友達に布教成功したので超嬉しい。みんなも見よう、超かぐや姫!
照明の落とされた暗い会場の中に、無数に輝く青い星が回る。月見ヤチヨと彩葉達のコラボライブの会場は、小さな銀河の中心が如き様相を呈していた。
まぁ、俺達は巡る星の中でもステージに近く、他よりも動きも緩慢な為、他と比べてやや浮いているのだが。
「それにしても、流石に凄い人だな……」
「ツクヨミの歌姫が初コラボライブ。そのお相手はヤチヨカップで黒鬼を抑えて優勝した、ツクヨミのフリーダムかぐや・いろP。人が集まらないわけないよね」
「特別席用意してくれたヤチヨに感謝だよ〜。一応オンラインだからどこでも見れるけど、やっぱり近くでみたいよね〜」
「同感だな。彼奴らの勇姿を最前線で見られずして何が友か!気を使ってくれた月見ヤチヨには感謝せねばな!」
「流石に言い過ぎな気もするけど……でも、そうだね。楽しみー!」
「ね〜?あっ、そろそろ始まる!」
諫山真美の言葉に反応したかのように、ステージが鮮やかに色づき、会場から歓声が爆発する。
「ヤオヨロー☆みんな生きるのどうですか?」
月見ヤチヨの言葉に悲喜交々の声が響く。
「いいことあった?」
『このライブ見れることー!』『ヤチヨとかぐやといろPのライブに来れたー!』『かぐやちゃん達が優勝してくれたー!』『推しと推しがライブするのー!』
「それとも泣いちゃいそう?」
『仕事が終わらない!』『彼氏に振られたー!』『友達と喧嘩しちゃったー!』『怪我して、もうサッカーできないかもって!!』
ステージの中央に立つ月見ヤチヨは綺麗だった。
それは姿形ではなく、所作というか、全てを受け入れて尚、透き通った水晶のような。汚されない何かを持った綺麗さ。
それでいて、脆く儚い美しさ。
「よしよし、全部大丈夫。」
あまりにも優しく響く言葉に、少し息が詰まる。
「どんなに孤独な道のりでも、楽しかったなーって記憶が足元を照らすよ」
音としての響きだけではない、確かな重みのある言葉だ。月見ヤチヨ、貴様の閉じられた瞳には、今、どんな記憶が巡っているのだ?
「この時間も忘れられない思い出にしたいから……とうか一緒に踊ってくれる?」
***
侮っていた。……いや、違うな。とんだ見当違いだった、とでも言うべきか。
『──世界一好きになっちゃってもいいよー!』
月見ヤチヨ、貴様はこれほど溌剌と笑うのだな。
『世界で一番お姫様──』
かぐや、貴様は何時でも自由で滅茶苦茶なやつだな。
『──ヘイベイビー』
彩葉、貴様はそれほど楽しそうに笑えたのだな
「彩葉〜可愛い〜!」
「かぐやちゃんも可愛いよー!」
『お次は新曲、いっくよー!』
「──貴様らは、本当に眩しいな」
眩しすぎて、光が滲んで仕方ない。
***
「終わってしまったな……」
「そうだね〜……うわっ!?源くん凄い顔!?」
「無表情に涙と鼻水を流しまくってるイケメン怖ー」
「ズズッ……気にするな。彼奴らの姿が嫌に眩しくてな……感動があらゆる方法で現れただけだ」
「冷静におかしなこと言ってるよ〜……」
「でも、それくらい良いライブだったよね」
「あぁ、今回だけと言わず、何度でもやって欲しいな」
全く、これで終わるなんぞ悪い夢だ。
ずっと続いて欲しいとまでは言わんが、何度でも彼奴らが飽きて、俺達が満足するまで繰り返して欲しい。
月見ヤチヨに頼んでみようか?祭り好きの彼奴なら、案外簡単に聞き入れてくれそうだ。
「……戻ったら、彼奴らの絵を描くか」
「お、ライト源氏先生の新作ですか?」
「どんな神絵が出てくるのか楽しみですな〜」
「クククッ!楽しみに待っているといい!彼奴らを見ていると、描きたい姿が幾らでも湧いてくるようだ!」
明るく、希望に溢れた、未来に向かうイラストを何枚でも描けそうだ。かぐや風に言うなら、ハッピーエンドをエンドレスで続ける。
そんな風に、心の底から思える素晴らしいライブだった。
「……あれ?なんか、通、信が──」
「ほん…だ 。なnだ、ろ?」
「……何やら、不穏な雰囲気になってきたな」
断絶し始めた通信、モニターに映る2030/09/12の羅列。何者かの介入を考えない理由はない。
だが、誰がそんなことを?ツクヨミという大きなネットワークをこれほどの勢いでハッキングするなんぞ……計画犯か?
