おかしな部分がないか不安でしたが、超かぐや姫!を見ていたら何とかなるかという気持ちになったので投稿です。みんなも、一歩を踏み出せない時は、見よう。超かぐや姫!
彩葉がかぐやの為の曲を作り始めて2日が経過した。
学校や弁当によるサポートは恙無く進んでいる。弁当を渡すために彩葉と顔を合わせた芦花曰く、寝不足で隈こそあれど顔色はそれほど悪くなかったらしい。
作曲が順調かは分からんが、彩葉の曲が完成するのは時間の問題だろう。
「問題は、データの解析が一向に進まん……いや、進んでいても理解できんことか……」
「いやぁ……舐めてたね。月」
「予想してはいたが、まるで分からんな……」
「なんでこの組み合わせでちゃんと動いてるんだろ。え、月怖」
『このデータを解析している間にPCが一つクラッシュしたんだが……どうなっているんだこのデータ。厄ネタか?』
「部分的にそう」
「どちらかといえば、はい」
『息子達よ、気軽に厄ネタを持って来てくれるな……後、寝かせて……』
「父さんならまだいける」
「寝たいって言ってる間は限界じゃないからいけるよ」
『信頼の厚さが裏目に出ることってあるんだな……。しかし、これ以上の解析は個人では難しいだろう』
「そうだね。天才の僕をして、解読の糸口がまるで見えてこない」
「……遠いな、月は」
現代地球科学を遥かに凌駕する超技術。
月と地球という38万kmの距離は、データの上でもその存在を如実に示している。
「……これ以上は無理、か」
「諦めるつもりは無いけど、時間はかかるだろうね。それこそ、僕らだけじゃ年単位で」
『何よりも問題なのは言語だ。これが理解できんことには進まん』
「言語は大して問題では無いけど、構築されている理屈がまるで分からない」
『そういえば照って天才なんだった。うん、父さん技術面ではもう何も言わないでおこうかな』
年単位……元より覚悟していたことだが、目の前にあると分かっているものに手が届かないというのは、これほどもどかしいものなのだな……。
せめて、FUSHIの言っていた「月のテクスチャ」と「通信番号」さえ分かれば……いや、だとしても俺たちだけでは部屋を作ることができん。
──だが、俺達はできることをやるしかない。
「照兄さん、月のテクスチャと通信番号だけでも探せるか?」
「ん〜……1日。それだけの時間があれば、この言語に慣れてみせる」
「信じる。父さんはそのままデータの分割と整理をして欲しい」
『……全く、父を良いように扱いよって』
「ダメか?」
『息子達の我儘だ。応えん親はいまい?』
「ありがとう!」
「父さんって言い回しが面倒臭いよね」
『照、お前父さんのこと嫌いか?』
「だーい好き」
『うーん、嘘くさい』
「頼んだぞ、2人とも。俺は、もう1人に協力を仰いでくる」
***
深夜とはいえ、ツクヨミの賑やかさは変わらない。夜更かしな学生や仕事終わりの社会人、昼夜逆転したもの達などが跋扈している。
そんな喧騒の隙間を縫って路地裏に入れば、先程までの騒がしさと真逆な静けさが出迎える。
間違えないよう、記憶に残った軌跡をなぞる。
「──FUSHI、居るか?」
何の変哲もないただの行き止まりに声をかければ、向こう側からぴょんっと小生物が飛び出してきた。
「なんだ?」
「データの解放が終わった。だが、解析には時間がかかる。月の言語とデータ構築の理論は分かるか?」
「分かる」
「ならば、解放したデータを渡したい」
「了解だ」
「とにかく、月のテクスチャと通信番号を探して欲しい」
「転写場所は?」
「ツクヨミの一室」
「わかった。ヤチヨに相談しておく」
「かぐやは元気か?」
「あぁ。───なんで、」
「どうやら、俺は探偵業でもやっていけるらしい」
ずっと引っかかっていた所がある。
ヤチヨは全てを知っている。ヤチヨは月人である。
であるならば、何故かぐやを自らの手で月に返さなかったのか?連れ戻そうとしてくる月人に協力せず、抵抗する俺たちに力を貸してくれたのか。
そもそも、どうやってかぐやの事もその先の展開も知ったのだろうか?
