12月半ばという季節に似つかわしくない、湿り気を帯びた生温い風が、街の喧騒を掻き分けるように吹き抜けていた。
BoBの激闘から数日が経過した今も、脳裏に焼き付いた硝煙の匂いや、引き金を引いた時の感触は、つい昨日のことのように生々しい。詩乃はその記憶の残滓を振り払うように、カップから立ち昇る湯気をじっと見つめた。
事件直後、悠也は警察による事情聴取を受けた。特に彼が取った行動に対しては過剰防衛の疑いもかけられていたが、詩乃の必死の証言と、現場で収集された証拠により、それは早々に否定された。そしてその翌日、和人、悠也、詩乃は高級カフェにて、総務省の菊岡誠二郎と名乗る男から、一連の事件の全容と顛末を告げられることとなった。
語られた事実は、あまりにも救いのないものだった。医師家系という逃げ場のない重圧、親の期待を背負いながらも芽生えた閉塞感。その歪んだ環境が、恭二という青年の精神を静かに蝕んでいた。そして、兄である昌一がSAOという地獄で見出した「殺人の快感」を英雄視し、崇拝するようになった時、事件の歯車は決定的に狂い始めた。
GGOというゲーム内でのステータス配分や、アバターの性能という「個人のこだわり」。本来なら、どれほど突き詰めてもゲームという箱庭の中で完結すべき物語が、彼らの中で恐ろしい変質を遂げていた。
自分たちを否定する者、自分たちの世界を脅かす者を、現実というフィールドに引きずり出し、息の根を止める。それはゲームの枠を超えた、あまりに悲惨な殺意の結実だった。
新川兄弟の歪みが招いた代償は、あまりに大きかった。奪われた命は二度と戻らず、関わった多くの人々の心に深い傷を残した。カフェの外では、何の変哲もない日常が過ぎ去っている。しかし、あの薄暗いカフェの一角で語られた真実は、詩乃と悠也の心に、消えない重苦しい影を落としていたのだ。
……それから数日経った今も、詩乃の心にはその残滓がこびりついている。
放課直後の生徒たちの喧騒もこの校舎裏にまでは届かない。いつもは薄く灰がかって見える東京都心の空だが、今日だけは、詩乃の故郷である北の町と似た色に見えた。
校舎の北西端の角と、大型焼却炉の間の通路から姿を現した遠藤と二人の仲間たちは、詩乃を見つけると一様に唇を歪め、嗜虐的な笑みを形作った。詩乃は左手で鞄を持ち、ゆっくりと立ち上がると、冷ややかに言い放った。
「呼び出しておいて、待たせないでくれない?」
それを聞いた取り巻きの一人が、厚ぼったい瞼を高速でしばたかせてから、笑みを消して喚いた。
「朝田さぁ、最近マジちょっと調子のってない?」
もう一人も、似たような不躾なイントネーションで追従する。
「ほんとー。友達に向かってそれちょっとひどくない?」
(都合の良い言葉ね...)
