俺が8000年に負けるまでの話   作:凪 瀬

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明日から投稿が途切れるので初投稿です。
彩葉&ヤチヨのウェルカムアナウンスは今日まで!聞けてない人はぜひ聞きに行こう!みんなも見よう、超かぐや姫!


14話 ひょっとこの顔

 

 結局、雷の地雷トラップで動き止められてKASSENは逆転負け……みなも、ライトは頑張ってくれてたのに、私達のせいで負けちゃったのが申し訳ないな……。

 ヤチヨによって転移されたミニライブの会場には数々のライバー達の姿がある。何人か、見知った顔も合ってちょっと気恥しい。

 時間的に、もう後ちょっとで優勝者の発表があるらしいけど……これはブラックオニキスで決まりかなぁ……。

 

「まさかあの状況から逆転するとは……流石は黒鬼と言ったところか」

 

「んぐぐぐ〜っ!ぐやじいぃ〜!」

 

「もう、暴れないの」

 

 この2人はこんな状況でもブレないな〜。その我の強さを分けて欲しいくらいだ。

 

「あれは雷が一枚上手だったという話だろう。プロとは、そのくらいできねばなれぬのだろうな」

 

「凄いのは分かるけど悔しいものは悔しいぃ〜!」

 

「あ〜もう、ほら、他の人たちも見てるから!」

 

 まったく、あんまり目立つようなことは……って、100万人越えの配信者だから何しても目立つか……。

 いや!こういうTPOを弁えない行動は良くない!かぐやがこういう場面で見られて知らない人に貶されるのは嫌だし、ちょっとは常識っていうのを覚えてもらわないと!

 

「いと大儀〜☆とーっても素敵なKASSENでした。そして、たった今!ヤチヨカップの優勝者が決まったよー!ヤッチョとコラボる人、発表☆」

 

 宙を泳ぐように現れ、4色のスポットライトに照らされたヤチヨが悪戯げに笑っている。相変わらず可愛くて余裕があって美人なヤチヨの姿に胸が高なるけど、今はそれとは違った緊張に胸が痛む。

 

「ヤチヨカップの〜?」

 

 巨大な画面に映し出されたグラフがドンドンと伸びていく。お兄ちゃんのアイコンが乗った紫のグラフが大きく伸びて、かぐやの金色のグラフも伸びていく。

 

「優勝者は〜☆」

 

 圧倒的だった紫に金が追いすがる。伸びて伸びて、伸び続けるグラフを支えるのは、幾つも積み重なった言葉たち。

 これ、ファンの人たちの……気持ち?

 

『なんか、いいねあの2人』『私推しちゃおっかなー』『可愛い!』『歌やべー』『ケコーン汁』『16:08恋に落ちる音がしました』『いろP最強のナイトじゃん!』『笑顔に惚れたのでかぐや推すわ!』『ピー音間に合ってなくて草。推せる〜』『親方ぁ!空からかぐや姫が!』『いっけー!』『ごめんなさい帝様、今日だけはこっちです』『彩葉が笑ってる』『いい顔で笑うではないか』

 

 急激に加速した金が紫を追い抜いて、頂点に手をかけた。

 

「かぐや・いろP〜☆」

 

 ヤチヨの宣言と同時に金のグラフが爆発し、幾枚ものふじゅ〜コインとなって散らばった。

 

「「めでたしや〜!!」」

 

「え、まっ、まけ、負けたのに?やっ、やったぁぁぁぁ〜!!」

 

「え……え、えぇ……?!」

 

 向けられたスポットライトに周囲からの歓声と拍手に気が遠くなる。な、なんで私たちが……いや、違うて、えっと、ヤチヨとコラボ!?私が?!

 

「やったよ彩葉〜!彩葉のおかげだよ〜!」

 

「いっ、いや、これは……かぐやがさ……」

 

『いろPかっこよかったよねー!』『エイムの正確さ凄かった!』『えっ、かぐやの曲もいろPが作ってたの?!』『笑顔に惚れたんで、いろP推すわ!』

 

『『『いろP!かぐや!いろP!かぐや!いろP!かぐや!』』』

 

 わっ、わっ、わっ……!

