名前のない距離の隣で   作:レゾリューション

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今回短め


動いたら後ろの壁ごと穴開ける

待ち伏せしていたプレイヤー達を突破した後、三人は荒れた川岸を駆けていた。先程の戦闘は短時間だったが、派手だった。キリトが前衛として敵陣へ突撃し、その背後からシノンとナガンの狙撃が飛ぶ。

 

結果だけ見れば圧勝だ。だが同時に、目立ちすぎた。銃声は広範囲へ響いている。BoB本戦の生存者達が聞き逃すはずがない。現に漁夫の利を狙おうとシノンを狙ったプレイヤーがいたがナガンがシノンを引き寄せた後RSh-12で沈めた。シノンの顔が少し赤くなっているが気にしてる暇はない。

 

「今の戦闘音で、もっと集まってくるわ....どこかに移動しないと....」

 

走りながらシノンが言った。

 

「ああ」

 

「そうだな」

 

キリトとナガンも短く頷く。三人は速度を落とさず、そのまま川沿いを移動した。そして次の瞬間、三人が同時に鋭い視線を川面へ向けた。静かに流れる黒い水面。だが今の三人には、その下に死神が潜んでいる可能性が現実味を帯びていた。

 

キリトが低く口を開く。

 

「死銃は川沿いに北へ向かったはずだ」

 

視線は周囲を警戒したまま動かない。

 

「たぶん一旦どこかに身を潜めて、九時の《サテライト・スキャン》で次のターゲットを決める気はず」

 

BoB特有の定期スキャン。一定時間ごとにプレイヤーの位置が露呈するシステムだ。デスガンほどのプレイヤーなら、それを利用しないはずがない。

 

「これ以上、被弾者が出る前に、奴を止めたい。アイデアを貸してくれ。シノン、ナガン」

 

そこでキリトは二人へ視線を向けた。言葉に、まず反応したのはナガンだった。

 

「アイツも認めたくはないが俺たちと同じスナイパーだ。なら弱点もある程度絞れる」

 

「弱点?」

 

キリトが聞き返す。ナガンは即座に答えた。

 

「複雑な地形はまず使わない。射線が通らない場所はスナイパーにとってストレスだ。特に、ああいう”狙って殺す”タイプは、見通しを重視する」

 

デスガンは異常な存在だ。だが戦い方そのものは、確実に狙撃手寄りだった。だからこそ、考え方もある程度読める。

 

「えぇ」

 

シノンも頷いた。

 

「遮蔽物が少ないオープンスペースは動きにくい」

 

そう言いながら、北側を指差す。

 

「でもここから先、島中央の都市廃墟までずっと見通しの良い野原よ」

 

乾いた平原に点在する瓦礫。遠距離狙撃には適した地形だ。そして同時に、デスガンが潜むには最適なエリアでもある。キリトは二人の意見を聞きながら、素早く思考を巡らせた。数秒後。

 

「……よし。俺たちも街を目指そう。川岸を走れば、左右からは見えないはずだ」

 

真正面から平原を突っ切るのは危険すぎる。だが川沿いなら地形で視線を切れる。デスガンの狙撃を避けつつ移動できる可能性が高かった。

 

「「了解」」

 

シノンとナガンが同時に返した。次の瞬間、三人は再び速度を上げた。乾いた地面を蹴り、川沿いを北へ。その先にいる死銃を追うために。

 

 

 

 

 

移動しながらの話し合いで、シノンが情報を整理した。BoB本戦への初参加者——ナガンとキリトを除けば、それに該当するのは《銃士X》、《ペイルライダー》、《スティーブン》の三人だという。だがペイルライダーはすでにナガンが仕留めている。

 

デスガンの正体とは別の話だ。

 

「つまり残りは《銃士X》か《スティーブン》ってことか」

 

キリトが低く言いシノンが頷いた。そしてキリトは一つの判断を下した。

 

「廃墟に両方いた場合、俺は《銃士X》の方へ行く」

 

「理由は?」

 

「勘だ」

 