詩乃から二メートルほど離れた場所に立ち止まった三人は、それぞれが効果的と思っているのであろう角度から、威圧するような視線を向けてきた。しかし、仮想世界で無数の戦場を潜り抜けてきた詩乃の心は揺るがない。彼女はとりあえず、中央に立つ遠藤の、捕食昆虫じみた細い目をじっと見つめ返した。
沈黙は数秒しか続かなかった。すぐに遠藤はにいっと下品に笑うと、顎を突き出して言った。
「別にいいよ、トモダチなんだから何言っても。そんかしさあ、あたしらが困ってたら助けてくれるよな。つうか今、超困ってんだけど」
それを聞いて、左右の二人が下卑た声で短く笑う。
「とりあえず、二万でいいや。貸して」
消しゴムでも貸して、と言う時のように何気ない調子で、遠藤は明確な恐喝の要求を口にした。詩乃は度の入っていないポリマーレンズの眼鏡を外すと、スカートのポケットに収めた。
そして両眼にありったけの力を込め、一節ずつ区切りながら明確に拒絶する。
「前にも、言ったけど。あなたにお金を貸す気はない」
途端、遠藤の眼がきゅっと細められ、ほとんど糸のようになった。その隙間から粘り気のある眼光を放射しながら、一段と低い声で脅しをかける。
「……いつまでもチョーシくれてんじゃねえぞ。言っとくけどな、今日はマジで兄貴からアレ借りてきてんだからな。泣かすぞ朝田」
「……好きにしたら」
まさか本当にそこまでの事を、と詩乃は思ったが、驚いたことに遠藤はぎゅっと唇の両端を吊り上げると、鞄に右手を差し込んだ。
詩乃が期待したような恐怖の反応を見せないせいか、遠藤は苛立ったように唇を曲げ、吐き捨てた。
「泣けよ朝田。土下座して謝れよ。ほんとに撃つぞてめぇ」
直後、遠藤は実際にモデルガンを取り出し、詩乃の左脚に向けて突きつけた。ニヤリと笑う遠藤の肩から腕にかけてが小さく震え、トリガーを引こうとしたのが詩乃には判った――しかし、弾は出なかった。
遠藤が握りしめているのは、あまりにも有名な自動拳銃『M1911』――通称ガバメントのモデルガンだった。
それで弾が出ないということは、銃の知識がある者ならばすぐに理由が割れる。スライドを引いていないか、あるいは二つのセーフティを解除していないか。素人が陥る初歩的なミスなど、考えられる理由はいくらでもあった。
「クソッ、何だよこれ……!」
完全に想定外の事態に焦った遠藤が、二度、三度と無理にトリガーを指で引き込もうとする。しかし、バレル付近からプラスチックの小さな軋み音が虚しく聞こえるだけだ。
目の前でパニックを起こしている不良たちを前に、詩乃は恐怖するどころか、冷ややかな視線のまま小さく息を吐いた。そして、挑発的に口元を歪める。
「
「てめぇ……っ!」
あまりにも容赦のない侮辱に、遠藤の顔が怒りで真っ赤に染まる。カッと頭に血が上り、遠藤の注意が完全に銃からそれた――その瞬間を、スナイパーが見逃すはずがなかった。
詩乃は鞄を足元に落としつつ、左手の親指で遠藤の右手首の急所を強く押し込む。不意を突かれた遠藤のホールドが僅かに緩んだところを狙いすまし、右手でその黒い銃身をひったくるようにして、鮮やかに奪い取った。
「M1911ガバメント……お兄さん、良い趣味ね。私の好みじゃないけど」
そう呟いて、銃の左側面を遠藤に向ける。黒くて無骨な自動拳銃を手に取った瞬間、詩乃の脳裏に、相棒のナガン――悠也の顔が浮かんだ。
彼はGGOで癖の塊みたいな銃ばかり集めているが、意外にもリアルでは、持っているガスガンは『ハイキャパ』や『ウォーリア』といった、このガバメントの系列もある言っていた。
そして一番の好みは『HK USP EXPERT』。「あれは俺にとってハンドガンの初恋」などと真顔でのたまわっていたのを思い出し、詩乃は当時少しムッとしたことを覚えてる。しかしショップでも中々売ってない銃で買うのに苦労したそうだ。
ついでに「RSh‐12をどこかのメーカーがガスガン化してくれないか」と熱弁していたオタクな姿までフラッシュバックする。
目の前の遠藤たちの前で、詩乃は完全に冷静さを取り戻していた。
「ガバメントは、サムセーフティの他にグリップセーフティもあるの。この2つを、正しく解除しないと撃てないわ」
