荒野の最奥、高台に位置する風化岩のエリア。周囲には遮蔽物が少なく遠距離からの狙撃には打ってつけの場所だが、同時に敵の索敵が厳しく、一歩間違えば蜂の巣にされる危険地帯だ。
「よし、ここを拠点にしよう」
「了解です」
「え?」
悠也の言葉に即座に応じたシャイアンは、驚くべき手際で作業を開始した。ほんの数秒の間に、周囲の環境色に完璧にカモフラージュされた高機能な軍用テントが、あっという間にその姿を現す。
「主様、テントを設営しました」
「あ、ありがとう。じゃあシャイアン、M200を」
予想外すぎる展開にわずかに目を丸くし、悠也は困惑しながらも律儀に御礼を述べた。悠也が手を差し出すと、すぐ隣にピタリと寄り添っていたシャイアンが嬉しそうに微笑んだ。
「分かりました」
シャイアンが両手をふわりと掲げると、その掌の周囲に眩い光の粒子が収束していく。次の瞬間、重厚な黒鉄のボディと圧倒的な存在感を放つ対物ライフル――シャイタックM200……
ではなく、FPSゲームの課金スキンに出てきそうな、近未来的な白を基調とした洗練されたデザインのシャイタックM200が、ドスンと悠也の手に現れた。いつもの黒一色とは違い、あまりにもスタイリッシュな代物だった。
「……シャイアン、これはいったい?」
悠也は引きつった笑みを浮かべながら、手元で輝く異様なまでにスタイリッシュな愛銃と、隣で誇らしげに胸を張る少女を交互に見つめた。
「僕のイメージが具現化したM200です」
「……そうか」
もう突っ込む気力すら失せた悠也。だが彼の瞳が戦闘者の色へと変わる。少し離れた場所では、詩乃の隣に立つヘカーテも同様に光を纏い、愛用のヘカートⅡを具現化させて詩乃へと手渡していた。
「位置につくぞ……見えるか、シャイアン」
「ばっちり見えます。風向きも湿度も」
悠也の横にぴったりと寄り添うように密着しながら、シャイアンは耳元で囁くようにデータリンクの数値をつぶやく。物理的な距離が離れすぎると実体を維持できないという制約があるため、体を預け合うどころか、密着したままの狙撃態勢だ。
「……おい、ちょっと近いぞ」
「離れたら消えてしまうので我慢してください、主様」
シャイアンに注意された悠也はすぐに意識を前方のターゲットへと集中させる。 スコープを覗き込むと、数キロ先を巡察する敵部隊の姿がくっきりと捉えられた。一方の詩乃も、ヘカーテを横に感じながら、冷徹なスナイパーの眼差しへと戻っていた。
「ヘカーテ、距離1800、風速4マイル。弾道計算は?」
「問題ありません、シノン……撃ち抜いてください」
二人の息の合った、しかし横から相棒が密着しているというシュールすぎる体勢のまま、カウントダウンが始まる。
「――3秒前、2...1...」
悠也が静かに息を呑む。 その横で、シャイアンが微笑みながら風のベクトルを指し示す。
「「撃つ」」
悠也の放った.408 Chey-Tac弾と、少し遅れて響いた詩乃の.50BMG弾の銃声が、荒野の静寂を切り裂く。完璧な弾道を描いた二筋の弾丸は、数キロ先の標的の装甲を紙屑のように穿ち、見事に同時撃破を達成した。
「っし……!」
「上出来ね」
遠くで上がる爆炎を確認し、悠也と詩乃は小さく息を吐き出す。
「――で、撃ち込めば居場所が割れるのがスナイパーの宿命なワケだけど」
遠くで上がる爆炎をスコープ越しに確認した詩乃が、苦笑いを浮かべながら呟く。その言葉に応えるように、数キロ先のアジト跡から甲高い警報音が鳴り響き、周囲の岩陰から続々と敵の増援部隊――ガスマスクをつけた重装甲の歩兵ロボットや高速戦闘ドローンが大量に湧き出してきた。赤く明滅するロックオンアラートが、二人の視界を一瞬で埋め尽くしていく。
「まぁ、いつものことだな」
悠也は冷静に排莢レバーを引き、熱を帯んだ巨大な空薬狭をシャリンと風化岩の上に転がした。
「移動しましょう悠也。次が来る」
