BIOHAZARD: Re-Genesis 作:ヨシフ書記長
エリザベートさんの能力をモチーフにしたのはアーカードの旦那です。
帝王の追跡
ホワイトハウスの地下深く。核攻撃にすら耐えうるとされる大統領専用の
「外の状況はどうなっている!? エージェント・ケネディからの報告はまだか!」
グラハム大統領は、分厚い防弾ガラスの向こう側で通信機器に張り付くシークレットサービスたちに怒鳴った。
数十分前、ホワイトハウスは突如として正体不明のハッキングを受け、完全に停電。それと同時に、館内に「
「大統領閣下、申し訳ありません! 通信が完全に遮断されており――」
SSの一人が振り返りかけた、その時だった。
核シェルター仕様の厚さ数十センチはある鋼鉄製の防圧扉が「メキッ……!」という、この場所で絶対に鳴るはずのない悲鳴を上げた。
「な、なんだ……!?」
「扉から離れろ! 全員、銃を構えろ!!」
SSたちが一斉にサブマシンガンを扉に向ける。
轟音。そして、鋼鉄がひしゃげる凄まじい金属音と共に、何十トンという油圧式の扉が、外側から「力ずく」でこじ開けられた。
砂埃が舞い、暗闇の向こうから、身の丈をゆうに超える漆黒の巨人が、紙屑でも捨てるかのように防圧扉を投げ捨てた。
「撃てェッ!!」
SSたちが発砲する。しかし、巨人は弾丸の雨を浴びても微動だにしない。
それどころか、その背中から突如として赤黒い触手が数本飛び出し、一瞬にしてSSたちの武器を弾き飛ばし、彼らを壁へと乱暴に叩きつけた。
「ぐあっ……!」
「う、動けない……化物め……!」
わずか数秒で、バンカーの護衛部隊は全滅した。
グラハム大統領が恐怖に顔を引きつらせ、後ずさりしたその時。巨人の背後から、コツン、コツンと、上品な靴音が響いてきた。
砂埃が晴れたそこに立っていたのは、真っ白なワンピースに身を包んだ、銀髪の可憐な少女だった。
「これはこれは、ミスター・プレジデント」
少女は、血と硝煙の匂いが立ち込めるバンカーの惨状には目もくれず、スカートの裾を軽くつまんで、ひどく古風で
「き…君は…!一体何者だ。このテロの首謀者か……!?」
グラハム大統領が震える声で問う。少女の放つ異質なオーラは、先ほどまで館内をうろついていた知性のないゾンビたちとは比べ物にならないほどの、知性的で絶対的な恐怖を孕んでいた。
「首謀者? 冗談を言わないでいただきたい。ワシは、己の利益のために自国を売るような三流の真似はせんよ。……この騒ぎは、どこぞの国防長官あたりが企てた『安っぽい小芝居』であろう?」
少女――エリザベートは、ふふっと冷たく笑い、大統領の目の前まで歩み寄った。
「ワシがここに来たのは、この混乱に乗じて、合衆国大統領であるお主に『一つだけ』聞きたいことがあったからだ。……なぁに、大したことではない。ほんの数年前の答え合わせだ…」
エリザベートの紅い瞳が、すっと細められる。
その瞬間、グラハム大統領は、自らが巨大な蛇に睨まれたカエルのように、指先一つ動かせなくなるのを感じた。
「1998年…秋。我が愛すべき箱庭であった『ラクーンシティ』に、滅菌作戦と称してミサイルを撃ち込み、すべてを灰燼に帰した愚か者がおったな。更には…バーキンを唆した…その結果ワシの大切な実験データも、可愛い製品たちも、あの忌まわしい閃光と共に消え去った」
少女の可憐な口調が…突如として何百年も生き永らえたような老人の…重くドロドロとした怒気を帯びたものへと変化する。
「当時の大統領が表向きの指示を出したことは知っておる。だが、合衆国のシステム上、たかが一人の決断で即座に街一つを消し飛ばせるはずがない。……裏で糸を引き、『アンブレラを完全に抹消せよ』と国を動かした黒幕は誰だ? 軍の強硬派か? それとも、『ファミリー』と呼ばれる連中か?」
エリザベートは、大統領の胸倉を小さな手で掴んだ。
「ヒッ……!?」
グラハム大統領は短い悲鳴を上げた。胸倉を掴む少女の腕力は見た目に反して万力のように力強く、さらに――彼女の白い指先から…衣服を焦がすほどの異様な『高熱』が伝わってきたからだ。
南極で取り込んだ女王の力…T-Veronicaの燃える血が、彼女の感情に呼応して皮膚の下で脈打っていた。
「答えろ、大統領。ワシの庭を焼いたのは誰だ? ワシの遺産を奪い、正義面をしておる泥棒どもの元締めは誰なのだ?」
「わ、私には……分からない! あの事件の時、私はまだ大統領では……!」
