俺が8000年に負けるまでの話   作:凪 瀬

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お昼なので初投稿です。
新しいウェルカムボイスはかぐいろヤチの3人……?豪勢すぎる。これを見に行かない選択肢とかないだろ……みんなも見よう!超かぐや姫!


17話 人事、花火、天明

 

 9月1日、夏休み最終日。

 一般的な学生であれば、明日から始まる学校に憂鬱になったりできるのだろうが、今の俺には憂鬱になるほどの余裕はない。

 寝る前も起きてからも、灯篭共とかぐや達の姿が頭から離れなかった。

 寝不足で曇る頭を振るいながらリビングに入れば、昨日と変わらない姿の照兄さんが湯気の立つコーヒーを飲んでいる。

 

「おはよう、照兄さん」

 

「おはよう光。頼まれていた件、確認終わったよ」

 

「流石は照兄さん、仕事が早いな」

 

「少し長い話になるから、簡単に朝食を食べながらにしようか。パンでいい?」

 

「構わん。俺もコーヒーを入れる」

 

 朝食ができるまでの沈黙が、どうにももどかしい。

 一刻も早く、一昨日のことについて知りたいというのに……この焦燥すら照兄さんは見抜き、落ち着けと言う忠告も込めて朝食を準備しているのだろうな。

 

「「いただきます」」

 

 分かっていても、やはり焦燥感の制御は難しい。

 

「……それで、結果は?」

 

「そうだね。僕が入り込めたのはログの一部でしかないことを念頭に置いて欲しい」

 

「分かった」

 

「光の言う灯篭共……彼らのアクセスした場所は分からなかったし、どうやってスクリーンをハッキングしたのか、プログラムにおける侵入ルートも不明だった」

 

「つまり……」

 

「うん、何も分からなかったということだよ!」

 

「自信満々に言うことではないだろう!?」

 

 嫌に真剣な様子だっただけになにか分かったのかと期待してしまったではないか!

 

「まぁ、落ち着きなよ光。何も進展がなかった訳じゃない」

 

「……どういうことだ?」

 

「彼らがどこからアクセスし、どうやってハッキングしたのかログを漁っても全くわからなかった。でも、彼らは確かにそこに居たんだ」

 

「要領を得ないな……」

 

 アクセス場所、ハッキング方法、両者不明。灯篭共があの場にいたことだけは分かっている?

 灯篭共が突如として現れた時、その目の前には俺がいたんだ、ぞ……?

 

「──突如として、現れた?」

 

「そう。彼らはアクセスログを残さず、ハッキングのルートを見せずにそこに現れた。無から有が生まれたようにね」

 

「……そんなことが、可能なのか?」

 

「少なくとも、僕の知る技術では無理だね。だけど、不可思議なこともあった」

 

「不可思議なこと?」

 

「灯篭が現れた同時刻、幾つかのアバター書き換えが行われた。もちろん、灯篭と同じ形にね」

 

「……確かに妙だな。無から現れる事ができるのなら、アバターの書き換えなど迂遠な方法、必要ないはず……」

 

「考えられるのは2つ。1つはアバターを使っていた人自体が元々灯篭だった説。もう1つは無から生まれるには制限がある説」

 

「……あの不気味な灯篭が日常に紛れているとは、考えたくないな」

 

「とはいえ、可能性としては十分にある。けど、潜んでいたなら、今度は無から生み出す必要は薄いから、やっぱり2番目の説が有用かな?」

 

「制限……その目処は付いているのか?」

 

「それは全く。さっきも言ったけど、そこまで深い所には潜り込めなかったしね」

 

「いや、少なくとも灯篭共が理外の輩というのか分かっただけで十分だ。ありがとう」

 

「いいよいいよ。何かあれば、またお兄ちゃんに頼るといい。光の為に力を貸すよ」

 

「あぁ、頼りにさせてもらう。ご馳走様」

 

「はい、お粗末さま」

 

 突如現れた灯篭共。理外の存在。アクセス場所の不明。月見ヤチヨの音信不通。崩れ落ちるかぐや……

 

「そうだっ!かぐやは無事だったのか!?」

 

 俺としたことが、目の前の下手人に夢中で被害者であるかぐやのことを忘れてしまったとは……!いや、後悔も反省も後だな。

 かぐや本人から連絡がないのは何かあったからか?だが、かぐやの身に何かあったのなら彩葉が何も言ってくるは、ず……彼奴は割と報連相しないタイプだった。

 では、諫山真美と綾紬芦花は……出会ってなければ分からんか。いや、一度連絡くらいはとっているかもしれん!