「分かった……って、おいシャイアン! 足引っ張んな!」
「引っ張ってないです」
陣地転換のために走り出そうとした悠也だったが、腰に抱きつくように密着してくるシャイアンのせいで、足取りがなんともぎこちない。傍から見れば、戦場で幼い妹を抱えながら逃げ惑う不器用な兄である。
「詩乃、俺は先に歩兵を殺る。そっちはドローンを頼んだ。歩兵を全滅させたら俺も加わる」
「任せて」
詩乃が即座に頷き、上空の索敵へと移る。その背中を任せたまま、悠也は白地のシャイタックM200を構え直し遠方の脅威へと照準を合わせた。悠也は目標をガスマスクをつけた歩兵に合わせ、冷徹に引き金を絞る。敵の頭が弾け飛び、盛大な金属音とともに薬莢を勢いよく排出させる。
「次!」
悠也は迷いのない動作で再びトリガーを引いた。放たれた高威力の弾丸は一直線に軌跡を描き、縦に重なっていた二体の歩兵の装甲をまとめて穿ち、鮮やかなダブルキルを叩き出し、誘爆させる。
「次!――っ、弾切れか!」
銃身が乾いた音を立て、残弾が尽きたことを告げる。悠也は一瞬の隙も作らぬ流れるような手さばきで空のマガジンを弾き飛ばし、新たなマガジンを叩き込むと、瞬時にボルトを引いて初弾を薬室へと送り込んだ。その間も、押し寄せる敵の歩兵たちはただ真っ直ぐ突っ込んでくるわけではなかった。不規則なジグザグ機動や、あえて足を止めてフェイントを仕掛け上昇し悠也の狙いを外そうと狡猾なプログラムの動きを見せる。
だが、それは悠也の前では無意味だった。
「動きが単調ですね。そんなのすぐに見切れます!」
シャイアンが耳元で高らかに告げ、悠也の冷徹な銃口が完全に先回りしていた。
「狙い撃つ……!」
銃声が轟くたびに、ガスマスクをつけた歩兵たちが次々と大地へと崩れ落ちていく。敵の小細工を完全にいなした悠也とシャイアンのコンビネーションの前に、押し寄せていた歩兵の群れはついに抗う術を失い、見事に全滅へと追い込まれ悠也もドローンの迎撃に向かう。
一方の詩乃も、ヘカーテにピタリと肩を並べられ、スカートの裾を掴まれた状態で岩陰から岩陰へと軽やかに躍動していた。
「ヘカーテ、こっちに向かってくる上空のドローン5機の優先順位は?」
「中央、左、右の順に撃ってください」
「分かったわ!」
大量に現れたドローンでも特に近づいている機体に対し、詩乃は走りながら鮮やかに身を翻し、砂塵舞う荒野の地に膝立ちの体勢でしっかりと着地した。迷いのない動作で愛銃を構える。引き金が絞られた瞬間、爆音とともにヘカートⅡが強烈な反動を吐き出した。
放たれた巨大な弾丸は、ヘカーテが描いた完璧な予測線を描きながら一直線に空へと駆け上がり、まずは中央のドローンを木端微塵に撃ち抜く。間髪入れず、詩乃は重心を滑らかに移動させながら残る二機へと狙いを定めていく。
「――っ、まだ来る!」
連動して襲い来る二機のアサルトドローンが、急降下しながら機関砲の斉射を浴びせてきた。砂塵が舞い散り、詩乃の足元が紅い弾痕で抉られる。しかし、恐怖や焦りは微塵もない。
「左の機体、旋回半径が大きいです。今!」
「もらったわ!」
ヘカーテの冷徹なコールに合わせ、詩乃は一連の流れるような動作で銃身を左へと振る。放たれた次弾が空気を引き裂き、急旋回を試みた左のドローンのメインエンジンを正確に貫いた。機体は火花を散らしながら地面へと激突し、爆炎を上げる。そのままの勢いで右の機体へと照準をスライドさせようとした瞬間、上空から死角を突くように第五のドローンが奇襲のミサイルを放ってきた。
「詩乃、上方から接近! 右に回避しつつ迎撃を!」
「っ……!」
ヘカーテが詩乃の背中をぐっと押し込み、強引に軌道を修正させる。物理的に密着しているからこその高速な体勢変更により、詩乃は飛来する小型ミサイルを紙一重でかわしながら、その勢いのまま地面を蹴って跳躍した。体を翻し、重力に逆らうようにヘカートⅡを真上へと突き上げる。
「一網打尽にしてあげるわ……!」
