自室のベットでスマートフォンをいじりながら、気ままな時間を過ごしていたとき、ピコン、と電子音が鳴なり、画面を確認すると恋人である詩乃からのメッセージだった。
『明日の日曜日、一緒に出かけない?』
『いいぞ。車出すか?』
少しの間の後、返ってきた返信はどこか遠慮がちで、しかしどこか嬉しそうな文字が並んでいた。
『...大丈夫よ。毎回出してもらうのも、申し訳ないから....それに偶には一緒に歩いて行きたいわ』
『分かった』
画面の向こうで彼女が少しはにかんでいる姿が目に浮かぶようで、悠也は小さく笑いながら承諾の返信を送った。
そして、約束の日曜日。天気は雲一つない快晴で、初夏の心地よい風が街を吹き抜けていく。鏡の前で髪を整えて家を出た。気負いすぎず、かといってラフすぎない、デートにふさわしい絶妙なバランスの服装だ。待ち合わせの時刻にはまだ少し早い、5分前。余裕を持って駅前の指定された一角へと足を向けたその時だった。曲がり角の向こうから、見慣れたシルエットがひょっこりと姿を現した。
「あっ……」
お互いに足を止め、一瞬だけ目を見開く。詩乃もまた、今日の日のために選んだのだろう、軽やかなフレアスカートに清楚なカーディガンを羽織り、いつもより少しだけ大人っぽい雰囲気を纏っていた。服装のテイストが見事に噛み合っていることに気づき、悠也は思わずフッと息を漏らす。
「考えてる事は同じみたいね」
詩乃は少しだけ頬を朱に染めながらも、どこか誇らしげに、綺麗に澄んだ瞳を細めて微笑んだ。
「そうだな」
悠也は自然と笑みを返し、彼女の歩幅に合わせるように並んで立つ。
「じゃあ、行こうか」
「ええ、行きましょう」
車を使わない二人だけの、のんびりとした休日を惜しむように、ゆっくりと歩き出す。
「にしても、急だったな。どこか行きたいとこでもあったのか?」
並んで歩きながら、悠也はふと気になって隣を歩く詩乃に話しかけた。 特に予定のない休日に誘われるのは嬉しいが、普段の彼女はスケジュールをきっちりと立てて余裕を持って連絡をよこすタイプだ。こんなふうに急に誘いを出してでかけるのは、少し珍しかった。
「えぇ……その、どうしてもあなたと一緒に行きたい所があって……」
詩乃は少しだけ視線を逸らし、頬をほんのりと朱色に染めながら小さな声で答える。その少し恥じらうような仕草がたまらなく愛らしい。悠也は思わず胸の奥がキュッと締め付けられるような感覚を覚えた。
「どこまでも付き合うぞ」
「ふふ、ありがとう」
詩乃が嬉しそうに目を細めて微笑み、二人の歩幅が自然とさらに縮まる。そうして、おしゃべりを楽しみながら街を抜けた先に行き着いたのは、駅前にある大型ショッピングモールの映画館だった。上映スケジュールを確認すると、今話題になっている王道の恋愛映画がちょうど始まるところだった。ラブストーリーには普段あまり馴染みがない悠也だったが、予告編の映像はなかなか興味を引くものだった。
「これにするか?」
「ええ、いいわね」
チケットを買い、ポップコーンを片手に暗いシアターの席に並んで座る。スクリーンいっぱいに映し出される真っ直ぐな恋模様とドラマチックな展開に、二人は静かに引き込まれていった。映画館を出たあとは、心地よい冷房の効いたモール内を並んでブラブラと歩く。ウィンドウに並ぶ洋服や雑貨を眺めながら、他愛のない感想を語り合っていたその時だった。
「あれ、朝田さん?」
ふと、背後から明るく弾んだ声がかけられた。 声の主の方へ振り返ると、そこには詩乃にとって見覚えのある顔があった。以前、悠也が愛車のエボⅩで詩乃を迎えに来る現場を偶然目撃していた、クラスの女子二人組だった。