 

「一緒に歌いましょ〜☆」

 

 色んな人から応援されて、ヤチヨに笑いかけられて、もう、もう!なんか!

 

「げぇっ!ヤバっ、結婚っ!?」

 

「ゔぇ……」

 

 浮き足立った心も、目の前から人を割って現れるブラックオニキスの面々を見れば落ち着くというもの。まして、お兄ちゃんは勝ったらかぐやと結婚するとかのたまっていたのだ警戒しない理由はないし、苦い声を出すのも仕方ない。

 ていうか、そうじゃん。私達KASSENで負けてたんじゃん。

 

「……これじゃあ、勝ったとは言えないな」

 

「お?ん、ん〜……おぉ!」

 

「まっ、元々無理やり結婚するつもりなんてねーし」

 

「ねーよな!」

 

「いや、アンタは絶対信じてたでしょ」

 

「ふっ……で?彩葉のお願いって何?」

 

「えっ?いいの?……引越ししたくて、保証人になって貰えないかと」

 

「ふーん?家ごと買わなくていいの?」

 

「はい!家ごと!」

 

「もう、かぐやは黙ってる!ったく、出たよ成金発言。結構ですっ!」

 

「……お易い御用。そういえば、ライト源氏は?」

 

「ライト?ライトならそこに……あれ?」

 

 そういえば、私達にスポットライトが当たったタイミングから居なくなってたような……。

 

「んおっ、ミナモトからメッセージだ。えーっと、『優勝おめでとう。俺は少しここを離れる。しばらくは2人で喜びを分かち合うといい』だってー」

 

「あいつ……気が利くんだか利かないんだか……」

 

「……1つ、ライト源氏に伝言を頼めるだろうか」

 

「えっと、雷さんと乃依さん?構いませんけど……」

 

 何だろう、2人からライトへの伝言って。……ま、まさかお礼参り的な!よくもやってくれたな的な!?

 

「……次は負けない、と伝えておいてくれ」

 

「……ちょーし乗んな、って言っといて」

 

 それだけ言って、2人は青の粒子になって消えていってしまった。クールな人と負けた事を気にしないタイプだと思ってたけど、意外と負けず嫌いなのかな?

 言うだけ言って消えていったけど、傍若無人……と言うよりは私たちに気を使ってくれたのかな?

 

「俺のこと置いてきやがって……じゃ、俺もファンのところ行くわ。ライト源氏にはまた連絡するよう言っといてくれ」

 

「わかった。保証人の件、よろしく」

 

「おう。お兄ちゃんに任せとけ」

 

「頼んだぞ!帝!」

 

 お兄ちゃんもまた青い粒子となって消えていく。

 

「ミナモト、どこ行ったんだろうね?」

 

「さぁ……でも、またすぐ合流できるでしょ」

 

「それもそっか〜。てか、彩葉!ホントに引っ越すの?!」

 

「だって、かぐやドンドン物増やすでしょ?」

 

「いよっしゃー!」

 

 ご機嫌なかぐやに思わず笑みが零れる。いや、バレたら多分かぐや調子乗るな。バレないようにしよ。

 ……そういえばライトのやつ、どこいったんだろ?

