さすが黒鬼カッコよすぎて子兎になるところでしたね……。曲もカッコイイけどゲームでの活躍もかっこいい黒鬼。みんなも見よう、超かぐや姫!
一晩中、生み出したばかりの曲を歌っていた。
月にいるのか、
何度も、何度も、何度でも。
でもその内に、2人だけが知る歌の中に3人目が混ざってくる。
初めから知っていたみたいに、私達に合わせて歌い始める。
透き通っていて優しくて、いつも私を内側から守ってくれていた大好きな声。その声の主を、私が間違えるわけない。
「ヤチヨ……?」
様々な疑問が、星が瞬く度に繋がって、1つの答えに辿り着く。
でも、その時には体はもう限界で……
ピンポーン
「……んぇ?」
あれ、私寝て……てか、今何時?
ピンポーン
あ、その前に、インターホン。誰が来たんだろ……
「はーい……」
「彩葉。寝起きのところ悪いが、外に出てきてくれ。スマコンをARにしてな」
「はい?」
「では、扉の前で待っているぞ」
言うだけ言って、訪問者──光はインターホンから離れてしまった。
正直、なんで外に出なきゃならないのかとか、なんでスマコンが必要で、しかもARなのかとか、気になるところは多いけど。
いつになく真剣な光を無下にしたくない。
「む、来たか彩葉。おはよう」
「おはよう。……学校終わり?」
「あぁ。……その様子だと、満足のいくものができたようだな」
「……まぁね。これもみんなの協力のおかげ、かな?」
「クククッ、貴様自身の能力と、想いの強さもあるだろうさ」
「そう、かな。……それで、どういうつもり?突然外に呼び出して」
「何、貴様に会いたいと言うやつがいるのでな。その案内だ」
「私に会いたい人……?」
「百聞は一見にしかず……ではないが、着いてこい」
「う、うん……」
颯爽と歩き始める光に続いて歩き始める。
見慣れた道を歩いて、駅に向かっていく光の後ろを歩いていると、どうしてもヤチヨのことが気になる。
かぐやのライブ以降、私はツクヨミにログインできてない。だから、あの時ヤチヨの声が入っていた理由も私の疑問の答えも、何も分からないままだ。
「なにか気になることでもあるのか?」
「えっ?」
「少し長い道のりだからな、貴様の話も聞いておこうかと思ってな」
「……おかしな話なんだけどさ」
「月の姫が電柱から生まれる以上にか?」
「……ふっ、それには負けるかも?」
「ならば気にするな。どれほど荒唐無稽でも、信じてやるとも」
顔が見えないほど前を歩いていた光は、私の話を聞くためか私に近づいて、端正な顔に自信ありげな笑みを浮かべて見つめていた。
その変わらなさが有難くて、知らず強ばっていた肩がフッと軽くなる。
「ヤチヨが、かぐやかもしれない」
「……それは、何故?」
「分かんない。でも、昨日完成させた歌をかぐやと歌っている時、ヤチヨの声が聞こえたんだ」
あれは間違いなくヤチヨの声だった。
そして、私と、届けられたかぐや以外に知りようがない私の曲を、一切の淀みなく歌いきっていた。
それだけでも違和感だった。だけど、その違和感に気づいてから、もっと昔からあった違和感とか疑問とかに気づいて、それが全部繋がった。
「──ヤチヨは、未来のかぐやなんだ。それだけは、確信をもって言える」
茜色が混じった太陽が差し込む電車に揺られながら、力強く言い切る。
この確信だけは、どんな理屈や理性でも揺らぐことはなかった。
「……そうか。貴様が言うのなら、そうなのだろう」
「……信じるの?私が言うのもなんだけど、こんな話」
「最初に言ったではないか。──信じる、と」
「……ホント、光は正直だよね」
「クククッ、よく言われる」
それからしばらく、言葉はなかった。
ただ夏の色を残しながらも、既に秋に変わり始めている太陽の光に照らされる街を窓から眺めて、かぐやと見に行った花火大会を思い出していた。
あの日はもっと暑かったっけ。隣にかぐやが居たから、暑かったんだっけ?
