内の大型ホログラムディスプレイには、先日の惑星ランドールでエミリアがアンチマテリアル・ライフルで撃ち抜いた深い緑色の可変戦闘機…『Sv-262ドラケンⅢ』の三面図が立体的に浮かび上がっていたのをアーネストが腕を組んで説明する。
「こいつを操るのが”空中騎士団”王家に仕える翼の騎士達であり…あの黒い機体がダーウェントの”白騎士”だ」
「”白騎士”?黒じゃねぇの?」
「元々白銀の機体に乗っていたんだがな」
「へぇ…って?!」
「腐れ縁、って奴だ」
勝手知ったる、という素振りを見せるアラドとアーネストを見てその事を把握したエミリアは多くは語らず頷いて見せた。
(統合軍の方でアグレッサーとして配置されていた、そうならば顔見知りなのも頷けるな…)
「新統合軍のパイロットが操られていたのは…ウィンダミア?」
メッサーが端末を持って呟くとカナメが返答する。
「恐らく」
「それじゃあ、これまでのヴァールシンドロームも?」
その事にチャックが反応する。
「いいえ。ウィンダミアが関与していたのは一部。強力な生体フォールドが確認された事案だけ、と本部は考えています」
「今までのは…」
「実験…」
その問いかけにレイナとマキナが恐ろしいものを感じていた。
「そして今回…暴動ではなく、統制のとれた行動を取れるまでになっていた。ヴォルドールでも新統合軍の多くが操られていた。ほぼ、無血降伏だったらしい」
その事にミラージュとチャックが驚く。
「戦わずにして一つの星を!?」
「一体どうやって…」
その問いに答えるように美雲が返すと”ワルキューレ”の面々が口々にした。
「歌が…聞こえたわ」
「歌…?」
「誰かが歌とった…」
「綺麗な声だったけど…」
「ヒリヒリ、痛かった…」
「あれは、男の子の声」
「男の子…?うん、あれは…」
アラドは隣にいたカナメにも問いかける
「カナメさんにも…?」
「はい…」
もたれ掛かっていたソファーから立ち上がり外側に接しているガラス面に手をかざすと液晶が外の風景から青い炎が吹き上がった。
「天使か悪魔か…あれだけのヴァールを一瞬で虜にしてしまうなんて…感動的じゃない?」
「聞こえたか?」
「いいえ…”ワルキューレ”メンバーにだけ聞こえたのでしょうか?」
「俺にも聞こえた…」
「はぁ!?」
「いや、聞こえた、というよりも感じた…?」
チャックとミラージュが会話しているのにハヤテが加わり聞こえたことに驚いていたがその首に掛けられたディープパープルのネックレスを持ち上げていた。聞こえたことに割って入った。
「…因にだが私にも聞こえたぞ」
「あら、やはりエミリアにも聞こえていたのね」
「中尉もですか!?」
驚くミラージュを他所に美雲はさも当然のように驚きはしていなかったが感心する素振りを見ていた。
「ああ。白騎士達と戦闘しているその前…だったか、少年の声が聞こえた。”ワルキューレ”の暖かい声色ではない…暗く冷たい孤独な声だった」
「へえ…」
驚くミラージュを見て頷いた。
”エクスカリバー”に搭乗している時に聞こえたのはその少年の声だった。
その言葉にフレイヤが反応して見せる。
「光よりも早く時空を越えて届く歌声…まるで”風の歌い手”みたいやね」
「風の歌い手…?」
ハヤテが首をかしげたので記憶にある情報を伝えた。
「ウィンダミアに伝わる伝説だよ。”ルンに命の輝きを”という奴だ…だが…」
「どうしたエミリア。何か気になることが?」
アラドが此方が考え込む素振りを見せたので気になったのか声を掛けてきた。確定的な情報がない中で不安要素を告げるのは好ましくなかった。だからと言ってここで無言になるのも違うな、と判断し戦場で聞いた声色と伝承の文面から感じ取ったものを排除して告げた。
「”寂しい”という感じだった。無理矢理歌わされているというか…ただそれだけだ」
そう告げると所感だろうと判断したのかアラド達は意識を別の事に向け始めた。
しかし、エミリアは告げなかったの不確定要素を飲み込んだ。
感じたあの声色…あれは。
後日。”ケイオス”ラグナ支部の大会議室にて。
会議室に着席したデルタ小隊並びに”ワルキューレ”メンバー他が一同に介する場にて説明があった。
その事にエミリアは口を開いた。
「依頼内容の変更?」
「ああ。ラグナ星系、自治組織連合からの要請だ。今まではヴァールに暴動による対応のみ。それにウィンダミアからの侵攻行為による対応が追加された」
「即ち、戦争ってことだ」
「それに従い、私達も契約の更新を行います。”ケイオス”は民間組織です。契約の更新に納得できなければ除隊することも出来ます」
そうカナメが告げると対面する会議席から其々声が上がる。
ミラージュ、メッサー、美雲…と主要メンバーやマキナが声をあげると整備兵達が勇んだ声で賛同する。
