名前のない距離の隣で   作:レゾリューション

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書いてみました


アイツに”おやすみなさい”をねじ込んでやるぜ

昼休みの講義室の騒がしい声に半ば呆れつつ、彼、真下悠也(ましもゆうや)はスマホを手にしていた。VRゲームが主流の時代に旧ゲーム機でもプレイする珍しいタイプの人間であり、彼曰くCoD4:MWとBattlefield3は人生の教科書。

 

異論があるならプライス大尉という方に言ってみるといい、熱烈な歓迎をしてくれるそうだ。

 

え?Fortnite?Apex?Valorant?Overwatch?知らない子達ですね....

 

それはさておき、大学特有の騒がしさにようやく慣れてきたと思っていたがそれは間違いだった。おまけに7月となり気温は高く、ストレスも溜まりそうだった。隣の席からはノートをめくる音、前の席ではサークルで疲れたのか昼寝している。

 

部屋の端ではおしゃべりと笑い声が入り混じる。まるで自分だけが別世界にいるかのように、悠也はスマホの画面に没頭していた。その時、背後から大げさに息をついた声が飛んだ。

 

「頼む悠也!今日、俺たちのスコードロンに参加してくれ!」

 

振り返ると、友達の一人が頭を下げ、目を丸くして必死に訴えている。周囲も一瞬立ち止まり、何事かとざわつく。悠也は眉をひそめ口元に軽い苦笑を浮かべた。

 

「え、急にどうした……?」

 

友達は慌てながら説明を始める。どうやら今回、GGOでクエストに行く事が決まったものの、彼らなりに完璧だと思っていた作戦に致命的な穴があったらしい。

 

なんと....スナイパーを配置し忘れていたというのだ。

 

「いや、スナイパー忘れるって普通あるか?結構大事なポジションだろ」

 

彼は思わずツッコミを入れる。机の角に肘をつき、呆れ顔で友達を見下ろす。友達はしどろもどろになりながらも、「人間は策を弄すれば弄するほど予期せぬ事態で策がくずれさる」と力説する。おまけにGGOではスナイパーをするプレイヤーは少ない。だから自然とスナイパーをしていた彼に声がかかるのだ。

 

しかし、すぐに断るつもりだった。今日は前回、非常に苦労して手に入れたワルサーWA2000の試射をする予定だったのだ。

 

「悪いが、断わ……」

 

言葉を切ろうとしたその瞬間、友達が満面の笑みで条件を差し出す。

 

「もし参加してくれれば『ShAK-12』を渡す!」

 

「....マジで?」

 

彼の目が、一瞬夜空に星が瞬くように輝いた。『ShAK-12』――ロシア製、12.7×55mm弾をフルオートで撃てるブルパップ式アサルトライフル。市場には滅多に出回らず、仮に手に入れたとしても高額すぎて買うのは不可能に近い。悠也は以前、その値段で心を粉々にされている。

 

友達たちは知っていた。GGOの悠也ことナガンは対人戦そっちのけでレア銃収集に没頭する、いわゆる“銃マニア”。大会に出ることもなく、集めた銃を並べてニヤつく姿はもはやただの変態だ。

 

彼は一瞬だけ思案するふりをした。眉をひそめ、唇を噛む――それは芝居がかっていたのか、ほんの数秒の演技だった。やがて、視線をスマホから友達に戻す。

 

「……オッケー!参加するぜ!」

 

手のひらは180度、いや、それ以上にひっくり返った。友達全員の顔が一斉に輝き、部屋のざわつきが一段と賑やかになった。悠也は胸を軽く張り、心の中で小さくガッツポーズを決める。

 

講義室の騒音の中、悠也の決意だけが、やけに目立って光っていた。

 

 

 

 

やがて、戦闘準備の時間が来る。悠也は帰宅後自分の部屋でアミュスフィアを頭に装着し、ログイン。彼はそこそこ有名な私立大学に入学しており家から近いので実家暮らしなのである。

 

 

 

砂漠とそれに似合う建物のようなフィールドの風景が視界に広がる。今回選んだ銃はM24 SWS。本来の装備は今は使えないが、扱い慣れたボルトアクションのスナイパーライフルで精密射撃には欠かせない代物だ。

 

「……よし、完璧」

 