「ヤチヨがかぐやだったとするなら」
「?」
「彩葉、貴様はどうする?」
言葉が出なかった。
そんなこと、考えてもいなかったから。
「……どう、するって」
「貴様を支え続けた
「ヤチヨか、かぐやか……」
「ヤチヨを目の前にした時、貴様は決めねばなるまい。その結末がどのようなものだったとしても」
光の言葉は厳しいけど、声は諭すような、許すような不思議な優しさがあって。合わせた目は柔らかい光を宿しているみたいだった。
「だから、しっかりと向き合ってやれ。そうして初めて、納得のいく選択ができるはずだ。……降りるぞ」
「あっ……うん」
「向き合ってやれ」か……それはきっと、これまで光が何度も何度も繰り返してきたことで、大事にしていることのような気がする。
光達が向き合ってきてくれたから、私達は友達になれた。
自分と向き合えたから、私はちゃんと曲を作れた。
なら、私が次に向き合うべきなのは──
「ついたぞ」
「えっ、あ……ここって、マンション?」
「あぁ、ここからは彩葉一人で来るようお願いされていてな。俺は、ここで待っている」
「そうなの?」
「あぁ、心配せずとも、相手は信頼のおける相手だ。俺が保証する。三階の303だ」
ここまでの道中で、誰がここにいるのか分かった。寧ろ、ずっと光が教えてくれてた。
道中話を聞いてくれたのも、私がちゃんと向き合えるように、色々と覚悟を決められるようにしてくれたんだと思う。
だから、できる限りの感謝と覚悟を持って、光にも応えなきゃいけない。
「──行ってきます」
「あぁ、行ってらっしゃい」
ありきたりな言葉だったけど、これほど勇気の貰える言葉もなかった。
***
「ヤチヨ、彩葉が来るぞ。準備はいいか?」
「……うん、大丈夫」
「ここから、俺は手出しせん。それでいいんだな?」
「うん……もう、逃げないって、向き合うって、決めたから」
「……ならば、しっかりぶつかってやるといい。彼奴も、それを望んでいるだろうからな」
「ありがとうね。ライト」
「あぁ、吉報を待っている」
それだけ言って、部屋からライトは消えていった。
さぁ、ここまでお膳立てしてもらったんだ。誤魔化すのも、お茶らけるのも、今だけは無し。
ただ、彩葉と
それから、それから……今度こそ、彩葉と一緒に──
***
マンションの扉に鍵はかけられてなかった。
中に入れば、全身をぼんやりとした熱気が舐め、冷却ファンが稼働する轟々とした音が鼓膜を揺らす。
「来たか」
「……FUSHI?」
足元には、常にヤチヨの隣にいる白いウミウシがいた。
その体は透き通っていて、スマコンのAR機能で投影されたホログラムであることが分かる。光がスマコンをつけてこさせたのは、これが理由だったのだろうか?
「入れ」
小さな体に似つかわしくない厳かな雰囲気を纏って、地面を滑るようにして部屋の奥へ進んでいく。有無を言わせぬその態度に、少し二の足を踏んでしまうが、息を吸って入る。
「何、これ……」
部屋の中はサーバールームと呼ぶのが適切だろうか?様々なPC関係の機器が大量に詰め込まれ、デタラメな散らかり方をしていた。
その散らかり方にも、既視感があって。私はつい最近、それを片付けたはずだった。
だけど、そんな寂しさを覚える既視感を薄れさせるほど強烈な印象を与えるソレ。
「……タケノコ?」
部屋の中央に設置された巨大な水槽の中で、ボコボコと水泡の湧いては消える謎の液体に包まれたそれは、正しく巨大なタケノコだった。
どれだけ記憶を探っても初めて見た巨大なタケノコ。しかし、それはどこか既視感のある雰囲気を放っていて…………これ、もしかして月人たちと同じ……?
「あれが、ヤチヨだ」
「……え?」
「ここから入れ」
色々と聞きたいことはあった。でも、この小さな案内人はこれ以上の質問は聞かないという拒絶……いや、覚悟を背中に宿していた。
FUSHIの言葉に従って瞼を閉じ、ツクヨミに潜る。
普段とは違った、少し時間がかかる感じ。裏口からこっそり忍び込んでいるような感覚がして──
「──彩葉」
その声で瞼を開けた。
そこはツクヨミでも初めて見る場所で、無数の灯篭が部屋を照らして、聞こえてくる風音からかなり高い場所であることが分かる。
目の前には、私の女神が座っていた。
普段は綺麗に結われた髪は解かれて、重力に従って広がっている。
灯篭の鈍い暖色のせいか、銀の輝きは紛れて、暖かな金の煌めきのようにも見える。
私を見るその瞳は、いつもリスナーに見せる慈しみや賑やかさがなりを潜めて、私だけに向けた優しさで満たされていた。
「ヤチヨ……ううん、かぐや」
名前を呼べば、ヤチヨは驚いた様子で目を見開き、蕩けるほど優しい表情になった。
「気づいてたんだ」
「確信を持ったのは昨日。光……ライトと話してて、確実になったのはついさっき」
「そっか……」
