俺が8000年に負けるまでの話   作:凪 瀬

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夜の投稿なので初投稿です。
物語もついに最終盤……完結まで走りきるために超かぐや姫!を見直しています。やっぱ面白いわ、この作品。
みんなも見よう、超かぐや姫!


23話 未来への交信

 

「全く、勢いよく帰っていきよったわ……」

 

「まぁ、彩葉が元気になったみたいだし、いいじゃん」

 

「私達はどうする〜?このままサボっちゃう〜?」

 

「ダメでしょ。彩葉がいない間のノート取ってあげなきゃいけないんだから」

 

「うへ〜、寝ちゃわないように気をつけないと〜」

 

「とりあえず教室に向かうか。遅刻の言い訳と、彩葉の早退を伝えねば」

 

 まさか、協力することに同意して一番最初にすることが彩葉の仮病に協力することだとは……生きていると、何が起こるかわからんものだな。

 学校やテストを投げ捨ててでも、かぐやの為に何かをしたいと思い、行動する彩葉は、やはり俺の好きになった眩しさがあった。

 

「「「すいません、体調不良なのに抵抗する酒寄彩葉を早退させてたら遅刻しました」」」

 

「は、はい……えっと、じゃあ、席に着いて下さいね」

 

***

 

 彩葉が俺達に求めた協力は、授業内容の共有、かぐやに向けた作曲の手伝い。

 内容の共有は問題ないが、作曲の手伝いは素人の俺たちにできることはない。そのため、生活面での手伝いということにした。

 適当な食生活で、また倒れられても困る。

 1日分の弁当を準備し、冷凍しておく。あとは、学校終わりに彩葉の家へ誰かが持っていき、掃除や洗濯もこなして終わり。

 協力者というより、通い妻のような事をするわけか……俺の場合は夫か?やめよう、なんか恥ずかしくなってきた。

 彩葉がかぐやの為に歌を完成させるというのなら、俺もまた、かぐやと彩葉が再会させるとしよう。

 

「照兄さん。居るか?」

 

「光かーい?ちょっと、待ってねー……寝起き」

 

「すまない。起こしたか?」

 

「いいや、大、丈っ夫!よし、目が覚めた。それで?まだ月への糸口は無さそうだよ?」

 

「その事なんだが、月人がアバターを変換した時のデータは見つかったか?」

 

「流石にね。でも、なんでその話を?」

 

「そのアバターの変換を、上手く利用できないか?」

 

「というと?」

 

「あくまで想像でしかないが、灯篭共のアバターデータへの変換ログを元にして、月に関するデータを見出すことができれば、糸口になるかもしれん」

 

「……なるほどね。試してみる価値はあるかも」

 

「というわけで、照兄さんにはその月のデータを見つけ、集めて欲しい」

 

「OK。目的が分かりやすくなって助かるよ」

 

「頼んだ。俺は、力になれそうな者を探してくる」

 

「探してくるって……どこで?」

 

「決まっておろう──ツクヨミだ」

 

***

 

 相も変わらず絢爛極まるツクヨミをひょっとこ面を揺らして飛び回る。

 有名人というのは人を探す上で厄介なものだ……。ファンや知り合いに囲まれないよう、屋根の上のように道無き道をゆく必要があるのだからな……。

 

『でねー、ヤチヨはやっぱりハッピーエンドが大好きなんだよね。メリバ?とか、グッドエンドじゃなくて、みんな笑顔なハッピーエンドが好きなの。みんなも、そうじゃない?』

 

「……見てみろヤチヨ。昔の貴様の方が、余程正直だぞ」

 

 街灯の大型スクリーンに映るヤチヨは、賑やかで楽しそうに交流して見えるが、あれは昔のアーカイブを焼き増し……いや、再放送か?

 もう3年ほど前の配信だったと思うが……偶然にも、印象に残っているフレーズが出たから思い出せた。スクリーンを見るもの達やコメント欄でも気づいていない人間の方が多いように見える。

 

「和室にはいなかった。ライブの予定はない。つまり、城に居ると考えるのが妥当だが、一般人では入れない。さて、どうしたものか……」

 

 一番楽なのは本人に出会うこと。しかし、最悪伝言でも構わない。

 問題は伝言を頼めるほどヤチヨに対して近く、月人というオカルトに対して深追いしない。あるいは理解できている人物が居ないということだ。詰みか?

