何度読み返してもノベライズの彩葉、湿度高すぎて頬がニチャニチャしちゃう……アニメとの差が美味しいのよね。みんなも見よう!超かぐや姫!
「彩葉、どうだった?」
私があの子に問いかける。
「彩葉、私を見て?」
閉じていた瞼を上げれば、目の前には今にも泣き出してしまいそうなくらい瞳を潤ませて微笑むヤチヨがいる。
そこまでして、ようやく私は
「……かぐや」
「なぁに、彩葉?」
ヤチヨに握られていた手を、もう一度強く握る。現実だったら、手が白んで痛いであろうほど強く。
「全部、見たよ」
「……うん。私も、全部見せた」
隣合って握りしめた手をそっと離して、ヤチヨと向かい合う。
寂しそうに自分の手を撫でるヤチヨを、世界から覆い隠すみたいに抱きしめる。
そうしなきゃと思った。そうしなきゃ、ヤチヨにちゃんと伝わらないと思ったから。
私の胸の中でヤチヨの息を呑む音が聞こえた。
「ごめんね、ずっと気づいてあげられなくて」
「彩葉」
「ずっと待っててくれたのに。ずっと探してくれてたのに……ごめんね」
「……彩葉」
「それから……ずっと私のことを想ってくれて、ありがとう」
かぐやの歩みを知ったからこそ、わかる。
かぐやが……ヤチヨが、どれだけ私のことを想ってくれて、どれだけ私のことを待っていてくれたか。どれだけ、気づいて欲しいと願っていたか。
もう一回、待たせたことも、気づいてあげられなかったことも謝りたかった。
でも、それ以上に、もう一度、ありがとうをちゃんと伝えたかった。
「ヤチヨ、やっと追いついたよ」
「っ……ううん、彩葉。追いついたのは、私の方」
私の腕の中から離れて、目を合わせるヤチヨの中にはかぐやがいた。
「彩葉の顔がすっごく綺麗で、私すぐ好きになったの。でも、色んなものを重ねて、乗り越えて、彩葉は彩葉になったんだよね。……それを知るのに、8000年もかかっちゃった」
ヤチヨは、キラキラのかぐやではなくなったけど、8000年の間に色んな「いっぱい」を受け取って、もっともっと優しくなった。
だから、ヤチヨの浮かべる笑顔は、いつも私を支えてくれたんだ。
「私、成長したよ。お母さんとだって話せたし、友達ともちゃんと向き合えた。こうやって、かぐやとも一緒にいれる……」
うん。これで十分ハッピーエンド……お話はもう、これでお終い。
『完全無欠のハッピーエンドに行くぞ!』
あの戦場で、鬼面をつけた光の声がした。
知らず、俯いていた顔を上げれば、満足気なヤチヨの顔があった。
でも、でも違うんだ。私は、私はまだどこかで、満足できていない。
『ヤチヨがかぐやだったとするなら。彩葉、貴様はどうする?』
こうやって、ヤチヨと向き合って、かぐやの歩いた8000年も知って、かぐやと一緒に居たくて……でも、ヤチヨとも一緒にいたい。
「かぐやとも、ヤチヨとも、ずっと一緒に居たい」
──あぁ、そうだ。どっちかじゃなくて、どっちもがいいんだ。
言ってみれば簡単なことだった。
同じだろうと、過去と未来でしかなかろうと、やっぱり私は二人と一緒がいい。
「っ……もう、彩葉は欲張りさんだなぁ……これで終わってもいいって、思ってたのに」
どこか遠い誰かを見たヤチヨは、呆れたように笑った。私の見たことがないくらい、綺麗な笑顔だった。
『この一瞬を、最高の、パーティにしよう』
「いつも思い出してた」
私のよく知る優しいヤチヨの歌声に、私のよく知る跳ねるかぐやの歌声が隠れていた。
『大切な、メロディーは、流れてるよ──あなたの、ハートに』
「この曲で、生き残れた」
ヤチヨの優しさをなぞるように、かぐやの自由さを真似るように、自分の歌声を響かせた。
ヤチヨと、2人同時に手を挙げて、何度も繰り返してきたハンドサインを交わす。
『かぐやと、彩葉の!仲良しのやつ』
狐の口付けを交わして、そっと離す。一度離れたヤチヨの手が、私の手を撫でた。
「触れたら、あったかいかなって、いつも思うんだ」
撫でるヤチヨの手は優しくて、でも、やっぱり物理的な暖かさはなかった。
「あ〜ぁ……また、彩葉と一緒にパンケーキも、食べたいな……」
諦めたように笑うヤチヨが零した言葉に、全身の細胞が震えた。
「分かった──まだ、なんだ」
「彩葉……?」
「このお話には、まだ続きがある!」
湧き上がった感情に突き動かされるように立ち上がる。立ち上がるだけでは足りない。もっと、今すぐにでも駆け出したい!