「……ヤチヨ、かぐやはどうして、ヤチヨになったの?」
「今は昔──」
私の質問に、ヤチヨは答えてくれた。
昔話を、語るように。
「月に帰ってバリバリ社畜してた、えらえらかぐやの元に歌が届きました。それはかぐやのために作られた、かぐやだけの曲」
あの夜作り上げた、私の曲。
私と、かぐやだけの曲。
「かぐやは大喜びして、もっかい地球に行こ〜〜って、お仕事を爆速で片付けて引き継ぎも完了。ただ、地球の時間では大遅刻。でも大丈夫、月の技術は時間さえ飛び越えて地球に向かうことができちゃいます。でも、もう少しのところで、でっか〜い石に当たっちゃったの」
それは……
「やっとの事で辿り着いたのは、ざっと8000年前の地球でした。壊れた船の僅かな力で、同行していた犬DOGEだけがウミウシの体を得ました。かぐやはウミウシを通してだけ、世界と交流を持てました」
ヤチヨの話は分からないことだらけだ。壮大すぎて、想像もつかないような、想像したくないような事ばかりだ。
覚悟してても、足元が不安定になるような、体が言うことを効かなくなっていく感覚がある──でも、聞くのは止めない。止めちゃいけない。
ちゃんと、
「──時は経ち、人は見えないものを形にし、多くの人と繋がる力を手に入れた。それは月の世界と少し似ていて、かぐやは初めて、魂だけの自分が世界と関われる可能性を知りました。そして、仮想世界ツクヨミの歌姫として、再び彩葉達と出会うことができたのです」
こちらを見つめるヤチヨの目は、澄んで見えた。でも、その奥で、私の知るかぐやが泣きそうになっているようにも見えた。
「……私といたかぐやは?」
「今もまた、同じ輪廻を巡ってる」
「……そっか」
「私達は、その輪から外れることはできない──でもね」
先程までの透徹とした声から一変して、ヤチヨの声に震えが宿る。
それは、武者震いなのか怯えなのか、あるいは激情なのか私には分からなかったけど
「キラキラのかぐや姫じゃなくなっても、ヨボヨボのおばあちゃんになっちゃってても、私は……
それは、なんて言えばいいんだろう
綺麗で、辛くて、可愛くて、悲しくて、幸せで、色んな想いで胸がいっぱいになって、苦しいくなった
ずっと笑って、余裕綽々で、超然としていたヤチヨが、涙を流した。
一筋だけヤチヨの頬に
それだけだ。それだけだった。
それだけで、十分だった。
「ヤチヨッ!」
「っ!」
目の前に座る私の
温度を感じなくても、感触がなくても、そこに確かにいるんだから。そこで確かに泣いているんだから。
もう、誰にも取られないように。逃げられないように。ギュッと強く抱きしめる。
「……彩葉」
「ごめんね、ヤチヨ……気づいてあげられなくて。ありがとう、ずっと私を支えてくれて……!」
「……彩葉っ、私、ずっと彩葉に会いたかったの!またこうして、抱きしめて欲しかった……!」
「ヤチヨ……ううん、かぐや、何度でも、幾らでも、抱きしめてあげる。だから、だから……私と、ずっと一緒にいて?」
「っ彩葉ぁぁ!」
堪えきれなくなったように、ヤチヨは泣いた。
それ以上に、私も泣いてた。
2人が泣くだけの声が、高い城の一室に響き渡っていた。ツクヨミ中に、響き渡っていたのかもしれない。
それでも良かった。私達は、そのくらい大きな声で泣いて、ようやく互いを知れた気がした。
「……ねぇ、ヤチヨ」
「……なぁに、彩葉」
「かぐやの歩いた8000年のこと、全部教えて?」
「……とぉっても長い旅になるよ?」
「いいよ。私、寝ないからさ」
「……もう、仕方ないなぁ」
そう言って腕をひと振りすれば、灯篭に照らされた部屋が、私の住んでいたアパートに変わった。机の上にはお菓子とコーラが置いてあって、私達が住んでいた時を思い出させる。
お菓子の上を見慣れたウミウシがご機嫌に歩いていた。
「彩葉にはまだ懐かしいって感じは……ないか?」
「うん……でも、かぐやを近くに感じるから、こっちも好き」
「っ!もう、彩葉は正直だなぁ……」
「どっかのかぐや姫と……ひょっとこ面に染められちゃったからかな」
「ふふ、じゃあ、しょうがないか……ねぇ、彩葉」
「何?」
「辛いし、苦しいし、楽しいばかりじゃないけど……人の体で耐えられるかも、不安だけど」
目を伏せて、それから見惚れるほど真っ直ぐな瞳で私を見つめるヤチヨの顔に、かぐやを見つけた。
「──私の全部を知ってくれますか?」
「──任せてよ。私って、天才なんだよ?」
私の知る限り最上級の天才からの太鼓判付きなんだから。
「ふふ、ふふふっ、じゃあ、安心だね。……FUSHI」
「……ヤチヨがやるって言うなら、ボクは止めない。でも、2人とも、気をしっかり持つんだよ?」
「わかった」
「大丈夫だよ」
「それじゃあ……いっくぞぉー!!!」
私とヤチヨは手を繋いで、8000年の旅を始めた。