 

「む、あれは……」

 

「……」

 

 屋根に立つを俺を一瞥し、人気のない入り組んだ裏路地に入っていく白黒の小生物。彼奴は確か、常日頃からヤチヨと一緒にいたFUSHIのはず。つまり、ついて行けば……!

 

「待たんか!」

 

 ヤチヨに会えるやもしれん!

 

***

 

 ツクヨミという人間にとっても広大なフィールドは小生物のFUSHIにとっては更に広く途方もないフィールドに変わる。

 本来なら体の大きさによる速度の差もあって、簡単に追いつけそうなものだが……流石は管理者であるヤチヨと共にいるだけはある。ツクヨミの入り組んだ道を全て把握しているらしい。巧みな逃げに捕まえきれない。

 

「とはいえ、チェックメイト、か?」

 

「……」

 

「後退の芽はないぞ。俺の前に姿を表した理由は、なんだ?」

 

「……お前は、何でヤチヨを探している」

 

「ふむ……ヤチヨに協力して欲しいことがあるからだ」

 

「なんで、ヤチヨなんだ」

 

「ヤチヨにしかできないことなんでな」

 

「そうやって、ヤチヨのことを利用するのか」

 

 利用、利用……利用か。

 確かに、俺がやろうとしていることは、ヤチヨを利用して俺が満足しようとしているだけかもしれん。

 ハッピーエンドなどと言っても、ヤチヨからしてみれば有難迷惑……いや、寧ろ害悪とすら言えるのかもしれん。

 目の前で剣呑な瞳で俺を見つめる小生物の言っていることは、正しい。

 俺は否定できる要素を持ち合わせていない。

 だが、俺のこの気持ちを、そんな軽率で簡単な言葉でまとめられると思うなよ?

 

「よく聞けよFUSHI、俺は天才だ」

 

「……は?」

 

「大体のことは1人でできるし、1番になれる。照兄さんにだって、今は負けていても越えられるという確信を持っている」

 

「急に何を言ってる……?」

 

「だが、それは何時かであって、今じゃない」

 

「……」

 

「必要な時に必要な力がなければ、天才であっても無力だ」

 

 丁度、かぐやの事がそうだった。俺には、あの時力がなかった。かぐやの手を引っ張りあげるだけの、力が。

 

「だからな、俺は頼ることにしている。己よりも優れた者を」

 

 芦花を真美を照兄さんをヤチヨを、かぐやを……彩葉を。

 

「それは悔しいことだ。己の至らなさを痛感させられる。毎度毎度、無力感に苛まれる。夜寝ている時、無性に胸を掻きむしりたくもなる」

 

「お前……」

 

「利用だと、割り切れてしまえば楽だ。効率を求めて、感情を排せる訳だからな。だが、それは逃げだ」

 

 そんなふうに割り切っていたら、俺は大切な友の目を見れなくなってしまう気がする。

 

「だからなFUSHI、俺は利用しているつもりも、するつもりもない。ただ、助けて欲しいだけなんだよ。みんなが笑えるハッピーエンドを届けるために」

 

「……お前も……ライトも、そういうんだな」

 

「やかましい娘のせいで、俺まで染められてしまったからな」

 

「……分かった。でも、ヤチヨのところには連れて行けない」

 

「構わん。だが、月人である彼奴の知見を借りたい。そのためのメッセンジャーになって貰えるか?」

 

「ヤチヨに伝えてみる。言伝は?」

 

「『月人に共通するデータの有無と内容、月との通信が可能か否かを教えて欲しい』」

 

「──記録した。それじゃあ、ボクは行く」

 

「FUSHI」

 

「なんだ」

 

「ヤチヨを、頼んだぞ」

 

「……任された!」

 

 ぴょんっと一つ跳ねて、背後の壁を通り抜けていく。逃げ場はないと思っていたが、誘い込まれていたのは俺だったか……流石は管理者に最も近い存在。

 ツクヨミにおいて、ヤチヨとFUSHIを出し抜くのは難しそうだな。

 

「……俺も照兄さんを手伝いに行くか」

 

 やるべき事もやれることも、まだある筈だ。

 

***

 

「ゔぁー……なぁんも分からん」

 

「僕の、この、天っ才的なBrainを持ってしても、月の超技術には勝てないのか……!?」

 

 気が付けば深夜1時。

 照兄さんの部屋でログを確認し始めて4時間が経過したものの、月のデータは見つからず、もはや見慣れた変換ログと文字化けに見えるエラーを見続けるだけの時間……まるで先が見通せない。

