俺が8000年に負けるまでの話   作:凪 瀬

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友達にノベライズの布教成功したので初投稿です。
少し短めですけど、今回の話はずっと構想の中にあったので書けて満足です。名シーンが一生続くからみんなも見よう!超かぐや姫!


22話 めでたし、めでた

 

 結局、ヤチヨと連絡が取れないまま月曜日になってしまった……。

 あの時、宙から落ちた手を拾い上げていれば、ヤチヨは全てを話してくれたのだろうか……タラレバでしかない、空虚な妄想だな。

 彩葉のことも心配だ。芦花と真美から聞く限り進展は無さそうだが、彼奴は今日学校に来ているのか……来てくれていると、何かと楽になるんだがな……。

 まぁ、今はきっと待つべき時、と言うやつなんだろう。

 

「あ、源くん、おはよう」

 

「おは〜」

 

「む、芦花と真美か。おはよう」

 

「源くんは通学路で彩葉見た?」

 

「いいや。見てないな。今日も来ないようなら、帰りに寄ってみるか?」

 

「ごめ〜ん。今日は私予定があって……」

 

「む、そうか。では、俺と芦花で行くか」

 

「そうだね」

 

 しかし、今日で3日……彩葉のやつ、ちゃんと生きているだろうか?餓死、とまでは言わずとも、栄養失調で倒れたりしていなければいいが……。

 

「今日来てなかったら3日か……流石に、心配だね」

 

「ね〜。……もうさ、強行突破しちゃダメかな〜?」

 

「……まぁ、マンションのオーナーに事情を説明すれば、開けてもらえるかもしれんな」

 

「それは……いいのかな」

 

 芦花の懸念ももっともだ。しかし、3日もあれば人は容易に衰弱する。

 オートロックで高層マンションの35階。倒れていた場合、早期に発見してもらうのは絶望的だ。

 であれば、多少強引であろうとも、顔を合わせるのは必要か。

 

「……致し方あるまい。尊厳や気持ちも重要だが、命こそを優先すべきだと、俺は思う」

 

「……じゃあ、今日も来てなかったら、そうしようか」

 

「すまんな、芦花。貴様には無理をさせるかもしれん……」

 

「謝らないでよ。私だって彩葉のことは心配だからさ」

 

「ま〜、彩葉が今日来てくれてたら、万事解決じゃん〜?」

 

「それもそうだ……む?あれは、彩葉じゃないか?」

 

 教室に向かう階段前で彩葉が凛とした姿勢で立っている。

 相も変わらず超然とした立ち姿だが、どこか危うく、今にも膝から崩れてしまいそうな脆さがあった。

 それでも、また学校に来てくれたこと。一人で来れる程度には回復したことが嬉しい。頬も緩むというものだ。

 

「あっ、みんな!連絡返せんくて、ごめん!」

 

 目が合った瞬間に駆け寄ってきて、息をつく暇もなく頭を下げ始める。

 

「本当にごめん!マジでごめん!なんて言うか……いや、ごめん!」

 

「無視ひど〜」

 

「家乗り込もうかと思ったよ」

 

「ハッキングも辞さない構えだったぞ」

 

「すまん!すまん!」

 

 冗談めかして拗ねてみせる俺達に、必死になって謝る彩葉の姿に懐かしさを覚える。

 無理をして無茶をしているこやつに、幾度となく同じことをした。何度も、似たやり取りをした。

 かぐやが来てからはしてこなかったやり取りが、かぐやが居なくなったことで蘇るというのは、実に皮肉なもので、奇妙に辛いものだ。

 

「……私達はさ」

 

「彩葉が生きてればいいから」

 

「死んでいなければ、いくらでも助けてやる」

 

「みんな……ありがとう。ごめんね」

 

「謝るな。感謝の言葉だけで俺達は十分だ」

 

「そうだよ、彩葉〜。ていうか、なんか顔色悪いけどちゃんとご飯食べてた〜?」

 

「それにお肌もガサガサじゃん」

 

「そういえば、ここ数日水だけだったかも……」

 

「よく倒れなかったな貴様……」

 

「じゃあ、彩葉の復活祝いでご飯食べに行こうよ〜!ちゃんと食べるまで見届けてあげる〜!」

 

「おっ、いいねー。早速今日……は真美が無理か。じゃあ、明日の晩飯ね。この前行ったカフェで、彩葉の奢りだよ」

 

「カフェで栄養素を叩き込んで彩葉の弱った体を驚かせましょう!」

 

「何それ〜?」

 

「なんかのネタ?」

 

「忘れてくれ……」

 

 一時期流行っていたミームなんだが……そうか、伝わらないか……Yachi8000なら、すぐに反応してくれるんだがな……。

 

「そうだ!BAMBOO cafeのカボチャフェア!あれ行こうよ〜!」

 

「いや、あれ彩葉のバ先じゃん。嫌でしょ、彩葉も」

 

「ううん別にいいけど」

 

「彩葉が良いのならフェアに向かうか。俺も、カボチャのタルトが気になっていたところだ。……む、しまった予鈴が!?」

 

「やばいやばい〜!私達まだカバン置いてないよ〜!」

 

「彩葉も、早く行こ!」

 

 カバンを置いて、教科書を出して……うーむ、急げば間に合うか。

 