ナガンは一瞬だけ間を置いてから、それ以上聞かなかった。キリトの勘は、根拠のない思いつきとは少し違う。ここまでの戦いで、それは分かっていた。

 

「俺がスタン弾に撃たれて麻痺してもそのまま狙撃してくれ」

 

「分かった」

 

即座に返してから、ナガンは小さく付け加えた。

 

「ただそんな風にはなりたくないな」

 

「そうだな……」

 

キリトも苦い顔で頷く。ナガンはそれ以上は口にしなかった。最悪の展開を避ける為とはいえ、味方を撃つのはあまり気分の良い話では無い。そして午後九時になる。四度目の《サテライト・スキャン》が起動し、マップ上に光点が浮かび上がり、生存プレイヤーの位置が一斉に露呈した。

 

「《No-no》、《闇風》、《魔鎖夜》……」

 

シノンが光点を確認しながら名前を読み上げる。いずれもBoB常連の有名プレイヤーらしかった。ナガン達にはピンと来ない名前ばかりだったが、シノンの表情がわずかに引き締まるのを見れば、それだけの相手だということは分かった。そういう界隈に疎いのは今に始まったことではない。

 

だが今、注目すべき光点は別にあった。

 

スタジアム風の円形建造物。その外周部、見晴らしの良い高所に単独で浮かび上がった一つの光点。

 

《銃士X》

 

絶好の狙撃ポジションだった。そして銃士Xが狙っているのは《リリコ》。孤立した位置にいる上、移動しようとすれば必ず身を晒さなければならない。完全に詰められていた。

 

 

「移動しよう」

 

キリトが短く言った。

 

「「分かった」」

 

ナガンとシノンの声が綺麗に重なる。次の瞬間、三人は都市廃墟へ向けて全力で駆け出した。中央スタジアムは、崩壊した都市の中心に沈黙する巨大な亡骸のようだった。

 

かつて数万人の歓声を飲み込んだであろう円形構造物は、今や黒く風化したコンクリートと剥き出しの鉄骨を晒し、死んだ都市の墓標のように佇んでいる。その外周を、三つの影が駆け抜けた。通常プレイヤーなら息を切らす距離を、彼らは一分とかからず突破していた。

 

先頭を走るキリトが、シノンのハンドサインを見て即座に減速する。続くナガンもほぼ同時に動きを合わせ、三人は道路脇に横転した大型バスの陰へ滑り込んだ。

 

割れたパノラマウインドウ越しに、シノンがスタジアム西側外壁を凝視する。視覚強化スキルによって、遠景の輪郭が引き寄せられる。崩れた外壁に黒ずんだコンクリート。無数の亀裂。

 

その中に――不自然な暗がり。

 

 

シノンの瞳が細められた。

 

「いた。あそこ」

 

呟くとナガンも視線を向ける。

 

「あぁ……確認した」

 

一瞬だけ閃いた金属光。狙撃手なら絶対に見逃さない類の反射だった。

 

《銃士X》

 

奴はまだ動いていない。つまり、囮である《リココ》が姿を現すのを待ち続けているのだ。キリトは低く息を吐いた。

 

「今のうちに後ろから仕掛ける。俺が先行する。ナガン、近距離支援を頼む。シノンは向かいのビルから狙撃体勢に入ってくれ」

 

「分かった」

 

ナガンは短く答える。背中に背負っていたシャイタックM200を収納し、代わりに腰の大型ホルスターへ手を伸ばした。

 

引き抜かれたのは、異様な存在感を放つ大型拳銃――RSh-12。

 

常識的なハンドガンのサイズではない。巨大なシリンダーに、鈍く輝くシルバーフレーム。対人戦というより対物破壊兵器に近い外見。普通なら見つけても、取り回しの悪さから敬遠される武器だ。だが、ナガンは片手で軽々と回し、自然な動作で安全装置を解除した。

 