大々的にハッキングして月見ヤチヨが気づかないはずがない。見逃した?いや、コラボライブ中故に気づけなかったか。ならば、このタイミングを初めから狙っていた?
何のために?
「──来るな!」
「彩葉っ!」
ステージと最も近い客席だったから聞こえた彩葉の声。この異常事態の犯人。ないし協力者がステージに紛れ込んだしまったか!?
あれは、白い……灯篭?人の形を真似ているくせに無機質さを感じさせる白い肌と表情の読めない灯篭の光が灯るだけのヒトガタ。
随分と悪趣味な見た目ではないか。座り込むかぐやを彩葉が守っている……狙いはかぐやだったか!?
「クソッ!客席からでは
このアラートめが!ステージ上の3人を守るためのものだろうが、今だけは忌まわしさが極まっているぞ!
「──おいたはダメだよー」
流石にこれ以上の狼藉は許せなかったか、月見ヤチヨが指の一振で灯篭共を弾き飛ばしていく。圧倒的な戦力差に、灯篭共は煙とともに消えていった。
しかし、月見ヤチヨがステージに上がられるまで気づけないとは、それほど動揺していたのか?
いや、ツクヨミの女主人たる彼奴の目を掻い潜る程、犯人共の技術が優れていたか?
だとしても、ツクヨミでこれほど大規模なことが行えるなど……現実離れしすぎている。
「今のは一体?何が起こってしまうんだ!?続報を待て!」
ざわつく客席が月見ヤチヨの言葉に落ち着きを見せていく。確かに、異常事態とバカ正直に話すよりも、演出の一つであるとした方が理解は容易い。
「だが、そんなわけが無い」
何せ、座り込んだかぐやが楽しそうじゃない。側に立つ彩葉が不安そうにしている。
どこまでもお人好しで笑顔を好む月見ヤチヨが、そんな演出をするわけがないのだ。
「月見ヤチヨ、貴様は何を隠している?」
会場が閉じられる直前、暗転する中で月見ヤチヨと目が合った気がした。
***
「昨日のライブ良かったー!」
「良すぎちゃってた!」
「「彩葉の演奏、感動して泣いたー!」」
ツクヨミのとある川辺に設置された雑談スペースの一つである川原喫茶。通称ツクヨミ川床。
真美と芦花に呼び出された彩葉は到着するなり2人のハイテンションな褒め言葉に押され気味の反応しかできなかった。
「花まるつけたげる〜」
「ありがと……?」
普段の落ち着いた雰囲気も霧散し、友達の晴れ舞台にテンションが上がった様子の芦花が、彩葉の額の前で指で花まるを描く。
「ってあれ、ライトは?」
「源くんはね、何かやることがあるって言ってパスだって〜」
「妙に鬼気迫るっていうか、なんか怖い雰囲気だったね」
「そうなんだ……」
彩葉の脳裏に崩れ落ちたかぐやの姿がフラッシュバックする。明らかに普通の状態でなかったかぐやを見て、光なりに調べているのかもしれないと当たりをつけた。
「でも、ライブ見てる時の源くん凄かったんだよ〜?」
「凄かったって?」
「無表情なのに目と鼻からあらゆる液体を流し続けてるの。しかも、本人はなんにも気にしてないっていうね」
「えぇ……?何それ、怖」
「まぁ、それだけ彩葉達のライブが良かったんだよ。私も泣いちゃったし」
「私も大盛り上がりしちゃったな〜!そういえば、かぐやは〜?」
真美の何気ない質問に、僅かに彩葉の言葉が詰まる。駆け巡る諸々を押し込めて、何とか違和感の無いように言葉を繋げていく。
「かぐやは、なんか……魚?」
「魚?」
「魚、捌いてたよ」
「ほ〜魚ですか〜……なら、丁度いいかもね〜」
「そうだねー」
芦花と真美が意味深な会話を交わしながら空中に四角を描く。感知したツクヨミによって埋まっていく真っ白な四角は瞬く間に鮮やかなチラシに変わる。
「夏の終わりに花火などいかがかなー、お嬢さーん」
「電車で1時間くらいか……みんなで?」
「ノンノン、我らには大事な使命があるのです」
「夏休みの宿題を完全に放置してたのです」
「源くんも暫くは余裕なさそうだったし?というわけで〜」
「後はよしなにー」
言いたいことを全て言い残し、真美と芦花は青い燐光となって消えていく。
また、真美と芦花の2人に気を使われた彩葉は申し訳なさよりも、優しさに対する喜びの方が大きく、思わず笑みをこぼす。
友人の居なくなった目の前の空間に小さく手を振ることで感謝を伝えつつ、彼女もまた青い燐光となってログアウトしていった。
***
「──まっっったく見つからん!!」
こうしてフラストレーションを爆発させる時、自室の防音性が高くて良かったと心の底から思う。
賃貸などでは壁ドン不可避と言うやつだろうからな。
