俺が8000年に負けるまでの話   作:凪 瀬

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数日ぶりなので初投稿です。
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15話 祭りの前に男と女と

 

「源くんやっと出た〜!」

 

「すまんな諫山真美。色々とあってな、連絡が返せなかった」

 

「も〜、彩葉達と心配してたんだからね?」

 

「わかっている。この後、連絡を取るつもりだ」

 

「それならいいけどさ〜。……何か、源くん雰囲気変わった?」

 

「さてな。だが、この2日間で初心を思い出せた」

 

「ふ〜ん……そっか〜。じゃあきっと、いいことだね」

 

「そうだといいがな。では、また今夜のライブでな」

 

「え〜まだ話したいことあるんだけど〜?」

 

「クククッ、すまんな。2日間色々な者達に心配をかけたようでな、今も通知が止まらんのだ。いや、なんでこんなに通知が来ているんだ???怖い」

 

「源くんがそれだけ愛されてるんだよ〜。じゃ、ちゃんと皆安心させてあげなよ〜?」

 

「あぁ、貴様にも心配をかけてすまなかったな」

 

「気にしないで〜。元気そうならそれでいいからさ〜」

 

「クククッ、貴様は本当に良い奴だな!」

 

「おっ、そうだぞ〜?諫山真美は最高にいい女なのです〜……なんてね?あっ!投稿してたイラスト最高だったよ!それじゃ!」

 

「おぉ、ありが……切りおった。彼奴も大概自由よな……」

 

 それすらも、諫山真美なりの気遣いであろうがな。俺達の中で最も器用で世渡りが上手いのは、確実に彼奴だな。

 というか、さっきから止まらない通知はどこから……あぁ、かぐやか。なら大丈夫だろう。彼奴の隣には彩葉もいる。

 

「……もしもし?」

 

「もしもし、俺だ俺」

 

「個人の携帯を使ってオレオレ詐欺は無理があるよ??源くん」

 

「クククッ、元気そうでなによりだ綾紬芦花」

 

「それ、こっちのセリフなはずなんだけどなー……」

 

「クハハッ!俺にそのような常識が通じるはずがあるまい!」

 

「うーん、いつも通りの源くんだ。もしかして杞憂だったかな?」

 

「そうでもない。色々な事にようやく一段落ついてな。心配をかけた面々に連絡行脚をしているところだ」

 

「そっか、もう大丈夫なんだよね?」

 

「あぁ。心配させてすまなかった」

 

「いいよ。源くんが無事なら」

 

「感謝する。……酒寄……いや、彩葉は、ちゃんと笑えていたぞ」

 

「っ……そうだね、本当に、凄く可愛かった」

 

「今なら、貴様が彩葉に向けている感情の一端が、分かる気がする」

 

 踏み込むことで重荷になりたくない。踏み込む事で壊れて欲しくない。笑っていて欲しい、幸せでいて欲しい。

 

「……それって」

 

「……俺も、彼奴には年相応に笑っていて欲しかった。綺麗な笑顔じゃなく、可愛い笑顔を。できれば、俺の隣でな。……貴様も、そうだったのではないか?」

 

「……そうだけど、そうじゃないよ。私は、彩葉が笑ってくれるなら私の隣じゃなくてもいいの。彩葉が幸せなら、それで満足なの」

 

「……何とも、難儀なヤツよな。それほど声を震わせては、騙せる者も騙せんぞ」

 

「源くんは、誰にも言わないでしょ?」

 

「クククッ、そうだな。誰にも言わぬし、誰にも言えぬよ。……お互い、酷いやつを好いてしまったな」

 

「ホントにね。でも、それを私は誇りに思えるよ」

 

「違いない」

 

「……あの絵、凄く良かった。源くんが泣いてたのは、そういうことなんだね」

 

「らしくない、と笑うか?」

 

「ううん、源くんは優しいからきっとそうすると思ったよ」

 

「よく見ているな、貴様は」

 

 本当に、よく見守っている。

 

「私の他にも心配かけた人がいるんでしょ?なら、早く連絡してあげなよ」

 

「確かに他にも数名、連絡を返さなくてはならない者はいる。だが、それが貴様を蔑ろにしていい理由にはなるまい?」

 

「……もう、源くんはブレないなー。大丈夫だよ、私の言いたいことは言えたし、源くんが無事なのもわかって安心したからさ」

 

「……綾紬芦花は気持ちを隠すのが上手いからな、余計な心配までしまう」

 

「お、私のせいかー?」

 

「そうではない。ただ、無理をしていないか心配なのだ。貴様もまた、俺の大切な友だ。隠れて泣いていないか、必要以上に言葉を飲み込んでいないか、苦しんでいないかを知りたいと思うのだ」

 

「……熱いなー。素直で真っ直ぐで……私、溶けちゃいそうだよ」

 