「だから、発想を変えてみた。未来を知っているのではなく、過去を知っているのだとしたら?」
「……」
「既に自分の経験したこと、記憶したことであれば、全てを知っていたとしても不思議では無い。問題は、俺達にとっての現在を、どうやって経験したのか」
目の前の小生物は答えない。……応えない。
ただその小さな体を包む毛を逆立たせ、大きな瞳をいっそう見開いて、全身で驚きを表している。
……あるいは、喜んでいるのだろうか?
「──時間跳躍。月に帰った未来のかぐやが、過去に戻ってヤチヨになった。のではないか?」
「ぁあ──!」
「月のデータは見たこともない言語と構築理論で形成され、今の俺たちではまるで理解できなかった」
つまり、俺達では理論の形成すら危うい技術すら、既に形にしている可能性があった。
「ならば、何故目に見えていた、かぐやの送還を阻止しなかったのか」
「それは……」
「……全て知っていたから、であろう?自らが経験した事で、かぐやがヤチヨになることを」
「……っ」
「そして、時間の輪廻が壊れることを恐れた。タイムパラドックス。たった一つの選択が、バタフライエフェクトを起こし、かぐやが帰る以上のバッドエンドに繋がってしまうかもしれないという、恐怖」
その恐ろしさは、未来を知らない俺には分からん。彼奴の感じていた恐怖を体験してやれない俺では、想像して、同情して、黙っていることしかできない。
「……彼奴が選ばなかったことも、今なら理解できる。そして、かぐやと彩葉の為だという言葉に一切の偽りがないことも。罪悪感に押し潰されそうになっていたのも」
「……ヤチヨは」
FUSHIが、ポツリと零した。
「ずっと、ライトの手を取りたがってたんだ」
それはキラキラとしていて
「怖がりな自分を、まだ許してあげられないんだ」
このデータだけの世界に似つかわしくないほど瑞々しくて
「だから、ライト」
鮮烈なまでに燃える想いを宿した涙だった。
「──ヤチヨを、もう一度怒ってあげて」
「──任せろっ!」
小さな戦友の涙に応えぬ男など、この世にはいないのだ。
***
ずっと、胸に残っていた曲を歌い上げる。
彩葉の作り上げた
月のかぐやと地球の彩葉、そこへツクヨミのヤチヨが混ざる。邪魔しちゃダメかなって思ったんだけど、やっぱり、私も彩葉と歌いたかった。かぐやとも歌いたかった。
「この一瞬を最高のパーティにしよう──」
歌っている途中で、違和感に気づいた。
誰かが、城の中……この部屋の前まで来ている。
でも、ここには誰も入れないはず。それこそ、私かFUSHIでも無いと──
「──想い人に向けて歌う女の部屋に入った無粋を、先ずは謝るとしよう」
「……ライト」
「だが、如何せんこちらも戦友から頼まれていてな。引くに引けんのだ」
何でライトが……?
戦友って、もしかしてFUSHI?
でも、なんでライトを入れたんだろう?
頼まれ事って何?
「聞きたいことも多かろうが、俺の話を聞いてもらうぞ──かぐや」
「ぇ?」
な、んで……
「なんで、という顔をしているな。その理由は簡単だ……俺が、天っ才だからだ!」
「え、え〜……?」
て、天才って……そんな一言で纏められてもわかんないよ?
呆気にとられる私を放って、ライトはどんどん近づいてくる。思わず逃げようとしたけど、城の最上階のここに逃げるところなんて殆どなくて、すぐに追い込まれてしまった。
「え、っと……ライト、どうやって?」
「──もう、ミナモトとは呼んでくれないのだな」
胸がギュッと痛んだ。
責めるでも、悲しむでもなく、子が親から離れた時のような寂しそうな表情。
その寂しさを知りながら、やっぱり臆病で変われない私自身の醜さに、胸が苦しい。
「ごめんね……ヤチヨはもう、8000歳のおばあちゃんなので」
「……ヤチヨっ!」
「っ!?」
「貴様が、どのような気持ちでかぐやを見送ったのか、俺達と関わっていたのか、一日一日を生きてきたのか、そんなことは俺には分からん!!」
「ライト……」
「だがなぁ、貴様……俺の手を取りたいと思っていたのなら、何故あの時!手を取らなかった!?」
言葉が、息が、詰まる
「手を伸ばして、躊躇って!諦めて後悔するくらいなら!我儘に握って見せろ!」
それが、それができたら……
「貴様の願いを、やりたいを、全部叶えてやると俺は言ったんだ!何故、なぜ貴様が先に諦める!?何故、そこまで臆病になる!」
じゃないと、彩葉もかぐやも、ハッピーエンドになれないかもしれない……
「もう、貴様の知る未来は終わったのだろう!後は、俺たちと同じく先の知れない未来があるのだろう!?ならば、何故それほど逃げる!?」
「そんなの……そんなこと、私にだって分かってるよ!」
もう、全部話しちゃおう。
そんなに聞きたいんだったら、嫌ってほど聞かしてあげる!
