映画館での新しい特典があまりにも良すぎる。これは行かない手がないですね!これを機にみんなも見よう超かぐや姫!
『激戦っすぅ!ヤグラは各々取得しかぐやチームの天守閣付近での攻防!』
『一進一退……って言いたいけど、ブラックオニキスの余裕が凄いー!でも、かぐや達も食らいついてるよ!頑張れー!』
実況席と観客席の盛り上がりが高まっていく前で、かぐやと雷、彩葉と乃依がそれぞれ争っていた。
「おりゃ!おりゃ!おりゃー!」
「ふっ!」
ハンマーに備え付けられたロケットランチャーから硬質化するドジョウを雷めがけて撃ち放つも、錫杖の一振によって隆起した岩盤がそれを防ぐ。
「それ、それ、そーれ」
「くっ……!」
軽やかな声とは裏腹に、雨のように降り注ぐ矢が彩葉を狙う。必死にそれらを避け、反撃に出ようと身を翻すも、それを読んでいた雷の地雷が動きを妨害する。
2対2
数としては全く同一であったが、個々の強さと連携の練度が圧倒的に違った。
白兵戦最強と名高い帝を除こうとも、彼らもまた百戦錬磨の強者。連携も拙く、多対一に慣れない2人では食らいつくのがやっとであった。
「ねぇ彩葉、武器ってさ……」
「はぁっ……はぁっ……」
現状を打破する為、かぐやが彩葉に声をかけるも、彩葉は浅い呼吸を繰り返し粘ついた汗を流すのみで反応を返せない。
焦りがジワジワと彩葉の首を絞めていく。
「いろ──」
「彩葉ァァ!何をしているぅ!!!」
かぐやが心配げに声をかけようとした瞬間、馬に乗りながら崖を駆け下りてきた光が怒声を上げる。
予想だにしなかった側面からの乱入に僅かに意識がブレた雷と乃依目掛けて散弾銃を連射する。
一瞬動作が遅れたとはいえ流石はプロ、この程度の不意打ちには慣れているのか、後方へ飛び退くことで目の前に広がった銃弾を躱す。
かぐや達と乃依達の向かい合う丁度中間、戦場のド真ん中に金の羽織が揺れた。
「み、源!?アンタ、今崖を馬で」
「そんなことはどうでもいい!貴様、何故一人で戦おうとする!?」
地面に荒々しく叩きつけられた両手斧の石突きが、鈍い破壊音を伴って地面を砕く。
「勝たねばならんのだろう?彼奴らとの彼我の差に焦りがあるのだろう?ならば、何故俺たちを頼らぬ!」
「っ!」
「言ったはずだ。頼れと。できぬなら、貴様のしたい事のために利用して見せろと」
ひょっとこ面の奥に秘められた鋭い眼光が彩葉を射抜く。土埃を払う風に、再度金色がはためく。
「貴様が、今したい事。すべきことは、なんだ?」
覇気を纏いながらも、どこか諭す優しさの滲んだ言葉に、彩葉は瞠目する。かつてあった父の暖かさを幻視し、1度瞬くことで父とは似ても似つかぬ友を見る。
瞳に焦りは無く、浅い呼吸は整っていた。
「──
「うぇっ?!えーっと、が、頑張れ!ミナモト!」
「ククッ、クククッ、クアーッハッハッハッ!あぁ、あぁ!しかと任された!行け、彩葉!貴様の成すべきをなせ!」
『かぐや&いろPはジャンプ台からヤグラへ!待ち受けるのは、帝との一騎打ちだ!』
自らに背を向けて走り去った彩葉とかぐやを見送り、光は目の前の鬼を見据える。
「すまんな、真剣勝負の最中に。待たせてしまったか?」
「俺達は夢を魅せるのが仕事、無粋な真似はしない」
「俺はさっさと終わらせたかったんだけどな〜」
「クククッ、貴様らの美学に感謝しよう。……今の俺は気分がいい。故に、礼も兼ねて一つ盛り上げるとしよう!」
仰々しい身振りと共に金の羽織が広がる。
否応もなく惹き付けられる絢爛さと反するように、滑稽に張り付いたひょっとこ面がカタリと揺れる。
揺れた仮面の下にできる、僅かな隙間。そこへ無理やり指を差し込んで、引き裂くかのように持ち上げる。
ブチッ!と紐が千切れる音と共に仮面が外れ、天へ昇った。