「そうでなければ、隠して我慢できてしまえる者が俺の友には多すぎる」

 

「ふふ、誰のことだろうね?」

 

「誰らのことであろうな?」

 

「ふふふっ、でも、本当に大丈夫だよ。私はもう、折り合いをつけれてるから。多分、源くんの描いたあの絵もそうなんでしょ?」

 

「……貴様相手に隠し事はできんな」

 

「分かりやすく雰囲気が変わってるもん。多分、真美も気づくんじゃない?」

 

「クククッ、ご明察というやつだ」

 

「もう気づかれてたんかーい。……折り合いつけれてもさ、辛いものは辛いから。その時は、私に声をかけてね?」

 

「……あぁ、頼りにさせてもらう。だが、それは貴様も同じことだろう?その時が来たなら、貴様も俺に声をかけるといい」

 

「ふふ、何か今の言い方、共犯者になったみたいだね」

 

「ある意味では共犯者であろうさ。互いに1人の女に幸せになって欲しいと願う。笑って欲しいと想う共犯者だ」

 

「……確かにね。じゃあ、これからもよろしくね(共犯者)くん」

 

「クククッ、あぁ、こちらこそよろしく頼むぞ綾紬芦花(共犯者)

 

 ブツリッと無機質な音共に通話が切れる。

 あの夕焼けの教室で見た綾紬芦花の大人びた表情と友情という言葉に形容し難い空気を出していたのは、今の俺と同じように複雑な気持ちがあったからなのだろう。

 友であっても友情だけではなく、友でありたいが友でありたくない。

 それを全て飲み込んで彩葉の友として傍で支え続けた綾紬芦花の心の強さには感嘆するな。……やはり心配でもあるが。

 綾紬芦花が知ればお互い様、とでもいいそうなものではあるか。

 

「……いい加減、このやかまし娘と連絡するか──もしも「あっ!やっと出たー!何回も電話かけたんだよー!?」勢い」

 

「もうっ!かぐやすっごい心配したんだからね!?彩葉も心配してたし!」

 

「すまんな、色々と重なっていて連絡を返す余裕がなかった」

 

「もー!ちゃんと無事だよって連絡はしてよね!そだ!ミナモト、かぐや達ヤチヨカップ優勝したよ!」

 

「む?あぁ、知っているが……?」

 

「むぅ〜!なんか言うことないの!?」

 

「なんかと言われてもだな……あ〜、おめでとう?」

 

「うんっ!ありがとう!」

 

「……あぁ、確かに声で伝えてなかったな。寂しい思いをさせて、すまなかった」

 

「わかってるならいいよ!そだ!あの絵、すっごい良かった!私も彩葉もミナモトも笑顔で、綺麗で、何かブワァー!って気持ちになった!」

 

「クククッ、お気に召したなら良かった。俺も描きあげた時は鳥肌が経つほどの達成感があった」

 

「そうだよねー!てか、すごいデカイよね、このキャンパス!どのくらいおっきいの?」

 

「縦120cm横100cmのキャンパスに描いたものだな。描く間は縦へ横へと動き回らなければならなくてな……中々味わえない楽しい経験だった」

 

「へぇ〜!かぐやもやってみたーい!」

 

「今回は照兄……俺の兄に急遽場所を用意してもらったものだからな。かぐやがやる時は事前に場所を探しておくといい」

 

「はーい!やる時はミナモトも呼ぶからね!」

 

「あぁ、楽しみにしている。……今晩ライブだったな」

 

「うんっ!ミナモトも見に来てくれるよね?」

 

「当然だ!貴様らの勇姿、この目に焼き付けてやろう!」

 

「よっしゃあ!かぐやの可愛いとこ見せてミナモトをメロメロにしちゃうからな〜!」

 

「クハハッ!やって見せるがいい!」

 

「あっ、彩葉と連絡とった?まだなら今変わろうか?」

 

「ふむ……いや、大丈夫だ。心配をかけたわけだからな。こういうのは自分からやるべきだろう」

 

「あ〜それはそうかも?じゃあ、また今夜!楽しみにしててね!」

 

「あぁ、期待しているぞ」

 

 ……元気の良い娘だ。

 そこにいるだけで場を華やかに、無秩序に、無茶苦茶に、楽しげに書き換えてしまえる天性の才。あるいは魔性。

 無垢で無邪気な姿は誰かにとっての憧れであり、誰かにとっての救いであり、誰かにとって支えとなりうる。

 子供の持つ自由さが体を得たようなかぐやだからこそ、大人の不自由さに囚われてしまった彩葉の手を捉えることができた。寄り添い、少しずつ自由にしてやれた。

 

「……だからこそ、俺は……俺達はこれで良かったのだと胸を張れる」

 

 今はそれだけで、納得できるはずだ。

 

「──もしもし、光?」

 

「……彩葉、すまんな心配をかけて」

 