叫びと共にトリガーが絞られる。放たれた一撃は残る二機をまとめて捉え、空中で眩い連鎖爆発の花を咲かせた。
「凄いわ……! 貴女がいれば、どんなに動きの速い相手でも当たる気がする!」
次弾を装填しながら、詩乃は思わず感嘆の声を漏らした。それほどまでに、ヘカーテの導き出すデータは完璧で彼女の射撃スキルと完全に噛み合っていた。しかし、当のヘカーテは詩乃の隣に寄り添ったまま、澄んだ瞳を微動だにさせず冷静に答える。
「私はあくまで補助、引き金を引くのはあなたの役目です……すべては、貴女の卓越した腕前のおかげですよ」
褒め称えるような、それでいてどこか淡々としたヘカーテの言葉に、詩乃はわずかに口元を緩ませてふっと笑った。
「そうね。じゃあ、残りも一網打尽にしてあげるわ!」
再び冷徹なスナイパーの眼差しに戻った詩乃は、残るドローン群へと照準を合わせ、次なる一撃を放つべく静かに息を整える。だが、押し寄せるドローンの残党と新たな小型偵察機の群れを前に、悠也は大きく舌打ちをした。長距離用の対物ライフルでは、この至近距離で群がる素早い敵を相手にするには小回りが利きすぎる。
「チッ、近すぎるな……!」
悠也は素早く背中にシャイタックM200を背負い直すと、腰のホルスターに手を伸ばした。そこから引き抜いたのは、先程、購入したばかりの小型のピストル――通称「ビームピストル」の二挺だ。
一挺ずつ両手に握り込み、鮮やかな二丁拳銃スタイルへと移行する。 このビームピストルは、実銃のような圧倒的な破壊力はない。だが、その代わりに取り回しが抜群に良く、驚異的な連射性能を誇る近接戦闘用の武装だった。悠也は両手を鋭く突き出し、引き金を連ねて引く。ピンク色のビームの弾幕が幾重にも交差し、群がってきた小型ドローンの装甲を次々と焼き払っていく。だが、敵のAIもただ撃たれているだけではなかった。
一機のアサルトドローンが強引に死角を突き、悠也の懐へと潜り込むと、その機体表面から赤く明滅する小型の吸着爆弾をひっぺがし、悠也が両手に持っていたビームピストルへと容赦なく貼り付けた。
「主様!」
シャイアンが鋭い悲鳴のような声を上げる。爆弾のタイマーが激しい電子音とともに赤く点滅し、起爆までのカウントダウンがゼロを示そうとしていた。ピストルごと吹き飛ばされれば、悠也の肉体もただでは済まない。
「分かってる!」
悠也は慌てるどころか、むしろ冷徹な笑みを浮かべた。 彼は爆弾が貼り付いた二挺のビームピストルを、ためらうことなく左右の斜め上にいる敵陣へと放り投げる。放り投げられたピストルが敵の群れの中心へと差し掛かった瞬間――鮮烈な閃光とともに爆弾が誘爆した。
すさまじい爆音が響き渡り、周囲を取り囲んでいたドローンの一団が文字通りまとめて吹き飛ばされ、スクラップの雨となって四散する。爆風と硝煙が荒野を包む中、悠也は爆風の余波を身に受けながらも、一連の流れるような動作で背中からシャイタックM200を引き抜いた。そのまま着地と同時に地面を滑らせ、見事な膝立ちの狙撃態勢へと移行する。
「逃がさねぇよ!」
悠也の冷徹な瞳が、爆煙の向こうで態勢を立て直そうとする最後の敵機を捉えた。迷いのない引き金の絞りとともに白地のシャイタックM200が轟音を吐き出し、逃走するドローンの核心部を正確無比に撃ち抜いて完全沈黙させた。
しかし、コレで終わりでは無い。
「右前方の岩陰、三連装機関砲の重装甲タイプだ!」
悠也は荒々しく砂塵を蹴立てて走り込みながら、白地のシャイタックM200を力強く構え直した。前方でガシャリと巨大な装甲が展開され、物陰から顔を出した敵の核心部――何重にも重ねられた装甲の継ぎ目にある剥き出しのコアへ向けて、悠也は鋭く視線を固定する。
「射撃タイミング、あと2秒……今!」
耳元でシャイアンが弾むような声を響かせたその瞬間、悠也の指が遊びのないトリガーを力強く絞り切る。