 

【源・まみ・ROKA】

《源:貴様ら、ライブ以降かぐやとは会ったか?》既読2

《まみ:会ってないよ〜》

《ROKA:でも、今日は彩葉とふたりで花火大会行ってると思うよ》

《源:なぜに花火大会……?》既読2

《まみ:彩葉が何か悩んでるっぽかったからさ、気分転換にかぐやと二人で行ってきたら?って発破とばしたんだよ〜》

《ROKA:かぐやちゃんの事だし、彩葉に誘われたら絶対行くでしょ?》

《源:なるほどな。いや、彼奴らが無事そうなら良いんだ》既読2

《ROKA:彩葉は悩んでるみたいだったけど、かぐやちゃんのことで取り乱してる様子もなかったし、大丈夫だと思うよ》

《まみ:源くんは調べ物終わったの〜?》

《源:あぁ、まだ分からんことはあるが、一先ずはな》既読2

《ROKA:だったら、私達も今日の夜花火しない?》

《源:俺は構わんが……この辺りで花火をできる場所なんてあったか?》既読2

《まみ:リアルじゃなくて〜》

《ROKA:ツクヨミでやるんだよ。匂いとか衝撃は多少違うけどさ》

《源:なるほどな。分かった。ではまた夜ツクヨミでな》既読2

《まみ:あいあいさ〜》

《ROKA:時間は後で連絡するねー》

 

「……なんか、3人で遊ぶ予定ができたな???」

 

 いや、嬉しいんだが……本来の目的も達成できているんだが……この、なんだろうな……。

 しかし、思えば、ライブの夜からずっと休めず終いだったからな。

 

「下手な考え休むに似たり……とは、少し違うだろうが。人事は尽くしたのだ。後は、天明に任せるが吉か」

 

 一旦は、今夜の花火を楽しみに仮眠を取るとしよう。

 

***

 

 時刻は19時、ツクヨミの一角にある川辺の個人スペースに集まった光達は各々が買ってきた花火を準備していた。

 

「源くんメチャクチャ買ってきてるね〜!」

 

「こういう時、どれくらい買ってくるのが正解か分からなくてな……とりあえず一通り揃えてきたぞ!」

 

「すごー。流石、有名イラストレーターにしてヤチヨカップ第5位」

 

「その情報、ほんの数時間前に知ったんだが……まさか100万人弱がファンになったとは。驚き過ぎて実感が湧かんな」

 

「源くん絵上手いし、かぐやの配信よく出てたし、竹取合戦じゃ大活躍だったからね。仮面とったのも大きかったんじゃない?」

 

「この面も、俺のアイデンティティの1つなんだがな……」

 

「ね〜2人とも〜、そろそろ花火始めようよ〜!」

 

「はいはい、先ずはどれにする?手持ち花火?」

 

「景気づけに打ち上げ花火というのも悪くないぞ!」

 

「線香花火〜……は、流石に最後に取っておいて、先ずは手持ち花火かな〜」

 

 真美の言葉に従って、3人はそれぞれの手持ち花火に電子の火を灯す。

 飛び散る色とりどりの火花と、仮想の夜空に立ち上る煙のエフェクト。

 

「……流石に視覚と聴覚情報だけだな」

 

「花火特有の匂いとか煙たさはないね〜」

 

「肺の弱い人とか匂いが苦手な人には丁度いいのかもね。仮想の花火っていうのも」

 

「一長一短。だが、次は向こうで花火をするか。もちろん、かぐやと彩葉を入れた全員でな」

 

「おっ、いいね〜。そうだ、どうせなら来年は海でやろうよ〜!昼はBBQして夜には花火して、青春じゃん〜」

 

「それなら、私は温泉とかいきたいな。冬とかみんなで旅館に泊まってさ。温泉入ってまったりするの」

 

「クククッ、ならば俺はまた遊園地に行きたいな。前回は乗れなかったアトラクションも多かった。」

 

「いいね〜!……来年も、みんなで居たいな〜」

 

「そうだねー……彩葉とかぐやちゃん、仲直りできてるといいな」

 

「仲直りとは少し違うだろうが……そうだな。彼奴らも行きたいところを聞いて、次の予定を考えるとしよう!」

 

「「うん!」」

 

 芦花と真美の返事に重なるように、手に持っていた花火の火が消え、役割を終えた持ち手は青の燐光となって夜の青に紛れて消えていった。

 3人はツクヨミでは当たり前の消費アイテムの使用後プロセスを、言葉もなく眺めていた。それぞれの瞳には先程まで迸っていた火花はなく、淡く瞬く星々の輝きが映る。

 

「……よしっ、源くん!なんかしんみりしちゃったし、ここで1つ全部吹き飛ばす打ち上げ花火頼んだよ〜!」

 

「クククッ!任せろ!最もド派手なのを打ち上げてやる!」

 

 意気揚々と持ってきていた袋型のインベントリを漁る光は、とある打ち上げ花火のセットを取り出す。

 真美も芦花も、現実でも売られているような市販の打ち上げ花火か、仮想だからこそできるもう少し本格的な打ち上げ花火を想像していた。

 

「源くん……?」

 

「なに、それ……?」

 