「あっ……」
詩乃の小さな声が漏れる。
「ん?」
悠也が首を傾げた瞬間、女子二人はまるで面白いものを見つけたと言わばかりに、ニヤニヤとした笑みを浮かべながらスタスタと近づいてきた。
「朝田さん。奇遇だね?」
「ほんと〜、こんなところで二人っきりなんて」
「えぇ、き、奇遇ね……」
詩乃は先ほどまでの落ち着いた雰囲気が嘘のように慌てふためき、視線を泳がせた。そんな彼女の珍しいリアクションを、悠也は面白そうにニヤニヤとした視線で見つめる。
「ごめんね、デートの邪魔しちゃって」
「お幸せに〜!」
冷やかすような、けれどどこか温かい言葉を残して、女子二人はヒラヒラと手を振りながら去っていく。彼女たちの背中が見えなくなったあと、詩乃はバツが悪いと言わばかりに、じっとりと冷ややかな視線を悠也に向けた。
「……何よ、その面白そうな顔」
「いや、可愛いなと思って」
「……もう、からかわないでよ」
そう言いながらも、詩乃の耳たぶの赤さはなかなか引きそうになかった。悠也はフッと柔らかく笑い、恥ずかしそうに歩幅を速めた彼女の背中を、見つめながら追いかけていくのだった。
そうして2人はショップなどで時間を潰し、GGOとはまた違う甘い時間を過ごした。やがて歩き疲れた足を休めるため、二人が向かったのは、少し離れているが落ち着いたエリアにある、おしゃれなオープンカフェだった。テラス席の木漏れ日の差すテーブルに並んで腰を下ろし、メニューに目を落としていた詩乃が、少しだけ頬を染めながら小さな看板を指さした。
「本命はこれなの……」
悠也がその視線の先にある立て看板を覗き込むと、そこには期間限定の文字とともに、大きなハートがあしらわれた「カップル専用のパフェとシェアリング・ジュース」の写真が載っていた。
「なるほど。攻めるな」
「……いいじゃない。何か特別な思い出として一緒にやってみたかったのよ」
普段のクールな彼女からは想像もつかないような少し恥ずかしそうな、けれどまっすぐな想いに、悠也の胸の奥がふわりと温かくなる。彼女のそんな深い思いやりに触れ、悠也は思わず自然と笑みをこぼした。
「嬉しいな」
素直に零れ落ちたその一言に、詩乃は照れくさそうに目を伏せながらも、どこか満足げに小さくうなずいた。そうして他愛のない会話を楽しんでいるうちに、注文した品がテーブルへと運ばれてくる。
目の前に置かれたのは、鮮やかな赤いイチゴをふんだんにベースとした、少し大きめで華やかな特製パフェと、一つのグラスに二本のストローが差し込まれた、いわゆる「カップルストロー」仕様の特製ジュースだった。
「それじゃあ、いただきましょう」
「そうだな」
まずスプーンで真っ赤なイチゴとたっぷりの生クリームを一緒に掬い上げ、悠也はそれを口プッシュに運んだ。直後、濃厚なクリームの甘みと、イチゴの爽やかな酸味が口の中にいっぱいに駆け巡る。
「どう……?」
「ああ、すごく美味いよ」
詩乃も自分のスプーンでパフェを一口運ぶと、思わずといったふうに目を細め、甘く優しい笑みを浮かべた。静かなカフェのテラス席で、甘いスイーツと互いの温もりを分かち合う、最高に贅沢で幸せなひとときが流れていく。
甘酸っぱいイチゴのパフェを堪能したあと、二人の目の前にはもう一つの主役――例の「カップルストロー」が差し込まれたグラスが残されていた。 一つのグラスから伸びる二本のストロー。それを目の当たりにして、普段はどんな銃火器を前にしても動じない詩乃の頬が、わずかにピンク色に染まる。
「……これ、飲む?」
少しだけ気恥ずかしそうに視線をそらしながら、詩乃がグラスを悠也の方へと少しだけ押しやった。