激しい戦いの最中も、配信での1幕でも、決して外れず、外さなかったひょっとこ面が有終の美を飾るかのごとく宙を泳ぎ、青の燐光となって消える。
残されたのは、絶大な自信を示す豪奢な金の羽織と、光を放つが如き極限の美貌、そして戦気宿る無骨な武器たちのみだった。
「──最終決戦、魅せてやろうではないか!」
「──ふっ、リーダーが気に入るわけだ」
「──ふーん、いい顔してるじゃん」
『ら、ライト源氏が、顔出ししたァァァ!!!』
『な、なんというイケメン!?ひょっとこ面に隠されていた美貌に、観客席からの黄色い悲鳴が止まりません!』
『ライトはカッコイイからねー☆いっけーライトー!そのままみんなを虜にしちゃえ〜!』
実況席と観客席に突如として生まれた熱狂を合図に、3人は動き出す。
「きえぇぇい!」
猿叫と共に両手斧を雷に向けて勢い良く振り下ろす。
石突き近くを持った振り下ろしは、重力と筋力による加速、遠心力によって爆発的な破壊を振り撒く。
「はぁっ!」
目前に迫る破壊の象徴に焦ることなく、雷は地面を隆起させ壁にする。
斧と岩が激突するが、一瞬の拮抗も無く粉砕された岩は粉塵となって掻き消える。しかし、岩を生み出した雷は既に遠く離れ、一撃与えることはできなかった。
斧を振り抜ききった光に向けて、乃依の矢が放たれる。正確に頭を狙った一矢は、後ろ髪を幾本か切り落としたが、前へ転がることで避けられた。
ローリングの姿勢のまま懐に散弾銃を構え羽織で銃口を隠しながら乃依に向けて発砲する。
面に飛び散った赤褐色の銃弾が乃依を襲う。だが、乃依は余裕の表情を崩さない。それどころか、銃弾を無視して矢を構える。
乃依に銃弾が接触する間際、隆起した地面が銃弾を全て防ぐ。更に、赤く発光した剛弓が隆起した岩を粉砕しながら光を襲う。
それを変形させた片手斧で切り払い、再度戦場は初期状態に戻った。
『だ、大接戦ー!ライト源氏の苛烈な攻撃もさることながら、それらを互いの連携によって余裕で捌き反撃まで加える雷&乃依!しかし、それでも仕留めきれないライト源氏ぃ!』
『隙の大きい斧系統ですが、その隙を散弾銃によってカバー。更に、散弾銃の隙の大きさは斧でカバーすることで高火力の連撃を可能にしています。恐ろしいコンビネーションですよ……』
『それだけじゃなくて、ライトの斧は片手と両手で変形もできるから距離や手数も変更できるから相手にすると厄介だよ〜?2対1て対等に戦えてるのはここも大きいかな』
「ククッ、流石だな。まさか体勢を崩すことも叶わんとは」
「……」
「ふむ、黙りか。まぁ、良い。俺としては2人が勝つまで時間稼ぎをしても良いが、それでは格好がつかん。故に、互いに全力の一撃を持って決着としようではないか」
「え〜、俺的にはこのまま続けていいんだけど?」
「……いいだろう」
「え、マジで〜?」
「ブラックオニキスは?」
「……はいはい。夢を魅せるのが仕事、ね」
「クククッ!感謝するぞ、雷、乃依。僅かな時間とはいえ、貴様らと正面から戦えたことを誇りに思う!」
それ以上の言葉はなかった。三者の間には次の一撃を確実に当てるという決意と目の前の強者を屠るという戦気だけが高まる。
光は片手斧を両手斧に変形させる。そして、散弾銃の銃身に手をかけ、側面に取り付けられたロックレバーを外す。
瞬間、斧と同じように特徴的な駆動音と甲高い機械音が鳴り響き、形を変える。
斧よりも鮮明に内部の機械構造を晒す異形の絡繰武器。散弾銃にしては長かった銃身は前後に伸び、2倍以上長くなった。外されたロックレバーはスコープに代わり、遠くに潜む雑兵すら見逃さない。
『へ、へ、変形武器だァ!!ライト源氏!まさかの変形武器二丁持ち!!散弾銃がスナイパーライフルに変形したァ!もはやなんでもありでワロタwww』