友達たちは装備を最終チェックし、「目指せ、クエスト報酬ゲットだ!」と声をかける。悠也は軽く手を上げるだけ。言葉少なだが、動作の一つ一つが戦場の静かな緊張感を漂わせていた。

 

 

順調だった。

 

それが一番厄介だと、ナガンはよく知っている。何も問題が起きていないときほど、問題はもう起きている。表に出ていないだけで、どこかで“狙われている”。このゲームでは、それが当たり前だった。

 

仲間たちと共にフィールドを進みながら、彼は周囲を流し見るように観察していた。視線は一定のリズムで動き、地形の凹凸、影の濃淡、人工物の配置を無意識に拾っていく。会話は耳に入っているが、意識の大半は外に向いている。歩きながら索敵するのは癖のようなものだった。

 

そのときだった。ほんの一瞬、光が弾けた。ナガンの視界の端で、鋭い反射が走る。金属でも、装飾でもない。もっと限定的で、もっと嫌な種類の光。

 

スコープの反射。

 

「……あ」

 

小さく、ため息に近い声が漏れた。見間違いではない。距離も角度も、そういう偶然で説明できるものではなかった。明確に“こちらを見ている”光だ。

 

(やっぱりな)

 

内心で呟く。このクエストは報酬がいい。だからこそ、モンスターよりも先に、プレイヤー同士の奪い合いが始まる。通りかかった奴らはここでおやすみなさい(さようなら)という事になるのだ。そういうルールが、暗黙のうちに出来上がっている。

 

「お前ら隠れろ」

 

声は低く短かったがそれで十分だった。仲間たちは一瞬遅れてその意味を理解し、反射的に動く。誰も無駄な問い返しはしない。こういう時に確認を挟む奴は、だいたい次の瞬間には倒れている。

 

各々が近くの遮蔽物へと滑り込み、姿を消す。さっきまでの“順調な進行”は、一瞬で消えた。代わりに訪れるのは、張り詰めた静寂と、見えない敵との距離感だけだ。

 

ナガンは小型スコープで相手にバレないよう敵チームを観察。

 

「ナガン見えたか?」

 

背後から飛んできた確認に、彼は軽く息を吐きながら答える。

 

「敵は4人。あー……うん、完全に殺る気だな」

 

「マジかぁ...」

 

「ここまで順調だったんだかなぁ...」

 

言いながらも視線は止まらない。崩れた壁、半ば砂に埋もれたコンテナ、起伏のわずかな影。そのすべてが情報であり、同時に隠蔽でもある。その中から“人間の動き”だけを拾い上げる作業は、慣れていない者にとっては骨が折れるが、今の悠也にとっては呼吸と大差ない。ひとつ、ふたつ、みっつ――人数を数え、配置を推測し、射線を頭の中で引く。

 

「けどスナイパーがまだ見つかんな....あ、いた」

 

視界の端に、ライトブルーの髪が見えた。おそらく女性。本人としてはただ見つけただけの話だが、普通のプレイヤーなら見落としてもおかしくない一瞬の露出だった。

 

冷静でクールな印象――何より目立つな、と悠也は思う。

 

内心でそんな評価を下しながらも、照準はすでにそこへ向かっている。スナイパーで派手な色は、それだけでリスクだ。クールに見せたいのかもしれないが、ここ(GGO)ではただの的になる。とは言っても悠也も初心者の頃は派手な髪色にしてみたかったがジジイに却下されたので地毛と同じ黒である。

 

簡単な打ち合わせの後、部隊は二手に分かれる。囮と奇襲。シンプルだが、この状況では最適解に近い。ナガンの役割は明確だった。敵スナイパーの排除と、その後の支援射撃。要するに、最初の一発で流れを作る仕事だ。

 

「距離約800m、全力で走って3分ってとこだな。ナガン頼むぞ」

 

「あぁ、少し遠いがアイツに”おやすみなさい”をねじ込んでやるぜ」

 

VRゲームが流行る前に販売していたとある武器商人のセリフを言うが突っ込んでくれる仲間はいなかった。みんなVR世代なのだ。

 

(悲しい...)