「月見ヤチヨめぇ……ここぞとばかりに連絡を無視し、決して出会わないように調整しているなぁ……?!その労力を、もっと別のことに使わんか!」
ライブの日以降、と言っても翌日故にそれほど時間は経っていないが。月見ヤチヨとは全く出会えていない。
それ自体は彼奴も多忙故によくあったが、連絡を全く返してこないどころか、既読も付かんとはどういうことだ?普段であれば、送信から1分以内に返信が来ると言うのに……。
まさか本当に演出だったか?いや、だとすれば俺に教えないのは違和感がある。彼奴なら演出かどうか聞かれた時、「あれは演出だよー☆ライトも信じちゃった?なら、ヤッチョの思惑通りだー!」などと言ってくるに違いない。
であれば、忙しいのか?ライブの演出の真偽に盛り上がるネット。異常事態だった場合、その原因究明と対処。更に、異常事態とピッタリ重なるように、立川市周辺でインターネット障害が起こったらしく、陰謀論が加速している。
人の口にとは立てられない。何らかの不測の事態に彼奴がてんてこ舞いになっている可能性はあるだろう。
「だが、確実にそれだけではない。月見ヤチヨと幾度も関わってきた俺だからこそわかる」
今回の灯篭共は演出ではなく、確実に異常事態だ。
月見ヤチヨがそれを事前に知っていたのか、あるいは知らなかったのか……知らなかったのなら、そう言ってしまえばいい。だと言うのに無視するということは……そういうことだろう。
「ならば何故見逃したのか。かぐやを狙った理由はなんなのか。そもそも、彼奴らは何者なのか……ダメだ!情報がまるで足りん!」
プログラムやネットに関して、俺は別に強くない。授業でやった程度のことやイラストレーターとして必要な最低限の知識と経験はあるが、灯篭共の現れたルートを調べたり、アクセス源を調べたりできるほどでは無い。
そもそも、ツクヨミのそういうログを調べようとすれば、どうしてもツクヨミの中枢にハッキングを仕掛ける必要がある。そんなことをすれば、良くて垢BAN悪くて裁判だ。
それが嫌だからこそ、月見ヤチヨ自身から話が聞きたかったんだが……こうなっては仕方あるまい。逃げる彼奴が悪いのだ。己自身を恨むがいい。
「──というわけで、ツクヨミの一部をハッキングして欲しい」
「実の兄に犯罪の片棒を担がせようとしないで???」
「ツクヨミの改修に関わった照兄さんならログの確認くらいはできるのでは無いか?アクセス権を持っている的な」
「あのね、僕は依頼されたからKASSENっていうゲームデータの一部改修を手伝っただけで、ツクヨミの中枢になんて何の関わりもなかったんだよ?」
「だが、照兄さんのことだから掠め取っているだろう?」
「君、僕のことなんだと思ってるんだい??」
「とらなかったのか?」
「とったけど?」
「流石、知識欲が爆発してハッキングを繰り返した照兄さんだ。早くその倫理観をどうにかした方がいい」
「その兄にハッキングしろって言った弟が何言ってるの???」
「まずは灯篭共のアクセス場所。侵入ルート。それを調べて欲しい。何、それさえ分かれば後はなんとでもできる」
「ヤダ、うちの弟話が通じない……怖い……。流石に時間かかるから、1日待ってもらってもいい?」
「逆に1日あればできるのか……?やはり照兄さんは恐ろしいな。敵に回したくない」
「正直、光にだけは言われたくないかな……じゃあ、後はやっておくよ。お礼は僕が興味出るような面白い話ね」
「では、全て終わったあとは俺の恋バナでもしようか」
「おい、あんまワクワクさせんなよ……!」
「では、頼んだぞ」
照兄さんの部屋を出れば、中から猿叫が聞こえるが……あまりに家で叫ばない方がいいと思うぞ?近所迷惑だ。
「後、手がかりになりそうなのは……」
『2030/09/12』
恐らく日付のこの数列。ネットで調べてみれば……
「満月……」
正体不明の灯篭、満月の日付、崩れ落ちたかぐや、満月の移った画面、ネットワークの断絶……
「竹取物語……?」
空に浮かぶ月は三日月に笑っている。
コソコソ裏話
照兄さんが初めてハッキングしたのは12歳(12年前)とあるゲーム会社の制作情報。ゲームの新作が気になりすぎた結果、次回作の内容を先取りしようとハッキングを開始。データ関係の才能を発揮して1週間程度でハッキングに成功し、隠れて開発の手伝いまでしていた。後に警察によってバレたが、子供であることと会社側が訴えるどころか感謝していたため不問に。特化した天才怖ァ……
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