俺が8000年に負けるまでの話   作:凪 瀬

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GWも超かぐや姫!で盛り上がってきたので初投稿です。
今回も難産でした……ていうか、この辺100%のオリジナル回なせいでほぼ全部難産まである。キャラの心理が難しいんですよね……。
そんな難しい心理描写を面白く正確に描いた超かぐや姫!みんなも見よう!


20話 暴走爆走急ブレーキ

 

 かぐやの卒業ライブが終わろうと、容赦なく時間は過ぎる。

 推しを無くしたオタクの悲しみと、大切な友を失くした子供の悲哀を巻き込んで、夜は巡り朝が来る。

 

「……やはり、彩葉は休みか」

 

「そりゃ、そうだよ……」

 

「……彼奴の心など彼奴にしか分からん。故に、今は一人、心を整理する時間が必要なんだろう」

 

「分かってるけどさ〜……もどかしいよね。何も出来ないって」

 

 かぐやが居なくなった翌日でも、学校はある。

 

「ていうか、源くんも酷い顔してるよ〜?休んだ方がいいんじゃないの……?」

 

「そうだよ、今にも倒れそうなくらい顔色悪いし、目元も赤くなって……」

 

「……いや、休むと余計なことまで考えてしまうからな。どうにも、休めんのだ」

 

 かぐやの笑顔も彩葉の悲痛な表情も、かぐやの歌声も彩葉の無理した声も、ごちゃごちゃと混ざりあって、最後に涙と笑みを浮かべたかぐやが呪いの言葉すら残さずに消えていく。

 

──ハッピーエンドに行くって、言ったくせに

 

 脳髄から思考を荒らすこの言葉は、誰が言ったんだろうか。

 

「……昼休みが終わったな。教室に戻るか」

 

「……そう、だね」

 

「無理だと思ったら、すぐ休むんだよ〜……?」

 

「あぁ、分かっている」

 

 それが()の言った言葉だなんてことは。

 

***

 

 授業の最中だろうと、思考は止まらない。

 己にできることはまだあったのではないか、かぐやにしてやれることはあったのではないか、彩葉にかけてやれる言葉があったのではないか、楽しんでいる暇なんて無かったではないか、天才だなんだと言っても友一人引き止めることもできなかったではないか。

 ハッピーエンドになんぞ、連れてってやれなかったではないか……。

 

「月……」

 

 約38万4400km、残暑が厳しい秋の青空に白く影を残し、こちらを見下ろしている。

 あそこに、かぐやが居るんだろうか。また、退屈な仕事の合間に地球を眺めているのだろうか…………月に、かぐやは帰ったんだよな?

 そうだ、そうじゃないか。別にかぐやは死んだわけではない。ただ、帰る場所に帰っただけなんだ。

 それが偶々、月という遠い場所だっただけで、言ってしまえば海外に帰った友達でしかない。

 帰る場所がわかっているのなら、こちらから向かってやればいい。何が邪魔してこようと、今度こそかぐやを連れて来てやればいい!

 そうすればきっと、彩葉も笑えるはずだ!

 ならば何が必要だ?

 月に行くなら宇宙飛行士になる必要があるか、彩葉にもそれを受けさせるか?いや俺が行きかぐやを連れて帰ろう。武装は必要か?月人に言語が通じる様子があったろうか?いや、まずは飛行士になる為に学校を選ばねばならん。大学はどこがいい、今から理転して間に合うか?いや、間に合わさせる。

 

「───ん」

 

「──くん〜」

 

 照兄さんなら協力してくれるだろうか、進路の話だ、協力してくれるだろう。最速で宇宙飛行士になって月に行くなら何年かかる?

 

「─もとくん」

 

「──い!」

 

 来年高校1年、大学の4年間、訓練その他で5年を目処に考えるべきか。10年……長すぎる、どうにか7、いや8年まで短縮できないか?

 

「源くん!」

 

「戻ってこ〜い!」

 

「むっ?!……すまん、考え事をしていた」

 

「もう、無理はしな──」

 

「2人とも、俺は宇宙飛行士になる」

 

「は……?」

 

「え〜っと……?」

 

「月まで行き、かぐやを連れて帰ってくる。そうすれば、もう一度あの日常を取り戻せるはずだ」

 

「源くん、何言って……」

 

「急すぎるよ〜……?」

 

「かぐやは月に帰った。ならば、俺たちが月に行き迎えに行くも道理だろう?故に、俺は宇宙飛行士となって、月へ行く!そのためにも、また勉強をし直さねばな!これから忙しくなるぞ!」

 

「……」

 

「……」

 

「……何故、そんな顔をする?」

 

 何故、そんな心配そうな、憐れんだような、置いていかれたような、辛そうな顔をする?

 俺は何も間違っていないだろう?かぐやを取り戻したいと思うのは間違っているか?奪われた者を取り戻したいと願うのは悪か?