 

彼らがプレイするGGOには独特のシステムがある。敵には弾道予測線(バレット・ライン)が表示され、攻撃の軌跡を事前に知ることができる。逆に、攻撃側には着弾予測円(バレット・サークル)が現れ、射撃精度の目安になる。だが、スナイパークラスは初弾に限り、この予測線を相手に与えない特権を持つ。

 

因みにナガンの祖父はフィンランド人で元スナイパー。そんなジジイの老後の 暇つぶし(地獄の狙撃訓練)に悠也は付き合わされ、この状況に慣れていた。初弾の一発で全てを決めるのは、彼にとってはむしろ簡単なことだった。

 

微かに右から風が吹いている。悠也はスコープ内の照準を少し修正し、静かに引き金を引く。弾丸は光のように飛び、見事に頭を貫いた。ヘッドショット成功。

 

「命中!」

 

誰かが思わず声を漏らす。敵チームは即座に混乱し、前線が一瞬だけ歪む。スナイパーを失うというのは、それだけで視界の一部を失うのと同義だ。

 

 

その隙を突いて、ナガンの仲間たちは突撃を開始。ナガンも敵を混乱させるためにわざとプレイヤーギリギリに着弾させこちらに意識を向かせる。そして横から奇襲してきた仲間と囮側のグループにより、数人を倒すことに成功する。しかし敵はすぐに冷静さを取り戻す。

 

冷静にスコープを覗き込み、ナガンは視線を次の目標へと移した。フィールド内で一際存在感を放つ、HK416を装備した敵プレイヤー。彼の動きは安定しており、攻撃力も射程も高く、味方スコードロンにとって最大の脅威だった。

 

「こいつを潰せば、戦況は完全に掌握できる」

 

頭の中で再確認する。仲間たちが前線で必死に足掻いている間、彼は冷静に数字と地形、風向きを計算していた。細かく刻まれた地形の凹凸、遮蔽物の角度、風の微妙な揺れ――全てを加味し、弾道を想定する。

 

GGOのシステム上、着弾予測円(バレット・サークル)弾道予測線(バレット・ライン)は、引き金に指をかけない限り表示されない。つまり悠也が構えた瞬間まで、相手は自分の狙撃を認識しないのだ。

 

彼は静かに呼吸を整える。心拍は少し上がったが、祖父の 暇つぶし(厳しい狙撃訓練)で鍛え上げられた集中力が、全身を覆う。目の前の標的を頭の中で分解し、動きや射角を予測する。

 

「……ここだな」

 

呼吸の波に合わせて引き金に指をかける。弾道予測円は瞬間的に視界に現れるが、悠也の目にはすでに、狙うべき一点が鮮明に映っていた。軽く目を細め、狙いを定める。次の支援射撃が仲間たちに最も効果的になるタイミングを計算し、引き金をそっと引く。

 

銃声は静かに響き、弾丸は狙ったHK416を持ったプレイヤーの頭部を正確に貫いた。敵はその場に膝をつき、戦線から消える。フィールド全体が一瞬静まり返る。仲間たちはその隙を突き、攻勢をかけることができた。

 

悠也はスコープを通して、倒れた敵を確認する。息を整え、次のターゲットを視野に入れながら、冷静な表情を崩さない。

 

勝利のために必要なのは、ただ一つ――狙いを外さないこと。それだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

その後見事に敵スコードロンを全滅させクエスト報酬を獲得した悠也たち。そして友人からの「約束の報酬」が届く。画面上で「獲得」の文字が淡く点滅する。ナガンは一瞥し、口元にちょっとした笑みを浮かべた。

 

「ふっ、やっとか……」

 

目的は最初からひとつだけ。迷いなど微塵もない。追加された銃のアイコンをクリックし、詳細画面を開く。

 

ShAK-12。

 

どこからどう見てもブルパップ式アサルトライフルで、フルオートで撃てる銃だ。ショップにはほとんど出回らず、手に入れるのは一部の大富豪か、運が極端に良いプレイヤーだけ。要するに、普通の人間には縁のないやつだ。

 

ナガンは軽く鼻を鳴らす。心の中で友人たちに小さな感謝を送る。「まあ、あいつら意外とやるじゃん」みたいな感じだ。もちろん、報酬も嬉しい。だが一番大事なのは、やっぱり自分の腕だ。初弾でヘッショしたあの手腕がなければ、このレア銃は手に入らなかったのだ。

 

