月見ヤチヨって魅力的なキャラクターだけに動かすのが1番大変だったりするんですよね……何度見直しても理解が深まる味しかしないキャラクター。みんなも見よう、超かぐや姫!
突如として発表されたかぐやの卒業は、一瞬にしてSNSを湧き上がらせ、かぐやファンを阿鼻叫喚の底に叩き落とすことになった。
そして、友人である俺達にとっても寝耳に水、動揺するなと言うほうが無理な話だ。
放課後、急遽ツクヨミに集まった綾紬芦花と諫山真美の困惑した顔を見れば、こやつらにも知らされていなかったのは分かる。
「貴様らも連絡しただろうが、彩葉はなんと?」
「『ありがとう。大丈夫だから』だってさ〜……」
「私の方も同じ……」
「俺も同じく。何かあったのは確かなんだろうが……」
タイミングを考えれば、あの不可解な灯篭共の影響だろう。だが、それがかぐやの卒業にどう繋がる?
ハッキングされた?ウイルス?垢BAN……はないか。何かしらの理由はあるだろうが、それがまるで見えてこない。
「……彩葉、大丈夫かな」
「……多分、無理してるよね〜」
「このような事態、彼奴が問題ないとは思えんな」
「……頼って、くれないんだなぁ」
「混乱しているか、頼り方が分からないか……何にしても、話して欲しいものだがな」
「ホントだよ〜!言ってくれれば、私達も手伝うのに」
「まぁ、彼奴にそれができたなら、あれ程限界になっていなかっただろうがな!」
「……それもそうだね。彩葉が私達を頼ってくれないのは今更だったねー!」
「クククッ!だからこそ、俺達から甘やかしにいくんだろう?」
「そのとーり!」
「いぐざくとり〜!」
「……とはいえ、今回は本当に何も分からん。薮をつついて蛇を出すのは、本意ではない」
「つまり、また彩葉が頼ってくれるまで待機か〜」
「彩葉、話してくれるかな……」
「彼奴とて馬鹿ではない。それが必要と分かれば──このように、連絡が来る」
俺達の目の前に巻物が現れる。落ち着いた色の中に金や緑の混ざった彩り豊かな巻物は、彩葉からの連絡に他ならない。
『ごめん、全然大丈夫じゃなかった』
ようやく、貴様からその言葉を引き出せた。
***
「そ、そう来たかぁ〜〜……!!」
「かぐやちゃんが本当に月のプリンセスだったなんて……わかるっ!」
いや、理外の灯篭共とか意味深な満月とか本人の年齢不相応な純粋さとか、初対面のアレやコレや……色々心当たりはあるし、何度か頭をよぎってはいたが……本当に当たっているとは誰も思わんだろう!?
「築地生まれじゃなかったんだ〜」
「海行っても肌真っ白だったもんね」
「貴様らが冷静すぎて、俺は少し怖いぞ……?」
「電柱から生まれた……わかるっ!」
「貴様はさっきから何をわかっているんだ帝アキラ???」
もしや、この状況でおかしいのって俺なのか?
「光には、信じられない話かもしれないけど……」
「おい、やめろ!まるで俺だけが信じきれてないみたいな言い方!貴様のことだ、狂言や与太ではないことは分かっている。勿論、信じるとも!」
それはそれとして、宇宙人の実在とか自分の想像が当たっていたことに動揺はさせてくれ。
「ヤチヨ、かぐやを守ることってできないかな?」
「調べてみたけど、どこからアクセスしてるかも分からなかったんだよね、ごみん。そだ、ライトも忙しくて返事返せなくてごめんね」
「……気にするな。貴様が多忙なのは百も承知だ」
貴様が、何かを隠していることもな。
「……うん、ありがとうね」
「それじゃあ、ライブを中止して、かぐやちゃんが一生ログインしないっていうのは?」
「彩葉の話を聞くに、地球上の生物と似ても似つかん生態なのだろう?かぐやがログインせずとも、リアルから強制送還できる可能性は十分ありうる」
「うん。私も、光の言う通りだと思う。それに、かぐやがその事に気づかないはずがない」
さて、ではどうするか……相手は月見ヤチヨをしてアクセス先がわからない上、埒外のハッキング技術もある。更には、リアルからかぐやを強制送還させられる力まで……勝ち目、無さすぎでは?