「嘘をつくな。お主は現職の大統領だ。引き継がれた機密ファイルがあるはずであろう?」
エリザベートが紅い瞳を眇めると、指先の熱がさらに上がり、大統領のネクタイが微かに焦げ臭い煙を上げた。背後のセバスチャンも一歩前へ出り、その巨大な影が大統領を完全に覆い尽くす。
「……ま、待ってくれ! 確かに、当時の決定プロセスを記録したファイルはある! ペンタゴンの地下サーバー、レベル9の区画だ! だが、アクセス権限は……!」
「ふむ……ペンタゴンか。なるほど、軍部の犬どもが噛んでいたというわけか」
エリザベートはあっさりと大統領から手を離し、指先の熱をスッと引かせた。目的の情報さえ手に入れば、目の前の怯える男に用はないと言わんばかりの態度だった。
「ご協力感謝するよ、ミスター・プレジデント。まぁ…お主の娘をかつて欧州から助け出したのが…あのラクーンを生き抜いたあの英雄であったというのも……何かの縁であろうな」
「なぜ、それを……!」
グラハム大統領は息を呑んだ。アシュリー誘拐事件の深層を知る者は、極一握りの国家機密のはずだ。
「ワシの目は、世界のどこにでも届くということだ」
その時、遠くの通路から、複数の足音と「
「おっと…
エリザベートはセバスチャンに顎でしゃくり、背を向けた。
「さらばだ、大統領。次に会う時は、お主らがワシの『傘』にひざまずく時であろう」
レオンたちが銃を構えてバンカーに飛び込んできた時、そこには破壊された防圧扉と、気を失ったSSたち、そして焦げたネクタイを握りしめて座り込む大統領の姿だけがあった。
白い少女と漆黒の巨人は、まるで幻のように…すでにホワイトハウスの影の中へと消え去っていた。
ホワイトハウスの喧騒と、遠くで鳴り響くサイレンの音を背後に聞きながら、エリザベートは闇に紛れてあらかじめ用意していたセーフハウスへと帰還していた。
彼女の傍らでは、漆黒の巨人セバスチャンが微動だにせず控えている。その強靭な腕の先、鋭い爪には、先ほどホワイトハウスの混乱の中で「処理」をした合衆国政府の情報官の血が僅かにこびりついていた。
「……ふむ」
エリザベートは、自身の白い指先を見つめた。
皮膚のすぐ下を、先ほど貪った情報官の『脳の断片』が融解し、遺伝子情報ごと彼女の神経系へとなだれ込んでくる。ニュクスの細胞による有機物の同化と、アレクシアから奪った高次な精神統合能力。それらが組み合わさることで、彼女は他者の記憶を、まるで本をめくるように鮮明に読み解くことができた。
情報官の記憶の海。その中から、合衆国の情報網すら欺き、暗躍を続ける一つの「影」の足跡が浮き彫りになる。
アルバート・ウェスカー。
アンブレラ崩壊後…様々な組織を渡り歩き、いまや巨大複合企業『
「……アフリカか」
情報の解析を終えたエリザベートは、小さく…しかし底知れぬ愉悦を孕んだ声を漏らした。
冷徹だった彼女の表情が、皮肉めいた歪んだ笑みへと変わっていく。
「アフリカか…ククク、あはははっ! 何たる皮肉…!まさかの因縁だな……!」
その笑い声は、可憐な少女の肉体から響いているとは思えないほど、重厚で、かつて世界を震撼させた老帝王の狂気に満ちていた。
アフリカ。そこはオズウェル・E・スペンサーにとって、すべての『始まりの地』であった。
1960年代、若き日の彼がジェームズ・マーカスやエドワード・アシュフォードと共に踏み込み、すべての元凶たる『始祖ウィルス』――聖なる花…「
アンブレラという巨大な帝国の礎を築いたその場所に、いま、自らが育て上げ、そして己を裏切った
「あの生意気な息子は、ワシの目を盗んで『始祖ウィルス』の原種を手に入れ、ウロボロスなどという分不相応な玩具を捏ね繰り回しているというわけか。……哀れなことだ。お主がやっていることは、かつてワシが歩んだ足跡を、一歩遅れてなぞっているに過ぎんというのに」
エリザベートは立ち上がり、ドレスの裾を翻した。紅い瞳には、獲物を定める捕食者の冷酷な光が宿っている。
「セバスチャン、次の旅路が決まったぞ。南米のジャングル、南極の極地…と来て…!そして今度は燃え盛るアフリカの大地だ!」
漆黒の巨人は、主の言葉に呼応するように、胸の奥で低く不気味な咆哮を上げた。
「待っておれよ、アルバート。親不孝者には……手痛い罰を与えねばならんからな」
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