 彩葉に、彩紬芦花に、諫山真美に、月見ヤチヨに笑っていて欲しいと想うことはおかしなことか?

 違うだろう。間違ってなどいないだろう。だと言うのに、何故、何故俺から離れた奴らと同じような目をする!?

 

「……源くん、源くんがしたいのは何〜?」

 

「何?それは……かぐやを連れ戻して……」

 

「その先は?」

 

「その先、かぐやが戻ってくれば、また、前みたいに……」

 

「どうして前みたいになりたいの〜?」

 

「そうすれば、彩葉も笑って、俺達も笑って……ハッピーエンドに行ける、はずだ……」

 

「なら、今泣いてる彩葉は、どうするの?」

 

「  」

 

「彩葉の為に頑張ろうとするのは凄いよ。きっと、色々考えてくれたんだよね?でもさ、一番叶えたいのって、彩葉に笑ってもらうことなんでしょ?」

 

 それ、は、それは……

 

「だったら、今はそれをしなきゃ〜」

 

 ……あぁ、そうか。俺は、逃避していたのか。

 

「……助かった、諫山真美、彩紬芦花。また、間違えるところだった」

 

「いいよ。そういう時にダメって言ってあげるのが、友達でしょ?」

 

「そうそう。それに、ビックリしたけど、源くんの案も確かにな〜って思ったしね〜」

 

「いや、思えばツクヨミに迎えに来るような奴らが実際の月にいるとは考えずらい。居たとしても、姿は見せんだろう。それすら思いつかないほど、弱っていたらしい」

 

 本当に、貴様らが友達で良かったと思う。

 

「……うん、もう大丈夫そうだね」

 

「いつもの源くんだ〜」

 

「むっ、多少弱って極端にこそなっていたが、俺はいつも通りの俺だったぞ?」

 

「「いやいやいやっ!」」

 

「そんなに否定する程か!?」

 

「だって、すっごい目が澱んでたよ?」

 

「表情も全然変わんなかったし、瞬きもしてなかったからね〜?」

 

 そんなにも分かりやすく弱っていたのか……自覚していなかったことが恥ずかしいやら、何やら……。

 

「……まぁ、その話はいい。今日はどうする?」

 

「私達はこの後彩葉の様子を見に行くつもりなんだけどさ〜。源くんはどうする?」

 

「無論、俺も同行しよう」

 

「おっけー、じゃあ3人でね。何持ってく?」

 

「お弁当とか持ってってあげる〜?多分、ちゃんとしたもの食べてないだろうし〜」

 

「数日程度は保存できるものが良いだろう。最悪今食べられずとも、腹が減った時に食べられれば良い」

 

 そうだ。かぐやがいなくなっても、彩葉の為にできることなんて幾らでもある。弱った彼奴にしてやれることが、こんなにもある。

 全く、己のことながらこれほど視野狭窄に陥っていたとは……感謝しなくてはならんな。

 

「よしっ!それではコンビニで色々買って彩葉の家行くぞ!真美(・・)芦花(・・)!」

 

「お〜!……ん?」

 

「おー!……あれ、源くん今名前で呼んだ?」

 

「気にするな!れっちごーだ!」

 

「あ〜!それ私のセリフ〜!」

 

***

 

 コンビニでゼリーや保存のきく栄養食を買ってきたはいいが、よく考えれば彩葉に受け取ってもらわないと渡すことができないな。

 

「……これ、彩葉が出てこなかったどうする?」

 

「ん〜、ポストとか〜?」

 

「流石にこの量は入らんだろう。扉の前にかけておく……のも、入口のオートロックで無理か」

 

「「「う〜む……」」」

 

 困った、彩葉の為に何かをしようとしても、現実の扉がその道を阻んでくる。前までのアパートであればこんなことで悩む必要はなかったんだが……恐ろしいものだな、現代のセキュリティと言うものは。

 

「とにかくインターホンを押してみるか。もしかしたら、出る余裕程度はあるかもしれん」

 

「ホントかな〜……」

 

「まぁ、試すだけならただなんだし、やってみてもいいんじゃない?」

 

「よしっ!では押すぞ」

 

 彩葉の住む部屋の番号を確認し、インターホンを押す。ポーンという澄んだ音が響いて、画面が呼び出し中に変わる。

 1秒、5秒、10秒とまっても、画面は変わらず。再度部屋の番号を映すものに変わった。

 それを数度繰り返すが、どれほど待とうとも彩葉から返事が帰ってくることはなかった。

 

「やはりダメか……」

 

「分かってはいたけどね……」

 

「どうする〜?」

 

「ふむ……1度彩葉のバイト先に行ってみるか」

 

「バイト先?なんで?」

 

「あ〜、休みの連絡入れてるかもしれないからか〜!」

 

「そういうことだ。まぁ、望み薄だろうがな」

 

「ううん、それでも行ってみるだけ行ってみよう」

 

