名前のない距離の隣で   作:レゾリューション

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ちょっとナガンの回想シーン有り


相棒(バディ)を信頼しちゃダメ?

「さて、一通り揃ったわね」

 

店の明かりを背に、シノンが静かにそう言ったとき、キリトのインベントリにはつい先ほどまでの“初期装備同然”の面影は一切残っていなかった。

 

メインに据えた光剣、サブに選んだ《FN・ファイブセブン》、そしてそれを支える予備弾薬やマガジン、防弾ジャケット。一つ一つは当たり前の装備でも、まとめて揃えた結果として、その中身は完全に“戦うための構成”へと変わっていた。

 

「やっぱ一式揃えるって金かかるな」

 

ナガンが軽く肩を回しながら呟く。その声音には同情も驚きもなく、ただ事実を確認するだけのような軽さがあった。

 

実際、キリトの所持金三十万クレジットは、見事なまでに消えていた。残高はほぼゼロ。数字として見れば一瞬の出来事だったが、その一瞬に詰め込まれた装備の密度は、決して軽いものではない。

 

(……これで三十万)

 

キリトは内心で呟く。

 

(じゃあ、ナガンのあのコレクションって……いくらになるんだ……?)

 

考えた瞬間にやめた。怖くなったからだ。店を出たあと、キリトは一歩引いて二人に向き直る。

 

「二人ともありがとう」

 

素直な礼だった。ナガンは軽く手を振る。

 

「気にすんな。人の装備選ぶのって案外楽しいって気づけたしな」

 

「どの口が言うのよ」

 

間髪入れずにシノンが突っ込む。

 

「あんたは、マニアックな銃すすめてただけでしょ」

 

「いいだろ別に。実用性はある」

 

「方向性がズレてるのよ」

 

テンポよく交わされるやり取りに、キリトは小さく苦笑する。さっきまでの“置いてけぼり感”は、少しだけ薄れていた。

 

「さて、そろそろ総督府に行くか」

 

ナガンがそう言った瞬間、シノンの表情がわずかに引き締まる。

 

「そうね……って」

 

ウィンドウを開き、時間を確認する。

 

「……あんたに無駄な説教してたせいで、あんまり余裕ないわよ」

 

現在時刻、14時45分。

 

BoBのエントリー締切は15時。

 

残り時間は、十五分もない。走ればギリギリかもしれないが、消耗は避けられない。大会前に息を切らしている時点で論外だ。その一瞬で、三人の思考が同時に巡る。

 

そして――

 

「――あ」

 

ナガンが何かを思い出したように呟いた次の瞬間、唐突に走り出した。

 

「ちょっ、どこ行くの!?」

 

シノンの声が背後から飛ぶ。ナガンは振り返らずに答えた。

 

「バイクがあんだろ!あれで行くぞ!」

 

その一言で、シノンとキリトも状況を理解し、慌てて後を追う。路地を抜け、大通りへ。人の流れをすり抜けた先、左側に伸びる広い車道の一部が、駐車スペースのように拡張されている場所があった。そこには、派手な原色で塗られた小型車両が三台、整然と並んでいる。

 

その奥に立つパネルには、ネオンがチカチカと瞬きながら文字を浮かび上がらせていた。

 

【RentI-A-Buggy!】

 

「これだ」

 

ナガンは親指で二人に示す。

 

「これならあっという間に着く」

 

シノンは一歩前に出て、その車体をじっと見たあと、ゆっくりと眉をひそめた。

 

「……あんた、これ運転できるの?」

 

疑いはもっともだった。この世界では珍しい、マニュアル操作前提のバイク。現実世界ですら、電動化が進んだこの時代において、クラッチ操作が必要な車両に慣れている人間は多くない。

 

だが――ナガンは即答した。

 

「免許持ってるぞ」

 

その短い言葉の裏には、根拠があった。

 

ナガン――悠也は、ほんの一瞬だけ視線を落とす。バイクのハンドルではなく、その奥にある“記憶”を見るように。

 

祖父から譲られた一台。バイク好きで、若い頃から乗り続けてきた人間が、年齢という現実と折り合いをつけた末に選んだ、いわば“最後の相棒”――そう聞けば、それなりに落ち着いたモデルを想像するのが普通だろうし、少なくとも「攻めた選択」にはならないはずだった。

 

だが実際に目の前にあったそれは、どう見てもそのイメージから逸脱していた。やけに新しく、無駄にスタイリッシュで、今まさに現役で走り回るために存在しているようなスポーツモデル。

 

むしろ“これからが本番だ”とでも言いたげな佇まいで、最後どころかスタート地点に立っている顔をしている。

 

いや、どう考えても逆だろ。そう思った瞬間、悠也はほとんど反射で口を開いていた。

 

「なんでこんな新しいのなんだよ。ばあちゃん怒るぞ?何気に俺が乗りたいって思ってたバイクだし……いい趣味してんな、ジジイ?」

 

