BIOHAZARD: Re-Genesis   作:ヨシフ書記長

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ベロニカ、リメイクおめでとうございます。

アレクシアにボコボコにされるウェスカーを見れるかな


記者と亡霊

北米大陸。荒涼とした大地を切り裂くように進む、防弾仕様の漆黒のリムジン。

 

その広々とした車内は、外の過酷な吹雪から完全に遮断され、最高級のシガーと微かな防腐剤の香りが漂っていた。

 

エリザベートは、ワイングラスに注がれた深紅の葡萄果汁を静かに揺らしながら、座席に備え付けられた巨大なモニターを見上げていた。

 

そこに次々と映し出されるのは、闇市場で取引されるB.O.W.のデータ、新興の製薬企業『トライセル』の極秘プロジェクト、そして『コネクション』による特異菌の運用レポート。

 

すべて、かつてアンブレラが心血を注ぎ、スペンサー自身が土台を築き上げた研究の「盗作」と「横流し」の記録であった。

 

少女の可憐な顔に、絶対的な零度を思わせる冷酷な笑みが浮かぶ。

 

「わしの目的は、人類を進化へと導くことだ。そこに変わりは無いが……それを奪おうとする不届き者がいるようだ……それは頂けんな」

 

エリザベートの静かな、しかし絶対的な怒気を孕んだ声が車内に響く。

向かいの席に静座するタイラント――セバスチャンは、主の不快感を察知し、微かに低い唸り声を上げた。

 

「ワシが何世紀にもわたって計画し、莫大な金と血を注ぎ込んで築き上げた『神への階梯』。……それを、どこぞの馬の骨とも知れぬハイエナ共が、己の浅ましい金儲けや、ちっぽけな権力闘争のために使い潰しておる」

 

エリザベートはグラスをテーブルに置き、モニターに映る『アルバート・ウェスカー』の不鮮明な隠し撮り写真を睨みつけた。

 

「アルバート……お主もだ。ワシの与えた力で『神』を気取っておるようだが、所詮はワシの手のひらの上で踊らされていたピエロに過ぎん。創造主を殺せば、自分が創造主になれるとでも思ったか? 浅ましい……あまりにも浅ましいわ」

 

彼女は小さな掌をギュッと握りしめた。

肉体は若く、新たな力に満ち溢れているが、その魂の奥底で燃え滾っているのは、王の玉座を汚された老帝王の果てしなき執念とプライドだった。

 

「人類を次の次元へと引き上げるのは、このワシだ。他の何者でもない。……ワシの描いたキャンバスに、泥棒どもが汚い絵の具を塗りたくるなど、決して許されることではない」

 

リムジンがゆっくりと減速し、重厚なゲートを通過する。

そこは、北米の地図から完全に抹消された、旧アンブレラの地下巨大プラントの入り口であった。

 

「着いたな」

 

エリザベートは立ち上がり、セバスチャンが恭しく差し出した純白のコートを羽織る。

 

「……さて。どうやらこの『貯金箱』にも、すでにワシの遺産を狙う薄汚いネズミ共が入り込んでおるようだが……」

 

モニターの端には、施設内に侵入し、データを漁っている完全武装の謎の部隊――トライセルの私兵部隊の姿が映っていた。

 

「泥棒には、相応の罰を与えねばなるまい。ワシの玉座に触れようとした罪の重さを、その命をもって教えてやろう」

 

エリザベートの紅い瞳が、獲物を前にした猛禽のように鋭く細められる。

セバスチャンがリムジンのドアを開け、極寒の冷気が車内に吹き込んだ。白銀の髪をなびかせながら、再誕した帝王は、己の王の座を奪還するための最初の「処刑場」へと、優雅な足取りで降り立った。

 


 

冷たい雨が、アスファルトを黒く濡らす夜。

アメリカ東海岸の某都市。その裏路地を、コートの襟を立てた一人の女性が足早に歩いていた。

彼女の名は、アリッサ・アッシュクロフト。

かつて地獄と化したラクーンシティを生き延びた数少ない生存者の一人であり、真実を追い求める鋭い嗅覚を持つフリーのジャーナリストである。

アンブレラ崩壊後も、彼女は世界各地で頻発するバイオテロの影を追い、大手メディアが報じない「闇の真実」を暴き続けていた。

数日前、彼女の元に差出人不明の封書が届いた。

 