 

「……少なくとも、変換に関しては一般的なスキンの変更とほとんど変わりないんだよね」

 

「だが、変換された者はアバターを乗っ取られている」

 

「そこだよねー……変換そのものじゃなくて、行動のログを見た方がいいのかも?」

 

 言うが早いか、照兄さんはログの表示を次々と切り替え、アバターが変換されたあとの月人の行動ログを探し始める。

 行動、アバターを乗っ取るということはどこかからアクセスがされているはず。しかし、ヤチヨ曰く何処からアクセスしているのか分からない……。

 

「見つけた」

 

「早いな……何かわかるか?」

 

「……動きのログ自体は変わらない」

 

「そうか……」

 

「でも、見慣れたエラーが入っている」

 

「っ!つまりそのエラーこそが」

 

「月のデータそのものってこと!」

 

「どう解析する?」

 

「エラー部分をコピーして色々弄るしかないね。地道だけど、これが一番効く」

 

 何か手がかりがあれば効率的に色々試すことができると思うんだが……む、こんな時間に連絡?しかも見た事ない宛名だな。

 

『月のデータは圧縮されている。10TB以上の空き容量がある場所なら、展開して分析できるはず。月との交信は理論上可能。月のテクスチャを貼り付けた部屋と通信番号のデータがあれば交信可能性は高い』

 

「クククッ!彼奴め、いい仕事をする」

 

「どうしたんだい?」

 

「何、小さな戦友が最高の情報を持ってきたのでな。照兄さん、10TBの空き容量があるPCはあるか?」

 

「光さ、僕がそんな高性能なパソコンを何台も持ってると思うの?」

 

「持ってないのか?」

 

「あるよ。なんなら、2台くらい使ってないのがある」

 

「流石は照兄さん。収集癖もどうにかした方がいい」

 

「クソぅ……否定できない正論」

 

 早速PCの電源をつけ、エラー部分を転写、展開していく。

 膨大なデータが一瞬にして溢れかえり、PCの空きを食い潰していく。駆動音も低音から最高音まで高まり、ファンから漏れる熱気が体を焼く。

 

「……解放、完了だ」

 

「それじゃあ、ここからは僕の仕事だね」

 

「俺では足手まといになるからな……くぁ、すまんが、先に寝かせてもらう」

 

「おやすみー」

 

「あぁ、おやすみ」

 

 気が付けば深夜2時、明日も学校がある上に彩葉の為にノートも取らねばならん。早急に寝ねば……。

 

***

 

「全く、光も無理するなぁ」

 

 光の出ていった部屋の中で、PCの駆動音に紛れて独りごちる。

 ここ数日、普段の光からかけ離れた不規則な生活をしていることを照は知っていた。

 そして、その疲労が着実に光の体を蝕んでいることも。

 

「でも、楽しそうでいいな〜。僕も恋とかしたいなー」

 

 軽い調子で口に出し、微笑みを浮かべて欠け始めた月を眺める。

 目の前のPCには展開されたばかりの10TB以上の未解明なデータ。プログラミングにおいて天才な照をして、気の遠くなるような、面倒臭い作業である。

 だが、その面倒くささも楽しそうに笑う弟のためを思えば気にはならなかった。

 

「……とはいえ、流石に僕一人だと時間かかりそうだよね……。そこで!」

 

 意気揚々とスマホを取りだし、とある番号へ連絡を入れる。

 

「あ、父さん?未解明のデータに興味ない?……無い?じゃあ送るから、一緒に分析頑張ろうね!あ、期限は明後日ね!じゃ、おやすみ!」

 

 一方的に言いたいことだけ言って、データの5分の1を転送する。

 

「ん〜、よし!光の為にももうひと踏ん張りしてあげますか!」

 

 夜は更け、月明かりもブルーライトに掻き消される照の部屋には、PCの甲高い駆動音とキーボードを叩く音。

 そして、突然空き容量いっぱいに謎のデータが送られた父からの連絡を知らせるバイブレーションが、一晩中鳴り響いていた。

 




コソコソ裏話
FUSHIは光のことが嫌いではない。寧ろ、ヤチヨの友達であり大切にしていることが分かっているので好きまである。でも、ヤチヨが泣いて帰ってきたから、ちゃんと釘を刺しておきたかった。
結局は、その誠実さにFUSHIも折れざるおえなかったわけだけど。

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