俺が8000年に負けるまでの話   作:凪 瀬

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上映映画館が少なくなってきたので初投稿です。
映画館で見られるのもあと少し……まだ近くでやっているうちに!みんなも見よう!超かぐや姫!


30話 All in の受け取り方

 

「えっと〜……ごめん、もう一回言ってくれる〜?」

 

「だから、私は光と付き合わないけど、私の全部をあげて対等な親友になったよ」

 

「芦花〜、私の耳がおかしいのかな?彩葉の頭がおかしいのかな?もしくは源くんの趣味がおかしいのかな?」

 

「うーん、2人は前から割とそんな感じだったんじゃない?」

 

 光と彩葉の諸々に一段落がついた1週間後。各々の近況報告と、彩葉と光に起こった事の顛末を聞くため、3人は居酒屋の個室に集まっていた。

 

「ていうか、全部あげるって言うなら付き合うんじゃないの〜?」

 

「うーん……なんか、付き合うとか結婚とかは違うんだけど、必要なら私の持てる全部を使って光の願いを叶えるし、叶えてもらうみたいな感じ?」

 

「じゃあ、結婚して〜って言われたら?」

 

「ん〜、法律を変えるって大変だからなぁ……」

 

「重婚前提なんだ……」

 

「そりゃ、かぐやとヤチヨもいるからね。……でも、光はそういうこと言わないと思うよ?」

 

「え〜なんで〜?源くん、彩葉の事好きじゃん」

 

「だって、光はもう私の人生全部持ってるし、私も光の人生全部持ってるんだから、それ以上って要らなくない?」

 

 彩葉の言葉に2人が固まる。

 本当に、何気なく、気負いもなく発された言葉は居酒屋の喧騒の中にあっても個室によく響き、その軽やかさに似合わぬ重力と湿度を伴っていた。

 真実の頬に、一筋の冷や汗が流れる。

 一段と空気の密度が増した個室で、最初に声を出したのは芦花だった。

 

「まぁ、彩葉がそれで納得してるなら私達がなんか言うのは違うか」

 

「2人が気を使ってくれてるのは分かってるんだけどね……私達のこれって、説明しずらくて」

 

「いいんだよ。彩葉が幸せなら、それでさ」

 

 いいながら、その双眸を優しく細めて目の前に座る彩葉の額を撫でる。

 

「頑張ったね、彩葉。はなまるつけたげるー」

 

「……うん、ありがとう。芦花」

 

「……も〜!芦花がそう言っちゃったら何にも言えないじゃ〜ん!」

 

「なんか、ごめんね。真実。色々考えてくれてたのに……」

 

「いいんだよ〜!勝手に心配してただけだし、彩葉が納得してるなら、それが一番!」

 

「そうだよ。ほら!明日は休みになったんでしょ?飲め飲めー!」

 

「わはー、飲みます飲みますっ」

 

「程々にしなよ〜?」

 

 個室には和やかな雰囲気が広がり、先程までの湿度が嘘のように美女達の賑やかな談笑の声が響いていた。

 

***

 

「ではでは〜、ライトへの質問を始めるのですー☆」

 

「わーい!ヤンヤやんや〜!」

 

「何がどうしてこうなった!?」

 

 ヤチヨの管理する城の一室。

 広々として巨大なスクリーンや座り心地の良いソファ、ふかふかのぬいぐるみに溢れた部屋では、縛られた光をヤチヨとかぐやが囲んでいた。

 

「議題はもちろん!彩葉と光の全部について!」

 

「はぁ?!」

 

「なんかぁ、彩葉がミナモトの事フって、でもなんやかんや彩葉の全部あげたらしいじゃん?彩葉から話は聞いたんだけどさ」

 

「ライト視点の話も気になる!ということで……」

 

「「ミナモト、話して!」」

 

「貴様らにデリカシーとかないのか……?」

 

 金糸と銀糸を宙で交えながら、キラキラとした瞳で見つめる2人に暫く渋い顔を見せるも、ついに光は深い溜息を着く。

 2人の前で光が溜息を着く時、それは負けた時と相場が決まっていた。

 

「大まかには彩葉の語った内容と変わらんだろう。気になるというのなら、質問してくるがいい」

 

「ん〜……じゃあ!ミナモトはなんで告ったん?」

 

「彩葉が好きだったからだが?」

 

「おぉ〜即答……まぁ、ヤッチョは知ってたけどね!」

 

「だと言うのに聞いてくるのは、性格が悪いのではないか?」

 

「なんの事やらー?」

 

「じゃあさ、フラれた時とかやっぱり悲しかったりした?」

 

 かぐやの質問に光は僅かに顔を強ばらせる。

 赤みがかった紫の瞳を木目の刻まれた天井に差し向け、脳裏にて問答への答えと、回想を巡らせる。

 

「……悲しいとは思わなかったな。もとより、破れるとわかっていた恋だ」

 

「……なら、なんで、ライトは告白したの?」

 

「区切りを付けたかったからだ」

 

「……じゃあ、なんで、ミナモトは区切りをつけたかったの?」

 