軽口半分、本音半分のツッコミに対して、祖父は一瞬だけこちらを見てから、わざとらしく口角を上げてニヤリと笑った。

 

『いい趣味だろ?』

 

完全にドヤ顔だった。その時点で少しイラッとくる。

 

『最後に乗るなら、ちゃんとしたのに乗りたかった』

 

さらっと続けられる言葉。妙に筋は通っているのがまた腹立たしい。

 

『電スクは乗った気にならん』

 

悠也は思わず眉をひそめる。

 

「いや時代考えろよ」

 

『時代なんて知らん』

 

「環境とかあるだろ」

 

『知らん』

 

「免許返納とかあるだろ」

 

『それはもう少し先だ』

 

会話が成立しているようで成立していない。それでもなお続く押し引きに、悠也は半ば呆れながらも車体を指差した。

 

「いやその前に――危ねぇだろこれ」

 

確かに初心者にも扱えるバイクではあるがジジイの身体そのものに合ってない。悠也の祖父は70を超えているがムカつくほどにイケメンだった。そのせいかバイクに乗る姿もサマになってる。祖父はそれをちらっと見て、ほんの少しだけ肩をすくめた。

 

『まあな』

 

あまりにも軽い。

 

「まあな、じゃねぇよ」

 

思わず間髪入れずにツッコむと、祖父はどこか遠くを見るような目でぽつりと続けた。

 

『反応が良すぎる』

 

その言い方は、さっきまでの軽さとは少し違っていた。

 

『ちょっと捻ったら前に出る。昔の感覚でやると怖い。歳とったなぁ』

 

経験から来る実感が混じっている声だった。だがそれでも、悠也の返しは変わらない。

 

「じゃあ乗るなよ!」

 

『買ってから気づいた』

 

「遅ぇよ!!」

 

綺麗にツッコミが入る。祖父はまったく気にした様子もなく、さらに淡々と続ける。

 

『長距離乗ると疲れるしな。集中切れたら普通に死ぬ』

 

「だから乗るなって言ってんだよ!!」

 

『だからお前にやる』

 

「結論おかしいだろ!?」

 

あまりにも自然な流れで押し付けられた現実に、思わず声が一段大きくなる。

 

悠也はそこで一瞬だけ黙り込み、再びバイクへと視線を戻す。光沢のあるカウル、特徴的な緑色が所々にあり、無駄のないフォルム、いかにも“走るための機械”といった佇まい――正直、かなり好みだった。

 

……乗りたい。

 

その感情が浮かぶ。だが、それを認めたら負けな気がする。だから悠也は最後の抵抗として言葉を絞り出した。

 

「……いや、親父にやれよ」

 

だが祖父の返答は早かった。

 

『あいつは真面目すぎる。面白くない』

 

「理由が雑!!」

 

間髪入れずにツッコむ。

 

『お前の方が雑に扱うだろ』

 

「それ褒めてねぇだろ!」

 

『壊さない程度には扱う』

 

「フォローになってねぇ!」

 

会話は相変わらず軽いのに、その裏で話はどんどん確定していく。結局――そのバイクは、悠也のものになった。

 

 

祖父は満足げに頷きながら、まるで世間話でもするかのような軽さで言った。

 

『あ、免許は当然取れよ?』

 

その一言に、悠也は間髪入れず顔をしかめる。

 

「このご時世、マニュアル操作の車の免許取れる場所なんて少ないの知ってるよな?てか俺、車の免許取るつもりなんだが?」

 

至極まともな反論だった。というか普通はそうなる。

 

だが――祖父は一切気にしない。

 

『どっちも取ればいいだろ?』

 

しかも続けて、

 

『金は出すぞ』

 

と来た。

 

「簡単に言ってくれるな……」

 

思わず天を仰ぐ悠也。話の規模が一段跳ね上がっている。だが祖父は腕を組んだまま、どこか楽しそうだ。

 

『若いうちに取っとけ。後でやろうとすると面倒になる』

 

「その“後で”を今やってるんだろ、そっちは」

 

『俺はもうやらん』

 

即答だった。

 

「開き直んな!」

 

『代わりにお前がやる』

 

「押し付けが雑なんだよ!」

 

祖父はニヤリと口角を上げ

 

『乗りたいんだろ?』

 

「……いやまぁ、乗りたいけど」

 

言ってから気づく。しまった、乗る前提で話している。

 

『ほらな』

 

「今のはノーカンだろ!」

 

『カウント済みだ』

 

「勝手に計上すんな!」

 

テンポよく言い合いながらも、視線は自然とバイクへ向いてしまう。ピカピカの車体、無駄にカッコいいフォルム。どう見ても乗りたい。

 

「……で、教習所どうすんだよ」

 

半分諦めた声だった。祖父は待ってましたと言わんばかりに頷く。

 

『ツテがある』

 

嫌な予感しかしない言い方だった。

 

「その“ツテ”、絶対まともじゃないだろ」

 

『安心しろ、ちゃんと免許は取れる』

 

「“ちゃんと”の信用度が低いんだよ!」

 

『細かいこと気にするな』

 

「気にするわ!」

 

だが――悠也は免許を取りに行くことになる。しかも、車だけのつもりが。なぜかバイクまで、しっかりセットで。

 

(あれ...俺の大学最初の夏休み免許でほぼ潰れるよな....?)