「私、やりたいことができた!」
この全身を軽くして、世界をいっそう明瞭に見せるエネルギーの名前は──
「本当の──完全無欠のハッピーエンドまで!付き合ってよね、
──『希望』だ
***
ツクヨミからログアウトして最初に目に入ったのはブルーライトに照らされた凄まじい美人の寝顔だった。
と言うよりも、光の寝顔だった。
「うわぁいっ!?!?」
「むがっ!?なんだっ!……おぉ、彩葉起きたか」
「おっ!?おぉっ!?あ、はい!え、何事??」
「いや何、FUSHIに頼まれてな。貴様がヤチヨと話している間に、立ちっぱなしの貴様を寝かせ、起きるまで待っていただけだ」
「あ、あぁ……それでか。てか、なんで膝枕?」
「この部屋で他に枕となるようなものが他になくてな。許せ」
「いや、責めてるわけじゃ……寧ろ、ありがとね。私のために」
「ふっ、友のためだ。当然であろう!」
「……そうだね。
「?うむ、そうだぞ!」
だから、かぐやの事をいつも助けて、1人にしないように何度も何度も出会いと別れを繰り返したんだよね。
私と、かぐやをちゃんと再会させる為に。
忘れてしまった本人には言えないけど、心の中で何度でも思うよ。ありがとう。光。
「……その様子だと、納得のいく選択はできたようだな」
満足そうなその顔に、かぐやの何度も見てきたヒカルの顔が重なる。
どれほど時間を重ねて、輪廻を巡ろうと同じような顔をするんだね。
「うん……ありがとうね、光。お陰で、私なりに納得できる選択をできた」
「ククッ、いい顔をするではないか!」
力強く笑った光の顔に炎の中で尚、かぐやの未来を案じ、希望とともに散っていったヒカルの顔が重なる。
友達の為なら、何度でもそんな顔をしてくれるんだね。
「ところでさ、光」
「なんだ?」
「私達のために、協力してくるんだよね」
「あぁ、他でもない友の頼みだ。俺にできることなら、なんだってしてみせるとも!」
決意を秘めた光の瞳に、自らの散る場所と目的を定めて、去っていったヒカルの顔が重なる。
死がわかっていようと、あなたはいつも前を向くんだね。
「良かった!じゃあさ」
だから、今度こそ。
私達の目の前から消えるなんて許さない。いなくなるなんて、認めない。
私達と一緒にハッピーエンドまで、ちゃんと連れてってあげる!
「──完全無欠のハッピーエンドの為に、その人生、全部くれない?」
***
その日から、7年の月日が経った。
***
とある研究室で1組の男女が向かい合う。
両者、世間一般を遥かに凌駕する美しい容姿をしている。均整の取れた肉体は汚れのない白衣で覆われ、研究者と言うよりもモデルと言った方が納得できる程だった。
タブレットに映る様々なデータを確認し終え、ふたりは感慨深げに間の簡易ベッドに寝かされたそれを眺める。
「ようやく、ようやくここまで来たな……」
「ホントにね……。でも、思ったより早かったんじゃない?」
「ふんっ!俺と貴様、そして照兄さんという天才を集めて尚、7年。これが早いとは、胸を張っては言えまいよ」
男は女の言葉に憮然とした表情で吐き捨てる。
しかし、言葉では悪態をつきながらも、目の前を眺めるその瞳は優しく細められ、堪えきれない喜びが滲み出していた。
「時間だね、それじゃあ──光」
「了解だ。準備はいいか?──彩葉」
「もちろん、待ちきれなくて、今すぐ抱きしめたいくらいなんだから」
「クククッ!随分と素直になった。では──起きろ、かぐや」
目の前で眠るそれ──かぐやの肉体に様々な機械を通して気持ちと記憶を送り込む。
7年前、彩葉達と共に過ごした2ヶ月の短くも鮮烈な
「──彩葉、ミナモト?」
「っ……おはよう、かぐや」
「ふぅ……目覚めたか、かぐや」
特徴的な赤の瞳を彷徨わせ、ゆっくりと起きあがる。
慣れない体の重みに顔を顰めながらも、自身に確かな体があること、空間にある匂いや温度を確かに感じ取り、その瞳をキラキラと輝かせる。
だが、何よりもかぐやを喜ばせるものは──
「──パンケーキっ!じゅるる!」
「味覚はもうちょいお待ちあれ」
「味覚を除く五感のデータは良好。肉体もラグなく動けている。……この反応的に、記憶も破損なく届いたようだな」
「もうっ!1秒だって待てないのにー!」
データと交互にかぐやを見る2人に向けて、明るく笑ってみせる。
その笑顔は間違いなく、彩葉がずっと求めていたものであり。光が取り戻すべきものと定義したものだった。
そして、KGY型試作体の起床成功によって研究は加速する──!