「引き摺るだけの恋なんぞ、無念の未練と何ら変わるまい。だからこそ、彼奴からの答えが欲しかった。……どのような理由であれ、な」

 

 目を瞑り、優しく微笑みながら光は答える。

 それは、本当に未練もなく。悔いもなく。一片の陰りもない。心の底から晴れやかで柔らかな微笑みだった。

 

「……なら、ライトは納得できてるの?」

 

「納得……納得か……難しい質問だな」

 

 ヤチヨとかぐやの姦しさは既になく、どこか愛おしそうに、それでいて心配げに光のことを見守っている。

 天井を見上げ、窓の外に広がる電光をチラリと盗み見て、少し違うのか首を傾げて唸る。

 都合3度ほど繰り返して、光はようやく満足のいく答えが出たようで、凛とした光を目に宿して2人を見る。

 

「納得している……と言うよりも、満足している」

 

「満足……?」

 

「彩葉に俺の想いを伝えられた。彼奴はそれを受け入れ、真正面から断ってくれた。それも、2度な。そうして、俺たちは全部を捧げ合い対等になれた」

 

 滔々と語る光にヤチヨとかぐやは何も言わない。

 あるいは、光の姿に在りし日の誰かを重ね、己を支え、励ましてきた輝きと似た何かに、言葉を噤んでしまったのかもしれない。

 

未練()は砕かれ、求め続けた対等(親友)ができた。それも、互いの全てを賭けた唯一無二だ」

 

 佇まいを直して向かい合う。

 一つ、肩にかけられた金の羽織が翻り、窓から舞い込むツクヨミの光を返して絢爛に輝く。

 一つ、美麗な顔の横に取り付けられた見慣れたひょっとこ面が揺れ、ツクヨミの光が届かぬ影の中で滑稽に笑う。

 一つ、変わらぬ意志を宿した力強い笑みが眉目秀麗な顔に浮かび、ツクヨミの光と影に照らされて黄昏を想わせる。

 

「満足だっ!これ以上ないほどな!」

 

「「っ!」」

 

 かぐやとヤチヨ。同一人物であり同じ8000年の歩みを持つ彼女達にとって、光の笑みはどうしようもないほど懐かしく──どうしようもないほど愛おしかった。

 

「──だったら、ヤチヨ達に言えることはないのです」

 

「──かぐや達にできることはないのです」

 

 そう言って、2人は微笑んだ。

 勝手気ままな超新星でも、余裕綽々な電脳の歌姫でもなく。友の幸せを祝う、友人としての優しい笑みだった。

 3人の集う部屋に、心地よい沈黙が満ちる。それぞれの表情は柔らかに、その沈黙を歓迎していた。

 

「でも、羨ましいな〜!」

 

「何がだ?」

 

「2人とも。彩葉も光も互いの全部を持って、自分の全部を上げてるの。それってさ、愛じゃん?」

 

「ともすれば、結婚よりも重い口約束かもしれないねー。いいな〜、ヤッチョも彩葉から『全部あげる』とか言われてみたーい」

 

「ふむ?そんな事……いや、これは俺の口から言うべきではないか」

 

「む、何さミナモトー!なんか言おうとしてたじゃーん。言えよ〜!」

 

「そうだそうだー!ヤッチョ達に隠し事するな〜!」

 

「えぇい、ここぞとばかりに騒ぎ立てよって!こういうことは俺が言ってしまうと無粋なものなのだ!」

 

「「ぶーぶー!ケチんぼー!」」

 

「ケチではなぁい!……全く、心配せずとも、彼奴にとって貴様らもまた唯一無二(・・・・)ということだ」

 

「……どういうこと?ヤチヨ、分かった?」

 

「ヤッチョにも、ちょっとわかんないー?」

 

「クハハッ!彩葉の奴にねだってみれば、案外答えてくれるやもしれんぞ?もしくは、何かの拍子にポロッと零すかもしれん。なんであれ、そう遠くないだろうよ」

 

「んえ〜ムズいことばっか言うなよな〜。もっと分かりやすく言えー!」

 

「クハハッ!待て、しかして希望せよ。というやつだ!では、俺は失礼する。またな、かぐや、ヤチヨ」

 

「うい〜またねー!」

 

「さらバーイ」

 

 片腕をひらりと振ってから光は青の燐光となってツクヨミから離れる。

 

「……そう遠くないって、なんだろう?」

 

「……待ってれば分かるらしいから、待つしかないねぇ」

 

「まっ!かぐや達待つのには慣れてるからな!任せんしゃい!」

 

「8000年までならなんでもないよー」

 

「よーし、なんかよくわんないけど、頑張るぞ!ヤチヨ!」

 

「おー☆」

 

 ツクヨミの賑やかな夜は、未だ終わらない。

 2人が光の言葉の真意に気づくのは、もう少し後のことだった。




コソコソ裏話
彩葉と光は互いに「全部」をあげたので、互いに「自由」でしかない。
「全部」捧げあったからこそ手に入れた「自由」に2人とも満足して、「対等」になれている。
これにて、2人の恋を巡る話は一旦おしまい。

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