 

 

そんな過去を思い出しながらもナガンはバイクのエンジンをかける。

 

 

 

「キリト、準備はいいか?」

 

ナガンが振り返らずに声を投げると、その問いは風に乗ってわずかに遅れて届き、ほんの一拍の間を置いてから、少し緊張を含んだ、それでも迷いのない返答が返ってきた。

 

「ああ、OKだ」

 

短いが、覚悟の滲む声だった。

 

その確認だけで十分だった。ナガンはそれ以上何も言わず、ハンドルを握る手に力を込めると、次の瞬間には一切の躊躇もなくスロットルを開け放つ。

 

内燃機関が咆哮する。

 

低く唸るような振動が一気に高まり、バギーの車体が一瞬だけ沈み込んだかと思うと、その反動で前輪がわずかに浮き上がり、まるで弾かれたように前方へと飛び出した。タイヤが路面を噛み、煙を上げる。加速は暴力的だった。静止していた世界が、一瞬で後方へ流れ去る。

 

遅れて、もう一台。キリトの乗るバギーも同様に発進する。最初の一瞬こそ僅かに出遅れたものの、その後の操作は安定していた。クラッチの繋ぎ方も、アクセルの開け方も、素人のそれではない。

 

「……」

 

ナガンはバックミラー越しにそれを確認し、わずかに目を細める。意外ではあったが、不自然ではない。キリトは一見すれば軽装で、どこか頼りなげな印象すらあるが、その実、身体の使い方に無駄がない。

 

そして何より――“慣れている”。実際、キリトはマニュアルシフトのバイクを運転できる。友人から“タダで譲られた”という名目のオンボロ車両――実際は廃車費用を押し付けられただけという、若干世知辛い経緯付きだが、それでも一通りの操作は身についている。

 

そんな2人に驚くシノンは、迷いなくナガンの後ろに乗っていた。

 

エンジンが低く唸り、振動がシート越しに伝わる中で、ナガンは一瞬だけ横目でその様子を確認し――ほんの僅かに眉を動かす。

 

「なんでこっち?」

 

率直すぎる疑問だった。

 

一人なら遠慮はいらない、速度もラインも好き放題に決められるが、後ろに人を乗せるとなれば話は変わる、多少なりとも気を遣う必要が出てくるし、何より“限界まで攻める”という選択肢が一段階下がる。だからこそ、わざわざこっちを選ぶ理由が分からなかった。

 

だが――シノンの返答は、驚くほどあっさりしていた。

 

「あら、相棒(バディ)を信頼しちゃダメ?」

 

あまりにも軽いが、その軽さの中に迷いは一切ない。ナガンは一瞬だけ言葉を失う。否定する理由はないし、かといって真面目に受け止めるのもなんか違う気がする、そんな微妙な位置に放り込まれた感じだった。

 

「……そうかよ」

 

結局、短く返すしかなかった。それ以上は言わない。だが、アクセルにかけた指だけが、ほんのわずかに強くなる。

 

相棒(バディ)に信頼されて、俺は嬉しい限りだ」

 

半分は本気で、半分は誤魔化しだ。その絶妙に中途半端なトーンが、逆にナガンらしい。

 

そして――

 

「ギアあげるから、しっかり捕まってろよ!」

 

言い終わるより早く、スロットルが全開になる。エンジンが一気に吼え、車体が前へと弾け飛ぶ。加速の勢いに、シノンの体が一瞬で後ろへ持っていかれ――

 

「っ……!」

 

反射的に、ナガンの腰へ腕が強く巻かれる。

 

「おい待て強すぎ――」

 

「黙って走りなさい!!」

 

完全に主導権を奪われた。ナガンは一瞬だけ口を開きかけて、やめる。これ以上何か言うと、締め付けが強くなる未来しか見えなかった。

 

「……はいはい」

 

諦めたように呟くもそのまま速度は落とさない。

 

むしろ上げた。完全に意地だ。風が二人の間を切り裂き、街の光が線になって流れていく。シノンはじっと背中を見つめるが、それ以上は追及しない。ただ一つだけ確かなのは――そのスピードでも振り落とされない程度には、ちゃんと掴んでいるということだった。

 

そしてナガンはそんな状態のまま。一切減速せずに、さらにアクセルを回した。

 




ナガンがマニュアル操作のバイク免許を持ってる設定した理由はですね....










シノン/詩乃と2人乗りする為に決まってるじゃないですか!!
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