「相手が現実で手出しできないなら、ツクヨミで追い払えばいいんでしょ?」
「……クククッ、なるほど。帝アキラ、貴様のそれは一種の真理であろうな。流石は百戦錬磨の黒鬼、その首魁と言ったところか?」
「お、ライト源氏先生に褒められるとは光栄だな」
そうだ。力があろうと技術が凄かろうと、嫌という程暴力に晒されれば鬱陶しがって帰るだろう。
いや、違うな。帰らせてみせる。
「私もやる。何ができるかわからないけど……お願いします」
「頭を上げろ、彩葉。願われるまでもなく、俺達はそれに応える!」
「その通りだ。よし!準備するぞ、乃依」
「えー、あれー?めんど〜」
「リーダーは絶対」
「はいはーい」
流石は黒鬼。方向さえ決まれば行動は迅速だな。
この一抹の隙もない連携と行動力こそ、ライバーとしてもゲーマーとしても頂点に立つことができた理由か。
「ライト源氏」
「む、何用だ?雷」
「──俺達は負けんぞ」
「……ククッ、クククッ、クハハッ!貴様、やはり熱い男よな!あぁ、勿論だ。この場にいる誰も、そのことを疑ってなどいない!」
そして、言葉なく睨みつけてくる乃依含めて!全員が熱い何かを持っているからこそ、誰しもに夢を見せてきたのだろう。
そして、熱いものを持っているのは、何も黒鬼達だけではない。彩葉を常に支えてきた友達にだって、譲れないものはあるのだ。
「彩葉、来年もみんなで海行こうね」
「温泉もね〜!」
「次は、全員で花火大会に行くぞ!」
「……ありがと」
次も、来年も、その先も。かぐやのいる未来を手に入れるためにあらゆる準備をしなければな。
***
相談すべきことが終わり、静まり返った屋外のミーティングルームで、ライトは絢爛なツクヨミの光を面越しに眺めていた。
「ライト」
「……貴様は、どこまで知っていたんだ?月見ヤチヨ」
天女のように舞い降りたヤチヨは、曖昧な笑みを湛えて顔の見えない光の隣に立つ。
「……それは、教えてあげられないかな」
「はぁー……そんなことだろうとは思っていたが、当たっていて欲しくなかったな」
「幻滅した?」
「……難しいところだ。何せ、俺は殆ど分からないことだらけなんでな。貴様の行動を一概に否定も肯定もできん」
「ライトは真面目だね〜、それに優しい。ヤッチョが褒めたげる☆」
浮かび上がったヤチヨは光の立ち上がった髪を優しく撫でる。
「……貴様は、辛くないのか?」
「ん〜……大丈夫。ヤッチョは覚悟してたから」
「そうか……ならば、俺も覚悟とやらを決めねばならんな」
自身の髪を撫でるヤチヨの手をそっと退かせ、自身の顔を隠す面を外す。
顕になった表情は、17の青年が浮かべるには年不相応な苛烈に燃え上がる焔を灯していた。
「……ライト、怒ってる?」
「それは何に対してだ?」
「そうだねぇ……全部、かな?」
「怒っているぞ。それも滅茶苦茶にな」
即答したライトの様子を意外そうに瞬き、ヤチヨは宙に浮くのを止めた。
艶やかな遊女のような蠱惑的な身のこなしで、手すりに腰かける。
着物の裾が、水面を目指す水泡のように舞った。
「聞いても、良いかな?」
「……まぁ、まずは貴様だ。月見ヤチヨ」
「ヤッチョからかぁ……」
「隠し事するわ、俺を避けるわ、かと思えば意味深な言い草ばかりで要領を得んわ、貴様こちらを弄ぶのも大概にしておけよ?いい加減その頭に指をめり込ますぞ」
「思ったよりバイオレンスな怒り方してる!?ぼ、暴力は反対なのですー!」
「隠し事と言えば彩葉もだ。かぐやが月の住人で元が赤ちゃんだったから1人で育てた?それを全部秘密にしていた?」
怒りの理由を言語化していく毎に積み重なっていく新たな怒りに俯く。徐々に潰れる肉体と押さえつけた感情が限界に達した瞬間、重みに反発するように背を伸ばした。
「話せ!!!」
ツクヨミ全土を飛び越え、月のミラーボールにまで届くのではないかという程の声量で叫ぶ。