カチリ、カチリと冷たい音をさせて、二箇所の安全装置を解除する。
「それに、最初は自分でスライドを引かないとだめ」
ガシャッ、と乾いた音を立ててスライドを引き、ハンマーを起こす。鋭い金属的な音とともに、トリガーがわずかに前へと持ち上がった。
詩乃は左手をグリップに添え両腕を均等に真っ直ぐ伸ばす、銃撃の基本である『アイソセレス・スタンス』で構えた。
(悠也は、どっちかというとウィーバー・スタンスだったっけ……おじいさんに叩き込まれたとか)
体を斜めに半身に構える彼のタンスを頭の片隅で批評しながら、詩乃は狙いを定め、躊躇なく引き金を引いた。
――ばすっ。
ガスガン特有の頼りない破裂音とともに、ささやかなリコイルショックが詩乃の手のひらに伝わった。感心なことに、そのガバメントは玩具ながらきちんとブローバックを作動させ、銃口からオレンジ色の小さなプラスチック弾が鋭く弾き出された。
「さて」
詩乃は、目の前で立ち尽くす遠藤たちを見据えた。その手には、先ほど遠藤から鮮やかに奪い取った、ただの玩具であるモデルガンが握られている。
「使い方も知らないのに、人を脅すのはやめた方がいいと思うわよ?」
冷徹な、しかしどこか哀れむような言葉を投げかけると、詩乃はそれ以上彼女たちを相手にすることなく、背を向けて校門の方へと歩き出した。胸の奥を支配していたかつての恐怖は、もうない。
あの荒野を共に駆け抜けた戦友がいる。その事実が、彼女の背中を静かに支えていた。
遠藤たちと別れて校門前まで数歩進んだところで、制服のポケットの中でスマートフォンが激しく震えた。画面に表示された名前を見て、詩乃は少しだけ目元を緩める。
「もしもし?」
『あ、詩乃か?キリトが言ってた、例の店についての話なんだが……』
耳に届いたのは、聞き慣れた悠也の声だった。言われてみれば、キリトこと桐ヶ谷和人が、事件の諸々が片付いたら集まろうと、御徒町にある友人の喫茶店を提案していた。因みに連絡先はシュピーゲルを警察に引き渡した時に交換している。
今日の学校での一件で詩乃の身体には少なからず疲労が溜まっている。
『和人から、詩乃を迎えにやってきて欲しいって頼まれてな。今、そっちの学校に向かってる。校門より少し奥に引っ込んだ所で待っててくれ。あと2分くらいで着く』
「え!?あ、分かった……」
突然の申し出に、詩乃は驚きつつも素直に頷いた。
『色は黒の三菱車だ。声を上げる人がいるかも知れないが、面倒だから無視しとけ。着いたらまた連絡する』
「分かったわ、ありがとう」
短い連絡を終えて通話ボタンを切った瞬間、詩乃の真横から「ねぇねぇ、朝田さん」と、抑えきれない笑みを含んだ声が掛けられた。振り返ると、同じクラスの女子生徒2人が、完全にニヤニヤとした表情でこちらを覗き込んでいた。
「朝田さん。もしかして、今の電話の相手って彼氏さん?」
「え?」
詩乃は思わず目を丸くした。
「スピーカーになってたから、すっごく格好いい声の男の人の声、こっちまで丸聞こえだったよ?」
「あ……」
己のうっかりした失敗に気づき、詩乃は一瞬で顔がカッと熱くなるのを感じた。モデルガンのスライドを引く時はあんなに冷静だったのに、現実の、それも色恋沙汰のからかいには滅法弱い。言い訳の言葉も見つからず、詩乃はがっくりと肩を落とすしかなかった、その時だった。
ドロドロドロ……と、一般的なファミリーカーとは明らかに一線を画す、重厚で暴力的な排気音が冬の乾いた路地から響いてきた。校門前で立ち話をしていた男子生徒たちが、弾かれたように一斉に道路へと振り返る。現れたのは、アスファルトを力強く掴む黒色のモンスターだった。
フロントグリルは大きく口を開け、冷却効率を極限まで高めたインタークーラーが牙のように覗いている。そして何より目を引くのは、トランクの上にそびえ立つ、冗談のように巨大なリアウイングだった。
一目見ただけで、それが後付けの改造などではなく、メーカー純正であの大きさなのだと理解できる。だからこそ、その車が内包する本気の走りのスペックが恐ろしかった。
冬の夕暮れの街並みにおいて、その車が放つ圧倒的な戦闘オーラは異質そのものだった。男子生徒たちが興奮した声を上げ、地を這うように滑り込んできた黒のランサーエボリューションⅩを凝視している。車は、悠也が指示した通り、校門から少し奥まった路肩へと静かに停車した。