「せっかくだ、一緒にいこうか」
悠也がふっと悪戯っぽく笑いながらそう言うと、詩乃は「もう……」と小さく呟きながらも、どこか嬉しそうな表情を隠しきれない。二人は顔を見合わせ、それぞれのストローへとそっと口をつけた。
グラスの中の甘いフルーツジュースを同時に吸い上げる。至近距離でお互いの息づかいが感じられるほどの距離感に、詩乃の心臓がトクトクと激しく脈打つのが分かる。グラス越しに伝わる体温と、甘酸っぱい冷たさが喉を潤していく。ストローから口を離した詩乃が、少し潤んだ瞳で悠也を見上げた。
「……どうよ?」
「ああ、甘くて……美味いな」
悠也が意味深な笑みを浮かべながらそう返すと、詩乃はカァッと顔を赤くして、そっぽを向いてしまった。
「っ……からかわないでよ……!」
「本当のことだろ?」
からかわれて少し膨れ面を見せる詩乃の頭を、悠也が愛おしそうにそっと撫でる。テラス席を吹き抜ける夜風が、二人の火照った頬を心地よくクールダウンさせていくのだった。
「ふう……やっと落ち着いたわ」
パフェとジュースを食べ終えた2人は他愛も無い会話に入る。
「結構ボリュームあったよな」
「そうね……」
詩乃はふと思い出したようにバッグをごそごそと探り、小さな包みを取り出して悠也の目の前に差し出した。
「誕生日おめでとう、悠也」
「覚えていたのか。ありがとう.....詩乃」
悠也の誕生日は5月17日。なんとなく察してはいたが、彼女から貰えるというのはやはり気分が良いものだ。受け取った包みを開けると、中からシックで上品なデザインのキーホルダーが出てきた。シャイタックM200を模したような、洗練された造りになっている。
「……これ、わざわざ探してくれたのか?」
「べ、別に大したものじゃないわよ。たまたま見つけたから……その、似合いそうだったから買っただけ」
そっぽを向いてツンとした態度を取る詩乃だが、真っ赤になった耳は隠しきれていない。悠也は思わずフッと笑い、そのキーホルダーを大切そうにポケットにしまい込んだ。
「大事にするよ……じゃあ、お返しもかねて、今度、出かける時は俺が全部プラン組むわ」
「期待してあげる」
パフェの甘さとシェアリング・ジュースの余韻を胸に、二人は席を立ち、レジへと向かった。スムーズに会計を済ませて店の出口へ向かおうとしたその時、背後から「あのっ、お客様!」と、先ほどの若い店員が慌てた様子で声をかけてきた。
振り返ると、店員はチェキを片手に少し興奮した面持ちで立っている。
「はい? 何か忘れ物でも……」
「いえ、そうじゃなくてですね! 実は当店、あの『カップル限定メニュー』を注文されたお客様を対象に、記念のチェキサービスを行っているんです! よかったら、記念にお一ついかがですか?」
思いがけない提案に、悠也はまじまじと店員を見つめたあと、隣に立つ詩乃へと視線を向けた。
「どうする?」
「……せっかくだし、撮ってもらいましょう?」
少しだけ迷ったような、しかしどこか楽しげな光を瞳に宿して、詩乃はこくりと頷いた。店員の案内でテラスの一角に並んで立つ。カメラを向けられた悠也は、少し照れくさそうに片手で軽くピースサインを作ろうとした。
――だが、シャッターが押されるコンマ数秒前。隣にいたはずの詩乃がスッと素早く動き、悠也の片腕をギュッと両手で掴み、そのまま伸び上がるようにして彼の頬へと柔らかい唇を押し当てた。不意打ちの甘い感触に、悠也は目を見開き、動きをピタリと止める。カシャリ、と軽快な電子音とともに、その奇跡的な瞬間がしっかりと写真に収められた。
「ふふ、隙ありよ」