***
忠犬オタ公の声がツクヨミ全土に響くようだった。
「今生に間に合った!かぐやの復活ライブ!現実とツクヨミ、同時開催で!ヤチヨと舞踊ります!」
試作体が完成し、味覚の実装も完了し、ライブにまで耐える自然な肉体らしさを仕上げた。
もはや、かぐやは人と変わりなく。あの夏のような自由さで、この世界を楽しみ続けるのだろう。
「7年……7年か。随分とかかってしまった」
『そう?地球の元の技術を考えれば、充分早いと思うけどなぁ?』
「貴様というチートを使って7年だ。遅くも感じるであろう」
『私も使えそうな技術教えただけだしなぁ……完成させれたのは、ミナモトとイロハちゃんの頑張っしょ〜』
「月の技術者──
『うわ、思ってな〜。イロハちゃんから教えてもらったよ。そういうの、京言葉って言うんでしょ〜?』
「惜しいな。これは皮肉の方だ」
『うぇ〜性格悪〜。私にもイロハちゃんやカグヤに向ける優しさをくださーい』
「充分に優しいとも。そして感謝もしている」
いつもの和室から彩葉達のライブ映像を眺める。
会場の熱気も、ツクヨミの熱狂も、どちらも遜色ないほど高まり、彩葉達の登場を今か今かと待ち望んでいるのを感じる。
頬を撫でるデータの風も、その熱気を確かに宿し、夜の匂いを覆い尽くすように祭りの香りが突き抜ける。
「……貴様のお陰で、想定以上の速度と精度でここまで辿り着けた。本当に、ありがとう」
『……まぁ、私も面白いものいっぱい貰ったしね〜。何より、地球と月を繋げる部屋を作りましたとか、興味出ん訳ないしね〜』
「それこそ、ヤチヨのおかげだな。月人であった彼奴の協力なくして、この部屋は完成しなかった」
『お〜、今度ヤッチョにありがとうって言っとこ。後、この世界メチャ楽し〜とも』
「言ってやれば、彼奴も喜ぶだろうよ」
カウントダウンが始まった。
オタ公の声に合わせて、会場の観客もツクヨミに居るもの達も、その喉を精一杯震わせて声をあげる。
一帯とかした声が空気を震わせて、花火のように腹へ響く轟音となる。
『本当に、面白い世界だよね〜』
「あぁ、自慢の世界だ」
『……うん、本当に、面白い』
「「「「5!」」」」
どれだけの苦難があろうとも
「「「「4!」」」」
どれだけの別れがあろうとも
「「「「3!」」」」
その隣に友がいるのなら
「「「「2!」」」」
その果てに友が待つのなら
「「「「1!」」」」
その生はきっと
「「「「0!」」」」
ステージの上にスモークが立ち上ると共に、あらゆる願いと想いを乗せた彼女達の一世一代のライブが、幕を開けた。
***
この話はハッピーエンドだと思えるか。
明日……いや、1秒後には喧嘩別れしているかもしれない。そのまま疎遠になって、ふと昔を懐かしんで泣いてしまうかもしれない。
だが、そういう未来があったとしても、そこで物語は終わらない。
いつだって、不透明で白紙の未知に溢れた未来がそこにあって、俺達はより良い今を目指して歩いていく。
100年だろうと、8000年だろうと、その今を積み重ねて、いつか訪れる終わりが満足のいくものであることを願うのだ。
だから、何事にも終わりというものはあるべきだと思う。
俺にとっての終わりが、今日だったと言うだけの話だ。
「──酒寄彩葉」
「……懐かしい呼び方するね、何?源」
「貴様に、伝えたいことがある」
「……うん、聞かせて」
7年。全部を欲しがった彩葉の為に、俺の持てる全部をくれてやった。
一心不乱に駆け抜けた時間に生まれた、僅かな猶予。ここを逃せば、俺はもうこれを伝える時間などありはしないと直感的に思った。
「ずっと」
7年前の、17歳の夏。その時から
「ずっと前から」
貴様の隣が埋まっていることも、これから空くことがないと知っていても
「好きでした」
割って砕いて、それでも最後まで残ってしまった欠片は硬すぎた。
「俺と、付き合ってください」
だから、どうか。この想いを
「──ごめんなさい」
──ありがとう。
「私は、かぐやが好き。ヤチヨが好き。あの子の8000年の想いを人生かけて受け止めたい。だから、光と付き合うことはできない」
知っている。
あぁ、ずっと知っていたとも。
あの夏の日の、夕暮れの中で笑う貴様らを見てから、ずっと。
「だから、ごめんなさい」
「……全く、貴様と出会ってから、俺の人生は敗北塗れだ」
貴様にも、かぐやにも、ヤチヨにも、真美にも、芦花にも、照兄さんにも、負けているところばかりだと気付かされる。
だが、それのお陰で、友達ができた。
「俺の7年の想いが、8000年に負けるとは……清々しい程、完敗だな」
だから、俺にはこれでいい。
これでようやく、貴様のことをちゃんと割り切れた。
「──ありがとう、彩葉。これからも、よろしく」
「──ありがとう、光。これからも、よろしくね」
互いに笑って差し出した手を固く握って、初めて、俺達は親友になれた。
コソコソ裏話
彩葉はかぐやの記憶を追体験したせいで、元々持っていた感情にプラスして光に対して激重い感情を持っています。それはそれとして、かぐやとヤチヨの想いに応えるため。そして、光がどうして欲しいかを正しく読みといた上で、フッて親友となりました。
こうして、彼は彼なりの