「ふん、俺の手で手に入れたってのがポイントだな」

 

と独り言ちて、彼はShAK-12の詳細画面を眺める。眺めているだけでもニヤける。手に入れた後のシーンを想像するだけで、やはりニヤニヤが止まらない。

 

「今日の俺、完璧すぎだろ……」

 

ナガンは自画自賛して画面を閉じ、レア銃を手にした満足感を胸に、ログアウトボタンに手をかける。心の中で、軽くガッツポーズ。いや、本当にガッツポーズはしてるかもしれない。いや、絶対してる。

 

ゲームの世界ではナガン、現実では悠也――両方で、ちょっとだけヒーロー気分を味わった瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女、シノンの頭の中は、あの一撃を放ったプレイヤー“ナガン”のことだけでいっぱいだった。

 

「……ナガン」

 

小さく呟く。声にするだけで、胸の奥に引っかかりが生まれる。あの一発、偶然とは思えない。ログを開き、キルログを確認する。無機質に並ぶ文字の中から、ナガンの情報を探し出す。距離、角度、タイミング――すべてが数値として記録されていた。

 

「この距離で……頭を……?」

 

思わず眉をひそめもう一度確認した。無理もなかった。800メートルの距離をしかも初弾で、当てたのだ。風も、遮蔽物も、予測しなければならない条件は山ほどある。だが、ログは事実を示すだけだ。偶然ではありえない。

 

前線は押し込まれつつある。スナイパーを失った影響は大きく、味方の動きも散漫になり、連携が崩れかけている。撃たれた位置すら正確には掴めず、ログから推測できる方向はあるものの、それだけでは決定的な座標には至らない。思考の奥に残る、分からないという感覚。

 

「……何なのよ、あいつ」

 

苛立ちと、理解できない衝撃が混じった声が、思わず漏れた。結局シノン達のスコードロンは全滅。それはどうでもよかった。意識に残っているのは、ただ一つナガンの存在だけだった。

 

ロビーに戻ると、シノンは端末を開いた。情報を整理するためだ。プレイヤー検索を開き、名前を打ち込む。

 

ナガン。

 

名前から想像できるのは、旧ソ連のボルトアクションライフル――モシン・ナガン。その銃を連想させる伝説の狙撃手、シモ・ヘイヘ。頭の片隅を過ぎるその歴史的背景が、さらにあの一発を奇跡ではなく必然のように思わせる。

 

検索結果が表示される。シノンの表情がわずかに曇る。

 

「少な....」

 

戦績というかプロフィールは極端に偏っていた。

 

•スコードロンでのクエスト参加は稀

•基本ソロ

•クエスト報酬やレアな銃ばかりを収集

•練習セッションのログがスコードロン戦より圧倒的に多い

•大会参加歴なし、ランキング圏外

 

「嘘でしょ」

 

思わず呟く。一般的なプレイヤーのデータしか出てこない。だが、あの一撃は明らかに異常だ。偶然や偶発で説明できる精度ではない。

 

「……隠してるの?」

 

サブアカウントか、意図的に対人戦を避けているのか。可能性はある。しかし、理解できない疑問が一つ残る。

 

「なんで?」

 

普通なら、実力があれば上位に挑むはずだ。大会に出て評価を受けるはずだ。だが、ナガンはそれをしていない。

 

「意味分かんない」

 

息を小さく吐き、思考が途切れる。だが、次の瞬間には指が動く。フレンドリストを開き、情報を持つプレイヤーにメッセージを送る。

 

「‘ナガン’って知ってる?」

 

返ってきたのは否定の短文ばかり。

 

――誰それ?

――聞いたことない

――新規?

 

「……やっぱり」

 

予想はしていたが、現実として突きつけられると確信に変わる。知られていない。あの狙撃を放った人物が、一般プレイヤー扱いだが普通じゃない。

 

「会いたい」

 

迷いはない。あの精度、あの落ち着き――偶然か、それとも本物か。確認するには、直接会うしかない。

 

「……ナガン」

 

小さく呟いたその声には、苛立ちも恐怖もない。ただ、確かな探求心だけが残っていた。

 

 

 




シノンはダインにスコードロンに誘われてますが、今回はそれよりも前の時系列になります。


この時代のCoDとBFかってどうなってるんでしょうね?
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