一歩引いた詩乃は、満足げにどこか得意気な悪戯っぽさを浮かべて微笑んだ。真っ赤に染まった顔のまま固まる悠也を見て、彼女は満足そうに胸を張る。
フラッシュが焚かれ、カシャリと軽快なシャッター音が響き渡る。悠也はあまりの不意打ちに目を見開き、フリーズしたように硬直した。写真の確認に画面を覗き込んだ店員は、完璧なタイミングで捉えられたその決定的な瞬間を見て、思わず両手で口を押さえた。
「……こ、これは……!」
「ちょっ、おまっ……!」
「やられっぱなしなのは、性に合わないから」
詩乃はやり遂げたと言わばかりに、ふふっと悪戯っぽく勝利の笑みを浮かべる。固まっている悠也を横目に、彼女の表情はどこか満足げだった。そんな二人のやり取りを微笑ましく見つめていた店員は、ふと閃いたように目を輝かせ、チェキを掲げてニヤリと笑った。
「これはカフェの宣伝用として、SNSで大々的に使わせてもらえれば……!」
「おい待て、何勝手に商売道具にする気だ! 消せ、今すぐそのデータ消せ!」
悠也が慌てて抗議の声を荒げ、店員を追いかけようとする。
「冗談ですって! 大事な記念ですから、ちゃんと現像したお二人分をお渡ししますね!」
慌てふためく悠也と、勝ち誇ったように涼しい顔でそれを眺める詩乃。静かなオープンカフェに、二人の賑やかな笑い声が響き渡るのだった。
「お待たせしました! こちらがお二人の記念チェキです」
店員から差し出された小さなフィルムを受け取り、悠也と詩乃は並んでそれに目を落とした。手のひらサイズの白い枠の中に焼き付けられていたのは、驚きで目を見開く悠也と、彼の頬にキスをしながらどこかイタズラっぽく微笑む詩乃の姿だった。
あまりにも自然で、そしてあまりにも甘い一瞬が、鮮やかに切り取られている。
「……うわ、見事に不意打ち食らった顔になってる」
悠也が頭をガリガリと掻きながら照れくさそうに笑うと、覗き込んでいた詩乃はクスクスと楽しげな声を漏らした。
「いい顔してるわよ。すごく驚いてて、可愛かったわ」
「可愛いって言うな……でも、確かにいい記念だな」
悠也がチェキをそっと指先で摘まみ上げると、詩乃は満足げに目を細めて微笑んだ。
「当たり前でしょ。誕生日なんだから」
そう言って自分のバッグのポケットから小さなパスケースを取り出すと、詩乃はそのチェキを丁寧にしまい込んだ。悠也も取り敢えず財布の中にしまう。後で、自分の部屋で大切に保管するつもりだ。
そうして、色々インパクトと残したカフェを離れる。やがて夜のとばりが下り、街のネオンが灯り始めた。帰り道の並木道を並んで歩きながら、悠也がふと口を開く。
「なあ、詩乃」
「ん?」
「詩乃と出会えてほんと、良かったよ」
「……当たり前でしょ?」
詩乃は少し照れくさそうに目を伏せたが、すぐに顔を上げて、うっとりするほど優しい笑みを悠也に向けた。
「私も……悠也と一緒が、一番好きよ」
「俺も詩乃が大好きだ」
夜風が優しく二人の髪を揺らす。繋いだ手から伝わる温もりが心地よくて、二人は言葉を交わすことなく、ただ穏やかな時間を噛み締めながら家路へと歩いていくのだった。
完結したんですけど書いて欲しいネタありますか?
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詩乃とのイチャコラ
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アンダーワールド編
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AGGOのキャラ達とのクロスオーバー