詩乃の脳裏に、さっきの通話が蘇る。
(……本当に、無視しないと心が持たないわ)
心の中でそう強く念じる。しかし、周囲の騒ぎがそれを許してくれそうになかった。唖然としてその光景を見つめる詩乃の背中に、クラスの女子生徒たちがさらに身を乗り出して、猛烈な追撃を仕掛けてくる。
「朝田さん! もしかして……あの凄い車が、今の電話の人!?」
「ち、違う! ただのゲーム仲間で、っていうか大学生の……っ」
「大学生!?」
女子生徒二人の声が綺麗にハモった。やってしまった、と詩乃は内心で激しく頭を抱えた。完全に自分の発言で墓穴を掘っている。
高校生の女子にとって、「大学生の男」という響きがどれほど強力な羨望の対象になるか、そして周囲から「彼氏」として結びつけられやすいステータスであるかくらい、普段は色恋沙汰に疎い詩乃でもよく知っていた。
「ちょっと朝田さん、ゲーム仲間って言い訳は無理があるって! あんな格好いい車でわざわざ迎えに来てくれる大学生の男の人なんて、もう完全にそういう関係じゃん!」
「ち、違う、本当にそうじゃないから……!」
顔を真っ赤に染めながら、詩乃はあわあわと両手を振って必死に否定した。しかし、一度火がついた女子高生の好奇心は簡単には消せない。
男子たちの羨望の視線と、女子たちのニヤニヤとした視線を一身に浴びながら、詩乃は逃げ出すように、黒色のモンスターの助手席へと向かっておそるおそる歩みを進め始めた。
周囲からの突き刺さるような視線に耐えかね、詩乃は半ば逃げ出すようにして黒色のランエボと歩み寄った。
男子生徒たちの羨望の眼差しと、女子生徒たちのニヤニヤとした視線が、自分の背中に集中しているのが嫌でも分かる。生心地のしないまま、詩乃は意を決して助手席のドアハンドルを引いた。ガチャリ、と重厚な金属音が響く。車内に滑り込むと、かすかに機械オイルの匂いと、洗練されたシトラスの香りが漂っている。
「――遅かったな。何かあったか?」
運転席から、聞き慣れた少し低めの声が掛けられた。詩乃がそちらを見ると、ハンドルを握っていたのは、青黒いジャケットを羽織った青年――悠也だった。
大学生活にも慣れてきた私服姿の彼は、GGOでのアバター『ナガン』のような無骨な装備こそ纏っていないが、その鋭い瞳と落ち着いた佇まいは、抜けていない。
「……なんでもないわ。ちょっと、うっかりボタンを押し間違えてスピーカー通話にしちゃっただけ」
詩乃はわざとぶっきらぼうに答えた。しかし、未だに火照りが引かない両頬だけは隠しようがない。
「……こんな目立つ車で迎えに来るなんて、聞いてないわよ」
詩乃が恨めしげに呟くと、
「仕方ないだろ? バイクの二人乗りはまだ出来ないからな……それにしても、顔、真っ赤だぞ?」
「……うるさいわね!」
図星を突かれ、詩乃は窓の外に視線を逸らして唇を尖らせた。
悠也は一瞬、不思議そうに詩乃の顔を見つめたが、すぐに校門前でこちらを凝視している高校生たちの存在に気づいたらしい。特に、穴が開くほどエボXを見つめている男子生徒たちと目が合うと、彼は苦笑した。
「なるほどな……まぁ、あんま気にすんな。和人が待ってるから出すぞ」
「えぇ」
「シートベルトはしろよ?俺が捕まるから」
悠也がシフトレバーをドライブに入れ、アクセルを踏み込む。太い排気音が一段と高く響き、4輪がしっかりと路面を掴んで車体が滑るように加速した。背後からは男子たちの興奮した声が遠ざかっていく。
学校の敷地を出て、大通りへと合流すると、車内には心地よいロードノイズとエンジン音が響くだけの静寂が訪れた。冬の冷たい夕暮れ時、暖房の効いた車内は驚くほど快適で、詩乃の身体から張り詰めていた緊張がじわじわと解けていく。
「それにしても」
詩乃は窓の外を流れる景色を眺めながら、ふと口を開いた。
「あなた、現実でもこんな凶暴そうな車に乗ってたのね。GGOであれだけ大型なライフルを振り回してるんだから、もっと地味な実用車にでも乗ってるのかと思ってたわ」
「お前も人の事言えないだろ、あと凶暴って言うな。モンスターマシンと言え」