その姿に、キリトは改めて納得する。ナガンは単なるスナイパーではない。遠距離で敵を狩りながら、近距離でも戦闘能力をある程度維持できる希少なプレイヤーだ。だからこそ、自分の背後を任せられる。一方、シノンはナガンの手にあるRSh-12を見て、僅かに眉を寄せた。

 

「相変わらずゴツい見た目ね」

 

「だろ?ここまで改造するのに結構クレジット飛んだんだ。ちゃんと働いてもらわないとな」

 

「そう……」

 

シノンは小さく返事をしたが、その声に、ナガンが首を傾げる。

 

「どうかしたか?」

 

「……別に」

 

視線を逸らすが、ナガンはその反応を見逃さなかった。

 

「寂しいのか?」

 

ナガンがわざとらしくニヤつきながら言うと、シノンの頬が赤く染まった。

 

「そんな訳ないでしょ!?」

 

声を荒げ、すぐに銃を抱え直す。

 

「ふざけた事言ってないでほら、はやく行った行った!」

 

「はいはい」

 

そして歩き出しかけて、不意に振り返る。

 

「任せたぜ、相棒?」

 

その一言に、シノンはぷいっと顔を背けた。決して嬉しかったわけではない。ただ、後方警戒のために視線を動かしただけだ。

 

……そういうことにしておきたかった。

 

キリトはそんな二人を横目で見ながら、小さく苦笑する。この極限状況で軽口を叩ける辺り、二人ともかなり肝が据わっている。だが同時に、それだけ互いを信頼している証でもあった。キリトは光剣のグリップを握り締める。自分だけではない。最高クラスのスナイパーが背後に二人いる。

 

だから――戦える。

 

「行くぞ」

 

短く告げナガンが無言で頷き、RSh-12を低く構える。シノンはヘカートⅡを抱え、別ルートへ駆け出した。三人の影が分かれる。静まり返った廃墟都市の中心で、死神狩りが始まろうとしていた。

 

キリトとナガンは、崩れた外壁沿いを静かに進んでいた。足音はほとんどない。完全なステルスへ切り替えている。瓦礫、鉄骨、崩れた車両。二人は遮蔽物を次々と利用しながら、スタジアム西側の死角へ入り込んでいった。

 

そして、崩落したコンクリートの隙間から、人影が見えた。

 

「……いたな」

 

ナガンが小さく呟く。壁際に身を潜めているのは、銀髪のプレイヤーだった。ロングヘア、ホットパンツ主体の軽装、携行装備も最小限。機動力重視のビルドだ。少なくともキリトが想像していた死神のイメージとは違う。

 

「キリト、アイツがデスガンなのか?にしちゃ背が小さい気がするぞ?」

 

ナガンが低く囁く。キリトもわずかに眉を寄せた。

 

「……確かに。でも確認しなきゃ分からない」

 

ここまで来て別人でした、では済まされない。だが逆に、本当に無関係なプレイヤーを一方的に襲えばただの迷惑極まりないPKだ。いや、ここはBoBなのでPKは仕方がないのだが、キリトが微妙に葛藤していると、ナガンがさらっと言った。

 

「なら、話し合いが一番だな」

 

一瞬、キリトは安心しかけた。

 

「……それが成立しなかったら?」

 

「拘束した後、()()で装備を見せてもらって最後に『おやすみなさい』だ」

 

(怖い……)

 

キリトは内心で真顔になった。冗談っぽく言うせいで余計に怖い。しかも実行しそうなのが最悪だった。

 

その時だった。

 

ドォンッ!!

 

遠方から轟音が炸裂した。シノンのヘカートⅡだ。着弾した対物弾が《銃士X》のすぐ脇の壁を吹き飛ばす。

 

「っ!?」

 

銀髪のプレイヤーが即座に飛び起きた。判断は速い。煙と粉塵の中を滑るように移動し、別ルートへ離脱しようとする。

 

だがその進路上に、二人の影が立っていた。

 

「誰!?」

 

反射的に抜かれるデトニクス・コンバットマスター。銃口が向けられる。だが《銃士X》の表情は次の瞬間に凍りついた。そこにいたのは、今大会で最悪レベルに有名な二人だったからだ。

 

光剣で銃撃戦へ殴り込むキリト。超長距離狙撃と近接戦を平然と両立させるAGI殺しのスナイパー、ナガン。初参加でありながら、すでにGGOプレイヤーなら知らない者の少ない二人が、完全に逃走ルートを塞ぐ形で真正面に立っている。

 

(最悪!)

