俺が8000年に負けるまでの話   作:凪 瀬

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一週間以上投稿が空いたので初投稿です。
6月18日に上映が終了らしく悲しい……でも、最後だからこそ映画館で見る事に意味がある。みんなも、終わるまでに見よう!超!かぐや姫!


31話 ライトとヤチヨの初遭遇

 

 世界は所詮、弱肉強食なのだ。

 強き者が生き、弱き者は淘汰される。

 しかし、強者が孤独であるのに対し、弱者は常に群れる。それは生存戦略であり、摂理に対する抵抗であり、もうひとつの真理だろう。

 単独で強者に敵わぬからこそ、群れる事でその高みへ手を伸ばす。

 そして、伸ばしたその手で強者を引きずり落とそうとするのだ。

 

「醜い」

 

 遠巻きに俺を眺め、コソコソと陰口に励む男ども。

 俺に知力も肉体も、容姿も敵わない。最終手段として暴力に訴えかけようとも、素人の遮二無二な動きなど話にならない。

 群れたとて敵わぬと分かれば、俺を孤立させ無意味な嫉妬で時間を浪費する。

 

「卑しい」

 

 媚びるような声と振る舞い、下心のまろび出たあざとい女ども。

 ステータスの為だけに俺に好かれようとし、己を高めることなく甘い汁だけを吸おうとする。互いに蹴落としあい、友を裏切ることさえ躊躇しないその姿。

 

「不要」

 

 そのような輩は、俺の周りに必要ない。

 隣に立とうとすらしない怠惰極まる者共など必要ない。そんな奴らと、友達になんてなれるはずもない。

 対等で、信頼できて、隣に立とうとしてくれる者こそ、「友達」と呼ぶべきものなのだから。

 

『相変わらずスカした顔しやがって……』

『どうせ、俺らのこと見下してんだろ』

『しっ!聞かれたら何されるかわかったもんじゃないぞ』

『この前、喧嘩した相手をボロボロになるまで殴ったって聞いたよ……』

 

 不愉快(うるさい)

 

『相変わらず顔良いなぁ……』

『私にもワンチャンないかな〜』

『やめときなよ、あいちゃんもこの前フラれたらしいし』

『あの娘鼻についてたんだよね、いい気味ー』

 

 不快(うるさい)

 

 帰宅の為に高々数分通る程度の廊下でさえもこれなのだ。日がな一日、これに晒され続けるなどたまったものではない。

 だが、ここで折れてしまえば、奴らの思うつぼである。強者である俺は、孤独であろうと不快であろうと、孤高かつ高潔でなければならない。

 群がり、足を掴まんとする弱者すら手を伸ばす気が失せるほどの、高みにいなければならいない。

 そうでなければ、俺の歩んできた道が無駄になる。それは、何よりも唾棄すべき屈辱だ。

 

「ただいま」

 

 誰もいない家に帰り、簡単に着替えを済ませる。

 いつも通り、課題と復習を終わらせ先々の予習まで終わらせる。成長期のため過度な筋トレはできない以上、空いた時間はほぼ全て勉学にあてる。

 そのせいか、中学の範囲はほぼ全て終わってしまった。定期テスト程度では間違えることはないだろう。来週からは、高校の範囲にも手を出してみるか。

 冷蔵庫の中には買いだめしておいた食材が入っている。今日は鶏肉の野菜炒めと卵スープにするか。

 広い家に俺の調理する音だけが響く。あまりに虚し……いや、これが当然だ。

 強者は常に孤高であり、この静寂は俺が強者である証明だ。故に、俺はこの静寂こそを愛し、満足しなければならない。

 

「ご馳走様でした」

 

 ……不満だ(寂しい)

 

***

 

 常に白銀のミラーボール輝く常夜の世界、ツクヨミ

 絢爛な街は宵闇を払い、不夜城としてその威容を形作る。しかし、どれほど光に満ちようと、光の届かぬ影はある。

 

「ねぇ、お姉さん達と遊ばない?」

 

「ちょうど1人足りなくて困ってたの。ふじゅ〜もあげるからさ、どう?」

 

「……申し訳ないが、遠慮させてもらう」

 

「そんなこと言わずにさ〜。そうだ!お友達がいるなら、その子と一緒でもいいよ?」

 

「っ結構だ。失礼させてもらう」

 

「ああちょっ……もう、行っちゃった」

 

「アンタがグイグイ行くからでしょ」

 

「そういうアンタがこわぁい顔してたからじゃないの〜?」

 