「変わんないじゃないの」
「ニュアンスだ」
悠也は前方を前方を見据えたまま、可笑しそうに口元を緩めた。パドルシフトに添えた指先が、流れるような加減速に合わせてかすかに動く。
「元々、エボシリーズが好きでな。高一からバイト始めて今年の夏に免許取って中古でようやく買えたんだ。後ジジイがフィンランド人だからか、なんか、エボ推してた……まぁ、都内じゃちょっと持て余すがそれでも後悔はないな」
「ふーん……貴方って意外と子供ぽいのね?」
「ロマンの為に金かけれるなんて結構良いもんだぞ?それに、GGOで稼いだ金はこっちにも回せるからな」
悠也は事も無げに言った。ゲーム内で獲得した希少なレア武器や報酬を現金化できる、GGOのリアルマネー還元制度。戦場でトップクラスの成果を叩き出してきたスナイパーたるナガンは、そのシステムを現実世界の愛車の維持費として、存分に、かつ有効に活用しているようだった。
仮想世界の弾丸が、現実世界のハイオクやパーツに化けているのだから、つくづく大した男である。
そんな悠也の身体をがっちりとホールドしている、黒い独特な形状のシートに詩乃の目が留まった。助手席や後部座席の純正シートとは明らかにデザインが異なり、よりレーシーで引き締まった雰囲気を醸し出している。
「そういえば、貴方の座席だけ周りの席と別だけど.....それって、後から取り付けたモノな
の?」
「あぁ、このシートは自分で買って取り付けたやつだな」
「へえ、わざわざ替えたんだ......それ、いくらしたの?」
詩乃が何気なく尋ねると、悠也は少しだけ声を潜め、ドヤ顔で言った。
「知り合いのショップの店員と交渉して、かなり安めに引いてもらったからな。込み込みで16万くらいだ」
「じゅう、ろく万!?」
詩乃の驚愕の悲鳴が、狭い車内にくっきりと響き渡った。女子高生にとって、あるいは一般的な金銭感覚の大学生にとっても、椅子一脚に支払う金額としては完全に常軌を逸している。詩乃の手元にある学校で買った紅茶が何本買えるか、計算するのも馬鹿馬鹿しくなる額だった。
「な、何よそれ.....シート一つにそんな大金かけるなんて、信じられない.....」
完全に引いている詩乃の手前、彼は弁解するように言葉を付け足した。
「いじったのは本当にそんくらいで、他の車体パーツはほぼ純正だぞ? これでもかなり大人しい方なんだって」
詩乃はジト目を向けながらも、缶コーヒーを悠也のドリンクホルダーにコト、と置いてやった。呆れ半分、けれど自分の好きなものに真っ直ぐ投資できる彼のそんな生き方が、少しだけ羨ましくもある。
悪びれもせず、むしろ自分のこだわりと選択に絶対の自信を持つように、堂々と言い切る。その迷いのない横顔には、自分の好きなものを全力で肯定する、真っ直ぐな強さがある。
高一からコツコツとバイトをして、自分の憧れのために努力を積み重ねてきた日々。それは逃げるように勉強に没頭して大学に合格したという彼の、もう一つの前向きな軌跡なのだろう。
現実の悠也のルーツと、泥臭いまでの情熱に少しだけ触れた気がして、詩乃の胸の奥が小さく温かくなった。エボXは微かに光る太陽に照らされながら、詩乃を乗せて、東京を滑らかに走り続けていった。
今回、悠也の愛車について少し裏話を。
実は執筆当初、悠也の車の第一候補はコペンを候補に入れつつ、プロットを練っていたのですが、「フィンランド人繋がり」でWRCの伝説的ドライバー、トミー・マキネンさんの顔がふと頭をよぎり……気づけば三菱ランサーエボリューションという結論に至っていました。大学生でエボ乗りなんて、あまりに贅沢すぎるだろ!という至極真っ当なツッコミが聞こえてきそうですが、そこは悠也の並々ならぬ銃器や車への執着心ということで、どうか広い心でお許しいただければ幸いです。
番外編という形で劇場版の『オーディナル・スケール』を読みたいですか?※もし書くとなった場合更新が遅くなるかも知れません。
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書くんだ!
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書かなくてもいい!