中に入っていたのは、新興製薬企業『トライセル』の不正な資金ルートと、B.O.W.闇市場の繋がりを示す決定的なデータ。そして、「近いうちに直接、独占インタビューの機会を与えよう」という古めかしいタイプライターで打たれた一文だけだった。

 

情報源(ディープ・スロート)が誰であれ、ネタの信憑性は本物。でも、罠の匂いがプンプンするわね」

 

アリッサは懐の護身用拳銃の感触を確かめながら、待ち合わせに指定された人気の無い路地裏の奥へと歩みを進めた。

 

その時、街灯の届かない暗がりから、ふわりと甘い防腐剤の匂いが漂ってきた。

 

「こんばんは、ミス・アシュクロフト」

 

鈴を転がすような、しかしどこか背筋を凍らせる冷たさを持った少女の声。

アリッサが弾かれたように声の方向へ視線を向けると、そこには、雨に濡れることもなく佇む一人の少女がいた。

白いワンピースに、つばの広い帽子。銀色の髪を夜風に揺らし、少女はスカートの裾を指で優雅に持ち上げ、スッと古風な挨拶(カーテシー)をして見せた。

 

アリッサは、突如暗闇の路地から現れたアンティークドールのような少女を、油断なく凝視した。

 

ラクーンの地獄を潜り抜けたアリッサの直感が、全力で警鐘を鳴らしている。目の前にいるのは、ただの子供ではない。背後の暗闇には、街灯の光を遮るほど巨大な「黒い影」が、声一つ立てずに控えているのがわかったからだ。

少女は、アリッサの警戒を楽しむように口角を吊り上げた。

 

「インタビュー記事をまだ書いておらんようだな、アリッサ君……まぁ賢い判断だ。ハイエナ共が寄ってくるやもしれんからな、ワシと接触していたと分かれば」

「あんた、一体何者? その口調…それに、私にあのデータを送ってきたのはあんたなの?」

 

アリッサは鋭く問い詰める。送られてきたデータの内容は、一介のハッカーや内部告発者が手に入れられるレベルのものではなかった。アンブレラの中枢、あるいはそれに匹敵する組織のトップでなければ知り得ない情報ばかりだったのだ。

 

「ふふ……。記者としての腕は確かなようだが、想像力が少し足りんようだな。……それとも、死んだはずの亡霊が目の前に現れたという事実を、脳が拒絶しておるのかな?」

 

少女の紅い瞳が、路地裏の僅かな光を反射して妖しく光った。

その瞬間、アリッサの脳裏に、かつて取材で目にしたことのある「ある人物」の映像がフラッシュバックした。アンブレラの実質的な支配者であり、絶対的な独裁者。

 

「……嘘でしょ。オズウェル・E・スペンサーは、数ヶ月前に欧州の邸宅で死んだと公式に……」

「死んだとも…。あの老いぼれた肉体はな。だが、ワシの『知』と『野望』は、この完全なる器へと引き継がれた。……ワシはエリザベート。新たなアンブレラの総帥だ」

 

アリッサは息を呑んだ。

信じられない話だが、目の前の少女が放つ、人を虫けらのように見下す絶対的な威圧感。そして、何よりもあの「ラクーンシティの元凶」としての狂気。それは紛れもなく、本物のスペンサーのそれだった。

 

「……私をどうするつもり? 真実を知りすぎた記者を消しに来たってわけ?」

「消す? 馬鹿な。ワシがわざわざ特ダネを提供してやったのだぞ? むしろお主のペンには期待しておるのだ」

 

エリザベートは、ゆっくりとアリッサに近づいた。

 

「ワシの留守中に、ワシの庭を荒らし、遺産を泥棒した者たちがおる。トライセル、コネクション……そして、ワシの玉座を狙う増長した息子。……お主には、彼らの悪事を世界に暴露する手伝いをしてもらおう」