『しかし、両手斧ではもう片方に武器は持てないはずですが……』
『よく見てもらえばわかるけど、今回の両手斧はさっきよりも短いんだよね。システム的にはギリギリ片手斧に収まる程度。つまり、今のライトはライフルと最長の片手斧による二刀流ってところかな』
「行くぞ、2人とも!」
「……来いっ」
駆け出した光に向けて、乃依が溜めていたウルトの青緑色を纏った矢が放たれる。先程で戦っていたからこそ分かる光の移動速度、前へ進もうと止まろうと必ず何処かには当たる射線。
しかし、光もまた、乃依と正面から戦い抜いた傑物。そして、早熟の天才。矢の迫る射線にスナイパーライフルをねじ込み、ウルトの発動によって固まった乃依に向けて赤錆色の銃弾を放つ。
青緑色の矢と赤錆色の銃弾がすれ違い、それぞれの標的に向けて宙を駆け抜ける。
「ぐぅっ!?」
「っ……!」
乃依の矢が光のライフルを持つ右腕を穿ち、巨大な結晶と化してその身を縫いとめる。
光の銃弾が乃依の左胸を正確に撃ち抜き、その身を赤錆が蝕む。
『あーっと!ライト源氏と乃依、互いのウルトが命中!こ、これは相打ちかぁ!?』
『いえ、これは……』
乃依が青い粒子となって消える中、結晶に囚われた光は未だアバターをそこに残していた。
実況と観客がその違和感に気づくよりも早く、雷が放つ全力のウルトが身動きの取れない光に向けて放たれる。
乃依の生み出した巨大な結晶を砕き、その中に囚われた光を一片も残さないための全力。明らかなオーバーキルに観客席が僅かに慄いた。実況席すら、容赦のない追撃に動揺する。
しかし、ツクヨミにおける全知である月見ヤチヨと幾万の強敵と戦ってきた雷は気づいていた。
「まだだぁ!!!」
叫び声とともに結晶の粉塵と爆発による土埃の奥から、淀んだ赤を纏う斧を振りかぶった光を現れる。
咄嗟に錫杖を構え防御をするが、真上から振り下ろされた斧の一撃は容易に錫杖をへし折り、雷の左肩から右脇腹にかけてを一閃する。
『な、なんとぉ!?雷と乃依のウルトによる一撃を受けたライト源氏が、蘇って雷を打ち破ったァ!?』
『そうか!斧職の持つ食いしばり!致死量の攻撃を浴びても確率で耐えるスキルですね!』
『乃依のウルトは食いしばりで耐えて、雷のウルトは片手斧の連撃型のウルトでパリィして最後の一撃で雷を打ち破ったんだね。お見事!』
「……見事だ」
膨大な赤の粒子を傷口から零して、雷は消えて言った。最後に残した賞賛の言葉は一切の濁りなく、プロチームの一角を担う雷と乃依をただ一人で打ち破った光に対する敬意に満ちていた。
「……後は好きにやれ、さか……いや、彩葉。かぐや」
斧職のウルトは自傷ダメージを受けるものが多い。ウルトの連撃によってHPを調整し、パッシブスキルで攻撃力をあげ、通常攻撃の連撃で敵を鏖殺する。
食いしばりで1耐えていた光のHPは雷に向けて放ったウルトによってゼロになる。
茜色に照らされる美貌に満足気な笑みを讃え、光もまた緑の粒子となって消えていった。
『雷、乃依、ライト源氏!3者残機全損により、相打ちで決着ぅ!プロ2人を相手取り、相打ちにまで持ち込んだライト源氏ヤバスンギwww』
『しかし、何故ライト源氏はウルト対決に持ち込んだのでしょう?確かに斧系ウルトは火力が高いですが、あのまま連撃によって翻弄していた方がリスクはなかったのでは?』
『それは、雷と乃依がプロだったからだろうね〜。あのまま戦っていたら何処かでライトの攻撃に慣れて戦いは一方的になってたから、その前に決着をつけたかったんじゃないかな?後は、盛り上げるって言っちゃったから、地味な時間稼ぎの時間なんてしたくなかったんじゃない?』