 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い──不快(気持ち悪い)

 どのような場所であれ、あのような手合いはいる。俺がどれだけ厭うても、誘蛾灯に誘われた虫の如く無限に湧き出る。

 不快で不愉快で気持ちが悪い。

 ツクヨミという、誰もが表現者となれる場所であれば、心の置ける友が出来るかもしれないと思って始めたが、()けど歩けど湧いてくるのは有象無象。

 皆、俺の顔につられた好色か初心者をだまくらかそうかとする下衆か……己の創作における実力なんぞ、顔に負ける程度だったのかと落胆もしたくなる。

 誰もこなさそうな狭い路地裏で、膝を抱えてペンを握る。

 宙に浮かべた白面に線を描き、消し、描き、消して、整えて──また描く。

 ぼんやりとしていく。手が、描きたいものを勝手に作り上げる。後は、脳の端の方で完成系をイメージして、整えてやる。

 ここの線はいる、いらない。いる。邪魔、太い。丁度いい。隠れるから一旦消す。分からなくなった。戻す。色は──

 

「──いい絵を描くね。君、私を描いてよ」

 

 顔を上げれば、女が立っていた。

 繊細な銀糸を束ねた髪、花魁を思わせる服装、艶やかながら愛嬌を感じさせる顔、吸い込まれそうな翠玉の瞳。

 俺と彼女だけを覆う影は、彼女の手にもつ傘によるものか。

 

「……月見、ヤチヨ」

 

「お、ヤッチョのこと知ってるんだ〜。いやぁ、有名になったもんだよー☆」

 

「……ツクヨミの管理人である貴女が、一体なんの御用ですか?」

 

「んー固いなぁ、もっと砕けてくれていいのに」

 

「生憎、目上の者には相応の態度を取れと教育されているものでして」

 

「まだ子供だろうにえらーい!ヤッチョが撫でたげよっか?」

 

「いいえ、遠慮しておきます」

 

「もう、照れなくていいのにー!ほら!なでなで、なでなでー」

 

「むっ……えぇい、話をはぐらかさないでください!目的はなんですか?」

 

「なーんにも。ただ、歩いてたら楽しそうに絵を描いてる君が見えたから、覗いてみただけだよ」

 

「……俺は、そんなに楽しそうでしたか?」

 

「うんっ、ヤッチョもお絵描き配信しようか迷っちゃうくらいには、楽しそうだったよ」

 

 笑う月見ヤチヨさんに嘘は無さそうで、どこか気恥しい。やる以上本気ではあるが、あくまで絵は趣味だ。これまで褒められたことは幾度かあれど、それは俺の顔や素人ならばという色眼鏡ありきだろう。

 

「うーん、しかし本当に上手……将来はイラストレーターかな?」

 

 ……この人──AI?にそんなものは見当たらない。あの不快さも不愉快さも無く、本当に俺が楽しそうで気になっただけなのだろうな。

 

「……あくまで趣味なので、イラストレーターになるつもりはないですよ」

 

「えーそうなの?勿体ないな〜こんなに上手なのに」

 

「月見ヤチヨともなれば、もっと多くの上手い絵を見てきたでしょう?」

 

「んー……勿論、皆の凄い絵を見てきたし、愛の籠った絵も見てきた。でも、それが君の絵を褒めない理由にはならないでしょ?」

 

「……そういうものですかね?」

 

「そういうものだよー。……これ、君と友達の絵?」

 

 目の前に浮かんだキャンパスに余白はなく、天頂で燦然と輝く太陽の下、広がる草原で駆け回る2人の少女が描かれている。

 

「……なんで俺と友達だと思ったんですか?」

 

「んーなんとなく?でも、楽しそうに描いてるし、どこか寂しそうだったから。友達としたいことなんじゃないかなって」

 

「……」

 

 別に正解ではない。

 そもそも、この絵に俺を投影しているつもりもない。ただ、何となくこんなのがいいんじゃないかってだけでペンを動かして、それらしくなっただけだ。

 この絵に意味なんてない。俺の、手慰みと言ってしまえばそれまでだ。

 だが、しかし、彼女がそう受け取ったのであれば。俺が意味は無いと思ったこの絵に、意味を見出したのであれば。

 

「それもまた、正解でしょうね」

 

「……うん、そういう正解もあるんだよ。全部が全部、綺麗にできてる訳じゃないし、意味がある訳じゃない」

 

「……突然何を?」

 