 それは、打ち上げ花火のセットと言うにはあまりにも大きすぎた。

 大きく、太く、重く、そして精密機械すぎた。

 178cmある光の身の丈を優に越した近未来的な機械感のある砲身は、花火ではなく極太のレーザーでも撃ち放ちそうな駆動音を響かせる。

 

「砲身3m、1〜10号までの花火玉を装填、発射可能の万能打ち上げ筒。制作期間は脅威の1ヶ月という代物だ!」

 

「なんでそんな凄いものを持ってるの!?」

 

「武器の作成をしていた際にな、レーザー砲を作ろうとしたんだが、エネルギー不足とレーザーの放出演算ができなくてな……お蔵入りしていた。しかし、砲身はできていた故、今回の花火のために万能打ち上げ筒として調整してきた」

 

「すご〜、でも良かったの?そんな凄いのを打ち上げ花火のための道具にして」

 

「構わん。道具は使いようだ。それに、この位の調整であれば容易に元に戻せる」

 

「もう、源くんには驚かされっぱなしだよ……」

 

「ほんとにね〜。絵だけじゃなくて、こんなのも作れるんだ〜」

 

「デザインと内容は俺だが、プログラムの大元は兄だ。時々教えて貰っているが、兄が感覚派すぎるせいで解釈が難しくてな……未だに追いつけん」

 

「お兄さんも凄いんだ〜」

 

「源くんが追いつけないなんて……なんか、想像できないね」

 

「クククッ、俺の知る限り最高のプログラマーだからな。だが、それもいつか俺が超える!」

 

 話しながらも光は打ち上げ花火の準備を続ける。

 様々な調整を終え、砲身を地面設置した専用の固定台に乗せ、起動した固定具と台が連結することで固定が完了する。

 

「できたぞ!さぁ、俺渾身の打ち上げ花火、その一発目をお見せしよう!」

 

 言うが早いか、光でさえ両手で抱え切れないほどの大きさを持つ花火玉を砲身にセットし、懐から取り出したスイッチを間髪入れずに押した。

 

「貴様ら!急いで離れるぞー!」

 

「えっ、ちょっと待ってよ!」

 

「スイッチ押す前に一声かけてよ〜!」

 

「クハハッ!すまん!忘れていた!」

 

「絶対うそじゃん〜!」

 

「ど、どこまで逃げればいいの!?」

 

 離れていく3人の後ろでは、高速駆動による高音を響かせる打ち上げ筒が、回路を赤色に発光させる。

 

「ジャスト10秒!来るぞ、お前達!」

 

「え〜!?」

 

「ちょっと、まっ──」

 

 ドッ──パンッッ!!!

 

 機械的な見た目にそぐわない原始的な爆発音を響かせて、花火が打ち上げられる。

 赤色の流星となった花火はツクヨミの星が瞬く夜空に向かって走り始め、瞳に残る虹の残光を残して夜闇に消えていく。

 そして

 

ドッン!!

 

 ツクヨミの星を、月を喰らうような七色で構成された巨大な光の花を咲かせる。

 

「うわ〜!きれい〜!!」

 

「綺麗……」

 

「あの露天商め、いいものを作るではないか」

 

 空を覆うように広がった光の花は消えて行く寸前、構成する光の一つ一つが新たに小さな花を咲かせて3人の瞳を彩る。

 

「どこにいても、どの向きからでも楽しめるという謳い文句だったが……偽りなしだったな!」

 

「ね〜!本当に凄かった〜!」

 

「ホント、最後に小さい花火が幾つもできるの凄かったね」

 

「うむうむ!2人も満足の行く結果だったようだな!」

 

「もちろんだよ〜!」

 

「ありがとうね、源くん。筒とか花火玉とか」

 

「クハハッ!構わん!俺も、こうして友と花火をしてみたかったのだ」

 

 煙のエフェクトも無くなり、花火が咲いた形跡もなくなった夜空を光は眺める。

 ひょっとこ面に隠された顔は2人には見えなかったが、少なくとも悪い表情ではないことが分かった。

 

「よしっ!じゃあ、じゃんじゃん打ち上げていこ〜!」

 

「それとも、次は手持ち花火でもする?」

 

「クククッ!砲身のリキャストタイムもあるのでな、一先ずは手持ち花火だ!」

 

 3人は花火を楽しむ。

 今はいない彩葉とかぐやが羨むほどの思い出を作ってやるんだと意気込んで。

 来年は2人も交えて、もっといっぱい色んな花火をすることを楽しみにして。

 

 

 かぐやの卒業が発表されたのは、翌日のことだった。




コソコソ裏話
照兄さんは光の焦燥と不調をしっかりと把握して朝食を取るよう勧めた。冷静な思考と体調さえ整えれば、自分の与える断片的な情報で正確に答えに辿りつくと信じているからだ。兄が弟を信じるなんて、当たり前だろう?とは照の談。この兄、おっっも……

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