 

***

 

「ふぅ〜……我ながら、情けない」

 

 めでたいと言うのに、分かりきっていたことだというのに、女々しいことこの上ないというのに……

 

「身勝手な嫉妬など、向けるべきではないというのに……」

 

 憧れられるヤチヨが羨ましい、隣にいられるかぐやが妬ましい、特別なかぐやが嫉ましい。

 分かっている。俺の恋は既に終わっていて、勝ち目なんぞなくて、奪った先に幸せなんぞなくて、彩葉が笑うには隣にかぐやが必要なんて。

 

「女々しく、未熟で、どうしようもない」

 

 それもまた、俺でしかないと分かってはいるが、やはり見たくないものだ。己の至らなさというものは。

 あぁ、まったく、度し難い。御し難い。

 

「──故に、描くしかあるまい」

 

 いつも通り、繰り返した通りに、タブレットにペンを乗せる。色を塗り、線を重ね、構図を、絵を……絵を……。

 

「……描けない」

 

 ペンの動かし方も、色の塗り方も、線の引き方も、構図の見出し方も……思い出せない。いや、思いつかない。

 膨れ上がって溢れ出した感情が、縺れて、崩れて、絡まって、ペンを握る手を重くする。思考が濁り、視界がボヤける。

 タブレットの放つ光さえ陰り、俺は何も描けず、何も整理できないままだ。

 

「スランプ、か……縁遠いものだと思っていたが、なるほど。これは、辛いものだな……」

 

 どれほど苦しくとも、どれほど辛くとも、……絵だけはいつも傍にあって、俺のことを許してくれていた。

 だと言うのに、それさえも失ってしまった俺は、一体どうすればいいんだ?どうすれば、この気持ちを許してやれる?

 俺は、どうしたいんだ?

 

***

 

 その夜から光は何度も何度もペンを持ち、線を引き、色を塗り、まるで足りないそれらに頭を打ち付け、溢れ出る相反する感情の暴力に晒され、発狂と静寂の狭間を繰り返し歩いた。

 丸一日が経って、食事を取った様子のない光を不審に思った照が部屋に入ると、強盗に荒らされたかのような部屋でら取り憑かれたようにタブレットに向かう光の姿が目に映った。

 明らかな異常事態に照が光を止めようとするが、照の手を振り払ってペンを握る。叩きつけるように……否、もはや叩きつけると言い切れる程の強さでタブレットに色を塗り、満たされない感情に絶叫する光。目の下に黒々と刻まれた隈が、事態の深刻さを如実に現していた。

 断腸の思いで照は光を殴り飛ばしタブレットの前から引きずり下ろす。光を灯さない淀んだ瞳を向ける光の胸倉を掴み、瞳の奥を覗き込む。

 

「光、君はっ!……そこで、泣いているのかい?」

 

「照兄さん、俺は…………どうしたいんだ……?」

 

 ポツリと、光が言葉を零せば見開かれ血走った瞳から涙が溢れはじめる。

 

「俺は、酒寄彩葉が笑ってくれていればいい……なのに、隣に俺がいないと嫌なんだ。かぐやじゃなきゃダメだってわかってるのに、必要なのは知っているのに、俺じゃなきゃ嫌なんだ。わかってる、これが醜い独占欲で身勝手な嫉妬なんて言うのは、でも、それじゃ抑えられないんだ。飲み込めないんだ。我慢できないんだ。辛いんだ……俺は後、何度我慢して言葉を飲み込めばいい?受け入れたフリをして押し込めて、大丈夫なフリをして積み重ねて、その先で何を得られる?何を許される?俺は、何のために、何をしたくて、どうして欲しくて、俺は……俺は何を描けばいいんだ?」

 

 照は無表情に涙を流す光を、力強く抱きしめる。

 これまで、光は何度も涙を流してきた。だが、それでも家族に弱音を吐き、選択を委ねようとは決してしてこなかった。

 それは、家族に心配をかけたくないという優しさであり、強き己というプライドであり、自らが孤独であることを肯定する為の願いだった。

 いつも自信ありげに、常に強者に、それでいて親しみやすく滑稽に、そうあれかしとつけ続けた仮面に大きく癒え難いヒビが入った。

 それほどまでに、光は限界だった。

 初めて恋をし、失恋し、生まれて初めて自分に勝ち目はないと自覚してしまった。

 そして、これまで積み上げてきた自信と自信の下に「整理」して押し込んできた感情が湧きだし光のヒビをより大きく致命的なものに変える。

 だからこそ、今、ココこそが分水嶺だった。

 

