BIOHAZARD: Re-Genesis   作:ヨシフ書記長

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ラクーンシティに研究施設作りすぎ問題
あれだけの地下施設作るのに、掘った土砂はどこにやったんだろ


巨躯の従者

 

白衣の裾を引きずり、薄暗い培養室を歩くその足音は、静謐な美術館を巡る好事家のようだった。

 

防腐剤のひんやりとした匂いと、赤色灯に照らされた円筒形の水槽が並ぶ光景。それは外の世界から見れば狂気の地獄絵図だが、彼女にとっては自らが心血を注いだ「芸術作品」の系譜に他ならない。

 

エリザベートは、鋭い爪を立ててこちらを睨むような姿勢で凍結されている爬虫類型のB.O.W.の前で足を止めた。

 

「MA-121型……ハンターαか。それにV-ACTの産物たるリッカー。我が社の初期製品が未だに残っているのを見るのも、感慨深いものがあるな」

 

彼女は愛おしそうに強化ガラスを撫でる。しかし、その視線はすぐに部屋の最奥、コンソールの傍らに置かれた機密ファイルへと向かった。

そこには、東欧の古い伝承と「特異菌」に関する初期レポート――そして、彼女がかつて命を救われ、自らの志の原点となった女性の署名が記されていた。

 

「……ふむ。コネクションの連中め、我が師にすら接触しておったか。我が師よ…貴女が数世紀にわたり磨き上げた『賜物』を…これほどまでに粗末に扱うとはな…。やはり、未だに愛娘の復活に固執されておられるのか…」

 

エリザベートはそのファイルを、宝物に触れるかのような丁寧さで閉じ、傍らに置いた。師への敬意を胸に秘めたまま、彼女は目前の巨大なシリンダーへと向き直る。そこには、アンブレラ社崩壊直前に完成されていたアンブレラ製タイラントの最終モデル『T-200』が鎮座していた。

 

「ふふ……。所詮は我が社の研究と技術を奪うことしか出来ぬ泥棒共め。我が社の残したこれほどの『原石』を使いこなせず、ただ眠らせておったか」

 

師が愛した「菌」ではなく、自分が生涯をかけて選んだ「ウィルス」の極致。彼女はコンソールへと歩み寄り、流れるような指捌きでプログラミングを書き換え始める。画面に浮かび上がったのは、かつて欧州第6研究所が遺した「NE-α寄生体」の改良データだった。

 

「私も記憶を転移させたとはいえ、腐っても研究者だ。……少し手を加えて、更なる知能を授けてやろう。感謝したまえ。貴様を単なる殺戮機械から、新たな段階へと引き上げてやるのだから」

 

エリザベートがEnterキーを叩くと、培養槽内に複数のマニピュレーターが伸び、巨人の延髄へと特殊な触媒を注入し始めた。

T-200の肉体が激しく脈動し、寄生体が「知性」という名の神経網を急速に構築していく。それは彼女の意思を完璧に理解し、対話さえ可能にする「究極の執事」の創造であった。

 

「さあ、目を覚ませ。ワシの新しい脚となり、裏切り者どもに引導を渡すための剣となれ。……お主の主は、ここに再誕したぞ」

 

轟音と共に培養液が排出される。巨人の瞳がゆっくりと見開かれ、そこには生物兵器にはあり得ないはずの、静かで深淵な「理性の光」が宿っていた。

 


 

地下施設の最深部から地上へと続く、巨大な貨物エレベーター。

 

白銀の髪をなびかせ、大人用の白衣をマントのように羽織ったエリザベートは、今や自身の「玉座」となったT-200の屈強な左肩に、優雅に腰掛けていた。

 

「ふむ……。今日からお主の名はセバスチャンだ。ワシの新しい人生を支える、忠実なる執事としてな」

 

タイラント――セバスチャンは、わずかに首を傾け、静かに喉を鳴らした。

 

エレベーターが地上階に到達し、重厚なハッチが左右に開かれる。そこは夜の帳が下りた極秘の物流ヘリポート。

脱走を阻止せんと待ち構えるコネクションの増援部隊が、すでに幾重もの包囲網を敷いていた。

 

「……出たな、実験体! 総員、撃てッ!」

 

十字放火が闇を切り裂くが、銃弾は巨人の分厚い皮膚に弾かれる。

 

「クソッ! 銃弾が通じない! B.O.W.を出せ! 奴らに相手をさせろ!」

 

コンテナの影から、コネクションが独自改修を施した装甲型の「ハンター(改)」が数頭、飛び出した。しかし、エリザベートは退屈そうに指を鳴らすだけだった。

 

「さぁ、セバスチャン。お主の性能を、あの紛い物に示してやれ」

 

セバスチャンが、静かに一歩を踏み出した。

その巨体からは想像もつかない加速。先陣を切ったハンターの鋭い爪を左手で無造作に掴み取り、万力のような膂力で握り潰し、放り捨てた。

続く二頭が襲いかかるが、セバスチャンの背中から突如として噴き出した「NE-α寄生体」の赤黒い触手が、空中で正確にその頭部を貫いた。

 

「……あ、あり得ない……。最新鋭のハンターが、あんな旧型に……!」

 

指揮官が絶望に顔を歪める中、セバスチャンが歩を進めるたび、兵士たちは戦意を喪失し、無様に後ずさる。夜の月光を浴びて輝く銀髪の少女と、巨大な影。それは紛れもなく、死神の行進そのものであった。

 

ヘリポートの制圧を完了し、エリザベートは奪い取った輸送ヘリのタラップの前に立った。

彼女の紅い瞳は、暗い空の彼方を見据えていた。

 

「さて……。我が不肖の息子(アルバート)……あやつが今、世界のどこに潜伏し、何を企んでいるかは分からんが…その企みを灰燼にしてやろう。その為には奴を探す必要があるが…」

 

エリザベートは、小さな掌を固く握りしめた。

 

「何、焦る必要はない。今のワシには無限の刻がある。まずは世界中に散らばった旧アンブレラの秘密施設をしらみ潰しに回り、ワシの隠し資産と遺産をすべて回収する。そして、我が師の恩情を…仇で返すような泥棒どもを……一匹残らず駆逐してやるのだ」

 

セバスチャンがヘリの操縦席へと乗り込み、重厚なローター音が夜の静寂を切り裂き始める。

 

「行くぞ、セバスチャン。ワシの『傘』を再び世界に広げるための、果てなき復讐の始まりだ」

 

少女の冷徹な笑い声が、焦土と化した研究所の跡地に、いつまでも響き渡っていた。




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