「人の嫌なところを見て嫌いになっちゃうかもしれないし、自分の強いところだけを見ていたいかもしれない」

 

「っ……」

 

「でも、嫌も好きも、強いも弱いも見方で変わるし見る人で変わる。意味なんて後からいくらでも付け足せる」

 

「…………」

 

「ヤチヨは8000年生きてるからさ、お節介になっちゃったの。ごめんね?」

 

「……8000年も生きてるなら、しょうがないですね」

 

「……優しいね〜。それに、素直」

 

「素直なら、これほど悩みもしなかったでしょうけどね」

 

「そういう受け取り方をするところも含めて、君は素直なんだよ〜」

 

 月見ヤチヨは、どこまで知っているのだろうか。

 今日初めてあったはずの俺のことを、どうしてこれほど知っているのだろうか?

 ……案外、それっぽいことを言っているだけなのかもしれないな。

 

「それでさ、ヤッチョのこと、描いてくれる?」

 

「…………あぁ、そういえば、そんなこと言ってましたね」

 

「むっ、酷いなー。ヤッチョも勇気をだして声かけたのにな〜」

 

「その後の会話が随分と濃かったものですから……」

 

 本当に、スルリと人の心に入り込んでくるというか、警戒を解かせて会話をさせる事に長けている。気づけば、随分と長話をしてしまった。

 

「それで、私の事、描いてくれる?」

 

「……何故、俺なんですか?他に選択肢なんて幾らでもあったはずでしょう?」

 

「ん〜……君の絵にビビッと来た!じゃ、ダメかな?」

 

 恥ずかしそうに、だがどこか不安そうな表情の彼女に、思わず苦笑が漏れる。

 わかってやっているのか、分からずにやっているのか。前者ならば相当な演技派だ。後者ならば随分と罪深いひとたらしだな。

 どのような形であれ、絵を描くものが一番欲しい言葉を投げかけておいて、恥ずかしがる必要なんて何もあるまいに。

 

「ライト源氏です。よろしくお願いします、月見ヤチヨさん」

 

「もうっ、固い固い!敬語も外していいし、ヤチヨでいいよ!」

 

「……はぁ、分かった。改めてこれから頼む、月見ヤチヨ」

 

「っうんうん!そっちの方がいいよ!これからよろしくね!ライト!」

 

 差し出された手を握り返し、感触の返ってこない違和感に、彼女がツクヨミにしか存在しない存在であることを思い出す。

 これほど人のように見えても、彼女は現実には存在せず、その体に触れようとも触れた感触はない。

 わかっていても、それは何処か、虚しいな……。

 

「じゃあ早速なんだけど、明日の配信のサムネ描いて欲しいんだ!こう、ワァーって感じのヤツ!」

 

「は?」

 

「あとあと、歌ってみた出したいんだけど、そのサムネとMVを描いて欲しくて!」

 

「は??」

 

「あ、出来れば来月の初めに出したいから、2週間後までに描いて欲しいな!」

 

「は???」

 

「よしっ、一緒に頑張っていこうね!ライト!」

 

 マズイ、早まったかもしれん……。

 

***

 

「……なんてこともあったな」

 

「ん〜?どしたの、ライト」

 

「いや、何。貴様が楽しそうでなによりだと思っただけだ」

 

「……全部、彩葉とライトのおかげだよ。ありがとうね」

 

「ふっ、気にするな。俺は俺のしたいことをしただけだ」

 

「ホント、ブレないな〜」

 

 あの日と変わらず、ツクヨミは絢爛に輝いている。

 路地裏では、また新たな出会いが起こっているのだろうか?

 あの頃よりも盛り上がり、人々の縁も深くなった。ヤチヨの作ったツクヨミは、今日もまだ眠ることなく朝日を待つ。

 となれば、俺の知らぬところで、新しい運命が動いているのだろうな。

 

「そうだ!ライト、明日の配信のサムネ書いてくれない?こう、ブワァッ!みたいな感じのやつなんだけどね?」

 

「は?」

 

「あとあと、来月KASSENの大会したくて、そのロゴとか描いて欲しいな〜2週間後までに!」

 

「は??」

 

「出来れば宣伝動画のイラストレとサムネも描いて欲しくて〜、こっちは来月までで大丈夫!」

 

「は???」

 

「一緒にツクヨミを盛り上げようね!ライト!」

 

 はあ????




コソコソ裏話
ヤチヨは光が初ログインした日から今までずっと見ているし監視している。更に言えば、私生活も偶に監視していたりする。光は7年後も、このことを知らない。

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