「わー……ビックリした」
「なんっでそんな大変なことを相談しない!?なんか全員が流しているから聞きづらかったが、何で子育てを1人でしている?!助けを呼べ!聞いてる感じ、後1日でも長ければ貴様倒れておるではないか!」
一度吐き出し始め、勢いに乗った怒りは、その全てを放出するまで止まらない。
「諫山真美も綾紬芦花も優しいから許してやってるだけで、本来なら貴様とっとと病院送りなんだからな!?安静にしろ案件なんだからな!?社会人も驚きの過労だったんだよ!そこに子育てしてました?人生RTAするでないわ!何度でも言うぞ、頼れ!」
一息で叫んだライトは肩で息をしながら力なく手すりに体をもたれかからせる。
「かぐやもかぐやだ……貴様は、ハッピーエンドを目指していたはずだろう。普段から声高に叫んでいたし、配信でも耳にタコができるほど言っていたではないか……」
空を掴んだライトの手に力がこもる。
「だと言うのに、彩葉に聞けば進んで帰ろうとしている?無茶苦茶やって、最後まで自由にして、満足して帰って、めでたしめでたし……?」
ギリリッと、奥歯の軋む音が傍に座るヤチヨにまで届いた。
「ふざけるな!!!」
激情のまま振り降ろされた拳が手すりを強く叩く。
「何がハッピーエンドだ!彩葉を置いて行くことがハッピーエンド?俺達には何も話さず、かぐやは築地に帰って楽しく生活していますと思わせて、めでたしめでたし?かぐやは居なくなり彩葉と俺達は前の日常で元通り?それの、どこが、何がっ、ハッピーエンドだと言うのだっ!!」
ヤチヨは複雑な色彩を宿した目で、慟哭するライトを見つめる。俯き、怒りに震える頭に触れようとした手が、宙を彷徨って、そっと落ちた。
「……だから」
体を震わせることを止め、俯くことを止め、ライトは前を向く。
喧騒が響き、絢爛が瞬く、鮮やかな色彩のツクヨミを見つめる瞳には、研ぎ澄まされた一筋の決意が宿っていた。
「彩葉に、かぐやに、月見ヤチヨに、そんな決断をさせ選択をさせた月の住人とやらを、俺は許さない。俺の友を簒奪する者には、徹底的に抗ってやる」
「……そっか、ライトは強いね」
「……知りながらも、知らぬふりをする貴様には負けるだろうさ」
いつかの和室で世を眺めたように、2人は屋上からツクヨミを眺める。
方やツクヨミの管理人にして多くを知り、数多を隠す覚悟を持った美しき美女。
方や天才にして多くを知らず、故に一心に抗う決意を宿す麗しの美青年。
肩書きや持ちうるものは違えども、想うことと宿すモノは似通ったもので、互いの間に言葉がなくとも確かな理解があるように思えた。
「……ライブ」
「えっ?」
「貴様らのコラボライブ、灯篭共のせいで最後こそ有耶無耶になってしまったが……始まりからずっと、素晴らしいものだった」
「……楽しんでくれた?」
「感動のあまり、泣いてしまうくらいにはな」
「そっか……なら、ヤッチョも頑張った甲斐があったな」
「あぁ、彩葉が貴様に夢中になった気持ちも、理解できた」
「おっ?その調子でヤッチョのファンになってもいいんだよー?」
「クククッ、もう既に、ずっと前からファンだったよ」
「……え?」
「では、俺は協力者と、友達との相談事があるのでな。先に失礼する」
言うが早いか、ライトは青の燐光となって現実へ戻っていく。
最後に残ったのは、音で残した本音と、それを受け取ってしまった美女が一人。
「……もう、正直者だなー。光はさ」
誰にも聞かれることのない屋上に小さな音が1つ落とされ、初めから誰も居なかったかのように美女もまた姿を消した。
ツクヨミを照らすミラーボールの月光は、どのような想いも余さず照らし上げ、晒す事なく見守っていた。
コソコソ裏話
ヤチヨはずっと光に怒って欲しかった。
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