レイナに至っては電子押韻すら持ち出す始末だ。
「私も更新します」
アイシャも頷き更新する素振りを見せる。彼女がいなければ機体の整備や新素材を乗せた機体を調整できない為残ってくれて安堵したのはここだけの話だ。
「エミリア、お前さんはどうする?」
そう問いかけるアラド。思案する暇もない程に即答した。
「無論、更新する。ここで離脱したら”デルタ小隊”の戦力低下に”ワルキューレ”からスキャンダルが出てしまう。それに飯を食う手段がなくなってしまうからな」
そう告げると会議室に集まったメンバー達から笑い声が上がる。事実ここを追い出されてしまったら生活費を稼ぐ手段を失ってしまうからだ。ご飯が食べられなくなる…死活問題だった。戦力低下…というのはアラドもアーネストも同じことを思っていたらしく一安心という風の素振りが見えていたが口出ししないことにした。
「スキャンダル…ということならフレイア、あなたスパイ容疑が掛けられているわよ?」
「へっ!?」
「美雲!」
「隠していても仕方なのないことでしょう?此方と対峙しているのはウィンダミア…そのウィンダミア人が”ワルキューレ”に紛れ込んでいるとなれば世論も本部も疑うのも無理はないわ」
美雲の言うことは正論だった。朱に交われば赤くなる…その言葉の通り敵対組織の人間が此方にいれば疑われるのも無理はなかった。
「1日でも早く信じてもらえるようゴリッゴリ…頑張ります!」
美雲にそう告げると面白そうなモノを見る目でフレイアを見つめた。
「そう…頑張りなさい」
「ハヤテ、お前はどうする?」
アラドがハヤテの方を向く。声を掛けられたハヤテは躊躇うように考え込んだ。
「俺は…」
「…まだ、時間はある。考えておけ」
(迷っているな。…だが更新するだろう。フレイアの件を考えればこいつは逃げないだろう。心配は…不要か)
◆ ◆ ◆
”マクロス・エリシオン”での更新を終えて裸裸娘々で夕食を取る頃にはすっかりと暗くなっていた。
その夕食後、美雲からお誘いがあった。
「エミリア。貴女の同じ場所でステージを見たいの。食後の空中遊覧、つれていってくれない?」
「…食った分を戻さないでくれよ?」
その一言を受けて”マクロス・エリシオン”の”アイテール”に戻ってきた二人はパイロットスーツに着替え”エクスカリバー”に搭乗し許可を受け発艦した。
発艦する際の機体のブレを極力少なくし夜のラグナの空を駆ける。快風に乗った聖剣は安定した挙動を取っていた。
「静かに飛ぶのね…気持ちいい」
「当然だろう?後ろには超VIPを乗せてるんだ。そこいらの超高級車の運転に負けない安定を取ってるよ」
「そう…ならメットは要らないわね」
「あ、ちょ、おい…!」
そう告げ美雲はメットを外す。納められていたパープルの髪がふわりとコックピット内部に広がる。
制止を無視してメットを外す美雲に呆れながら少しだけ意趣返しをして見た。
「その余裕がどれだけ保てるか…試してやるッ」
「きゃっ!」
機体をブレイクしスロットルを開きエンジンの回転数を上昇させる。
ベクタードノズルが音が高くなり機体が加速していく。
「やったわね…でも風を感じる…良いわね。その速度のままでいなさい?…ーーーーーーーーッ!」
コックピット内部に美雲の声が響き渡る。心地よく力が沸き上がってくるのを体で感じた。そのまま操縦桿を持ちフットペダルを押し込む。
「いい歌声だ…!」
機体を動かし上空へ飛翔し可変、バトロイドに変形し降下しながら月が照り返す海の上で踊るように演舞する。
彼女の歌声でポテンシャルが上がっているのは気のせいではなく今乗っている彼女達には気がつかないが”エクスカリバー”の機首付近に搭載された純度の低い筈の”フォールドカーボン”が淡い光を放っている事に。
「満足か?」
「……ええ。貴女と一緒にいると私はもっと輝けるみたい」
好き勝手に暫く飛んだ後、低速でラグナの上空をピロートークのようにゆったりと飛んでいた。
コックピット内は静かだ。だがそれは気まずいという雰囲気ではなく勝手知ったる仲での黙りだった。
「ねぇエミリア。聞いてもいいかしら?」
「…なんだ?」
「ブリーフィングルームで、アラド隊長が貴女に問いかけた時…何をいい掛けたの?」
「なにがだ?」
「あれ、思っていたことと違うことを言っていたでしょう?」
「……やれやれ。勘が鋭いのも考えものだぞ美雲」
「わかりやすい貴女が悪いのよ。で、何を考えていたの?」
「……伝承と状況を考えれば自ずと答えは出る。まだ不確定要素だ。不安にさせる必要もないと思ったんだが…仕方ない」
そこで言葉を切って美雲に自分が考えていたことを告げる。
「…………そう」
『命を燃やして歌声を届けようとしているのではないか?』
という言葉がコックピットに広がると後ろの座席にいる美雲が息を呑んだように感じた。