「……光、君が何を描けばいいのか、兄さんには分からない」

 

「……」

 

「でも、光が描きたいものは確かにあったじゃないか」

 

「俺の描きたいもの……?それが分からなくて、俺は……!」

 

「いいや、光自身が言ったじゃないか。そうであって欲しい、と」

 

「そうであって欲しい……」

 

「酒寄彩葉さんに笑っていて欲しいんだろ?君の、隣で」

 

 照の言葉に光は目を見開く。

 

「だが、酒寄彩葉の隣にはかぐやがいる必要が……」

 

「そんなの、彩葉さんを真ん中にして両隣をかぐやちゃんと光で挟んでやればいい。こうすれば、必要なこともしたいことも両方叶えられる」

 

「違うっ!そうじゃなくて、俺は、俺は……」

 

 頭を抱え、葛藤する光の顔を両手で掴み、ゆっくりと上げさせる。涙で赤く充血した黒い目と穏やかな光を宿した深緑の目が交差する。

 

「光、絵は自由なんだ。君が望む姿に、君のなりたい姿に変わってくれる。それは虚しいことかもしれない。もしかしたら破綻していて、依存しているだけかもしれない」

 

 顔を上げた光の頭をくしゃりと撫でて照は笑う。

 

「それでも、君自身を救う(ひかり)になってくれる。それは、光自身が1番知っているだろう?」

 

「俺を救う……光……」

 

「昔はスケッチブックを買ってはぐじゃぐじゃになるまで描いて、塗ってたよね。あの時の光は、何よりも自由で、誰よりも楽しそうだった。それはきっと、目的もなく、『そうあって欲しい』がちゃんとあったからじゃないかな?」

 

 照はカゴに詰められたスケッチブックを取り出し、ペラペラとページを捲っていく。そこに描かれていたのは、色も線も滅茶苦茶で、構図なんてものはなくて、子供の空想をそのまま抜き出したような自由で夢のあるものだった。

 

「何かのためじゃなくて、やりたいことのために描いてみようよ。そうだ!いつも使ってるタブレットじゃなくて、大きなキャンパスを買って、一度きりの絵を描こう!光のなりたいを詰め込んだ、もう1回の利かない一枚だけの絵を」

 

「俺の、なりたいを詰め込んだ……」

 

 寝不足と精神的疲労、栄養不足によってふらつく体で立ち上がり、夕焼けに染まり出した街を眺める。

 1度目を閉じれば、自然と自分のなりたかった姿が浮かんできた。

 

「照兄さん」

 

「なんだい?」

 

「俺、描きたいものができたんだ」

 

「そうかい。それで?」

 

「手伝って欲しい」

 

「──勿論、照お兄ちゃんに任せなさい!」

 

 こうして、源家初となる共同制作が始まった。

 

***

 

 ツクヨミで月見ヤチヨとかぐや・いろPのライブが行われる前夜。

 Xにライト源氏から一枚の写真が投稿される。

 白かったであろう部屋は飛び散った絵の具で汚れ、キャンパスのすぐ下に置いてある画材達から描きあげてすぐに写真を撮ったことが伺える。

 写真の中央に映る巨大なキャンパスには、夕方と夜の交わる黄昏時、かぐやとライト源氏がいろPを挟むようにして立ち、全員ボロボロながら、なんの屈託もない笑顔でピースする姿が描かれていた。

 投稿された写真には題名と思われる一文が添えられている。

 

『手に入れた勝利』

 

 イラストは瞬く間に拡散され、10万いいねを突破し大きな賑わいを見せた。

 かくして、戦いは終わり。

 コラボライブという熱狂が、始まる。




コソコソ裏話
『手に入れた勝利』のライト源氏は仮面を外しています。そして、笑顔の目元を拡大して見ると1人だけ涙を流していることが分かります。ここに気づいたオタクはみんな蒸発したし、女の勘を持つものとツクヨミにおける全知は色々察しました。

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