BIOHAZARD: Re-Genesis   作:ヨシフ書記長

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ちょっと次の話に行く前のオマケです。


良薬の条件

東スラブ共和国の山間部にひっそりと設立された、ブルー・アンブレラの仮設研究施設──『対バイオテロ検疫・防除センター』。

 

最新鋭の機材が運び込まれた無機質なラボ空間には、およそ似つかわしくない青々とした植物の鮮烈な匂いと、鼻腔を突く独特のエグ味が充満していた。

 

広大な工場や防衛設備を建設する前段階として、彼女がこの土地で最初に着手したのは、他でもない「アークレイ山地原産の特殊ハーブ」の大規模な試験栽培であった。

 

ラクーンシティの消滅以降、バイオテロの脅威は世界各地で頻発するようになった。その中で、アークレイ山地に自生していたこの特殊なハーブが、ウイルスに対してある程度の治癒・抑制効用を持つことが判明。

事態を重く見たアメリカ合衆国政府は、これを国家の重要物資に指定し、各家庭でも有事の備えとして栽培できるよう大々的に推奨したのだ。その影響もあり、現在では世界中の至る所で、植木鉢に植えられたこの植物を見かけるようになっていた。

 

ラボの中央に鎮座するステンレス製の大型ワークテーブルの上には、そんな世界中のどこにでもある植物が、無残に解体されて並べられていた。

根を落とされ、系統別に分類された緑、赤、青のハーブの株。

すり潰されて緑色の滓となったシャーレ。その傍らには、波長を細かく変えながら緑色の抽出液を照射する高速液体クロマトグラフィーや、細胞組織の変性をリアルタイムで捉える電子顕微鏡、そして成分調査用の大型分析機といった最新鋭の実験器具が明滅し、静かな駆動音を立てている。

 

「……」

 

極秘任務の報告に訪れた漆黒の死神・ハンクは、ラボの中央で足を止めた。

 

彼の視線の先には、白衣の袖をだぼだぼに余らせた、肉体年齢わずか八歳ほどの可憐な少女が、踏み台に乗って真剣な眼差しでビーカーの中身を撹拌している姿があった。

その幼い少女こそが、新たな器で成長の過程にある老帝王──エリザベートであった。

 

背後の気配に気づいたエリザベートは、作業の手を止めずにチラリとハンクを一瞥した。

 

「貴様ら……ラクーンシティの地獄から生還した者達からすれば、懐かしい匂いだろう? このハーブは」

 

幼い声帯から発せられるのは、見た目とは裏腹の、傲岸不遜で老成した響きだった。エリザベートはピンセットで鮮やかな緑色の葉を摘まみ上げ、蛍光灯の光にかざす。

 

「面白いことに、ウイルス感染の初期状態であれば、一時的にウイルスの増殖を抑え、細胞組織を活性化させる効能があることがわかっている。実に素晴らしい自然の奇跡なのだが……お前はこれを、現場でどうやって使用していた? 葉をそのまま咀嚼か? それとも粉末状にしてすり潰して飲んでいたか?傷口に塗布していたか?」

 

突然の問いかけに、ハンクはガスマスクの奥で僅かに沈黙した。

思い返せば、血と硝煙に塗れた極限の戦場の中で、自分がこの草をどうやって喉に、どう摂取して流し込んでいたかなど、明確な記憶はない。

 

「分からんか? だろうな。戦闘中の極限の興奮状態──アドレナリンが過剰分泌されている最中で、味覚や摂取方法を正確に覚えておる者など少ない。然しな……飲んでみろ」

 

エリザベートは、ハーブから抽出された成分が凝縮された『真緑の液体』が入ったビーカーを、無造作にハンクへと差し出した。

 

「……」

 

ハンクは僅かに躊躇した。B.O.W.の群れに単身突入する時でさえピクリとも揺らがない死神の指先が、その毒々しい緑色を前に一瞬だけ止まる。だが、主の絶対の命令である。彼は静かにガスマスクの下部フィルターを外し、その粘り気のある液体をグッと一気に喉へ流し込んだ。

 

「──ゴフッ……!!」

 

咽び泣くような、くぐもった咳。

 

飲んだ瞬間、ハンクの味覚を凄まじいエグ味と、舌が根元から痺れるほどの苦味、そして青臭い泥のような強烈な不快感が完全に支配した。鋼の精神を持つ最強の工作員の肩が、微かに…だが確かに震えている。

 

「ふふっ。良薬口に苦しとは、よく言ったものだ」

 

口元を押さえてむせるハンクを見て、エリザベートは満足そうに口角を上げた。

 