ズドンッ! と、荒野の空気を震わせる重厚な衝撃波とともに、.408 Chey-Tac弾が銃身を飛び出した。放たれた弾丸は凄まじい回転と初速を伴いながら空気脂を切り裂き、寸分違わず敵の弱点を直撃する。凄まじい運動エネルギーが装甲を粉砕し巨大な歩兵ロボットは内側から盛大に爆破霧散した。
「……ハッ、手応え最高だな!」
「主人様の腕があれば負けなしです……!」
爆発の炎を背に、シャイアンは悠也の背中にしがみついたまま得意げに胸を張る。しかし、余韻に浸る暇すら与えず、周囲の地面が激しく揺れた。
「――まだ来るぞ!」
地響きとともに、岩陰や砂丘の向こうから新たな敵影が次々と湧き出す。上空を旋回する高速アサルトドローンが四機、さらに地上からはキャタピラ駆動の自走式迫撃砲が2台、一斉に紅いセンサーライトを悠也たちへと向けた。
「主様、追加で出てきたドローンが旋回モードに入ってます。このままだと十字砲火の餌食に!」
「チッ、本当に数が多いな……!けど、的がでかくて助かるぜ!」
悠也は走りながら姿勢を低くし、風化岩の影へとスライディング気味に滑り込む。その背中に密着したまま、シャイアンは周囲の空間を指し示した。
「右斜め前方から秒速四メートルです。上空のドローンは一機目から順に、軸を0.2ミリずらしてください」
「任せろ……!」
悠也は息を吸い込み、心拍数を強制的に落とす。周囲の喧騒がスローモーションのように遠のき、世界がモノクロームの静寂に包まれる。 カチリ、と銃身のロックが噛み合う感触。悠也の指が再び引き金に力を込めた。
連続する銃声が、乾いた荒野に轟く。
一発目。狙い澄まされた超長距離弾が、音速を超えて飛翔し、先頭を飛んでいたアサルトドローンのメインローターを根元から粉砕する。制御を失った機体がきりもみ回転をしながら地面へと墜落した。 そのままスコープを離さず、悠也は上半身のわずかな体重移動だけで銃口をスライドさせる。
二発目、三発目。 シャイアンのリアルタイムなセンサーデータと、悠也の狂気的な反射神経が完全にシンクロし、空を舞うドローンたちがまるで的あてのように次々と空中分解していく。
「――最後の一機!」
「上空クリアです。 しかし、1キロ先の自走迫撃砲が主様に照準を合わせ始めました!」
「分かってる!」
ドローンの残骸が砂塵に消えるのと同時に、地上の自走迫撃砲の砲身が鈍い光を放ち、悠也たちを狙って榴弾を放とうとした。悠也は反射的に地面を蹴り、隣で戦う詩乃の方へと跳ぶように距離を詰める。
「シノン、そっちはどうだ!?」
「こっちは想定内よ!」
少し離れた岩陰から詩乃が冷徹な声とともにヘカートⅡを薙ぎ払うように構えていた。彼女の隣ではヘカーテが静かに目を閉じ、周囲の磁気データを完全に掌握している。
「ヘカーテ、自走砲の装甲厚と死角は?」
「右側面、駆動輪の直上が脆弱です……シノンの射撃に合わせます」
「オーケー!」
放たれた巨大な対物榴弾が自走迫撃砲の足回りを直撃した。致命的なダメージを受けた二台の巨獣は、連鎖的な爆発を起こして砂煙の中に沈んでいく。
次々と襲い来る圧倒的な物量の増援を、二組のペアは完璧なコンビネーションと、常軌を逸した超密着の連係プレイでことごとく返り討ちにしていく。 本来なら静かに身を潜め、獲物を待つはずのスナイパーが、互いの相棒を体に張り付かせた状態で戦場を暴れ回る。
だが、そこから放たれる圧倒的な威圧感と、狂気的なまでの正確無比な狙撃精度は、まさにかつて荒野を恐怖のどん底に陥れた「伝説の二大スナイパー」そのものだった。
完結したんですけど書いて欲しいネタありますか?
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詩乃とのイチャコラ
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AGGOのキャラ達とのクロスオーバー