「む、どうした彩葉?」

 

 彩葉は俺達3人を見たまま固まって、その形の良い大きな瞳が良く見える。

 普段であればいくらでも見ていたいが……流石に遅刻間際に悠長なことは言っておられん。

 授業の直前、人気の無くなった廊下に俺達の足踏みの音だけが響いている。

 

「彩葉、先行くよ!」

 

 そう言って駆け出そうとした2人へ、彩葉が突然飛び込んだ。

 ……2人の前にいた俺も巻き込んで、押し倒す形で。

 

「ぐぉっ!?」

 

「きゃあ!」

 

「あっ、ごめん源くん?!」

 

 ヤバい、鳩尾に芦花の肘が……。いや、そんなことよりも彩葉だ。

 

「彩葉、急にどうし──」

 

「──ごめん」

 

「え、彩葉……?」

 

「ごめん、なさい」

 

「どうしたの〜?」

 

 彩葉の体が震えている。

 

「ごめんなさい」

 

 彩葉の声が震えている。

 

「彩葉、泣いているのか?」

 

「本当に……ごめんなさい」

 

 あぁ、俺は酷く場違いで、最低な男だ。

 俺達を抱きしめながら、身体を震わせて、涙に濡れ、ぐしゃぐしゃに顔を歪ませる彩葉の姿を、心配するよりも先に。

 何よりも、美しいと感じてしまった。

 

「私、自分勝手で……みんなのこと、無視して……!酷いことして……!みんな、優しくてっ、甘えちゃって!」

 

 その慟哭に、その涙に、どうしようもなく胸を締め付けられて。それらが、どうしようもなく嬉しかった。

 彩葉に、この姿を見せてもらえるくらいには、力になれていたんだと。ようやく実感できた。

 最低な本音と心配と、溢れ出した想いで、じんわりと、視界が滲む。

 

「彩葉。もう、いいから。大丈夫だから、ね?」

 

「泣かないで。大好きだよ」

 

「彩葉、俺達は、お前のことが大切で仕方ないんだよ」

 

「ありがとう……芦花、真美、光」

 

 朝日が照らす誰もいない廊下で、俺達は泣いていた。

 きっと、全員がどこかで無理をしていた。

 全員、全然大丈夫じゃなかった。

 だから、こうやってみんなでちゃんと泣く必要があったんだろう。

 

「ずっと、友達でいてね」

 

 その言葉が聞けただけで、俺は間違っていなかったと胸を張れるような気持ちだった。

 

……やったじゃん、ミナモト

 

 都合のいい幻聴かも知れない。だが、遠い月から、確かにかぐやの声が聞こえた気がした。

 無遠慮に元気だった声は澄んでいて。俺達よりも一足先に大人になった少女は、それでも変わらない笑顔を浮かべている、そんな気がする。

 かぐや、貴様がいなければ俺達はここまで来れなかった。貴様が言うハッピーエンドとは、こういうことだったのか?

 だとしたら、それも悪くないと、今は思える……。

 

 

おとぎ話のようなかぐやとの日々が終わり、光達に日常が戻ってきました。

これが、光と、かぐや姫の物語

めでたし、めでた──

 

 

 だが、この程度で完全無欠のハッピーエンドとは、言えないな?

 

え?

 

「彩葉」

 

「……何、光?」

 

「貴様が、かぐやの事を納得しているなら良い」

 

 お前の気持ちが、俺と同じように、かぐやにとって何よりも大切なことだと思うから。

 

「だが」

 

 だから

 

「納得できていないなら」

 

 満足できていないなら

 

「いつでも声をかけろ」

 

 助けてと言って欲しい

 

「俺は、納得なんてできていないからな」

 

 これが貴様らの目指したハッピーエンドだなんて、認めたくないから。

 

***

 

 あぁ、勝てないな。

 素直に、そう思わされた。

 いつも真っ直ぐで、ハチャメチャで、そのくせドがつくくらい優しくて。

 かぐやを見てる時、偶にその姿が重なってた。

 人の心と事情に踏み込んでくるくせに、変なところで気を使って、大人ぶって。素直じゃないな、なんて思ってた。

 でも、私に伝えようとする目は何時だって真剣で、正直で、嘘も偽りもない確かなものだった。

 だからかな、その言葉がストンと胸に落ちたのは。

 

「……私、納得できてないんだ」

 

 かぐやのこと、3人のこと、全部本音で、全部ホントで、ここで終わってもいいと思ってた。

 でも、やっぱり、胸の一番深いところでは

 

「満足なんて、思えなかったんだ」

 

 全然、終われなかった。

 

「こんな所で、終わりたくない」

 

 いや、なんか違うな……したいとか、したくないとかじゃなくて……

 

「こんな風に、終われるわけないっ!」

 

 かぐやが居ない日常なんて、日常じゃない!

 そんな欠けた日常を認めて、納得して、満足なんて、できるわけないっしょっ!

 

「だから、光、芦花、真美──助けて!」

 

 3人は私の言葉に目を合わせてから、友達の私でも見惚れるほど綺麗でカッコイイ笑顔を浮かべた。

 

「「「もちろん!」」」




コソコソ裏話
芦花と真美は彩葉が泣いたことを分かりやすく心配しているが、それと同じくらい自分達の前で泣いてくれたことを嬉しく思っている。

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