「そうだよ〜!それに、差し入れって形でバイト先にこれ渡しちゃえば、彩葉が気にすることもないんじゃない〜?」

 

「真美、天才ー」

 

「彩葉であれば、俺達を無視したことを気にしそうだからな。そうするか」

 

「そうと決まれば」

 

「れっちご〜!」

 

「おー!!」

 

***

 

「まぁ、予想通り連絡なんぞ入れていなかったな」

 

「そうだね。まぁ、差し入れってことで喜んでもらえたし、面白そうなフェアも知れたしね」

 

「カボチャフェアだって〜!今度みんなでこれ頼もうよ!」

 

「カボチャを使った軽食やスイーツ……ほう、タルトもあるのか」

 

「いいね、5人なら……あ」

 

 あぁ、分かるぞ。

 いつの間にか、4人ではなく5人なのが当たり前になっていたから、その癖が抜けきらないんだよな。

 4人席に無理やり詰め込まれることも無くなり、6人席を探す必要もなくなったことを、つい忘れてしまう。

 

「……ごめん」

 

「謝るな。これは、誰も悪くない」

 

「そうだよ〜」

 

 そう、誰も悪くない。

 強いて言えば、かぐやを連れていった月人達と満足気に居なくなったかぐやが悪い。

 

「それに、俺は5人で来ることを諦めていないぞ!」

 

「え?」

 

「学校でも言っただろう?かぐやは帰っただけだ。ならば、それを取り戻す……連れて帰ってくる方法だって、あってしかるべきだ!」

 

「でも、月には居ないって話じゃなかったの〜?」

 

「それはあくまで可能性の話だ。確認できた訳でもない。それに、仮想の世界と月は近いのだろう?次は、ツクヨミから月にアクセスできないか研究してやればいい」

 

「ホント、凄いこと思いつくよね。源くんは」

 

「実際、それってできるの〜?」

 

「分からん!」

 

「「分かんないんかーい」」

 

「それを調べ、実現するための研究であろう?初めからわかっているのなら、苦労もないわ!」

 

「まぁ、それはそうかも〜?」

 

「どっちにしても、今すぐにっていうのは無理か」

 

「だが、俺と彩葉の頭脳。そして未来の協力者たちがいれば、すぐに成果は出るだろう。いや、出してみせる!そのためにも、彩葉には元気になってもらわねば!」

 

 そうでなければ、張り合いというものもない。

 

「……そうだね。これからのためにも、かぐやちゃんともう一回会うためにも、彩葉を元気づけよう!」

 

「お〜!とりあえず、このショートケーキ頼んでいい?すいませーん!」

 

「む、ならば俺もブレンドコーヒーのおかわりを頼むか」

 

「私はまだ大丈夫かなー」

 

 しばらく待っていれば、妙に動きのぎこちない店員が来てくれた。しかし、ガチガチに固まり過ぎているせいか、注文を書き込む動きすらぎこちない。

 今にもペンを取りこぼしそうで、少し見ていられんな……。

 

「店員さん」

 

「はっ、はい!?」

 

「一度、全身に力を入れてみるといい」

 

「え?全身に力……?」

 

「そして、一気に脱力する。緊張して体が固まる時、意図的に全身を緊張させて一気に脱力することで、体が固まるのを防ぐことができる」

 

「は、はぁ……?」

 

「それが難しいなら、客の前に出る前、伸びをしてから深呼吸するだけでも、緊張で体が強ばるのを避けることができる」

 

「えっえっと、全身に力を入れて、一気に脱力……伸びと、深呼吸……」

 

「そうだ。思うように体が動かない時は試してみるといい」

 

「わ、わかりました!ありがとうございます!」

 

「あぁ……っておい待て、注文!?」

 

「あ、あぁ!し、失礼しました!」

 

「コントかな〜?」

 

「源くんはお人好しだねー」

 

「えぇい、貴様ら、微笑ましいものを見る目で見るでない!」

 

「えつと、チョコケーキ1つとカフェオレが1つでしたね?!?!」

 

「全て違うわ!?はい、全身に力入れる!そして脱力!」

 

「ふぅ……ふっ!!」

 

「逆ぅ!!」

 

「あはははっ!2人とも面白〜」

 

「もう、真美笑っちゃダメだよ?……んふっ」

 

「芦花も笑ってんじゃん〜!」

 

 カフェで酷く久々に感じられる賑やかな一幕を過ごし、俺たちは帰路に着いた。

 かぐやが月に帰るとわかってから、常に俺たちの間に宿っていた剣呑さが霧散したことを、暮れていく夕焼けの中でぼんやりと気づいた。




コソコソ裏話
店員(みおちゃん)は突然人生で初めて見るレベルのイケメンから根気よく色々教えてもらえてしまった為、ほぼ恋に落ちている。
初対面の娘にもお人好し発動して面倒みるイケメンとか、それどこの少女漫画?

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