 

《銃士X》の脳内に、その言葉が大音量で響いた。ナガンが一歩前へ出る。RSh-12を構えながら、軽い調子で言った。

 

「まってくれ。俺たちは確認したい事があるんだ」

 

「……何よ」

 

「アンタの装備を見せてくれ」

 

「は?」

 

素で変な声が出た。当然だった。BoBの真っ最中に敵へ装備を見せろと言われるなど、意味不明にもほどがある。そんな中でキリトは続ける。

 

「その間は攻撃しないって誓う」

 

「そんな事聞くと思う?」

 

「やっぱりダメか……」

 

「そりゃそうだろ」

 

ナガンは特にショックを受けた様子もなく肩を竦めた。

 

「じゃあ、こっから敵って事だ。何されても文句言わないでくれ」

 

RSh-12の銃口が持ち上がる。

 

「言ってくれるじゃないの!」

 

《銃士X》が叫んだ瞬間、キィン——と青白い光が走った。キリトとナガン、二人同時の光剣が展開される。

 

「ちょ、待っ——」

 

「待つ訳ないだろ」

 

ナガンが即答し戦闘開始……

 

 

 

 

 

 

 

そして5秒で終了。

 

《銃士X》は壁際へ追い込まれ、RSh-12の極太銃口を額へ突き付けられていた。

 

「動くなよ。動いたら後ろの壁ごと穴開けるぞ」

 

「うぅ........」

 

一方、キリトは素早く装備確認を始めていた。キリト自身、ちょっと最低だと思っていた。だが背に腹は代えられない。ここで見逃して死人が出れば終わりなのだ。

 

「M14EBR……デトニクス……M18発煙手榴弾……」

 

ナガンが読み上げるように確認していくが——無い。サイレント・アサシンが。迷彩ローブが。デスガンの痕跡が、どこにもない。

 

キリトが静かに呟いた。

 

「彼女じゃない……」

 

「銃士Xでもないか....」

 

「ちょっと、銃士Xじゃなくて銃士X(マスケティア•イクス)なんだけど」

 

「そうなのか。次回からルビ振っといてくれ」

 

ナガンも短く返してRSh-12を下ろす。そして、視線がふと装備へ向いた。

 

(全部アメリカ製か...趣味いいなコイツ)

 

銃好きとして、思わずそんな感想が浮かぶ。

 

(いや今考える事じゃねぇな)

 

流石にセルフツッコミし《銃士X》はジト目で睨んでくる。

 

「満足?」

 

「悪かったな。必要な事なんだ」

 

「BoBでその台詞初めて聞いたわよ」

 

もっともだった。キリトは微妙に申し訳なくなるも、二人は踵を返した。

 

「じゃ、俺ら行くから」

 

「は?」

 

《銃士X》が呆気に取られる。だがナガンは数歩進んだところで、不意に立ち止まった。

 

「あ、そうだ。プレゼントやるよ」

 

放り投げられたのはM67手榴弾だった。しかも——既にピンが抜けていた。

 

「えええええぇぇぇぇぇぇぇっっ!!?」

 

《銃士X》が全力で飛び退くと、同時に、キリトとナガンも猛ダッシュでその場を離脱した。二人が角を曲がったその直後——爆炎が背後で炸裂した。

 

「アンタら覚えてなさいよぉぉぉぉ!!」

 

怒号が背後から響いてくる。だが二人はすでに走り去っていた。ふざけたやり取りとは裏腹に、二人とも理解していた。

 

 

 

本命はまだ別にいる。

 

 

番外編という形で劇場版の『オーディナル・スケール』を読みたいですか?※もし書くとなった場合更新が遅くなるかも知れません。

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