「……私を、あんたの組織間の潰し合いに利用する気?」

「人聞きの悪いことを言うな。お主は真実を報道し、ワシは泥棒どもを炙り出す。見事な利害の一致ではないか。……もちろん、断るという選択肢もあるがね」

 

エリザベートが流し目を向けると、背後の暗闇に潜んでいたセバスチャンが一歩前へ出た。ズシン、と地を揺らす足音だけで、彼が桁外れの暴力の化身であることが伝わってくる。

 

「……記事の編集権は私にある。あんたの都合のいいようにペンを曲げる気はないわよ」

 

アリッサは恐怖を押し殺し、ジャーナリストとしての矜持を保って言い放った。

 

「くくく……。それでこそ、ラクーンを生き抜いた女だ。好きに書くがいい。……ただし、ワシの『傘』が再び世界を覆い尽くす日、その特等席での取材許可を与えてやろう」

 

「ああ、そうだ。グレースは…元気かね? アリッサくん」

 

その名が出た瞬間、アリッサの心臓が激しく波打った。

グレース。

亡きスペンサーの執事パトリックからの遺言状により、アリッサが後見人として引き取ったばかりの幼い孤児の名前。ラクーンシティの地獄を生き抜いた彼女にとって、今や唯一の「家族」と呼べる存在になりつつある無垢な子供だ。

アリッサは反射的に懐の銃を抜き、エリザベートの華奢な背中に銃口を向けた。

 

「あんた、あの子に指一本でも触れてみなさい。頭を吹き飛ばすわよ」

 

だが、エリザベートは銃口を向けられても、可憐な顔に冷酷な笑みを浮かべるだけだった。

 

「安心したまえ。ワシはその子を取り返すつもりはない。なんなら君に任せて良かったと本当に思う。ワシの遺産を狙うハゲタカ共は執拗だからな」

 

アリッサは眉をひそめ、銃を構えたまま声を荒げた。

 

「どういう意味よ……!」

「コネクションや他の組織は、ワシが『記憶の転移』や『クローン計画』を企てていたことを嗅ぎ回っておる。奴らは、ワシが最後に手元に置いていたあの赤子――グレースこそが、ワシの最高傑作であり、大いなる遺産への『鍵』だと勘違いして群がるだろう」

 

エリザベートは、残酷な真実を歌うように告げる。

 

「つまり、あの子は…囮なのだ。ワシという本物の『神』が再び世界に降臨するまでの間、無能な泥棒どもの目を逸らすためのな。だが、ただの赤子ではすぐに殺されてしまう。だからこそ、ラクーンシティを生き延びた優秀なサバイバーであり、正義感の強いお主に託したのだ」

「あんたって奴は……! どこまで人の命を……っ!」

「そう怒るな、アリッサくん。結果的に、ワシは一人の孤児に『生きる場所』を与え、お主は『守るべき家族』を得た。Win-Winというやつではないか」

 

エリザベートはクスクスと笑いながら、今度こそ漆黒の執事セバスチャンと共に路地裏の深い闇へと姿を消した。

 

「グレースは頼んだぞ。……せいぜい、ハゲタカ共に食われぬよう、あの偽物の『希望』を育ててやるのだな」

 

残されたアリッサは、冷たい雨の中でただ一人、銃を構えたまま立ち尽くしていた。

アンブレラの亡霊は死んでなどいなかった。それどころか、すでに自分とグレースの運命の根底にまで、その呪わしい糸を張り巡らせていたのだ。

 

2人が去った暗い路地裏から、笑うエリザベートの声が響いてきた。

 

「また有益な情報を送ってやろう、ミス・アシュクロフト。……ワシの奏でる『レクイエム』は、これからが本番なのだからな」

 

アリッサは震える手で銃を下ろし、顔を覆った。これから始まるのは、これまでのバイオテロとは次元の違う、神の座を巡る狂気の戦争になる。彼女のジャーナリストとしての、そして「母親」としての直感が、そう告げていた。

 

 

 




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