「そう、トランス状態の時は気づかんかっただろうが……このハーブは不味い。凄まじくな。だが……コレをどうにか子供でも容易に服用できるようにうまく改良できれば、バイオテロが起きた時、子供らが助かる可能性が劇的に広がる。真っ先に感染の犠牲になってしまうのは、身体が発達しきれておらん未成年だからな…」

 

彼女の言葉は、まるで聖母のように慈愛に満ちていた。

未来の箱庭を担う従順な労働力、その種である「子供たち」を損耗から守ることは、支配者として当然…未来への投資である。何より、「無辜の子供たちを救う甘い薬」の提供は、新生アンブレラを神格化するための最高のプロパガンダになるのだから。

 

「だが、この味はなぁ……うーむ」

 

エリザベートは悩ましげに腕を組み、幼い顔をしかめた。分析機から吐き出される無機質なグラフ用紙を横目に、作業台に並べられたカラフルなハーブの束を睨みつける。

 

「他のハーブ……例えば新陳代謝を強制的に引き上げて傷の治りを良くする『赤』や、毒素を速やかに排出させる働きのある『青』など、有用なものは沢山あるが……どれも味が致命的に不味いだけでなく、口腔を焼くような辛さや、吐き気を催す不快な臭いがある物が多い。液状にして甘味料を混ぜた程度では、この強烈なエグ味は消しきれん。鼻を突く青臭さも残る。パニック状態の子供にこれを無理やり飲ませるのは至難の業だ」

 

舌打ちをした彼女は、ふと、机の傍らに置かれていたハンクの携行食料──高カロリーのレーションと、糖分補給用のタブレット菓子に目を留めた。

 

その瞬間、黄金色の瞳に冷たい閃きが走る。

 

「液状や粉末で摂取させるから、舌と嗅覚をダイレクトに刺激するのだ。ならば、物理的に隔離してしまえばいい…。ふむ、オブラートやカプセルにするよりも…」

 

エリザベスはビーカーの緑色の液体を揺らし、不敵な笑みを浮かべた。

 

「ハーブから薬効成分のみを極限まで抽出し、結晶化させて圧縮する。そしてその外側を、分厚い『シュガーコート(糖衣)』で完全にコーティングするのだ。見た目も味も、ただの甘いラムネ菓子やキャンディのようにすればいい」

 

錠剤化(タブレット)ですか……」

「そうだ。糖衣錠型のハーブタブレットだ。甘いコーティングが溶ける前に胃袋へ到達すれば、あの不快な味も匂いも一切感じることはない。子供でも水なしで、おやつのように噛み砕くか飲み込むことができる」

 

幼い少女の姿をしたエリザベートは、空中で小さな粒をつまみ、口に放り込むようなジェスチャーをした。

 

「それに、粉末や液体のスプレー瓶をいちいち持ち歩くのは、貴様らのような戦闘員にとっても嵩張って非効率だろう? 片手で扱える小型の専用ケース(ディスペンサー)を開発し、親指で弾くだけで一定量のタブレットを即座に取り出せるようにすれば、戦闘の最中でも容易に服用できる」

 

これならば、子供の救命用という「大義名分」を果たしつつ、世界中の軍隊や対バイオテロ部隊への強力な標準装備(ベストセラー)として売り込むことができる。

 

エリザベートの超越的な頭脳は、瞬時にその莫大な利益と影響力を計算し終えていた。

 

「素晴らしい……! 我ながら良い考えだ。直ちに抽出プラントの設計を変更しろ。東スラブの工場が稼働した暁には、この『ブルー・アンブレラ製ハーブタブレット』を第一号の主力製品として世界中へばら撒くぞ」

「……了解しました」

 

ハンクは短く首肯した。口内にこびりついて離れない最悪の苦味を思い出しながら、彼もまた、その「甘い錠剤」の完成を内心で誰よりも待ち望んでいたのかもしれない。

 

 


 

──それから数年後。

 

彼女の思惑通り、ブルー・アンブレラが開発したこの『糖衣錠型ハーブタブレット』は、その圧倒的な利便性と携帯性から、瞬く間に世界中のB.S.A.A.やD.S.O.エージェントたちの「標準装備」として採用されることになる。

 

彼らが死地に赴く際、ケースから親指で弾き出して無造作に口へ放り込んでいるその錠剤が、元々は「子供向けの甘いお菓子」として開発されたものだとは、レオン・S・ケネディもクリス・レッドフィールドも、知る由はなかった。




バイオハザード6で急にタブレット化したのを自分なりに解釈してみました。
いつもゲームで思う薬草…ハーブとかってどうやって使ってるんでしょうね…
傷口に貼り付けたりしてるのかな…青臭そうだな…
それとも小鍋にして食べてたりするのかな

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