「ううん、私の方は気にしなくていいよ。それより、光は?もう大丈夫なの?」

 

「あぁ、諸々について、ようやく一段落できた」

 

「……そっか。なら良かった」

 

「あぁ……っと、そうだ。彩葉、ヤチヨカップ優勝おめでとう。……こうして声で伝えるのが遅れてすまんな」

 

「別に、気にしなくて良かったのに……でも、ありがとう」

 

「今晩コラボライブであろう?緊張は大丈夫か?」

 

「……正直、全然大丈夫じゃない。でも、今はちょっとだけ楽しみがある、かな」

 

「クククッ……それは重畳。楽しんでくるといい、月見ヤチヨ(推し)とのコラボライブなんぞ、これからあるかも分からぬ経験だ」

 

「……うん。楽しんでくる」

 

「それでいい。貴様らの魅せる輝きを、楽しみにしているぞ!」

 

「ふっ、任せてよ」

 

「……ではな」

 

「うん。またね」

 

 彩葉はどのような表情で「またね」と言ったのだろうか。当たり前のような無表情か、噛み締めるような笑顔か、自信を持ったドヤ顔か……。

 いずれにせよ、それを見れるのはかぐやの特権……という訳でもないか?彼奴、割と俺たちの前でも表情豊かになっていたからな。

 

「ククッ、案外と何も変わらんのかもしれんな」

 

 割り切ったつもりで割り切れていなくて、それでもこうして少しづつ割り切って……堂々巡りを繰り返す。

 綾紬芦花は、一体何度これを繰り返したのだろうか。いや、無粋だな。

 

「最後は……直接会いに行くとするか」

 

 スマコンを起動し、瞼を閉じる。

 イメージするのは、いつもの和室、ただ一部屋。

 

「──来たぞ、月見ヤチヨ」

 

「待ってたよ、ライト」

 

 俺の来訪がわかっていたのか、あるいはずっと待っていたのか。

 目の前に座る月見ヤチヨは、変わらず底の知れない美しい笑みを浮かべていた。

 

「KASSENでの映像、編集してくれたらしいな。感謝する」

 

「気にしなくていいよー。誰だって、見られたくない所くらいあるしね」

 

「だとしてもだ。伝えるべき感謝は、しっかりと伝えるべきだ」

 

「……ライトは変わらないねー」

 

「変わったさ。否が応でもな」

 

「じゃあ、また1つ強くなっちゃったんだ」

 

「あぁ、1つ不自由に(大人に)なったよ」

 

「……要らぬ心配だったかな?」

 

「貴様に見守られているというのは、何とも言えぬ安心感があるものだ。あるいは、懐かしさとも言えるものがな。そも、それ以前に、友から心配されて嬉しくない者は居ない。……だから、要らないなんて寂しいことを言うな」

 

「……ふふっ、ライトってば凄い早口」

 

「むっ、笑うことはあるまい。それだけ思うところがあったというだけの話だ!」

 

「そうだね。ライトはずっと変わらない。強くて、真っ直ぐで、素直。だから、みんなと友達になれたんだよ」

 

「……月見ヤチヨ、貴様には感謝しているのだ」

 

「え?」

 

「現実では友ができず、現実に失望して、仮想現実(ここ)でなら友ができると期待して、勝手に裏切られたつもりになって……腐っていく俺を拾い、立ち直らせてくれたのは他ならぬ貴様だった」

 

 今も思い出せる。

 誰も来ないことを願いながら、誰か来て欲しいと祈っていたツクヨミの裏路地。

 広げられた白のスケッチブックには、叶わなかった理想だけを描いて、虚しくひとりで笑っていた。

 そんな俺の前に突然現れて、雨も降っていないのに傘を差し出した貴様のことは、目に焼き付いている。

 

『──いい絵を描くね。君、私の絵を描いてよ』

 

「──貴様は恩人だよ月見ヤチヨ。貴様のお陰で、俺は間違えずに済んだ」

 

 だから、間違えないよう、この言葉は確かに伝えたい。

 

「ありがとう。今日のコラボライブ、誰よりも楽しみにしている」

 

 その表情を、どう表現したものか。

 驚愕のような、喜びのような、納得のような、寂しさのような、罪悪感のような、複雑な感情が一瞬で現れたような、現れてないような……。

 

「うんっ、期待しててね、ライト!」

 

 ただ、俺に向けられたその笑顔が妙に綺麗で、見覚えがあって、考えていたことは霧散してしまった。

 

 今夜、祭りが始まる。




コソコソ裏話
彩葉が光の呼び方を変えたのは友達から親友に彩葉の中で変わったから。光が彩葉の呼び方を変えたのは友達から初恋の人で失恋した人になってしまった未練から。
互いに呼び方は親しく変化しても、その理由が同じとは限らない。朴念仁彩葉にそれが理解できるかは、分からないけども……

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