「ヤチヨはね!悪いやつなの!中途半端で臆病で、すぐ誤魔化して逃げ出しちゃう!そんなやつなの!ライトが思ってるほど、ヤチヨは強くないの!」
「なればこそ!俺の手を取れと言っている!中途半端なら俺が、その先を作ってやる!臆病ならその背を押してやる!誤魔化して逃げるなら、逃げられないよう捕まえてやる!」
「だから!それができないくらい、ヤチヨは弱いの!もう、8000年も超えてずっとずっと、弱くなっちゃったの!」
「弱いからなんだ!弱いのなら、友に助けを求めていいではないか!助けての一言を出してみればいいではないか!」
「それが簡単にできたら、私はこんなふうになってないの!」
「だが!今こうして、俺に怒れているではないかっ!」
「っっ!」
「貴様は、ただ大人ぶろうとしているだけだ!変わってしまうことを恐れて、我儘になることを恐れて!誤魔化して笑っているんだろう!」
「っ……そうだよ!最強のかぐやちゃんは居なくなったよ!今いるのは、ヨボヨボのおばあちゃんだよ!」
「ならばっ!!」
ドンッと、踏みしめられた地面から鈍い大きな音が鳴る。
存在しない振動が地面から体を伝って、実装されていない鳥肌が立つ感覚がする。
「貴様の手を何度でも引いてやる!最強のかぐやがいないのなら!天才たる俺が!貴様を最強に変えてやる!」
ギラギラ輝いた目が、私を見つめて離さない。
ライト、こんなに大きくなったんだ……。
強い意志の宿った瞳に、大切な
「貴様の我儘を言ってみろ!今度は俺が、貴様を助けてやる!」
そう言って伸ばされた手は、いつか差し出された手よりも大きく見えて、滲んでぼやけていた。
「……なんで、なんでライトはそんなにしてくれるの?」
「色々と理由はある。恩人だとか、彩葉の大切な人だからだとか……」
瞑目して理由を言い連ねる顔の横で見慣れたひょっとこ面が揺れていた。
「だが、1番の理由は」
その顔に優しい微笑みを浮かべて、瞳にはキラキラした子供みたいな喜びを含んでいた。
「
あぁ、そうだった。
「友達の為になにかしたいと思うのは、当たり前のことだろう?」
ライトは──ミナモトは、ずっとそういう人だった。
孤独な日でも人気の無い裏路地でも、自分と友達の笑っている幸せと希望の詰まった絵を描くから。
私はあの日、蹲っていた貴方に声をかけたの。
「……ねぇ、ライト」
「なんだ?」
「私はさ、臆病だよ?」
「知っている」
「弱くて、中途半端」
「さっき聞いた」
「何回も、間違えちゃうかも」
「奇遇だな。俺もよく間違えて、友達に助けて貰っている」
敵わないな……本当。
真っ直ぐで優しくて、素直。
かぐやを見てるみたいで、ちょっと眩しいなぁ……。
──あぁ、だからか、彩葉がライトと話す時、時々かぐやに向けるのと同じように、目を細めて優しげに見ていたのは。
あれって、彩葉も眩しかったんだ。
「ねぇ、ミナモト」
「なんだ、かぐや」
「私ね、やりたいことがあるんだ」
「そうか」
本当は、まだ怖いし、腕だって震えるし、ミナモトにも全部忘れて欲しい。見なかったことにして欲しい。
でも──ヤチヨも言ってみたくなっちゃった。
「だからさ──助けて?」
伸ばされた手に、やっと、自分の手を乗せられた。
「あぁ、任せろっ!」
力強く握られた手は、遠い昔を思い出させて、すっごく熱かった。
──ようやく、その手を取れた。