「まったく、月見ヤチヨめ、俺の狙いを全て話しよって……」
虹色に輝く障壁の中で光は苦笑いを零す。
空中には帝対かぐや、彩葉の一騎打ちの様子が映し出されている。
帝が圧倒しているように見えるが、徐々にかぐやと彩葉の動きが噛み合っていく。奇想天外で自己主張の激しいかぐやの行動を彩葉が支え、彩葉の搦め手が利用されそうならかぐやが打ち壊す。
かぐやが生まれた時から、一緒にここまで過ごしてきた2人。互いの考えていることを理解しているからこそできる連携は、帝をして舐めてかかることを許さない。
「頑張れ、2人とも」
応援しながらも、光はまるで心配していなかった。それは一重に、友達の強さと絆を信じているからに他ならない。
「かぐやの考えることなんて、分かってるっつーの!」
彩葉が振るう新緑色の剣は、ワイヤーで拘束され、身動き取れない帝を一刀両断した。
瞬間、観客席に爆発が起きる。
『かぐや、いろP、帝を討ち取ったー!』
『攻撃力が高く、大将落としを最速で打ち出せるかぐやを贅沢に使い、見事にいろPから意識を逸らしましたね』
『かぐやー!いろPー!カッコイイよー!そのまま勝っちゃえー!』
リスポーンした帝がかぐやチームのヤグラを目指して駆けるも、距離が離れすぎている。更に、かぐやと彩葉が高速ライドに乗って移動する中、帝は中速ライドの為、速度にまで差が出てしまっている。
かぐやチームの逆転勝利が、目前まで迫っていた。
「彩葉が危なくなったら、かぐやが助ける!」
「かぐやがミスっても私は置いてくー」
「なんでっ?!」
「あはははっ!」
大将落としを目指す中の1幕。観客にとってあまりにもありふれて、それだけに尊い1幕は、彼女達の友にとってはそれ以上の意味があった。
***
「彩葉、笑ってる……」
「良かったね〜。……芦花、泣いてもいいんだよ?」
「うん……うんっ」
「よしよし、良かったね〜、芦花。彩葉、ちゃんと幸せに笑えてるよ〜」
「うん……うんっ……!」
***
「いい顔で笑うではないか」
完璧でもなければ空元気でもない。年相応に声を上げて笑う姿を、ようやく見れた。
その笑顔から、目が離せない。
「……好きだなぁ」
…………そうか、俺はこれを見たかったんだ。
勝負するだけなら万全でいる必要はなかった。友であるだけなら、生活にまで踏み込む必要はなかった。倒れた時にあれほど焦る必要だって無かった。
それでも、俺がこれだけ酒寄彩葉に執着していたのは──
「──初恋、だったんだな。ククッ、しかし、このタイミングで気づくことになるとは……なんとも滑稽な事よな」
彼奴の隣にはかぐやがいる。
かぐやが居たからこそ、彼奴は今笑っていられる。
俺達ではダメだった。俺では、成せなかった。
貴様でなければならなかったんだよ、かぐや。貴様でなければ、酒寄彩葉は変われなかった。救えなかった。笑えなかった。
俺では、そこまで辿り着けなかったよ。
『源くん?』
『源』
『中間テスト、私と勝負だ!』
『ありがとう、源』
『ライト、ここは任せた』
酒寄彩葉、画面の先でかぐやと笑う貴様を見ていると、無性に泣きたくなってしまう。俺はこれほど、涙脆い男だっただろうか?
「……任せたぞ、かぐや。彩葉はお前といる時によく笑うんだ」
だから、これでいい。
さよならだ、俺の初恋。
コソコソ裏話
光が独白とともに泣いているシーンは誰にも見られなかったし配信にも乗っていない。その部分だけは、不自然に切り取られ、誰にも見られないようにツクヨミの深いところに眠っている。それを行ったのは誰なのか、ただ一人、彼の友である女だけが知っている。
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